「ステレオスコピック3D(Stereoscopic 3D)」「ステレオスコピー(Stereoscopy)」「ステレオ3D」などさまざまな用語が使われているが、立体視可能な映像のことである。最近では、裸眼立体ディスプレイなども出てきているが、多くは赤青レンズや、偏光レンズ、シャッターを用いた専用のメガネを使用して左右の目で別々の映像を見られるようにすることで、あたかも映像が立体的に、奥行き感を持って見えてくるという仕組みだ。

そんなステレオスコピック3D制作が、また脚光を浴び始めている。これは、いったい何度目の波だろうか。立体写真の歴史すら含めれば、すでに数10年が経過しているかもしれない。立体映像だけでも、10年に1度くらいのペースで、既存の表現を拡張する映像表現として注目が集まっては、いつのまにか消えて行くことを何度も繰り返してきた。クオリティであったり、制作費であったり、上映環境であったりと、その都度さまざまな理由があるにせよ、一時的に盛り上がっては、「時期尚早」という烙印を押されることが続いてきたわけだ。

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6月に行われたIMC Tokyoの西華産業ブースに展示されたRED ONE利用のステレオスコピック収録環境

今回の波は、以前に比べても、しっかりとした波のように見える。過去のステレオスコピック制作ブームと大きく異なるのは、収録から編集・制作、上映まで、それぞれの工程がファイルベースへと移行していく段階であることだ。特に、上映環境の問題は大きい。5月の特集「4K Ready!」でも触れたが、映画業界も、デジタルシネマ移行と同時にステレオスコピック3Dという付加価値によって集客しようという動きが出始めている。今年から数年間は、映画館のデジタルシネマ機器移行が進んでいく段階にある。4Kプロジェクターを導入するのか、2K/HDプロジェクターを導入するのかは、そのシネマ館の判断にも左右されるだろうが、デジタル上映の1つの可能性としてステレオスコピック3Dをどうするかも考慮されることになるだろう。

TOHOシネマズでは、2012年春までにほぼ全スクリーンで、ステレオスコピック3D対応のデジタルシネマ機器を導入する予定だ。これは、ハリウッド映画を中心にステレオスコピック3Dコンテンツが増えてきていることへの対応でもある。このように、機材更新により上映環境が増えるということは、制作しても特別な環境を用意する必要がなくなるということでもある。これは、コンテンツ制作に踏み切る良いきっかけにもなりそうだ。

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BS11デジタルは3D立体放送に取り組んでいる

ステレオスコピック3Dの取り組みで、映画以外のコンテンツには、日本BS放送が2007年12月の開局以来、BS11デジタルで実施している3D立体放送がある。サイド バイ サイド方式で放送されている番組を、3D立体放送に対応したデジタルハイビジョンテレビで受信することでステレオスコピック3Dコンテンツとして視聴するものだ。家電量販店などで体感コーナーが設けられているが、コンテンツを観るために対応テレビを購入しなければならないというのは敷居が高い。確かに、地上デジタル放送への移行期で、視聴者のデジタルハイビジョンテレビ購入が見込まれる時期ではあったのだが、3D立体放送はキラーコンテンツにはなれなかった。対応テレビは限られ視聴環境が整わず、コンテンツも爆発的には増えない。コンテンツが少ないから、対応機器も増えない。……と、かなり苦戦していたことは否めない。

しかし、映画館でステレオスコピック3Dコンテンツを普通に楽しめるようになってくると、2次利用コンテンツでも3Dコンテンツ化してくる可能性が増える。今後は、3Dコンテンツ対応のデジタルハイビジョンテレビも増えていきそうだ。ようやく、視聴環境が普及し始める段階に入ってきたと言えるだろう。ステレオスコピック制作の波は、「また今度〜」というような「立ち消え」にはならずに済みそうな状況が整いつつある。

今月の特集では、現在のステレオスコピック3D制作のワークフローと課題を整理してみよう。今週は制作環境面、来週はポストプロ/上映に焦点を当てて紹介する。