展示規模は変わらずとも全体的に自粛ムードが漂う

“Join the UHD World! Broadcasting Opens Up UHD Era.”のスローガンのもと、今年で24回目を迎えた韓国の放送映像・音響・照明機材展「KOBA(24th Korea International Broadcasting Audio&Lighting Equipment Show)」が開催された。今年は5月20日~23日の日程で、いつもと同じく韓国ソウルの江南(カンナム)地区にあるCOEX(コエックス)のHall A、C、Dにて行われた。

日本とともに4K(UHD)放送の早期実現へ意欲を見せている韓国では、4Kでの地上波放送を当初の予定よりも繰り上げて2015年末開始という発表を、今年1月のInternational CESを受けてその直後に発表しており、当然ながら今回も4K(UHD)放送への最新技術の出展が中心となった。

しかし韓国国内では、ちょうど1ヶ月前の4月16日に起きた計300名を超える犠牲者を出してしまった旅客船セウォル号沈没事故の大惨事を境に、国全体が不穏な空気感に支配され、さらには誤報が相次いだメディアと国家の対応への不信が国民全体に募るなど、国自体を取り巻く空気感が大きく変化してしまったようだ。その後、不幸にも相次いで5月2日のソウル市地下鉄の衝突事故、KOBA開催前日の19日にも地下鉄駅構内で機器爆発事故が発生するなど、同国を取り巻く安全性への懸念が世界的な話題になり、国の信用問題に発展している。

同国内の映像業界にも影響があるようで、旅行や派手な買い物などの自粛ムードの中、映画制作等も一部では自粛中断されているという。また4月後半は映画館への来場者数も、約30%近く減少するなど、韓国の映像・映画業界、そして消費減による経済影響も大きく出ているようだ。

そんな中で開催されたKOBAだが、表面的にはあまり前年度と大きな変化は無かったものの、どことなく自粛ムードというか、例年よりも活気がなかったのは事実だろう。観光客が大きく減ったとされる明洞や東大門などのソウル中心部とは異なり、ビジネスの中心でもある江南地区はさほど人が減っている感はなく、KOBAへの来場者も初日の出足は少なく感じたものの、2日目以降は多くの来場者が訪れていた。

■石川幸宏のKOBAブラリ

PROTECH、テクニカルファーム、Canon、Sonyをご案内!

COEXの3階にある2つのホール(映像・放送機器関連展示)と、1階の音響・ステージ照明関連の計3つのホールに分かれて展示規模も昨年同様だ。しかし、今回の事件ではマスコミの誤認報道が日本でも取り沙汰されて話題になったが、その後、事故の遺族は韓国国内メディアからの取材やインタビューを拒否されているなど、マスメディアの信用失墜もあり韓国自体が大きく揺れており、その影響とは思えないがKOBAの特徴でもあるKBSなどの主要キー局の展示ブースも、若干縮小されていた。

毎年この時期に開催されるとあって、4月のNAB Showで発表された新製品を比較的ゆっくりとコンパクトに見られるところ、そして何より韓国メーカーの製品群をじっくり見られる点がKOBA参加の価値を高めていた。今年も4K(UHD)関連の展示を中心に大方の流れは変わらないが、4月のNABで注目された新発表製品も全ては展示されておらず、さらにここ数年DSLRムービーブームを支えてきた、安価で使いやすいサポートリグやスライダーなどを製造している韓国メーカーも、一通りの市場普及が終わったようで、すでに韓国国内では需要が停滞しており、その市場を海外へ向けていることもあって、展示そのものにはあまり動きは見られなかった。3軸ジンバルなどの小規模業者は新たに出展していたものの、パナソニックなど一部の大手メーカーが出展を事実上取りやめ(スペースは確保されているものの、実機展示はなくユーザー向けのカフェを運営)など、総体的には自粛ムードが支配したのが印象に残った。

ANYSYNC

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RNware社のANYSYNCは、iPadやHDMI出力端子の付いたデバイスから、HDMI入力の付いたTVへ画像を送信できるワイヤレス・ビデオ・トランスミッションシステム。会議や試写などでも便利なツールだ。出力デバイス1と1台のTVで構成される「1:1」(セット価格:220,000ウォン=22,000円)と、複数のデバイスから受像できる「N:1」(トランスミッター:180,000ウォン(1パック)+レシーバー:360,000ウォン)の2種類ある。

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Bridge X

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韓国の放送局の技術スタッフがスピンオフで作ったDigital Forecast社のコンバーター製品の新ラインナップ「Bridge X」シリーズ。日本でも発表になった、アップ/ダウンクロスのマルチコンバーター「X_MC」に加え、HDMIとDVIから3G-SDIへの変換とスケーラーが同梱された製品など、新ラインナップが出て来た。

Canon

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いつもブースの作りにこだわりを見せる韓国のキヤノンブース。今回はシューティングステージを、3段の階段席からテストシュートできる構成。2段目には今回EOS C300にも搭載されたデュアルピクセルCMOS AF専用のコーナーも設けられていた。

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そのキヤノンでは、DSLRムービー界の著名カメラマンであるPhilip Bloom氏をゲストに招へいしたCNEMA EOSのワークショップも開催。

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Canonブースでは昨年のInterBEEと同様に、EOS C500の放送用スタジオカメラ仕様による4K Live Streamingのデモ展示が行われていたが、PROTECH社の光ファイバーベースステーション「LS-850GTS」とともにカメラ接続されていたのは、本邦初公開の同社9インチOLEDファインダーモニター。KOBAの2日前に完成した出来立ての製品で何の製品表示もないが、4Kのピントフォーカスに最適化された高性能な表示機能は圧巻。

テクニカルファーム

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コアなニーズにも対応してくれる周辺機器ファクトリーとして著名な日本のメーカー、テクニカルファーム。こちらも昨年のInterBEEで展示されていたものだが、ソニーHDCAMのビューファーをキヤノンEOS C300に接続するアダプター。実はこのファインダーが老眼調整機能としては最も優れているという評判がカメラマンの間で知られており、焼き付きを起しやすいEVFと比較して高額でもそのニーズが増えており、近年この韓国からも注文が相次いでいるということで今回の出展となった。本アダプター(オーダー生産のみ)は約15万円(ビューファー別)。

TVLogic

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韓国のモニターメーカーTVlogicからは4K/UHD対応のモニター群が多種発表されている。小型モニターも多種発表されたが、今年は大型モニター群が盛況。55型のUHDモニター「LUM-550A」、31型のフル4K(17:9)モニター「LUM-300A」、そして24.5型OLEDのフルHDモニター「LEM-250A」など。

VARAVON

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サポートリグやスライダー、NABではワイヤーカムなどのユニークな製品を出して来たVARAVON。今年はNABでも3軸ジンバル系の製品が目白押しの中、同社からの新製品としてGoProなどの小型カメラ専用として、ジョイスティックでコントロールできるタイプのジンバル「BIRDY CAM」が登場。

Sony

平和精機工業

JVCケンウッドブースレポート

HITACHI

CEREVO

カメラ・編集/岡英史

WRITER PROFILE

石川幸宏

石川幸宏

映画制作、映像技術系ジャーナリストとして活動、DV Japan、HOTSHOT編集長を歴任。2021年より日本映画撮影監督協会 賛助会員。