来月に迫るNABを控えてプロ製品情報で溢れかえる直前の今月は、ちょっと目線を変えて話題のコンシューマ製品に着目。今年上四半期におけるAV機器関連イベントでは、スマートTVやタブレットなどの先端モビリティ製品と、来るべき4K時代を見据えた4Kテレビなどにも話題が集まっていたが、実際にその現場で最もユーザーが関心を示していたのは、キヤノンが1月のInternational CESで突如発表した、コンパクトデジカメの新シリーズ『PowerShot N』だ。国内でも1月末に横浜で行われたCP+2013で大いに注目を集めたことはこのPRONEWSの記事でも紹介されていたが、この製品はある意味で、これまでのコンデジの概念を大きく変えるだけでなく、今後のクリエイティブにもエポックメイキングなカメラになる要素を大きく秘めている。

Ishikawa_GK4_05.jpg

(左から)石井亮儀氏、折橋未耶美さん、佐藤麻美さん、高橋知樹氏

有効画素数約1210万画素、光学8倍、広角28mm(35mm換算)ズームレンズという基本機能に加え、わずか78.6mm×60.2mmというコンパクトでスクエア(正方形)に近いシンプルなボディフォルム、右上の定位置にシャッターボタン無し(レンズのリングか液晶タッチで撮影)という斬新さ、90°チルトする2.8型タッチパネル液晶、6種類の画像が自動撮影されるクリエイティブショット、ワンタッチでスマホ等にWiFi接続、そして高感度のHSシステムやフルHD動画撮影機能と、とにかくアイディア満載のカメラなのである。しかも販売方法は一般量販店では一切展示販売はせずに、キヤノンの専用サイトからのオンラインダイレクト販売のみだ。

3月12日の販売予約開始初日(発売日は4月25日)には、初回ロット完売というこの革命的カメラPowerShot N。まずはこれがどう生み出されたのか?そのキーマンたちに開発秘話を聞いてみた。

キヤノン株式会社 イメージコミュニケーション事業本部
ICP第三事業部 石井亮儀氏、ICP第三開発センター 佐藤麻美さん、同 主任研究員 高橋知樹氏、総合デザインセンター 折橋未耶美さん

開発コンセプトのキーワードは”ネットワークとSNS”

Ishikawa_GK4_02.jpg

PowerShot Nのコンセプトチームは、ネットツールとして使用されるカメラの開発を目指し、様々な模索が行われたという

PowerShot Nはネット/SNS/スマホユーザー向けの市場を狙った製品だ。最初にこのボディフォルムを見たとき、一瞬でこのプロダクト開発には女性が関わっているに違いないと確信した。フタを開けてみるとやはりその通りで、開発企画とデザインの中心には女性スタッフが関わっている。そして発想の原点はやはりソーシャルネットワークである。

佐藤:これまでのキヤノンにおける通常の商品開発と違って、このPowerShot Nは、まず最初に商品企画、開発企画、デザイナーらによるコンセプトチームと呼ばれるチームが結成され、『ネットワークと親和性が良いカメラとは何か?』といった命題から開発が進められました。特に当時すでにSNS(ソーシャルネットワーク)の世界では写真を共有する文化があり、そこに上げたいと思う写真とはどんなものか?、カメラにどんな機能がついていたら嬉しいのか?ということを考えて、そこからクリエイティブショットのような機能が生まれました。

企画は2年ほど前から行われていたようだが、その時点ですでにSNSでの写真をアップする際のユーザーの志向性を考察していた。例えば、Facebookで『いいね!』を多く押してもらいたいということから、一般の方でもなるべく良い写真を上げるという志向は高まって来る。実際にスマホの『Instagram』のようなアプリユーザーは、年々フォロワー数を増やしているが、やはりそこに良い写真、変わった写真を上げれば『いいね!』が沢山貰え、それとともに写真を撮り方も向上していくという傾向がある。

石井:写真の上手い人は、他の人とは違う写真をアップすることで『いいね!』の数が上がっていき、それがモチベーションとなってさらに写真の腕前も上がっていくのですが、一方で写真撮影のスキルがまだあまり無い人にはそこに壁があって、撮り方の工夫やアプリの使い方が解らないと、なかなか写真の向上に繋がらないのです。そこをカメラ側の機能でなんとか補えないかという発想もこのカメラのコンセプトのベースにあります。

キーワードは”気づき”

Ishikawa_GK04_CS01.jpg

PowerShot Nの最大の特徴的機能として、1度のシャッターで自動的にカメラ側で6枚の画像を生成する機能”クリエイティブショット”がある。これはオリジナル1枚に加えて、様々なエフェクトやフォーカス調整、画角変更などを加えた5枚の画像が自動生成されるもの。”人物””風景”などシーンに応じてカメラ側が独自のアルゴリズムから自動判別して生成。その被写体条件に応じて、カメラ側から毎回意外な写真が提案されるというユニークな仕組み。ユーザー側はどんな写真が出て来るのか撮ってみないと結果はわからないというサプライズがある。

石井:これまでのカメラにはオートモードがついていて、これはピントも露出も合っている、いわゆる『良い写真』が自動で撮れたわけです。しかしSNSやスマホのユーザーが求めているのは必ずしもそこではなく『良い写真』に加えて『センスのいい写真』なのだということ。そこで求めてられている写真が違うというポイントも、この機能が生まれた要因の一つです。

佐藤:クリエイティブショット(CS)では、フィルターのみでオリジナルを含めて25種類ありますが、その他に切り出しの画角、ぼかしの効果、AE、AF、回転等の組み合わせ等を掛け合わせれば数千種類の組み合わせが可能です。CSモードで撮影すると一度に3回のシャッターが切られますが、3回のシャッターはカメラがシーンを判別し、『タイミングを変える(連写する)』『フォーカス位置を変える』『露出を変える』の中から、最適な撮影シーケンスをカメラが選択します。さらに撮影された画像を解析して、フィルター効果や切り出し、回転処理などから適した処理の組み合わせを自動で選出します。オリジナルに加えて、自動で加工された5枚をカメラ側で生成して6枚の写真を一度にユーザーへ提案するというこの方法は、自分では普段気づかない、写真の楽しさってもっと色々あるんだという『気づき』に繋げて貰えると考えました。この機能はコンセプトチームで議論している中でも、当初からあった方が良いという判断がありました。自分では気づかない写真が撮れることを、多くの方にもっと知って頂くことでさらに間口を拡げて、カメラって、写真ってこんなに楽しい、ということをもっと多くの人に感じて貰えればと思っています。

Ishikawa_GK4_CS02.jpg

山下ミカさん撮影による、クリエイティブショット。1枚のオリジナル画像+様々な効果を加えた5枚のショットが自動生成される

高橋:機能的にどこまで勝手にカメラ側にやらせて良いのか?という議論はありました。開発としては難しかったのは、ゴミばかり撮れてしまうのではないか(笑)といった不安もあり、そもそもどういう写真が『センスの良い写真』とされるのか?その判定基準をどう設定するのかということでした。これまでのカメラにも画像を加工するような機能は数多くついていたのですが、ほとんどのユーザーさんはこれを使いこなせていなかった。なのでカメラ側からユーザーへ提案することで、こういう機能を使えばこんなに写真って面白くなるんだ、ということに気づいて頂きたかったのです。

単に「多くの機能がついていて、何でも出来ます!」というのは、多くの人にとっては結構辛い条件だ。それはそこから自分で判断して、自分で探り出し選ぶ手間がかかるからである。何か一つを選ぶという事、それはすなわちその他を捨てる事であり、この捨てる技術を筆者は『編集力』と呼んでいるが、メカの側から無数の組み合わせから幾つかのクリエイティブの方向性を提案し、最後に撮影者自身にどれが良いかを選択させるというのは、まさにこの『編集力』を備えた初めてのカメラと言える。この機能は当然今後、プロ・クリエイティブの世界でも活かされる可能性が高く、今後のコンテンツ制作の中でも活かされて来るのかも知れない。

フリースタイルデザイン

Ishikawa_GK4_03.jpg

レンズの中心を基点として、左右、上下ともにシンメトリーな設計になっている

“Newコンセプト”、”Network”を意識した”N”を配したこのPowerShot Nは、これまでのPowerShot、IXY(国内のみのブランド)とは全く違ったニューコンセプトモデルだ。それを最も表現しているのが斬新なボディデザインで、なんとも目を惹くシンプルかつ洗練されたものになっている。また”ジャケット”といわれるカバーとストラップを装着することで、ウエストレベル撮影(腰の所にカメラを置き、上から2眼レフカメラのように覗き込む形で撮影するスタイル)による基本的な撮影スタイルや、様々なポジションでの撮影が可能なフリースタイルデザインが特徴だ。

折橋:カメラのボディデザインは、最初は撮りたい写真というのはどんな写真なのかという分析から始まり、その写真からカメラがどういう形であるべきかを考えて、各部の配置を考えました。デザイン発想の元としては、まずスマホ連携を考えたときに、イメージとしてスマホアプリのアイコンをそのままカメラにすれば、とてもアイコニックな形になるのではないか?という発想などが生まれました。最も問題になった部分はレリーズ(シャッター)位置です。フリースタイルという撮影スタイルを考えたときに、通常は右上の人差し指の行くところにシャッターボタンがあります。このカメラを構える今までの基本スタイルから離れて、もっと自由なスタイルで撮れるようなカメラとはどんな形なのか?というところで試行錯誤しました。この製品開発にあたってはデザインメンバーで随時合宿が行われ,その度に様々なテーマについて色々とアイディアを出し合ったのですが、操作性の合宿の中で生まれたのが、このレリーズ(シャッター)ボタンを定位置から無くそうという発想で、結果的にレンズ周りを押す『シャッターリング』という形が誕生しました。

Ishikawa_GK4_04.jpg

開発当初からの歴代の筐体モックアップ。従来のコンデジスタイルのデザインから、最終版PowerShot Nのデザインへと進化してきた軌跡がここに

PowerShot Nはタッチパネルでのシャッターも可能だが、レンズ周りのリングを押すことでシャッターが切れる。またズームコントロールもレンズリングを廻すことで可能だ。実際にこの発想に至るまでに幾つかのモックアップモデルが制作されている。左右にシャッターがあるものやアプリアイコン形のスクエアなもの、様々なボタンを削ぎ落したミニマムなフォルムなど、試行錯誤の経緯が伺われる。最終的に落ち着いたのは、レンズの中心に対してシンメトリックにデザインされたものだ。

折橋:レンズを中心に左右上下も同対象でデザインされていて、ズームリング/シャッターリングも中央に配置しているので、右手でも左手でもどちらでも違和感無く扱えます。しかも上下動でシャッターが切れるので、どんなスタイルでも撮影することが可能です。

高橋:こういう仕組みはこれまで見た事も無かったので、設計者泣かせの仕様でした(笑)。いままでのカメラですと、過去のモデルを一部分進化させるだけで済む所が、ゼロベースからのスタートになるのでやってみないと解らないという部分も多かったのです。とにかく筐体を小さくしたかったというのが一番にあったので、様々なく工夫が施されています。このような新しい操作部材を搭載しながら、手のひらに納まるサイズで、しかもチルトできてしまうというカメラは現時点では他に類を見ないでしょう。

Ishikawa_GK4_01.jpg

逆さスタイルのアングルからの撮影も自由自在

フルHD撮影やユニークな動画機能も装備

気になるムービー機能もフルHD(1080p)動画撮影に加えて、最近のキヤノンのコンパクトカメラにはムービーダイジェストという機能が入っており、シャッターを押す4秒前までの動画が自動的に録画される。PowerShot Nでは、今回同機能をプラスムービーモードという機能として搭載、720pでの撮影が可能だ。またフラッシュはキヤノンカメラ初のLEDが搭載された。

高橋:これまでのコンデジに使っていない技術としては、フラッシュ部分にLEDを採用したことです。これまでのキセノン管フラッシュは光量は大きいのですがコンデンサーを埋め込むためもスペースも必要で、さらに次回発光までの蓄電時間が必要だったのですが、LEDであれば連続発光も可能ですし、ビデオ録画の際の点灯も可能になります。

その他、充電方法もキヤノン初のUSB充電となっている(専用バッテリーチャージャーは別売り有)。またチルトしたボディ裏面にあるスピーカーの穴も花柄風のデザインになっていたり、ビス位置にこだわる等、ユーザーの所有感や愛着といった親近感を感じる筐体も人気を博しそうだ。カメラ自体にどういった価値があるのかという部分を明確にさせることにこだわった結果、従来の製品に比べてカメラ関係者だけではなく他のジャンルでも世界的な評価も高いという。

佐藤:精錬された外観やコンパクトなボディではありますが、特に女性だけを対象とした製品ではありません。しかしそうしたカメラ女子層からもすでに多くの反響を頂いています。このカメラのコンセプトは”新しい写真に出会えます!”というところであり、写真をもっと楽しんでもらいたいと思っています。

石井:コンパクトカメラの市場は周知の通り全体的に縮小傾向ではありますが、その中で一部の”プレミアムコンパクト”といわれるハイクラスモデルに関しては、売り上げが増えている製品もあります。その要因は、そこのユーザー層に対して高感度、高画質、高倍率といった付加価値を提供出来ているからだと思います。今後はその製品が対象となる市場に対して、付加価値をちゃんと訴求出来ていることが大事だと考えています。PowerShot Nは発表以来、カメラ関係以外にもガジェット関係など海外でも様々なメディアに取り上げられ注目されています。これまでの層とはまた違った新しい付加価値を求める、新しいセグメント、新しい市場層に対する新たな提案として作られたカメラなのです。

このPowerShot Nの記事化にあたり、開発者側の意見だけでなく、実際のユーザー目線の反応も聞きたいところなので、デモ機材をいち早くお借りしてテスト撮影を行った。ただし今回は、PowerShot Nの魅力でもある”気づき”を楽しんで、映像コンテンツを作って頂けそうな視点を求めて、いつも筆者の周囲にいるようなプロカメラマンではなく、新しい目線でテストをお願いした。

続きは次ページで

『装苑』などの一流ファッション誌や『Hanako』などのカルチャー情報誌にも取り上げられ、SNSと最新ガジェットを使いこなす話題の”ギークガール”として各方面で活躍中の、山下ミカさんにテスト撮影レビューをお手伝い頂いた。

Ishikawa_GK4_06.jpg 山下ミカ Profile
http://lim-h.jimdo.com

撮るほど発見がある!スマートフォンと一眼レフの間のカメラ

プロカメラマンを含めて、周囲に一眼レフカメラを持っている人が多いため、自分も一眼レフカメラが欲しい!という思いはあったのですが、色々とあり断念。その理由は明確で持ち運びが大変。服をコーディネイトした時に可愛いバッグを持ちたいのに、一眼レフを持つために大きいバッグにしなきゃいけないというのは時には困ったりするものです。手軽に簡単にその瞬間を切り取りたい私には一眼レフはどうも向いていない。スマートフォンでアプリを組み合わせて撮るという撮影スタイルが私には向いているようです。

では何が違うのか? 私は「写真が撮りたい」のではなく、「瞬間を切り取って気軽に可愛く表現」したいのが先にきてしまうのだと。

Ishikawa_GK4_07.jpg

専用のジャケット&ストラップはサクラパール(写真)のほか、マルチボーダー、ステッチブラック、アクアブルーの4種類がある

それを踏まえて今回お借りしたCanon PowerShot N。箱を開けて最初に感じたのは「小さい!可愛い!」まるで、アプリ「Instagram」のような可愛い可愛いフォルム。掌にちょこんと乗ってくれるカメラです。また、スマートフォンのようにカバーがあり、カバーのカラーによって印象が全く変わります。例えば、今回お借りしたサクラパールはガーリーな雰囲気になりますが、ボーダーになるとカジュアルな雰囲気に変わってくれます。カメラ女子が増えてから、こういった小物類も結構重要です。カメラで写真を撮るとともに、「可愛くて、オシャレ」な小物で全体的なスタイルすらも楽しんで撮影できてしまうものです。

そして、カメラとしての機能等々…。まずはこのカメラ、シャッターがない。実はこれに私は最初気が付かず…。リングを押すということ、リングを回すとズームすることなどに気を取られ全く気にもなっていませんでした。撮影はリング部分だけでなく液晶をタッチするだけで撮影ができてしまうので簡単。さらに撮っていて気が付いたのは反応が早い。起動も早いですし、液晶をタッチして撮影までの間があまりなく非常に撮影が楽です。チルト式液晶パネルを90度にして構えて写真を撮る姿がまるで二眼レフカメラをつかっているようなスタイルになるため、撮影スタイルもなんだかオシャレにみえそうな感じです。さらにローアングルや真上などもこの回転可能な液晶パネルがあるので撮りやすく、今まで見えなかった気が付かなかった構図で撮影ができたりするのは発見でした。

そして、撮影モードが豊富!まるでスマートフォンの撮影アプリで撮れるようなモードが多く、さらにそのモードの中から色味やフォーカスの強さなどの細かな設定ができるのが面白い。今までのカメラはこの辺のモードは1パターンだったように思うのです。この辺がまたスマートフォンでの撮影スタイルにとても近く、「楽しくエフェクトを使いながら自分なりの撮影スタイルが楽しめる」というように感じました。

Ishikawa_GK4_08.jpg

PowerShot Nの専用アプリ「Canon Camera Window」で、スマホとのWiFi連動によるデータ移動も簡単。撮った画像や動画をすぐにFacebookやTwitterなどへ投稿できる

クリエイティブショットはこのカメラで一番おもしろく撮れて、楽しい機能です!自分が構図を決めて撮ったものをカメラ自身で色味や切り取りに変化を加えてくれるというかなり斬新なもの。これは撮った自分自身ですら、どうなるかわからないという楽しさとドキドキと何よりも発見がある。こう切り取りますか!というショットもあったりと驚きと楽しさがある。これは、写真を撮るということに新たな楽しさを感じることもできると思う。要するに、「写真撮影の楽しさの間口が見える」ということになるのではないでしょうか。また、液晶ですべて設定が行えるのは使いやすいので、カメラ初心者さんにも使いやすいものだと思います。

便利なのはカメラにWi-Fiが搭載されており、容易にスマートフォンやタブレットに写真や動画の転送が可能なので、SNSやウェブサイトへの連動なども容易にできること。これが出来るとできないでは大きな差があり、わざわざPCに入れるとか新しく機材が必要という「手間」が結局面倒だったりしてついつ使わなくなってしまいます。もしくはデータがいつまでもカメラの中にあるだけ…(それはうちだけかもしれないけど)それが簡単にできるというのはますます色々なものを撮っていってみようと思えるきっかけの一つになると思います。

また、このカメラには動画機能も搭載されています。この動画機能ですが、普通に動画が撮影できるのとプラスムービーオート、ハイスピードの3パターンあります。まずは、プラスムービーオート。写真と動画がほぼ同時に撮れたりするといいなとか思うことないですか?写真を撮ってまた同じように動画で撮るってなかなかしないもので。このちょっと面倒なんだよね…というところを解決してくれているもの。

写真を撮る4秒前を動画で撮影してくれているという面白い機能。さらに、一日分の動画を自動的にダイジェストムービーとして保存してくれたりします。編集も自分でやろうとすると意外と手間のかかるもの。それをカメラがしてくれたりするなんともかゆいところに手が届く機能!例えば、旅行先でその日すぐに見たい!って時や、編集ソフトとか使えない…PC持ってないなんて方にピッタリなのではないでしょうか?写真も思い出が詰まってますが、動画の動きを見ながら思い出を振り返るというのが気軽にできるように、しかもカメラが行ってくれるなんて革新的!

次に、ハイスピード撮影ですが、動画としては小さいサイズでしか再生できない(※240コマ/秒で320×240ピクセル、120コマ/秒で640×480ピクセル)ものになりますが、撮っていて面白いものです。子供が水遊びをしているところなんて撮影してみると、水しぶきの美しさや子供たちの一瞬の動きが違った表現で残すことができます。

最後に普通の動画撮影ですが、非常にうれしいのは写真モードの液晶パネルに録画ボタンがあること。要するに「録画モード」にせずとも、あ!撮りたい!と思った時に液晶パネルをタッチするだけでいいってこと。デモ撮影の際も、動画と写真を豊富に色々撮るため、歩いていた時には非常に重宝しました。よくあるのはモードを変えて、さて撮影!という時にはその狙っていたアングルではもう撮れなくなっていたとかは、よくある話。それがタッチするだけですぐに録画が始まるので、ストレスが少ないです。押さえたい一瞬を動画で撮影できるチャンスも増えたように思います。手振れ補正機能はついているようですが、もうちょっと補正されると嬉しいかな…というのが個人的な意見です。当たり前ですが、一脚や三脚、スタビライザーなどが必要なのかなぁと。ただ、液晶パネルが90度変えられるのは動画を撮るのにも大変重宝しました。真上のアングルやローアングルがすごく撮りやすく、いつもと違う風景が楽しめます。

「A DAY UJINA」山下ミカ

最後に、撮影したものをチェックするのに液晶パネルで確認するのですが、まさにスマートフォンのように液晶パネル上で指で広げたり閉じたりすると画面割りが変わるのです。カメラというよりはこういった部分は実にスマートフォン寄り。

PowerShot Nは、今まで「やってみたいけど、色々と大変…」という部分をかなり解決してくれ、撮影することの楽しさや動画を撮影することの楽しさに触れさせてくれる「間口を広げてくれたカメラ」になるのではないかと思います。

最後に

これまでも新しいカメラが出て来たことで、そこから生まれるコンテンツが大きく変化することは幾度もあった。しかしいまスマホやタブレット、そしてSNSやWebでの画像利用が一般化したことで、画像/動画の役割も大きく変わり、その作り方も変わりつつある。特に絶対値としてこれまでと大きく変わったのは、動画制作がより身近になっているということだ。映像制作が難しいと思っている層へのコンテンツ普及に、このカメラが果たす役割は大きいのではないだろうか?コンシューマー製品として発売されたPowerShot Nだが、デザイン、撮影スタイル、機能のどれをとっても、新たなクリエイティブ・スタイルを誰もが発見することができる。今後のプロクリエイティブのカメラのプロダクツにも、大きな影響を与えそうな予感さえ否めず、ある意味で映像クリエイティブの常識を変える試金石になるかもしれない。

WRITER PROFILE

石川幸宏

石川幸宏

映画制作、映像技術系ジャーナリストとして活動、DV Japan、HOTSHOT編集長を歴任。2021年より日本映画撮影監督協会 賛助会員。