ニュークリエイティブスタイルが生まれる場所で

DSMC/DSLRの台頭は、映像制作市場に様々な変化をもたらしそうだ。機材の面から見てみると、前ページのCP+の兆候からみても、スチルカメラ市場から、ビデオの世界へ進出という、このDSMCへ向けた潮流は、今後全てのカメラは静止画/動画が同時記録できる、つまりスチルカメラとビデオカメラの統合という方向性を想像しがちだ。短い尺のものであれば、クオリティの問題は全く遜色ないところまで来ているし、あとはプロ用途に見合った、編集しやすいコーデックで収録出来るかの問題、というところにまで達しているだろう。

一方、ビデオカメラ市場の冷え込みが今後どういう流れになっていくのか気になるところ。放送用途は別として、一般業務用のビデオカメラの利用率、特にレンタル率が一様に低くなっている点では、DSMC/DSLRの進出によってどういう方向に開発が進むのか?

ひとつの考え方として、使用用途に極端に特化されたサブディビジョナル(細分化される)な方向性は、安直には想像できるが、ただし現状ではこれにも様々な問題点は多い。

メーカー的な視点で考えると、関税の違いにより、特に欧州地域ではスチルカメラとビデオカメラでは、動画を収録できる時間数によって、製品にかかる関税率が違うという問題もあるようだ。このことはワールドワイドに向けて製品を標準化している各メーカーにとって、今後どのような対応が取られていくのかも気になる。また部門間の開発の方向性も、難しい判断を迫られる部分も多く、両製品の分化を何で区別化していくのかが、すでに難しくなっているだろう。

アナログな感性を作品にシフトする時代

こうした新たなカメラシステムが台頭することで、これを使いこなす人材には新しいチャレンジをぜひ期待したい。高画質、高機能、低価格に加えて、ファイルベースワークフローを熟知した人材であれば、誰でも高いクオリティの映像制作ができる環境だからだ。

撮影現場もカメラマンのスキルやテクニック、そしてワークフローにおいてもそのポジションに介在する人材のスキルはこれまでと違うものになってくるのかもしれない。

VEの幅を超えたビデオテクニシャン、プロダクション内のデジタルワークフローに精通するDIスペシャリストやカラリスト、1人で全てをこなすジャーナリストやワンマンディレクター、そして高度な画像技術を有するビジュアルテクノロジスト 等々…

様々な呼び名はあるが一様に言えるのは、良い映像を生み出す確かな基礎技術と、新たなデジタルのファイルベースワークフロー、またカラーやコーデックといった品質に関わる部分に精通する人材がどの現場でも求められている。これはいつの時代も同じであり、次の次元へ向かっているという意味では、これまでとはあまり変わらない。

実は今回の取材中、いくつか気になるキーワードに当たった。それは非常に漠然としているのだが、ある種アナログを極めた、非常に人為的な高等技術に着目されていること。実はそのアナログ感覚をデジタル技術に結びつけることこそが、今後、最も映像制作者に求められるものかもしれない。

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通常の写真

Bleach Bypassを施した写真

一つのエピソードを挙げると、デジタルRAW現像の世界でいま、『銀残し』の手法に注目している人たちがいる。写真のことを知らない方には少し難しい話になるが、これは1960年代に日本で生まれたフィルムの現像の手法であり、1995年のハリウッド映画『セブン』によって、その独特な風合いが話題になり、世界的ブームとして再加熱した手法でもある。海外のフィルムメーカーでは『Bleach Bypass』『Skip Bypass』『ENR』とも呼ばれるものだ。これはフィルムの現像工程で発色現像の後、漂白と定着の工程において、通常は取り除かれる銀を一部残すことで独特の風合いを醸し出すという手法だ。ただしアナログの世界では、結果が様々になるため、フィルムメーカー側の保証はないし、印画紙の時代では銀が酸化してしまうため、長期保存に向かない等の問題があった。

しかし、こうした技法がすでにNLEシステムの中で、デジタルで再現出来るようになっている。アップルのFinalCut Studio/colorの中では『Bleach Bypass(ブリーチバイパス)』という効果メニューで再現できるようになった。今後はこれを、例えばソニーαなどのDSLRに搭載しているHDR(ハイダイナミックレンジ:露出の違う数段階の画を掛け合わせて合成する手法)機能と掛け合わせることで、独特の効果を生み出すことができるだろう。

また制作ノウハウ面では、助田氏が提唱しているような台本の構成テクニックといったものに代表される、これまでプロ業務でもあまり表に出ていないノウハウ的なテクニックを習得することで、新しい映像制作の世界が広がる部分も多いにあるだろう。

これまでアナログで捉えられてきた様々な感性を、最新のデジタル技術によって、新たな作品にシフトする時代を迎えている。誰にも門戸が開かれ、チャレンジできる素晴らしい環境とも言える。

DSMC/DSLRの登場と進化は、あらゆるジャンルの映像制作者にとって、様々な新次元にチャレンジさせてくれる機会を与えてくれた。また4月に開催されるNAB2010では、DSMC・DSLR周辺の開発動向に着目していくとともに、それを上手く使いこなす、新たなクリエイティブスタイルにフィットする制作者たちが、次々に現れてくることに期待したい。

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