Blackmagic Designの発表によると、映画「種をまく人」の撮影にBlackmagic Pocket Cinema CameraがAカメラとして使用されたという。また同作のグレーディングおよびフィルムスキャン業務は株式会社東京現像所で行われ、DaVinci Resolveおよび、Blackmagic Cintel Film Scannerが使用された。

「種をまく人」は竹内洋介氏による初の長編監督作品。カメラマンであり俳優でもある岸建太朗氏が撮影監督および主演を務めた。2011年の東日本大震災後に被災地で瓦礫撤去作業に従事していた主人公の光雄は、心労から精神を病んでしまう。3年後、精神病院から退院した光雄は弟・裕太の家をおとずれ、姪の知恵、ダウン症の一希と心を通わせていくが、ある事件が起こり、その穏やかな日々は崩れていくというストーリー。

同作の撮影は、最大4台のBlackmagic Pocket Cinema CameraをAカメラとして使用。ラストシーンのみ35mmフィルムで撮影されており、そのフィルムは東京現像所のBlackmagic Cintel Film Scannerでリアルタイムスキャンされたのち、ほかのフッテージとともに同社のDaVinci Resolve Studioでグレーディングされた。主演および撮影監督の岸氏は次のようにコメントしている。

岸氏:この映画の主人公は9歳の少女なのですが、私たちは主人公を演じた涼乃ちゃんに、その役を演じるのではなく生きて欲しいと強く願いました。それを可能にするには、彼女に映画の撮影であることすら意識させないようにする必要があったのです。

具体的にはカメラの存在感をできるだけゼロにしたかったのですが、そういう意味でBlackmagic Pocket Cinema Camera以上に適したカメラはありませんでした。スマートフォンと似たような大きさにも関わらず、RAW動画がカメラ内部に収録できるのです。インディーズフィルム制作者の僕たちとしては、本当にエポックメイキングなカメラだと実感しています。

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竹内氏:この作品は東日本大震災直後の夏に、岸さんと共に被災地を訪れた際に、海岸沿いの荒れ果てた土地に咲いていた一輪のヒマワリを見たことから着想を得ています。私は当初、16mmフィルムで全編撮影しようと考えていたのですが、予算的に厳しいことからカメラマンの岸さんやカラリストの星子さんと相談し、16mmフィルムの質感で撮れるBlackmagic Pocket Cinema Cameraで撮ることを決めました。

その後、被災地に自分たちの手でひまわりを植え、ラストシーンを撮影することになったのですが、2011年に被災地で見たひまわりのイメージ、その自然の力強さを最大限に伝えるためには、やはりフィルムで撮る以外の選択肢はないと決断し、ラストシーンだけを35mmフィルムで撮影することにしました。

35mmフィルムで撮影された同作のラストシーンは、ひまわりが咲いてる印象的なシーン。そのフッテージは東京現像所のBlackmagic Cintel Film Scannerにてスキャンされ、DaVinci Resolve Studioでグレーディングされた。同社のカラリストである星子駿光氏は次のようにコメントしている。

星子氏:同じメーカーの製品というのもあり、フィルムとデジタルの違いはあるのですが、Blackmagic Cintel Film ScannerとBlackmagic Pocket Cinema Cameraの素材は画の出かた、味わいがとても似ているんです。そのためなじみがよくて見ていても変な違和感がなく、とてもうまくマッチングしたと感じています。この作品にとってベストな選択だったのではないでしょうか。

岸氏:フィルムのイメージが素晴らしいことは想定済みだったのですが、Blackmagic Pocket Cinema Cameraのイメージがここまでフィルムに寄せられたことが本当に驚きでした。今回は画質を重視したため全編RAWで収録したんですが、このカメラのRAWのポテンシャルの高さを実感しましています。

カラリストとしては、解像度よりもダイナミックレンジの方が重要なので、13ストップのダイナミックレンジがあることのメリットはすごく大きかったです。今回の作品は照明があまり焚けず、自明かりのみの低照度のシーンが多かったので、グレーディングで補正する必要がありました。そのためRAW現像の際に、ショットごとにCamera RAW機能で最適の現像設定に合わせて、そこからグレーディングをしていきました。

RAW現像から色がいじれることで、より自然な調整ができるんです。また、暗いショットを明るくしようとするとコントラストが上がり、黒も少し浮いたような感じになりがちですが、ダイナミックレンジが十分あったため、地明かり雰囲気を生かし自然なトーンで明るさを上げることができました。

同社ではMacベースとLinuxベースで計3式のDaVinci Resolve Studioが稼働しており、仕事内容によって使い分けているという。

星子氏:Linuxは4K以上の解像度を扱う場合に使っています。この作品にはMac版を使いました。DaVinci Resolveのソフトウェアは、バージョンアップでどんどんGPUの扱いが上手くなっていると実感しています。

同作品はテッサロニキ国際映画祭、ストックホルム国際映画祭、ファジル国際映画祭、ロサンゼルス・アジアン・パシフィック映画祭などで上映され、多くの賞を受賞している。テッサロニキ国際映画祭では最優秀監督賞(竹内洋介)と最優秀主演女優賞(竹中涼乃)を、またロサンゼルス・アジアン・パシフィック映画祭では、最優秀脚本賞(竹内洋介)、ベストヤングタレント賞(竹中涼乃)、最優秀主演男優賞(岸建太朗)、そしてグランプリ(最優秀作品賞)の4冠を達成した。日本での公開は未定。