ステレオスコピック3D(S3D)撮影をするためには、2台のカメラをセットする必要があるが、その方法や機材にはいくつかの種類がある。こうした撮影システムは、現場でどのように運用され、使い分けされているのだろうか。ハイビジョンが運用され始めた初期の時期からS3Dの撮影から上映までをトータルでサポートする事業を行っているNHKメディアテクノロジー(東京都渋谷区)放送技術本部3D高精細センターで専任エンジニアを務める重田清次氏にお話をうかがった。

(聞き手=稲田出)

(1)3Dリグの種類と特徴

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ハーフミラー式S3Dカメラ

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プリズム光学系標準S3Dカメラ

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平行式S3Dカメラ

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小型リモコンS3Dカメラ

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4Kカメラ搭載ハーフミラー式S3Dシステム

──3D撮影を行うための、いわゆる3Dリグにはいくつかの種類がありますがどのようなものがあるのでしょうか。

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重田清次氏

重田:現在当社で運用している3Dリグには、ハーフミラーを採用してカメラを直角に配置するタイプと、2台のカメラを平行に並べて設置するタイプがあります。平行に設置するタイプでは、レンズのサーボの位置を干渉しないようにしたものと、プリズムを採用した光学系を使ったタイプのものなどがあります。いずれもレンズ間隔を人間の目の間隔である65mmほどになるように設置できるようになっています。
ハーフミラーを採用したタイプの3Dリグでは、ハーフミラーの品質が重要になります。透過光と反射光の配分が正確に50%になることは当然ですが、比較的面積が広いので、ミラーが湾曲しないように固定する必要もあります。また、ハーフミラー自体の表面精度を高める事も必須です。現在では、従来より厚みのあるミラーを採用することで、湾曲を最小限に抑えています。この手のリグは、カメラの大きさやレンズなどに比較的自由度があることと、輻輳角などの調節範囲が広くとれることが特徴といえますが、リグを含めて大きくなるのが欠点といえるかもしれません。
撮影時はハーフミラーに直接光りが当たらないようにハレーションカットをきちんと行うのがポイントでしょうか。レンズの選択の自由度が高く、視差調節や輻輳角の調節範囲が広いので、近距離の撮影にも対応できます。当たり前のことですが、ハーフミラーを透過した方の映像は正像ですが、ハーフミラーに反射した方の映像は逆像になりますので、映像を反転させる仕組みが必要になります。
カメラを平行に設置するタイプは、2台のカメラのレンズ間隔を65mmほどの間隔で設置しなくてはならないので、使用するカメラがそうした設置が行えるような小型なタイプであるとともに、レンズの大きさにも制約が生じます。平行式の3Dリグで、プリズムを採用して光路を曲げるものに関しては、通常のENGカメラを使えます。

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平行配置型のリグでは、2台のカメラ位置を離して設置することも比較的容易。カメラ幅1mでの撮影風景

遠くの被写体を望遠レンズで撮影する場合には、視差を65mmにしてしまうと立体感が乏しくなってしまいます。平行配置型の3Dリグは、2台のカメラ位置を離して設置することも比較的容易という利点があります。カメラの設置調節も1台を固定しておき、もう1台で前2点・後ろ1点の3点で調節して、2台のカメラを合わせるようにしています。

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NHKメディアテクノロジーは撮影から制作まで、各種S3D制作に取り組んでいる。
制作した作品の一部は、同社Webサイト(http://www.nhk-mt.co.jp/nts/index.html)で見ることができる。

(2)レンズやカメラの同期

──カメラの物理的な位置のほかに、左右のカメラの同期やレンズの連動など、S3D収録時には2Dとは異なったアプローチが必要になると思いますが、重要なことはどのようなことがあるのでしょうか。

重田:どの3Dリグを使うにしてもアライメントの調節は非常に重要で、2台のカメラの映像はどのような状況でもぴったり一致していなくてはなりません。信号の同期はもちろんですが、ズームやピントなども左右のカメラで同じように連動していなくてはなりません。
また、マルチカメラでの撮影と同様に2台のカメラの特性も同じであることが求められます。この辺はCCUなどで調節を追い込んで撮影することになりますね。
小型化のため民生機のカメラを採用したシステムも開発しましたが、20台ほどの中から相性の良い2台を選別し、2台が同期できるように改良し運用しています。

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民生ビデオカメラを採用したS3Dシステム(左)と46型3D対応モニターによる16画面運用の例

遠近感はほとんど撮影時の調節で決まってしまいます。当社では3Dコーディネーターがそのあたりの指示や決定をしていますが、最終的に映画のように大型のスクリーンで視聴するものなのか、テレビモニターで視聴するものなのかを念頭において奥行き感の調節などを行います。さらに、S3D収録ならではのことですが、カットのつながりで違和感のないようにしなくてはなりません。そうした合わせこみや画面上に表示するテロップの遠近感と画像の遠近感調節も3Dコーディネーターが指示しています。

(3)3Dリグの使い分け

■目的に応じた各種S3Dカメラ
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●水中撮影とS3D水中ブリンプ(右)

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●テクノクレーン撮影とクレーンヘッド(右)

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●手術撮影と顕微鏡S3Dカメラ(右)

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●ステディカム撮影とステディカムS3Dカメラ(右)

──撮影対象や被写体などに応じてリグの使い分けや運用時の問題などはあるのでしょうか。

重田:3Dリグによって物理的に使えるカメラやレンズなどに制約がありますから、必然的に決まってしまう部分が多いと思います。ミラータイプの大型のシステムを肩に担いで撮影するわけにはいきませんから。そういった意味からも、当社ではクレーン搭載型や水中撮影用などさまざまな3Dリグを開発して運用しています。最近ではステディカムに搭載できるタイプの要望が強くなってきています。 パナソニックからS3Dカメラが発売されるようですが、今後も撮影シーンに応じてさまざまな3DリグやS3Dカメラが発売されるでしょうね。それによってS3D映像がもっと普及するといいですね。