[特集:フルデジタル制作移行、その課題と展望 05]米NBCプロキシベース制作ワークフローで五輪視聴者4億人を達成
2009-01-09 掲載
現地で50万人以上の観客が、1万500人のアスリート達の競技を見守った2008年夏の北京オリンピック。その放送においては、前代にないフルHDクオリティでの放送制作環境が実現したことはもちろん、H.264フォーマットの採用をはじめ、さまざまな視点で初めての試みが行われた。国際オリンピック委員会の発表によると、北京オリンピック開催期間中の報道時間は史上最大規模となり、全世界で5,000時間以上。これは、前回アテネオリンピックの3,800時間を余裕で超える。会場となった北京には、世界各国から250局、12,000人もの現地スタッフが駆け付け、合計1,000台以上の報道カメラが収録に使われた。報道カメラと北京にある31カ所の放送施設、市外6カ所と市内59カ所のトレーニングセンターは、すべてコンテンツ配信ネットワーク下でリンクされていた。
オリンピックの米国内独占的放送権を2012年まで保持している米国ネットワークキー局NBCは、オリンピック開始から5日間で(1日平均)3億1,300万人の視聴者数を獲得した。競泳でマイケル・フェルプス選手が前人未到の8冠を達成した8月17日(米国16日深夜)には、4億人の視聴者数を記録したという。米NBCは、HDTVでの放送に加え、ケーブル、インターネット、モバイル放送といった、あらゆる新しい技術での放送手段を通して、史上最高の視聴者を獲得したわけだ。
北京-ニューヨーク間の遠隔制作ワークフローを構築
ここでは、NBCが採用した制作ワークフローについて紹介しよう。NBCはオリンピックに先立ち、地上波だけでなく、NBCOlympics.com、VOD(ビデオ・オンデマンド)、モバイルアプリケーション、オンライン・ショッピングといったインターネット放送や系列ローカル局といった、マルチプラットフォームへの配信を予定していた。これら全てに対応するには、膨大な量になるであろう多種多様なフォーマットのコンテンツを制作する準備が必要になった。その負担に加え、現地でのスタッフ人数制限も強いられたため、「ニューメディア」系とコンテンツ・パッケージの制作は、現地から10,000kmも離れたニューヨーク局の制作チームによって行なわなければならなくなってしまった。
制作をリモート(遠隔)で進めるには、コンテンツ共有や管理のためのメタデータ(統計データやログ情報)が必要になる。さらに、さまざまな配信プラットフォームに対応した制作をするためには、50kbpsから1.5Gbpsまで、解像度に依存することなく制作できなければならないという条件も加わった。北京で収録した素材を使ってニューヨークで効率的にコンテンツ・パッケージを制作し、かつ両都市間のネットワーク・トラフィックを最小限に抑える必要が生じたわけだ。
この課題に対して、NBCが中核システムに採用したのは、米Omneonのコンテンツサーバとメディアサーバ、そしてコンテンツ転送管理システムOmneon ProCast CDNだった。NBCは、これらのシステムを北京とニューヨークにそれぞれ設置し、プロキシ・ベースの制作ワークフローをベースにしながら、北京で収録した素材をニューヨーク側に転送してコンテンツ・パッケージを制作した。
NBCの北京・ニューヨーク間のファイルベース制作で採用されたシステムソリューション北京では、Cyradis Technologyのオートメーションシステムの管理のもと、各競技場から22台のメディアサーバへ素材をインジェストし、高解像度とプロキシ用解像度で記録した。この記録と同時に、各メディアサーバから4チャンネルの出力ストリーム(2チャンネルの高解像度と2チャンネルのプロキシ)をコンテンツサーバに転送する。この北京側のシステムはニューヨーク側のコンテンツサーバにも接続されており、ライブのイベントが進行中であっても、Omneon ProCast CDN経由ですべてのプロキシファイルが北京からニューヨークにコピーされるようになっていた。
ニューヨークの制作スタッフは、DAM(デジタルアセット管理)の独Blue Orderワークステーションを使用してプロキシの表示、ログノートの追加、ショットの選択を行い、EDL(Edit Decision List)を作成する。このEDLに基づいて、高解像度素材の要求を北京に送信すると、ProCast CDNと米MOG SolutionsのToboggan(MXFファイル(映像、オーディオとメタデータ)をAvid編集システム側でシームレスに対応できるようにする転送ツール)は、受け取ったEDLを元に高解像度素材を北京からニューヨークに転送する。
| ネットワーク帯域幅を有効に活用しながら高速に転送できるOmneon ProCast CDNの管理画面(一例) |
転送された高解像度素材は、最終的な配信用パッケージを作成するため、Avid編集ステーションやトランスコーディング側に転送される。ProCast CDNは、グローバルな複数拠点を持つネットワークを包括的な帯域幅管理のもと、常にリモートサイトごとのアセット転送の進行状況をリアルタイムに表示し、WAN環境に最適化した迅速な転送を実現した。これにより、ファイル全体ではなく要求された個所のある高解像度コンテンツだけが転送され、制作時間の短縮、ネットワーク使用の最適化、また品質の保証された効率的なワークフローが実現した。
配信メディアに合わせて約20のフォーマットを活用
今回、収録素材入力側には、メディアサーバから52チャンネル分のインジェストを行ったほか、Digital Rapidsのストリーミング・エンコーダから40チャンネル、42台のSony製XDCAMレコーダーなど合計130チャンネル以上が接続されていた。取り扱ったコンテンツフォーマットは、MPEG-2 SD(MXF OP-1A Wrapped 30 mb/s I-Frame Mpeg-2 422P@ML 625/50)をはじめ、MPEG-2 HD(MXF OP-1A wrapped 50Mbps Long GOP MPEG-2 MP@HL -1920x1080/60i)であり、Avidの編集フォーマットとしてIMX 30(MXF OPAtom)とAvid DNxHD(MXF OPAtom)を採用した。さらにトランスコードして利用したものに、Web用のSilverlight WM11、VOD用のMPEG-2 MP@ML(TVN Spec)、Amazon用のMPEG-2MP@ML(Amazon Spec)、モバイル用のMPEG-2 MP@ML、TELEMUNDO用のMPEG-2 MP@MLがあった。これらのフォーマットをさらに細かく分けると、実に20近くのフォーマットにもなった。
NBCは、これらのフォーマットを組み合わせながら、オリンピック開催期間中に合計3,600時間を超える放送を行ない、NBCOlympics.comだけでも2,200時間分、7,550万件のビデオストリームが配信されたという。NBCは、効率的なプロキシ・ベースのワークフローを最適化された転送メソッドと組み合わせることにより、それぞれ要求の異なる多種多様の出力先に対して大量のコンテンツ配信を可能にし、前例のない放送時間をマルチキャストで実施するというゴールを達成することができたと言える。
NBCは、既に2010年冬季オリンピック放送に向けて、放送システムの構築を進めている。北京オリンピックの成功を事例に、更なる先進技術を取り入れながらもゲームの臨場感を演出する意向だ。
[ Category : SPECIAL ]
[ DATE : 2009-01-09 ]
[ TAG : フルデジタル制作移行、その課題と展望 北京オリンピック ]
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