ステレオスコピック3Dはどうなった?

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3Dリグに装着したPMW-F3(CineGearExpoでの展示会場から)

現在アメリカ国内における映画館の数は、約6,000。そこにある約4万スクリーンの中で、デジタルシネマ対応のデジタルスクリーン数は約17,000スクリーンを数える。さらに、その中で3D対応のスクリーンは9,500あり、この数字はデジタルシネマ対応映画館の98%が3Dスクリーンを導入していることになるという。

この数字は、すでにアメリカでいかに3D映画が受け入れられているかを示す証拠でもある。いまやステレオスコピック3D(立体映像 以下S3D)はハリウッドの映画産業には欠かせない存在となった。

ソニー3Dテクノロジーセンターを訪ねて

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ソニーピクチャーズエンターテインメントのヘッドクオーター。まだ『COLUMBIA PICTURES』のロゴが残る由緒ある建物

ソニーピクチャーズエンターテインメントの敷地内に2010年2月に設置された新たな3D関連施設がある。それが「ソニー3Dテクノロジーセンター」だ。急成長する3Dエンターテインメント市場における専門家の育成や関係促進を目的とし、幅広いエンターテインメント業界の関係者を対象として、高品位なS3D制作を行うための手法や機材に関して実践的に学ぶ場を提供しているのだ。ここでは撮影、編集から上映に至るソニーの業務用機器を使用して、様々なS3D制作に関する実験が行われている。訪問した6月2日には、DGA(the Directors Guild of America:全米映画監督協会)の3Dワークショップが開催されていたので、一部のセッションを見学させて頂いた。

もちろんここも社外秘なので写真等の掲載も出来ないし詳しい内容も書けないのだが、Sony Pictures Entertainmentの3D StereographerであるMatt Blute氏とGrant Anderson氏がインストラクターを務め、某ステージ(スタジオ)内に設置された1セット内での3人の役者が絡むシーンで、カメラ位置や演技の位置、また照明の具合によって、3D映像がどのように見え方が変わってくるかなどの検証が細かく行われていた。受講者は15人程度で、その前に3台の50インチ3Dモニターが並列で設置され、同じ映像をどの場所からでも均衡に視聴できるようになっている。

このワークショップはDGAの他にも、The Motion Picture Editors Guild(MPEG)、およびInternational Cinematographers Guild(ICG)とパートナーシップを組んで、3Dテクノロジーセンターが提供しているもの。主な参加者は、実際に3D映画の製作に携わっているハリウッドの監督、編集者、撮影監督などの業界関係者で、所属するスタジオや制作している映画の壁を越えて、より良い3D映画を提供するために、実際に様々な撮影手法などを試みながら議論を交わし、お互いのノウハウを高めていくことを目的としている。まさにS3Dの修行の場となっているわけだ。こうした場が企業の枠を超えて提供、公開されていることからも、ハリウッド映画におけるS3Dの期待値が窺い知れる。

3Dコンシューマ市場の活性化へ向けて

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オークリーの3Dグラス。黒と白の2種がありどちらも120ドル

ある意味でS3Dに関しては、制作者だけでなく視聴者側も修行中なのかもしれない。『3D映像を観る』、『3D映像がある生活に馴染む』といったことにはある程度の経験や感覚の慣れが必要だと思われる。

NAB2011のRED Digital Cinema社のブースでは4K3D映像のデモリールが流されていたが、あの場で使用された3DグラスはREDと深く関係する企業でもある、オークリー(Oakley)社製の3Dグラスだった。周知の通り、REDのオーナーであるジム・ジャナード氏が創設したアイウェアのトップメーカーであり、ここの経営権をルクソティカグループに売却した資金を元に創設されたのがRED Digital Cinema社である。REDの母体企業とも言えるオークリー社が、昨年の3D映画『TRON LEGACY』公開を機に、同社の光学テクノロジーを駆使した3Dグラスを発表。今年になってから米国内では一般販売も開始した。いつも映画館では無償で貰える3Dグラスが1つ120ドルと高値だが、オークリーの高度な技術がつぎ込まれた、他にはない3Dグラスだ。

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3D試写ブースに改装中の店内。手前に見えるのが戦闘機の3台のイジェクションシート

観光名所でもあるハリウッドハイランド内にあるオークリーのフラッグショップでは、丁度この3Dグラス向けの試写コーナーを造るべく店内を改装中だったが、工事中のところを取材させて頂いた。店内の奥には50インチ以上の3Dモニターが設置される予定で、客はその前に設置される戦闘機のイジェクション・シート(※)に座って3D映像を楽しめるようになるという。このあたりの観る側をワクワクさせるアジテーションのテクニックはいかにもアメリカ!という感じだ。/p>

SonyStyleからソニーショップへ

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今後はSonyStyleからこのソニーショップへの転換を図って行くという

LAの新たな名所として最近人気となっているスポット「Century City」。有名ブランドなども軒を並べる新しいショッピングモールだが、ここにはソニーの新たなショップ展開の世界第一号店となる実験店舗が最近オープンした。外観はアップルストア意識した(2軒隣りはアップルストア!)外観だが、ここではソニーのビデオカメラ、デジタルスチルカメラなども自由に触れることができる。その中でのトピックはなんといってもS3Dに関するPRコーナー。ハンディカム『HDR-TD10』の試撮やブロギーの3Dカメラを使った3D体験コーナーも設置されていた。今後は世界各国にあるSony Styleショップが、このようなソニーショップに変更されていく予定だという。

S3D映像の特性として言えるのは、視聴者側の受け取り方やその能動性(どんな3D映像を見たいのか、その日の体調など)にも大きく依存するため、どのような訴求方法であれば一般的な感動や高揚感をもたらせるかが、今後のS3D制作とその普及の行方を占う上で重要なポイントとなってくるだろう。視聴者側の能動性の”教育”や”啓蒙”もまた、3D映像普及への必然なのかもしれない。

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ほぼ全てのソニー製品(民生品)が手に取って見られる店内。3D体験ブースはその目玉コーナー

TVコンテンツとしての3D映像が未だ決定的なキラーコンテンツを生み出せない中で、TVメーカーが宣伝文句で言うところの、些かバイアスのかかった売り文句を差し引いても、やはりその売れ行きは芳しくないのが現状で、その傾向も世界的規模である。その中でGoPro HD HEROのS3D映像などに代表されるような、まさにアフォーダブルかつホビー感覚から生まれる新たな3D映像は、映像制作のすそ野が多様化と拡大を促し、既存のTV放送や映画コンテンツ以上に、イベント映像やデジタルサイネージ、ローカルメディアなどの3D映像の分野を活性化など、新規の映像ビジネス化も考えられそうだ。


Vol.06 [Movie Maker’s GIG in Hollywood] Vol.08