プロジェクションマッピングの隆盛を考える

2013年、4Kへの盛り上がりは映像業界の至る所で取り沙汰されているが、今後の話題だけが先行している状況が多い。そんな中で、現実面で今年の映像ビジネスを象徴するものとしては、やはりプロジェクションマッピング(PM)の隆盛を無視するわけにはいかない。

PMは昨年9月と12月に行われた東京駅でのPMショー「TOKYO STATION VISION」でその存在が一般認知/拡大され、今年は国内で相当数のPMイベントが開催されたが、夜間の時間が長くなる上に、様々な要因もあって、まさにPMにとってのベストシーズンが到来した。

GK_11_02.jpg 高さ58.2m×幅40.8mの「そごう柏店」正面全域を使用して行われた「ヒカリデッキかしわ2013」
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12月20~22日の3日間、柏駅(JR常磐線)前に巨大スクリーンにした本年度年末最大級のPMショー「ヒカリデッキかしわ2013」が開催された。これは千葉県柏市とヒカリデッキかしわ2013実行委員会の主催による、“元気な街・柏”を市内外へ発信していく「We Love Kashiwa キャンペーン」事業の一環として、PMを使った年末イベントを柏駅の東口ダブルデッキを観客席にし、スクリーンを柏駅東口の高さ58.2m×幅40.8mの「そごう柏店」の正面壁面の全域に合わせてプログラミングされたオリジナル映像を投射。一日3回、約10分の映像コンテンツを上映。柏市では1回に1,500名の観客を抽選で選出し、会場前のデッキ部分を観客席として開放した(残念ながら初日の2回は強風による天候不順のため中止)。

撮影:VIDEONETWORK

またこの上映されるコンテンツ制作にも国内外の著名アーティストが集った。DJ、音楽プロデューサーとして活躍するm-floのVERBAL氏と矢野パブロ氏が設立したクリエイティブエージェンシー「WHATiF」が参加したほか、今年ワイマール(ドイツ)で行われた国際コンペ「Genius Loci Weimar」で優勝したフランスのクリエイター集団「RDV Collectif」や、今年開催された国内のPM国際コンペ「逗子メディアアートフェスティバル2013」の優勝者「FLIGHT GRAF」など、各アーティストがオリジナル作品を披露している。

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クリスティ・デジタル・システムズ社製の高輝度プロジェクター8台を使用。上映直前まで細部の投射微調整が図られる

機材的にも国内最大級の機材が投入された。プロジェクターは今回のこの巨大規模に投影するために、クリスティ・デジタル・システムズ社製のプロジェクター8機を投入。35,000lm(ルーメン)/2K(2048×1080)解像度のChristie Roadie HD+35K×2機と20,000lm/HD解像度のRoadster HD20K-J×6機の合計8機のプロジェクターを使用。グラフィックコンテンツは、ビデオマッピングプロセッサー「Pandoras Box Media Server」でオペレートされていた。機材設置とオペレーションは、映像が(株)マグナックス、音響が(株)エディスグローヴがそれぞれ担当。オーディオ面のオペレーションに関してはローランドのM-200iライブミキシングコンソールが使用されていた。

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映像コントロールはビデオマッピングプロセッサー「Pandoras Box Media Server」を使用

ちなみに機材面でのトリビア的な話題を少々。今回使用されているプロジェクターは高輝度業務用プロジェクターメーカーの世界最大手である、クリスティ・デジタル・システムズ社(CDS)の製品だ。大概において大規模なPMショーでは、20,000lm以上の高輝度プロジェクターのメーカーは同社のほかバルコとパナソニックの3社しかなく、市場シェアもおよそ4:4:2の割合だ。さらにレンタル品としてもまだ数が少ないため、世界のPMには同社製が使用されているケースが多い。

CDS社は1929年創業の老舗で、当初自動車用のバッテリー充電器、そしてフィルム映写機のメーカーとして創業し、その後映写機のカーボンアークランプ用電源を開発してきた。しかしこのCDS社、実はすでに日本のメーカーといっても過言ではない。1970年から日本の光技術の最大手メーカー、ウシオ電機の映画館用キセノンランプの総代理店として機能して来た経緯があり、その後、1992年にウシオ電機の子会社であるウシオアメリカの100%子会社として買収された。そして1999年にカナダのElectrohome社からプロジェクション部門を買収、現在は技術開発と製造をカナダで行い、販売/マーケティングを米国が受け持つというグループ構成で、世界市場に向けて本格的なデジタルプロジェクターの製造販売を行っている。そして2003年にクリスティ・デジタル・システムズ日本支社が設立された(本社:東京都江東区有明)。

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音響面は、ローランドの「M-200i」ライブミキシングコンソールを使用

最新技術を支える日本の礎の力

業界関係者ならご存知かと思うが、どのメーカーも多くのデジタルプロジェクターの心臓部であるキセノンランプを提供している、その殆んどが実はウシオ電機のランプである。またパナソニックは、北京五輪での機材不採用を巻き返すべく、昨年のロンドン五輪へ向けて精力的な開発を行い、昨年の五輪会場で26台の20,000lmのDLPプロジェクターを使用したPMに採用された経緯を持つ。つまり、PMに関わる技術の多くは日本としても深く関わっており、特にプロジェクター業界における日本メーカーの躍進は目覚ましい。

さて今後のPM業界を考えるときの問題として、現行主力のキセノンランプ使用によるデジタルプロジェクターでは、輝度、電力、そして効率の面でも、規模が大きくなればなるほど非常に不効率なものになってしまうということだ。そこで期待されているのがレーザープロジェクターの登場である。およそ10万lmクラスの超高輝度上映が可能とされるレーザープロジェクターは、大規模PMにおいても電力や台数などで省力化が図れるため、大きなコスト削減などより効率的なPMが可能になるという。すでにソニーからは業界初のレーザー光源による業務用液晶プロジェクターとして「VPL-FHZ55(4,000lm)」が今年7月に発売されている。このモデルではすでに僅か6秒という起動時間や約20,000時間という長寿命を特長としている。

その他でもNECディスプレイソリューションズからは4K解像度のレーザープロジェクター製品を今年のNABで発表。 またデジタルシネマ上映用としては、米CDS社からはデジタルシネマ用としてシアトルのシアターに3D投影で60,000lmを可能にしたレーザープロジェクターの納入を決定している(2014年3月までに稼働予定)。

REDデジタルシネマ社でもレーザープロジェクター開発を行っていることは周知の事実だ。現状ではまだ野外使用での目に対する危険性などが指摘されている状況もあるが、レーザープロジェクターが今後大規模PMでも使用可能な、高輝度製品として登場して来れば、さらにPM市場の拡大が加速すると考えられている。

PMの現状と予算規模

PMAJ(プロジェクションマッピング協会)事務局長の藤井秀樹氏の話によれば、今シーズンに実施が予定されているPMショーは、ある程度の規模で行われるものだけで協会が把握しているだけでも25以上あり、また個別開催や定期上映、また企業単位でのイベント的なものなど、中小規模のものをあわせればその数はすでに把握しきれない程になっているという。

ところでPMを実現するためにはある程度の機材とコンテンツ制作が掛かり、それにはそれ相応の予算が必要になってくる。多くのPMがこの時期に行われる理由の一つとしては、商店施設の冬期の集客活性化のためのイルミネーション事業などの予算を使って実施するところも多いという。通常PMの実行予算というのはどのくらいだろうか?小規模と言われるもので約200~500万から、今回のような大きいものを実現するには2,000~3,000万以上といった予算が必要だという。現状、そうした予算はどこから捻出されるのか?

数百万という規模であれば企業協賛といった形も少なくないが、大規模なPMの場合、多くは地域の文化活性や創造発信の支援事業として公共の補助金や助成金、町の活性化のための商工費など地方自治体等の事業予算によって賄われることが多い。そのため、関連する地方自治体もPM開催には非常に前向きなところが多いという。今回の「ヒカリデッキかしわ2013」のイベントでも当日現場での会場案内のアナウンスは、秋山浩保柏市長自らが行うなど、大規模になればなるほど行政とも密着した演出がなされているケースがほとんどだ。しかし補助金や助成金など、公共予算の申告は、申請から許認可まで数ヶ月から1年以上と時間もかかり、また実際の現金支払いもイベントが実行された後に、そのレポート提出によって初めて支給されることがほとんどである。企画立案~支給までのタームが長く、これは制作側の負担も厳しい。

そこで、実施される場合は大概のケースでは広告代理店などが仲介し、フィナンシャル面をサポートしていることが多いようだ。実際にいま行われているPMショーは企画段階からすでに1、2年の仕込み期間を経てようやく実行されているものが殆んど。しかし、そこを押してでもPMが採用、実行されるという理由は、やはり一般大衆への反響が大きく、またデータ的にもかなり確実な集客人数が見込めるという、いわば旬の映像アトラクションなのである。実際にも町の活性化やイベントの盛り立て、またTVCMとのタイアップなど製品PRにも立体的なPR戦略が効果的であることで、主催者側からの反応も良いようだ。2014年5月には噂の東京ディズニーランドのシンデレラ城のPMもいよいよ公開されるなど、いま日本では1、2年前のPM創世記から企画され始めたものが、その実をようやく結ぼうとしているのである。

活況を呈する国内のPM市場。プロジェクターなどの機材売り上げとレンタルビジネス、コンテンツ制作などのプロダクションビジネス、そして町おこし事業などの自治活性など、PMに絡む全体の市場規模は、2014年には2000億円、2015年には3000億円を上回るとも予想されている。このPMブームはプロジェクターの技術革新とともに、当面は映像ビジネスの一翼を担って行くことになりそうだ。

WRITER PROFILE

石川幸宏

石川幸宏

映画制作、映像技術系ジャーナリストとして活動、DV Japan、HOTSHOT編集長を歴任。2021年より日本映画撮影監督協会 賛助会員。