世界のトップアーティスト作品を招へい、アート表現としてのPM企画展示

5月にプロジェクションマッピングの特集に取り組んだ事も記憶に新しいが、この夏、日本初のプロジェクションマッピング(PM)の展覧会『プロジェクションマッピングの世界 〜デジタルアート表現の最先端〜』が 香川県高松市で開催されている。

最近では一般にも浸透してきたPMの最新表現を集めた、日本初の展覧会を開催を、映像文化振興に力を入れている香川県高松市で開催。また3年に一度行われ、今年が開催年となっている瀬戸内国際芸術祭2013の関連事業としても注目を浴びている。

国内では、PMだけに焦点を当てた初の専門展覧会の開催ということで関係各所からも注目されているが、一般に知られるような建物の壁面等で行う大掛かりなPM上映イベントなどで作品を見せるわけではなく、すべて室内展示による展示なので営業時間中にはいつでもPMの体験が可能だ。さらにスイスで毎年行われている「Mapping Festival」からセレクトされた2作品を含む、海外のトップマッピングクリエーター3組の作品も日本初展示、その他、国内クリエイターの作品とともに、PMの最先端表現を体験することができる(8月18日まで開催)。

海外のトップクリエイターが来日

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開催にあわせてPMの世界を牽引する海外のアーティストも来日。各々の作品展示とともに8月3日にはトークショーも開催された。

■Joanie Lemercler / AntiVJ
AntiVJ創設メンバー Joanie Lemercier氏

イギリスのブリストルを拠点に活動、フランス人とベルギー人による映像クリエイター、プログラマー、プロデューサーで構成され、 この数年PMの世界を牽引し続けているクリエイティブユニット『AntiVJ』、その創設メンバーの一人であるJoanie Lemercier氏が初来日。今回は横7.2×縦3.6mの2枚の巨大キャンバスに2台のプロジェクターで富士山と竹をジオメトリックに表現した最新作の『FUJI』を展示。本作品は2010年に発表したアイスランドの火山をエイヤフィヤトラヨークトル火山からインスパイアされ、これをモチーフにしたワイヤーフレーム幾何学モデルと有機的な景観を融合させた作品シリーズの一連作。

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『FUJI』は日本のおとぎ話『かぐや姫』からインスピレーションを得た作品で、ジオメトリックな様式で中央にそびえる富士山と竹林の幻想的、隠喩的なビジュアル表現を通じて富士山を表現するため『かぐや姫』のストーリーをイメージとして思い起こさせるような作品だ。この作品制作はJoanie氏がすべて日本に来てから作業が行われ、日本プロジェクションマッピング協会のメンバーも制作作業に加わっている。さらにJoanie氏はこの8月、東京他でワークショップ等のイベントに出演する予定だ。

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同会場ではさらに、ワイヤーフレーム表示の幾何学モデルとライティングを統合した『Light Canvas3』という未公開最新作も公開。こちらは3D空間上に仮想モデルを作成し、パネル側に特殊な陰影を印刷。そこに様々なライティング効果をプロジェクションして、2次元パネルを3次元空間のように見せる幻覚を創出する実験作だ。

■Davy and Kristine McGuire
Davy McGuire氏

イギリス・ブリストルを拠点に活動しているDavy & Kristine McGuire夫妻は、繊細なペーパークラフトで作成されたジオラマにプロジェクションして、シネマティックなストーリーを展開する、新しいカタチのPM手法で人気のPMアーティスト。 映画の世界観に強く影響を受けており、PMはあくまでも作品を通じて観客のエモーショナルな反応を引き出すための、アート表現手法の一つとして採用しているという。ペーパークラフトの作成、映像、演出の全てを手がける。奥様のKristineさんは元シルク・ドゥ・ソレイユで活動していたという異色の経歴を持つ。今年1月の東京・渋谷での「ICE BOOK」の公開に続いての来日。

新作『Hunter』

今回常設展示された新作『Hunter』では、殺生というテーマで1800×600mmの細かく制作されたペーパークラフトのステージに、影絵を2台の短焦点プロジェクターによってリアプロジェクションするPM方法で約15分に渡るストーリーが展開される(使用プロジェクターはリコー IPSiO PJ WX4130)。こうした一連の作品を制作するために、ステージとなる素材は湿気や温度によって微妙に変化してしまう素材を使用しているため、演出には難しい調整が必要で、高度なペーパーカット技術も開発したという。

また、森の中へ少年を魅了する氷のお姫様のストーリーで話題となった、「飛び出す絵本」の中で語られる、上映限定5名のマイクロシアター形式で上映される「ICE BOOK」(上映時間18分)も、8月2日と3日の二日間のみの限定上映として公開され長蛇の列を作った。

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さらに今回は、Davy氏が以前に制作したミュージックビデオの素材を活かして、横80cmほどのコルクボードにパッチワークのように張られた各種フライヤーを画面として演出、各々に細かい映像がプロジェクションされる作品も展示。イベントやパーティなどでのウエルカムボードとしての利用も考えられる、身近なPM作品なども展示されている。

■SEMBILAN MATAHARI
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SEMBILAN MATAHARIメンバーの代表 Adi Panuntun氏

インドネシアのパンドンに拠点を置くクリエイティブ集団“SEMBILAN MATAHARI”は、今年の5月にスイスで開催された”Mapping Festival”で注目を浴びた『Constellation Neverland』を日本初公開。雪が降らないインドネシアのクリエイターたちがその仮想化表現として、綿でできた雲と風雨を表現する紐で構成された立体オブジェにPMの手法で、幻想的に自然現象を表現した作品。4台のプロジェクターとスピーカーを用いて、様々な雲、雨といった自然の表情を再現した。

『Constellation Neverland』

日本の作品ももちろん展示

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その他、地元香川の映像制作会社 株式会社 火燵(こたつ)が制作した、スクエアに積み上げられた段ボールを素材に、かけ離れたイメージである和を表現した作品『和』など、日本の作品数点が展示されている。

また期間中には、『額縁』をモチーフにしたPM作品コンペティションも行われ、会期中はこれらの応募作品も上映されている。また8月3日には上記の海外アーティストと日本プロジェクションマッピング協会会長の石多未知行氏、一般市民審査員を加えた作品審査も行われた。

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開催概要

プロジェクションマッピングの世界 〜デジタルアート表現の最先端〜
開催日程:平成25年8月1日(木)〜8月18日(日) 10:00〜20:00 (入場無料)
場所:香川県高松市/サンポート高松 高松シンボルタワータワー棟4/5階
情報通信交流館 e-とぴあ・かがわ

WRITER PROFILE

石川幸宏

石川幸宏

映画制作、映像技術系ジャーナリストとして活動、DV Japan、HOTSHOT編集長を歴任。2021年より日本映画撮影監督協会 賛助会員。