ソニーは今年1年、XDCAM EXシリーズ、HDVシリーズの新製品のカムコーダーを次々に発売してきた。テープレス化・HD化だけを目的とするのではなく、現場のワークフローへの対応を意識した製品ラインアップとなっていることを強く感じている。今年投入されたラインアップを振り返りながら、今後のビデオカムコーダー製品に期待することなどを考えてみたい。

●XDCAM EXカムコーダー「PMW-EX3 200812_EX3.jpg

今年の初めに、新しいSxSカードを使用したXDCAM EXカムコーダーPMW-EX1が発売となって話題となったが、夏には早くもレンズ交換式のXDCAM EXカムコーダーPMW-EX3がラインアップに追加となった。

斬新なボディ形状で話題となったEX3は、そのボディ形状から推察される通り、重心バランスに難があり、ENG中心の用途では不満が出てしまう。しかし、軽量ボディでの機動性や、ガンマカーブのユーザー調整幅が広いことなどから、多彩な映像表現を求められる音楽プロモーションビデオの撮影や映画撮影などでは問題なく使用出来た。業務用としては低価格であり導入を迷っている人も多いとは思うが、CINEALTAのブランドが付いているように、画質に関しては価格帯以上の実力を持ったカムコーダーだ。早回し(オーバークランク)/遅回し(アンダークランク)機能を搭載しているので、作品作りを主とする映像作家などにとっては最適なカムコーダーと言えるのではないだろうか。Gen-Lockとタイムコード入出力も搭載したことで、スタジオでの使用やマルチカメラとしての運用も意識しており、メインのHDシステムとなる可能性を強く感じさせてくれる。

今後は、EXマウント方式のレンズラインアップや、サードパーティーからの細かな使い勝手を向上させてくれるオプションなどが増えてくることに期待したい。また、SxSカードの価格を考慮すれば、マスターを保存する際に、一度取り込んだデータをブルーレイディスクに保存するという手法がメインとなる。フラッシュメディアを使用する以上、バックアップは重要課題。簡易で安価なマスター保存ができるように、ワークフローに組み込んで欲しいと思う。

●HDVカムコーダー「HVR-S270J」「HVR-Z5J 200812_S270J.jpg

HDVカムコーダーのメリットと言えば、コンパクトフラッシュやハードディスクユニットとの同時収録が可能であることだ。HDVシリーズは、業務利用のユーザーが現在置かれている状況が、HD化・テープレス化の過渡期であるという面を意識した製品となっている。従来までの感覚でテープをマスターとして保存し、ノンリニア編集にはコンパクトフラッシュやハードディスクレコーディングユニットを使うことで、これまでテープベースで収録してきたユーザーであっても、違和感なくHD化やテープレス化を進められるという意味では、HDVシリーズの存在意義は大きい。

今年春に登場したHVR-S270Jは、スタンダードテープで長時間収録できるカムコーダー。HDVラインアップで長時間収録できるショルダータイプの購入を検討するならば、ほぼ唯一の選択肢となる。「デッキ部が大きくなったのでショルダータイプにしたのか」という意地悪な見方もしたくなるが、スタンダードテープの採用ということを考えれば、ショルダータイプの方がバランスはいい。業務機ユーザーへの視点を強く意識したカムコーダーだ。

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年末になって発売となったHVR-Z5Jは、HVR-Z1JHVR-Z7Jの中間機と言えるモデル。レンズ一体型カムコーダーでありながらも、35mm換算で広角29.5mmからの20倍レンズを搭載することで、幅広い現場に対応できる製品となっている。ハイエンドビデオユーザーから業務ユーザー、ドラマ/HDVシネマ制作など、オールマイティなHDVカムコーダーとして現場で重宝されるのではないだろうか。

Z7JとS270Jに付属していたコンパクトフラッシュ記録ユニットだが、Z5Jではオプション扱いとなり、HVR-MRC1Kレコーディングユニットとして単体発売となった。Z7Jと同様にZ5Jでもカメラ後部にダイレクトに装着して使用できる。Z5Jではビューファインダー上に情報が出るようになったので、撮影時に特に意識せずとも活用できるようになった。DVCAMなどZ5J/Z7J以外のカムコーダー製品であっても、i.Linkケーブルで接続し利用することが可能であり、ノンリニア編集時のキャプチャー作業の効率化などのメリットが大きい製品だ。もちろんテープと同時収録することも可能になる。

次世代ファイルベースワークフローに向けたビジョンを示せ!

今年1年を振り返ってみると、「HD環境への移行」「テープレス」を実現している現場も多くなってきた。特に後半は、「ファイルベース」のトータルワークフローをいかに提示してくれるのかということに期待が集まっていたように思う。

ファイルベースの運用にはMXFファイルが定着してきた感はあるが、MXFファイルの中身は各社で統一したものはではないことから、各種フォーマットから何を選択するかという問題は大きい。こうした相互互換性の問題や、メタデータ運用への取り組みについては、今後に期待する部分も多い。次世代のファイルベースワークフローに向けて、各社のビジョンがいかに提示されるかが、今後は特に重要になっていくだろう。

ソニーのファイルベース制作ワークフローにおいて、「撮影」を主軸に考えれば、完璧とは言えないが現在のラインナップでスタンダードな製品が揃った。納品時のターゲットフォーマットについても、HDCAM/HDCAM SRへと落ち着いてきたことで、HD制作の入口と出口について定番の流れが見えて来た。今後は、撮影したマスターをどのように保存し、アーカイブ化していくかが重要だ。業務用の信頼性を保ちつつも、より安価で将来的にも使える製品群の登場を望みたい。

最後に、最近では、Webムービーなどを中心にカメラマン自らがノンリニア編集を行う現場も増えてきたように思う。まめカムHDなど新コンセプトカムコーダの発表を見ても、もはや従来の「映像はテープに収めるもの」という感覚からの変化を大きく感じさせるものが多くなった。先日、YouTubeがHDに対応したことでも感じることだが、最終フォーマットがファイルとなる可能性は常に意識していく必要があるだろう。

岩沢 卓(バッタ☆ネイション)


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