© WOWOW/Warner Bros. Intl TV Production

Blackmagic Designの発表によると、世界的大ヒットとなった刑事ドラマシリーズ「コールドケース」のリメイク作品「コールドケース 真実の扉」(以下「コールドケース」)のグレーディングに、DaVinci Resolve Studioが使用されているという。グレーディングは株式会社IMAGICAのカラーグレーダー/テクニカルディレクター山下哲司氏が担当し、HDRとSDRの2バージョンが制作された。

予告編

WOWOWの「コールドケース」は、アメリカの同名人気ドラマの日本版として、主演に吉田羊を迎え制作された。最高画質で映像表現を行いたいということから、全編4K HDRで制作。WOWOWでの放送はSDRで行われるが、今後の放送環境の変化や海外への販売も視野に入れHDR版が制作された。

山下氏:今回、HDRで作品を仕上げるということで、SDRでは作れなかったルックを作りたいと考えました。HDRはリアルに見えるというのと同時にリアルに見えすぎることで逆に物語に入り込めなくなるといった懸念もあります。そこであまり生々しくなり過ぎない範囲でこれまでは表現できなかったHDRらしい画作りを心がけました。

同作の全体的なトーンは固めでややグリーンに寄せたルックとなっている。

山下氏:HDRは白の表現に特徴があります。SDRだと明るい部分に色が乗らないようなところでも、HDRでなら表現できます。そこで白にグリーンを少し感じさせるような色作りを採用しました。登場人物の顔まわりは顔色が不健康にならないように気を配り、必要に応じてWindowトラッキングを活用し調整しています。

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同作では、クラインクイン前のテストグレーディングの段階ですべてルックの方向性を決めてあったという。

山下氏:こうすることで、撮影時やオフライン時でもみんなが同じルックを共有できるんです。ポスプロの段階ではじめて色を決めると、それまで監督が見ていた色と撮影監督が考えていた色にズレが出てしまって、その調整に時間がかかることがあります。今回は、SDRとHDRの二つのバージョンを納品する必要もあったので、事前にルックを固めておいたことで、実際のグレーディングに入ってからの作業がスムーズでした。

同作では、撮影からデイリー作成、データコンフォーム、そしてグレーディングというワークフローの中でDaVinci Resolveがいろいろな場面で使用されている。撮影現場では、収録された撮影素材からDaVinci Resolveを使ってデイリーを作成。この段階で事前に決めておいたルックを適用する。IMAGICAでは、クラウド上にデイリーやオフライン編集の結果などをアップロードして、スタッフ間で確認できるサービスを行っている。

同社データマネージャーの齋藤真裕氏は次のようにコメントしている。

齋藤氏:デイリー素材もクラウドへアップロードするためにH.264に書き出したり、オフライン編集用にDNxHDやProResで書き出したりと、状況に応じていろいろなメディアで出す必要があります。DaVinci Resolveは必要なコーデックがほぼ全て揃っていますし、書き出しも複数同時にできて効率的なので重宝しています。また、VFX用の素材を渡す場合は、必要な部分のみを抜き出して渡すので、その編集にもDaVinci Resolveを使っています。

山下氏:カメラマンや助手などたくさんのスタッフがDaVinci Resolveを使えるようになってきているので、グレーディングパラメータやLUTを作りそのデータを共有することで誰でも同じ色が見られます。最小限のやりとりでカラーマネージメントできました。

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同作では現実世界よりややコントラストの高いルックをベースとして作品を仕上げている。

山下氏:固めのルックにするとノイズ自体のコントラストも高まります。特に4K HDRだとそれが顕著にわかるため、状況に応じてプラグインでデノイズ処理をしました。今までは、別のシステムにマスターを送ってデノイズ処理をしていましたが、DaVinci Resolve内でその処理をすることで中間工程を減らすことができ効率的です。グレーディングをしながら粒子をどうするか、いわゆる映像の質感を決められるというのは、かなりのアドバンテージだと感じました。

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同作では、各エピソードに必ず回想シーンが登場する。この回想シーンの時代設定はその時によってバラバラで、その時代に合うようなルックにそれぞれ作られているため、回想シーンのルックがエピソード毎に違っている。

山下氏:その時代を象徴するようなルックをつくるため、古い時代設定の回想シーンは16mmフィルムで撮影しています。ビデオカメラが登場してきた頃の設定のシーンでは、DVコーデックのビデオカメラを使って60iで撮るなど、かなりこだわっています。1970年代の回想シーンでは、古いリバーサルフィルムっぽい雰囲気のルックをリクエストされました。そのときは元気がよくかわいらしい色を表現するため、シャドウバランスを赤くして、色のメリハリをはっきりするような色を作りました。

現在のシーンと回想シーンに同じ役者が登場する場合、同一人物だけれども20年前の設定、というようなことがあります。そういった年齢を表現する場合、スキントーンのコントロールが非常に重要になります。DaVinci Resolveのミッドトーン・ディテールや、カーブグレーディングは、そういったスキンコントールでよく使いました。

特にカーブグレーディングの優位性は、今回のようにSDRとHDRを作りわけるときに非常に感じました。トラックボールでの調整だけではどうしても追い込めない繊細なところは、様々なカーブを駆使しないと表現できません。Rec709と2020というカラースペースの違うものをそれぞれ調整しないといけない中で、カーブグレーディングはこのカラースペースだったらこう動かす、というのが理解しやすく、使いやすいんです。