はじめに…

これまでの1/5から1/10の価格で4Kシネマカメラを入手出来るようにしたRED Digital CinemaのRED ONEカメラ。すでに世界中で数千台が稼働しており、DCIシネマ規格の4Kシネマが撮影できる数少ないカメラの1つとされている。

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破格的なこのカメラは進化を続け、ユーザーが育て上げるモデルとしても特異な製品でもある。日本でも数百台の販売実績があるが、正確な情報、特に日本語の情報は不足している。そこで、従来のカメラと比較を行いながら、RED ONEの性能を最大限に引き出す方法を考えてみよう。まず最初に、RED ONEの特徴を整理しておこう。

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イメージセンサーのサイズ
RED ONEの最大の特長とメリットは、何と言っても、イメージセンサーに35mmシネマフィルムと同じ撮像サイズのCMOS単板を採用していることに尽きる。これによってシネマレンズ用のPLマウント(フランジバック52mm)が使えることになり、35mmフィルムカメラと画角、被写界深度などを同じにすることができる。

フレーム可変
従来のHDカメラでは不得意であったハイスピード撮影。RED ONEでは、制限があるものの、秒120フレーム、24pの5倍のスピードで撮影が可能となっている。これは、イメージセンサーに高速読み出し可能なCMOSを採用したことによる。CCDは光センサーによって変換された電荷の転送が複雑で高速転送が困難なため、たとえばソニーCineAlta F35では秒50フレームまでにとどまっている。

RAWデータ記録
撮像されたイメージセンサーからの信号は、そのままRAWデータとして録画される。CMOSの出力は、12bit ADコンバーターでデジタル化されている。ワークフローでRAWデータを扱うには、DIによるデジタル現像が必要になる。ポストプロでの画質コントロールの自由度が高くなる反面、撮影上のミスを完全に修正するためには、現状の12bitデータでは不足する可能性がある。このように、この記録方式にはメリットとデメリットがあるので、注意しないとコストアップにつながってしまう。

ビルドアップシステム
撮影のシチュエーションは現場によって変わってくる。本来は、現場の収録条件にあわせたシステムが必要となるが、これまではビデオカメラ自体の構成を変えるということは不可能だった。RED ONEでは、小型カメラ本体を核に、さまざまなコンポーネントをフレームで自由に組み合わせることができる。サードパーティーからの小物も多く製品化されてきており、さまざまな収録に対応できるようになってきている。

RED ONEの基本スペックは次のようなものとなっている。
     有効画素: 4520×2540画素
     感  度: ISO 320
     色温度設定: 5000K

撮影時に考慮すべき項目と、そのポイントとは

数々の特長を持つRED ONEだが、撮影する上で考慮すべき項目は次のようなものになる。

撮影サイズと画素数
一般的に35mmシネサイズと言っても細かなサイズが存在する。アスペクト比4:3系の24.92x18.67mmと、ワイド系の24.4x13.7mmなどがある。RED ONEのイメージセンサーには、スーパー35相当のワイド系センサーが採用されている。このことから、アスペクト比4:3の作品を最高画素で撮影するためには、垂直方向の画素をフルに使用し、サイドカットで水平画素を3K(3387画素)を選択することになる。しかし、4Kデジタルシネマの4:3におけるDI画素は4096x3072画素が標準なので、3387×2540画素では画素的にも不足することになる。
問題が大きいのは2K収録の場合である。2KのDCIシネマ規格は2048x1080となっている。RED ONEでは、画素数的には4倍の画素数を持っているが、2K収録時は2048x1080画素分のエリアを読み出している。したがって、有効撮像面積も4Kの1/4になってしまう。このことは、PLマウントのレンズは使えるが、焦点距離が2倍の望遠側にズームアップされてしまうことを意味する。これが、RED ONEカメラでシネ16mmと2/3インチB4マウントレンズを使用可能にした理由にもなっている。
ここはイメージセンサーの特徴を生かすためにも、画素加算などフルアパーチュアーで2K撮影が可能な読み出しシステムを実現してほしいと思う。

POINT:RED ONEの最大のウリであるシネサイズのスーパー35と同じイメージサークルという特徴を生かすには、4K収録後にDIで2Kへリサイズすべきであろう。こうしないとフルサイズを採用しているスーパー35フィルムやF35、D21との画質差が大きくなる可能性がある。

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RGB 4:4:4は可能か
RED ONEの有効画素は4520×2540であるが、単板CMOSで、色分解システムにベイヤー方式を採用している。ベイヤー方式は,画素を3色で色分けしてカラー信号を生成するシステムだ。つまり、画素数は4Kあるものの、3板式イメージセンサーを採用したカメラと比較して、色解像度は1/3になってしまうことになる。RED ONEやARRIFLEX D21で採用しているベイヤーパターンは、図のように4画素を一組としG/G/R/Bに塗り分けて色分解を行っている。これでは、Gは1/2、RとBは1/4画素になり正確なRGB 4:4:4データは取得できない。正確でフル解像度のカラーデータが必要な場合は、疑似4:4:4であることを頭に入れておくことが必要である。
では、2K収録ではどうであろうか。フルアパーチュアーで撮像できれば改善の可能性もあったのだが、前述したように2K撮影では画素も2Kになってしまうため、4K同様にフルカラー解像度は望めないことになる。
こう考えると、RED ONEで4:4:4撮影は意味がないのか?ということになる。ある意味ではそうともいえるが、DIを行う基本はRGBであるので、4:2:2変換を行う段階の誤差や歪みを考えると、加工されていないRGB信号の価値はあると思われる。

POINT:RED ONEのカラー情報は、色分解システムとフォーマットに依存しているため、4K画素でもフル解像度は得られない。

色温度と感度
RED ONEの感度はISO 320で、最近の2/3インチカメラのおよそ1/4、2絞りアンダーである。色温度設定は5000Kに設定されている。野外撮影はよいとしても,屋内でのタングステン照明下ではさらに感度面では不利になる。感度と色温度を考えると、RED ONEでの撮影では、室内でも色温度が高く照度も取れるHMI照明のようなデーライト光源が最適と思われる。
標準が3200Kの通常のカメラは、色温度が高い野外撮影ではアンバー系の色温度変換で5600Kから3200Kへ変換を行う。この際に変換ロスが生じるが、一般的に野外のほうが光量があるので問題が少ない。また半導体センサーの感度が悪くなるブルーが多くなるので、全体的なS/Nも良好になる。これに対して、RED ONEでは5000Kから3200Kへの光量が取れない状況への変換となる。カメラのファンクションとして電気的に行う色温度変換があるが、3200Kへの変換は感度が不足するブルーを上げてレッドを下げる方向で行うので、ブルーノイズが増えてしまう可能性がある。

POINT:感度と色再現を考慮すると照明は5000Kに近い照明を行うことが良好な結果を生む。

RAWデータ
デジタルカメラのRAWデータは非圧縮的なイメージがあるが、RED ONEの動画1枚あたりのデータ量はHD 2Kで1枚あたり6MBしかない。これが連続で秒24~60枚吐き出されていく。RED Digital Cinemaのプレゼンテーションでは、もし非圧縮データをそのまま収録すると大型冷蔵庫ほどのストレージが必要だと言っている。こうした大容量データをCFカードに数分間記録できるようにするために、当然圧縮を行っている。市販のCFカードの最高転送レートは40から50MB/s程度であるため、REDのデータを記録するにもぎりぎりのところであろう。このことから、ストレージメディアはRED純正を使用するようすすめられている。毎秒のフレーム数制限があるのは、カメラ読み出しとストレージへの転送速度からである。
最近の制作用カメラは14bit ADコンバーターが標準になっている。これでも不足することがあるので、通常はホワイトバランスはアナログ領域でコントロールしている。スタッフやオペレーション上の問題は残るが、画質上は12bit RAWデータでも限界があることを考え、なるべく適正撮影を行うように努力することが望まれる。

POINT:動画のRAWデータ収録は、DIの能力と収録時の手間隙で完成度が左右される。


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RED ONEは、これまでのデジタルビデオカメラの概念を変えたカメラであり、将来が楽しみなカメラである。現状では、基本的な特性が不足している部分があることを考慮する必要がある。価格的には入手しやすいが、フィルムとDIの知識とスキルが無いと、無駄な投資になりかねないので注意したい。すでに数千台が稼動し、多くの作品が制作されてきたことで、ワークフローも整備されて来ている。充分な事前準備とテストにより、今後よりクリエイティブな映像作品が制作されることを期待したい。

橋本映一(DCL)