トランスコードは、ファイルベース・ワークフローに欠かせない作業であり、作業を効率化する鍵を握るのがトランスコーダの役割であることを、『00: ファイルベースで重要性を増す「トランスコード」』で述べた。ファイルベース・ワークフローで中心的な位置となるノンリニア編集システムにもトランスコーダ機能は付属している。ノンリニア編集システムから直接出力できるようにしていたり、アップルのFinal Cut StudioにはCompressor、アドビ システムズのAdobe CS4 Production PremiumにはAdobe Media Encoder CS4のように連携するトランスコードソフトウェアを付属していたりもする。アビッド テクノロジーのInterplayやオートデスクのBackdraft Conformなどのようにメディア共有・管理システムの一機能としてトランスコード機能を実現した製品や、トムソン・カノープスのEDIUS XREのようにメディア共有・管理システムと連携するトランスコード用サーバもある。

こうしたノンリニア編集システムベンダーが提供するトランスコーダは、ノンリニア編集とシームレスに連携できるメリットがある。これとは別に、サードパーティからファイルベース・ワークフロー向けのトランスコードに特化したソリューションも提供されている。いずれのトランスコード機能/製品を使用しても、複数のフォーマットに書き出す場合に、特に大量のメディアを変換処理しなければならない時ほど有効に機能する。それでは、サードパーティ製品を利用するメリットはどこにあるのか。

ワークフローの柔軟性を高めるトランスコーダ

今回は、数あるサードパーティ製トランスコーダの中から、英BBC Newsや米CBSといった放送局や、YouTubeのフィンガープリンティング(電子指紋)機能、Flickr、Amazon.comなどで活用されるなど、さまざまな分野で実績を挙げているトランスコード製品Rhozetトランスコーダを採り上げてみる。Rhozetトランスコーダは、放送用エンコーダ製品を取り扱う米Harmonic(カリフォルニア州サニーヴェール)内のソフトウェアトランスコーダ部門であるRHOZETが開発したソフトウェア・トランスコード製品だ。対応するフォーマットが豊富な点、トランスコードの並列処理・分散処理が可能なシステム構築が出来る点、プラグイン機能を使用して他のシステムと連携がしやすく汎用性が高い点が好評のようだ。

Rhozetトランスコーダを取り扱っている日本SGIでマーケティング本部メディア&アーカイブソリューション営業部の加藤慎也マネージャーは、同製品の特徴について次のように話した。

「さまざまな分野で映像を利用するシーンが増えてきました。それに伴い、さまざまな映像素材を複数のフォーマットやコーデックで扱わなければならなくなっています。Rhozetは、新しい映像フォーマットへの対応も継続して行っていますし、ロゴ挿入や色変換、複数素材を1つにまとめて出力といった機能も搭載しています。そのため、映像利用シーンや制作/運用規模に応じて、幅広く柔軟に対応できる製品として提案しています」

Rhozetトランスコーダは、マルチコア環境や複数台のトランスコーダを使用して並列・分散処理をすることが可能だ。下記の表を参照して欲しいが、取り扱い可能なビデオコーデックは、MPEG系ビデオからストリーミング系メディア、カメラコーデックまでが含まれ、これらのビデオコーデックを包むメディアコンテナについても、AVI、QuickTime、MXF、MPEG-2 PS/MPEG-2 TSといった一般的なものから、3GPP/3G2といった携帯向けのものまで幅広く対応している。対応するノンリニア編集製品も幅広く、アビッド、クォンテルといった業務用ハイエンド向けから、アップル、アドビ システムズ、トムソン・カノープスの汎用製品が扱え、オムネオン・ビデオネットワークスやトムソン・カノープスのサーバ製品とも連携できる。このほど、アクトビラ ビデオ・フル推奨H.264オプションやMXFファイルAS-02(Application Specific Version 2)も追加された。

●Rhozetトランスコーダの対応フォーマット例

ビデオコード

・MPEG-1
・MPEG-2, D-10 / IMX
・MPEG-4
・H.263
・H.264
・Windows Media
・DV25 / DV50 / DVCPRO
・HDV
・DivX
・Flash
・Image Sequences
・Real Video

メディアコンテナ

・AVI
・QuickTime
・ASF / WMA / WMV
・MXF (XDCAM (D-10) / XDCAM IMX (IMX) / XDCAM EX (OP1a) / P2, P2HD (OP-Atom) / AS-02などを含む)
・MPEG-2 PS, MPEG-2 TS
・VOB
・LXF
・GXF
・WAV
・Broadcast WAV
・3GPP
・3G2

オーディオコード

・PCM
・MP3
・DTS
・AAC
・AMC
・AMR-NB
・Windows Media Audio

システム

・Leitch VR, Nexio
・Grass Valley Profile, K2
・Omneon Spectrum
・Quantel sQ
・Avid Editing Systems
・Apple Final Cut Pro
・Adobe Premiere Pro
・Canopus Edius

※ オプション対応:アクトビラ ビデオ・フル推奨H.264

複数台のサーバ環境を使用し処理パフォーマンスを向上

2004年8月にカノープスから独立する形で事業を立ち上げたRHOZETは、メディアトランスコーディング、分散処理に特化して開発を行ってきた。Rhozetトランスコーダは、Windows環境での1台による最小構成から、複数台によるサーバ構成まで実現できる。

Rhozet_Screen.jpg

Rhozetトランスコーダのトランスコード設定画面

「今後、トランスコードすべきファイルが増加してくると、トランスコーダを行うサーバの数を増やして処理能力を向上させることになると思います。こうなると、トランスコード技術だけでなくサーバ管理技術も必要になってきます。トランスコーダを使用するためには、編集システムから映像ファイルという大容量ファイルを転送する必要が生じますから、ネットワーク帯域幅やディスク容量・帯域幅など、システム間の連携性や拡張性を考慮してワークフローを構築する必要があります」

こう話すのは、技術統轄本部デジタル・アセット・マネージメント事業本部システムインテグレーション部の栁下玲緒奈マネージャーだ。栁下氏は分散処理について、トランスコード処理は必ずしも最良のパフォーマンスが得られるとは限らない事実があると話す。

「一般的に、トランスコーダのコーデック処理は、CPUやメモリ空間を中心に処理を行います。しかし、コーデックによっては、マルチコア対応を謳っていても、マルチコアのスレッド処理が十分に使用できず、効率的でない場合もあるのです。例えば、ある単体ファイルだけをトランスコードする場合に、4コアも8コアもあまり大きな差は出ない場合があります。そのような場合、複数ファイルを連続してトランスコードするにはジョブ配分をうまく考慮する必要があります。分散処理を考慮している映像コーデックであるかどうか、さらに複数ファイルになれば、ストレージからトランスコードするのかネットワーク越しにトランスコードするのかなども、新たな検討事項となります」(栁下氏)

大容量ファイルをどう扱うかという部分では、CPUだけが速ければいいとか、ソフトウェアが優れていればカバーできるという単純なものではなく、いかにリソースを十分に活用し、かつ安定に運用するかを考慮しなければならないのだと言う。日本SGIが、さまざまな分野のワークフローに合わせたトランスコード・ソリューションを提供できるのは、映像制作分野や研究シミュレーション分野において、メモリやストレージからどうジョブを分散し、どのアーキテクチャを使用すれば、さらに効率化できるのかという技術や経験を積み上げてきたことが大きいようだ。

次世代環境ではクオリティチェック機能を追加

NxtGen_Transcode_CH.jpg

Rhozetトランスコーダの現行バージョンでは、Harmonicのエンコーダにハードウェア技術として搭載されているプリプロセッシング機能をソフトウェアベースで組み込んだ。このプリプロセッシング機能により、トランスコードの前段階でブロッキングノイズの除去(デブロッキング)を行い、よりクオリティの高い映像からトランスコードを行うことで、出力した映像の品質を上げることが可能になった。映像品質面ではH.264の品質向上やパフォーマンスの向上に注力しているが、こうしたRhozetトランスコーダ自体の機能強化に加え、トランスコードと同時処理をすることが可能な機能追加にも力を入れている。

「新たなプラグイン機能により、Rhozetの機能を他のシステムと連携する事が可能になっています。こうした連携を実現するために、プラグイン開発環境RPI(Rhozet Plugin Interface)が提供され、トランスコードと同時に、フィンガープリンティング、ウォーターマークなどのサードパーティ機能をプラグインとして追加開発できる可能性が広がりました。例えば、最近の例ではYouTubeのフィンガープリンティング機能との連携が挙げられます」(栁下氏)

トランスコーダとの連携機能面では、昨年9月のIBC 2009(欧州放送機器展、アムステルダム)で、次世代Carbon Server 4.0とクオリティチェックを実現するCarbon QC 1.0の投入を発表。いずれも2010年 中頃に販売を開始する予定だ。Carbon QCは、トランスコード処理の前段階にトランスコード素材のクオリティチェックを行うアプリケーションとして追加し、Carbon Server 4.0と組み合わせて利用が可能になる。

「クオリティチェックは、ファイルベース・ワークフローが成熟するにつれてますます重要になってきています。これまでは、映像に含まれたノイズが、本当にトランスコードで生じたノイズなのか、それともテープからのエンコード時に発生したものかどうかは、詳細な調査をしなければ分かりませんでした。素材映像に存在しているノイズであれば、どんなに高品質なトランスコードをしたとしても残ってしまいます。RHOZETは、トランスコード段階での品質管理というよりは、ファイルベース・ワークフローで必要なクオリティチェックという視点で検討し、開発しています」(栁下氏)

今後はサードパーティ製品とも連携しながら、トランスコードに付随する機能面の強化を図っていく。さまざまな映像素材ファイルを扱うなかで、ファイル転送やトランスコード、クオリティチェック、暗号化、ジョブ/エラー通知などのタスクベースで情報をやり取りしながら、サーバで一元管理できるような機能拡張もしていくという。

────

Rhozetトランスコーダは、さまざまな追加機能を搭載していくことで、メディア変換効率の改善というトランスコーダの基本的な役割から、最終映像出力に欠かせない映像出力/検証システムとして大きく変貌しようとしてきている。ファイルベース・ワークフローが成熟してきている現在、トランスコーダの役割はますます拡大していきそうだ。次回は、トランスコーダ利用の現場を取材して報告する。


今回紹介したマルチフォーマット・コーデック変換ソリューション「Rhozet(ロゼット)トランスコーダ」の詳細、仕様はこちら。


http://www.sgi.co.jp/products/rhozet/index.html