デジタルサイネージコンソーシアムでガイドラインを検討中

メーカーごとに、形も大きさもさまざまなものが存在しているデジタルサイネージの世界。特に決まった規格があるわけでもないので、メーカー各社がそれぞれの考えに基づいて作っている。こうしたシステム依存の部分を、どう改善していくのかという標準システムガイドラインを決めようとしている団体が、デジタルサイネージコンソーシアム(東京都港区、中村伊知哉理事長(慶応義塾大学教授)、以下DSC)だ。現在、ハードウェア会社、広告会社、鉄道、通信キャリア、システム開発会社、サービス会社、コンテンツ制作者など135社(2009年2月9日現在)が参加している。デジタルサイネージを提供する会社と活用する会社とが一体となって、月に1〜2回のペースで会合を持ち、ガイドラインを検討している。

PRONEWSで「新・デジタルサイネージ入門」のコラムを執筆してお馴染みの江口靖二氏は、DSCの役割について次のように話した。江口氏は、DSCで常務理事を務めている。

「DSCは、デジタルサイネージをメディア化していこうという取り組みをしています。現在、各社からさまざまなデジタルサイネージのソリューションが提案され、実際に導入されています。しかし、1つのエリアで閉じて表示しているのであればいいのですが、コンテンツを他のサイネージに流用したいというときには、それぞれのシステムに互換性がないために、新たに作り直さなければならないなんてことが出てしまう。これでは、ある広告主が、複数のサイネージに対して広告を出したいと考えたときに、掲載するサイネージの数だけ制作しなくてはならない。これでは非効率的な話になってしまう。そこで、最低限の互換性が取れるようにという活動を始めたわけです」

現在、DSCの作業部会は4つある。システム部会、指標部会、プロダクション部会、ロケーション部会だ。各部会における、大雑把な活動内容は以下の通りとなっている。

■デジタルサイネージコンソーシアムの活動■
●システム部会デジタルサイネージに最低限必要な機能や性能を整理し、ガイドラインを作成する。
●指標部会媒体評価基準や効果測定方法の研究・検討とガイドラインの作成をする。
●プロダクション部会コンテンツの演出手法や制作コスト低減化の検討、著作権処理ルールの確立に向けて取り組む。
●ロケーション部会デジタルサイネージをセグメント化し、設置場所に応じて最適化を検討する。

各部会は、ハードウェア面、評価面、制作面、利用方法面をそれぞれ担当することで、デジタルサイネージを多角的に分析し、最低限のガイドラインを策定しようとしている。こうした活動について江口氏は、「デジタルサイネージはこういうものだという規格を作るという、技術的な標準化団体のような活動ではない。むしろ、デジタルサイネージのビジネスを発展させる上で、1社でできないことを協業で行っていくための決まり事があった方がよいと言う部分については、話し合ってガイドラインを作っていきましょうというスタンス」と話す。規格化を前提とした活動ではなく、あくまでもビジネスをうまく回すための仕組み作りをしている位置づけだ。

ガイドラインとして各部会の成果が出始めた

こうした会合を行ってきた成果は、徐々に形となって出始めている。DSCのシステム部会が2008年11月に「デジタルサイネージ 標準システムガイドライン 1.0版」をまとめ、内容を公開している。ここには、コンテンツ登録や配信、表示、稼働状態監視、ログ管理、データ転送などの機能の要件や、インタフェースのガイドラインなど、デジタルサイネージのシステムが最低限備えているべき機能や性能について書かれている。

今年に入って、指標部会も「デジタルサイネージ 指標ガイドライン 1.0版」を公開した。テレビ番組の評価基準となる「視聴率」のような媒体の指標を、街中に設置されたデジタルサイネージではどう実現すればいいのかという方向性を示したものになっている。人の通行量やそこに立ち止まっている滞留量のほか、視聴したという認知レベルを決めながら、広告取引や媒体価値を説明するための参考指標を決めようというもので、指標ガイドライン 1.0版は、ガイドラインとはしながらも、こういう方向性で指標作りをすると、適切なものができるのではないかという段階にとどまっているのが現状だ。

プロダクション部会はまだガイドラインを示してはいないが、演出手法や制作コスト低減化、著作権処理を扱う部会だけに、制作者にとって重要なものとなるだろう。「テレビは画面を見ている前提なので、CMは最短でも15秒ある。通りすがりの人が対象となるようなデジタルサイネージでは15秒見続けることはほとんどなく、たまたま視界に入ったものをチラッと見ていくというようなケースが多い。画面を見ていないという前提で演出方法を考えようとしています。また、制作に必要な著作権処理についても、デジタルサイネージにおいては何も決まっていないというのが現状。楽曲利用をしたいという場合には、書作者と著作隣接者の許諾を1つ1つとっていかねばならず現実的ではない。著作権処理を簡単に行える方法を、著作権団体とともに構築していく必要があります」(江口氏)

ロケーション部会についても、まだガイドラインは出されていない。「同じようなデジタルサイネージであっても、ホテルなどの公共施設や、電車やタクシーといった交通機関など、デジタルサイネージの設置される場所によって視聴形態が変わるため、似て非なるものとなります。この部会では、デジタルサイネージの置かれる実際の場所を想定しながら、機能や指標、演出をどうするかという部分を検討しています」(江口氏)

空間演出とともに存在していくデジタルサイネージの世界

これと決まった規格があるわけでもないデジタルサイネージ。普及していく段階にある現在、コンテンツ制作の自由さは、クリエイターの創造力しだいといった感じも受ける。「人がじっくりと見ることがない」という前提で、いかに人の目に留まるものを作れるか──。街中に溢れるポスターやチラシをいかに見てもらうかという延長線上に、デジタルサイネージがあるようにもかんじるが、ある意味、映像クリエイターにとっては、CM飛ばしの視聴形態でいかにザッピングの手を止めさせて見てもらうかといった部分にも通じているのかもしれない。

しかし、デジタルサイネージ環境は、ディスプレイパネルを組み合わせて高精細化したり、複数のパネルを並べて時間で演出したり、高解像度の画像の一部を複数のパネルで切り出したりと、表現手法も自由になっていることが特徴だ。ここにデジタルサイネージの面白みがあると、江口氏は言う。

「デジタルサイネージは、コンテンツを表示する時間も場所も自由に制御できるメディアであることが強み。人の流れを見ながら、あるいは天候に合わせて、コンテンツを変えることもできます。さらに、本来は空間演出も含めてサイネージを見せることが大事であるはです。まだまだそこまで大きな仕事は限られている状況ですが。でも、Web制作でFlashがこれだけ普及して、ハイビジョン映像も埋め込めるようになって、インタラクティブ性を備えてなんて状況は、今から10年前には想像もできないくらいでしたからね。これから5〜10年後には、デジタルサイネージ環境は大きく変わっていると思いますよ。コンテンツ制作は、ポスターやグラフィックデザインに近い感覚です。そういう意味では、Flash制作をしている人や、イベント映像を制作しているような人であれば、取り組みやすいのではないでしょうか」