6月10日から3日間にわたって千葉県・幕張メッセで行われたIMC Tokyo 2009に合わせて、RED Digital CinemaのTed Schilowits(テッド・シュロヴィッツ)氏が来日した。数100人の聴講者が集まった基調講演では、デジタルシネマカメラRED ONEを使用して収録した映像を公開したほか、現在開発中のSCARLETとEPICについて、予定の1時間をはるかにオーバーして1時間半にわたって講演した。

IMC Tokyo会場でテッド・シュロヴィッツ氏に、RED社の取り組みに付いてインタビューした。

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今年後半から新製品を続々投入

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RED ONEのトレードアップで提供するEPIC X

──まず、RED Digital Cinemaの現在の取り組みを教えてください。
テッド・シュロヴィッツ氏(以下、テッド氏)RED ONEを出荷してからずいぶん経つが、現在、3K、5K、6Kで収録できるSCARLETと、5K、6K、9K、28Kに対応するEPICを開発している。3K/5K収録のSCARLETと5K収録のEPICは、2009年秋に出荷する予定だ。SCARLETの本体価格は2,500ドルで、フルシューティングキットを3,750ドル以下で提供する予定だ。5KのEPICの本体価格については、28,000ドルとなる。EPICについては、RED ONEユーザー向け限定のスペシャルな条件を設定する。RED ONEを送り返してもらい、10,500ドルでEPIC Xへとトレードアップを行って販売するというものになる。SCARLETやEPICよりも先に、5KのEPIC Xを提供するつもりだ。6KのSCARLET/EPICは2009年冬に、9KのEPICは来年2010年に出荷できるように開発を続けている。また、PCやMacで4Kのリアルタイム再生を実現するアクセラレーターカードであるRED Rocketは7月くらいに発売できる見込みだ。

──RED ONEの登場から1年数カ月が経ちます。現在の販売台数は?
テッド氏:ワールドワイドで6,200台くらい。そのうちアジア地域で数百台以上が使われている。そのアジア地域で、日本で150台前後という状況だね。

テクニカルサポートを西華産業が担当

──日本を含めたアジア市場をどう見ているのですか?
テッド氏:高品質な映像が取れることや、ユニットを素早く組み変えて撮影できることといった新しい技術に対して、とても興味をもってもらっている。当社にとって、非常に有望な市場だと考えている。日本はどの解像度においても非常に重要な市場であると考えており、アジア市場では最大の市場になる。日本のユーザーは、イメージング技術を駆使し、アプリケーションを充分に理解している。日本で認められるということは、我々の成功への良い指標となっているよ。

──これまで、RED Digital Cinemaは、直販とダイレクトサポートを中心に展開してきましたが、今回、西華産業がアジア地域のテクニカルサポートを担当することになりました。その背景にはどんなものがあるのでしょうか?
テッド氏:会社が成長するにつれて、国も言語も文化も違う人に対して、サービスとサポートを提供する必要が出てきた。そのため、サービスとサポートを提供するのパートナーを持つことは非常に有益なことだと考えている。西華産業には、当社がRED ONEを開発する初期段階から日本市場のやり方に合わせて手を尽くしてきてもらった。RED ONEのサービスとサポートを何年もしてきている西華産業が、アジア地域のテクニカルサービス拠点を担当してもらうことは、とても良い選択であると確信している。

──アジア地域以外でも同様に、テクニカルサポート拠点を設けていくのですか?
テッド氏:その通り。現在、サポートセンターとしてのサテライトオフィスは、英ロンドンと米ニューヨークにある。それ以外の市場におけるテクニカルサポートとして、パートナーと協業で展開するのは西華産業が世界で初めてとなる。

ノンリニア編集システムとは緊密に連携

──さまざまなノンリニア編集システムがRED ONEのR3Dファイルへの対応を始めていますが、こうしたメーカーとの協業はどのように行っていくのですか? ファームウェアアップデートによるカメラ機能向上により、ノンリニア編集システム側もアップデートをしなければならない可能性が高いと思われますが。
テッド氏:AppleとASSIMULATEとの協力が最初の段階であったが、今ではAdobe Systems、Avid Technology、Sony Creativeなどの編集システムや、Quantel、Da Vinci、Autodesk, AvidなどのDIツールでも扱えるようになった。これからも各社のシステムで扱えるように取り組んでいく。当社のカメラの特徴はファームウェアアップデートによる機能改善/向上が可能なことだ。機能改善/向上とともに、SDK(ソフトウェア・デベロッパーズ・キット)もアップデートして提供していく。カメラのファームウェアアップデートから多少の遅れはあるかもしれないが、各社のシステムも新しいファームウェアに対応するためのアップデートが行われることになるだろう。

28Kがデジタルシネマを変革する

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EPICでは28Kサイズで30fps収録を実現する。目指すのはIMAXフィルムクオリティだ

──28Kというサイズについては本当に実現できるのかという懐疑的な見方もありますが。
テッド氏:RED ONEカメラのポストプロダクションの事情に、まず注目しておかねばならないだろう。数年前までは、HDよりもはるかに大きい4K解像度を直接扱って編集することなんてできなかった。そこで、2Kサイズ以下のリファレンスファイルで編集せざるをえなかったわけだが、今日ではレンダリングなしで4K解像度をリアルタイム再生できるようになってきた。RED Rocketが登場すればMacやPCのデスクトップ編集システムでも、4K再生が実現できるようになる。こうした変化は、わずか数年でなされたことだ。同じことが9Kや28Kでも言えると思う。確かに現段階では9Kや28Kなどは驚異的で信じられないと思うかもしれない。しかし、それほど時間もかからずにマシン性能は向上し、現在HDでしているオフライン編集が、4Kサイズでオフライン編集できるようになっていくだろう。このような状況になれば、9Kや28Kのフィニッシングをすることもできるはずだ。日本の皆さんは、NHKが4Kを超えるスーパーハイビジョンの投影や制作、配信に取り組んでいることを知っているでしょう? 決して夢物語ではなく、近いうちに9Kや28Kもだんだん出来るようになりますよ。

──28Kを実現することのメリットは?
テッド氏:フィルムテクノロジーにかかるコストはとても高い。大きなサイズのIMAXフィルムは奇麗な映像を生み出すが、コストもかかる。このIMAXフィルムのクオリティを維持しつつ、わずか10,000ドルで実現しようと開発を続けているんだ。完成すれば、ローコストでありながらスーパーハイクオリティを実現する費用対効果の高いものになるはずだよ。

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RED ONEの4K解像度は、35mmフィルムのクオリティを維持しながらデジタル収録への移行を促した。現在、RED Digtal Cinemaが開発を続けているEPICの28K収録は、なんとIMAXフィルムクオリティを意識したものだった。確かに、35mmフィルムの4倍の面積となる52.63×70.41mmのIMAXフィルムを使用して収録するケースは、そのコストから非常に限られている。4Kの4倍以上の解像度となる28K収録が実現すれば、映画収録にまた新たな風が吹き込まれるものとなるはずだ。