txt:石川幸宏 構成:編集部

4K+スチル作品展『FLAME FRAME』に見る、4K表現術

DSMCの世界も4Kというキーワードが踊り始めた。4K運用がいまだ現実的ではないという事実はあるにせよ、やがてその時代はやって来る。そして4Kは3Dブームよりも、表現力や視聴者の印象、また映像産業としての可能性という点においても、その広がりに高い可能性を多数が認めていることは確かなようだ。

この2月と3月に銀座と梅田のキヤノンギャラリーで開催された、4K映像と写真のコラボレーション作品展『FLAME FRAME(フレーム・フレーム)』。PRONEWSでも事前告知された通り、この作品はキヤノンの4K動画撮影が可能なデジタル一眼レフタイプのCINEMA EOS SYSTEM 『EOS-1D C』で全編撮影。まさに次世代のDSLRムービーを体現できるイベントとして各方面から脚光を浴び、のべ11日間で異例の来場者数(銀座:3,900人/梅田:1,800人 合計約5,700人)を動員。ビデオ、スチル、そしてアートなどの他業界からも注目される展覧会となった。

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[FLAME FRAME]の撮影に臨む貫井勇志氏。細かい構図設計に基づいた画を4K解像度でどう切り取るか?きわどい部分の現場判断はいつも難しい

プロデュース、演出、構成、そして実際に撮影監督としてカメラを廻したのは、映像作家/プロフォトグラファーとして活躍する貫井勇志氏。貫井氏はスチルカメラマンとして、また映画監督、映像作家というムービー分野でも活躍する映像作家。80年代半ばから渡米、10年以上ロサンゼルスを中心にプロフォトグラファーとして活動、ハリウッドの映画関係者とも交流しつつ、2001年に帰国後は一転して映像とスチルを同格に扱う映像作家として活躍、スチルとムービー両道の技法を使いこなすアーティストだ。これまでも貫井氏はソニーのNEXシリーズなどのPRビデオ作品で、民生用のDSLRでも優れたムービー作品を発表している。

NEX-7 “αCLOCK Light & Wind Ⅲ” フィレンツェ

手探りの4K制作から発見できること

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今回、自身でも初となる4K作品制作を、自分自身でも新しい何かを発見できる良い機会として捉えていたという。貫井氏はこの作品撮影に入る前に、撮影用に4Kという制作フォームでのデザインを考慮し、撮影前の準備段階で4Kサイズ(4096×2160)の比率と同じ画角の、絵コンテとも言える画面の設計図を制作、ここでカットごとのフレーミングを入念に設計した。ただしこれはスタッフ用の絵コンテではなく、あくまで4K撮影におけるデザインバランスの成立の度合いを、自分の中で見極めるための設計用の下絵だという。

貫井氏:4KだとこれまでのHDでは映らなかった細部まで見えてきます。そこで細部を想像しながら画のデザインとしてのバランスと画全体のボリューム感、また映り込む物体の重量感などを考え、カメラが動いたとき、そして役者が動いたときに、どうすれば画が成立するのか、撮影前のフレーム設計をかなり入念に考えてから撮影に臨みました。

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5分の短編だが、ロケ地はのべ5日間で都内と神奈川、静岡、三重などを含む15カ所以上を転々とする過密スケジュール。DSLRならでは機動性が優位に働いた

さらに会場では4Kから抜き出された15点のスチル画像も展示。これもプリントしても100%4Kのリアルな解像度が保たれる、ほぼA3サイズの画像がプリント展示された。これに関してはさすがにプロフォトグラファーとしては、些か抵抗があったようだ。しかしこれも事前のプリプロダクション設計が、これまでとは違う領域へ導いた。

貫井氏:ロケ自体は4Kムービーを撮影する、完全に映画撮影の現場スタイルでした。そこで毎回、現場を止めてスチル用の静止画撮影をすることは時間制約の上でも難しく、(静止画として)完全にフレーミング出来ているかどうか解らないムービー映像から、1枚画だけを抜き出して、それをプリント展示することに当初はためらいもありました。でもそのうち逆に考え直し、静止画でも充分成立するくらいのクオリティの4K映像を撮る、というチャレンジになったのです。

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4Kモニター持込みでDaVinci Resolveでの最終グレーディングチェック。貫井氏(右)と、今回編集とカラーグレーディングを担当した映像設計の堀 進太郎氏(左)。貫井作品に欠かせない長年のパートナー

また4K画像として見えて来るのは、単に解像度だけの話ではない。画面内の役者の動きにも4K撮影ならでは設計が必要だ。

貫井氏:画面内の「動き」=ステージングは、視聴者とのコミュニケーションそのものと言えます。今回の[FLAME FRAME]ではその「動き」について、いくつかの基本ルールを設定しています。たとえば「現実」のシーンでは、日常的で分かりやすい動きを心がけ、「妄想」のシーンでは様式化されたリリカルな動きを重視するなど… それは人物の動きだけでなく、背景やカメラそのものの動きを「感情」に翻訳することを心がけました。[FLAME FRAME]では現実シーンと妄想シーンがパラレルに現れる構成で、現実シーンの撮影スタイルはリアリスティックに、妄想シーンはフォーマリスティックに表現しています。

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最も印象的なシーンでは、EFシフトレンズ(TS-E24mm F3.5L Ⅱ)使用のローアングルから撮影。フォーカス幅に沿って、演技者の動きをコントロールしつつカメラも計算された的確なピント送りで、幻想的なシーンが誕生した

今回は貫井氏ももちろんカメラを廻しているが、彼以外にもセカンドカメラマンや特機オペレータを起用、さらにカメラテクニシャンとして、PRONEWSでもお馴染みの岡 英史氏が加わり、ENG的な現場処理や周辺機材の細かい工夫などをサポートしている。

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[FLAME FRAME]は、特に妄想シーンにおけるFIXされた画づくりは、まさに貫井流といったスチルカメラマンならではの発想と技術が作り上げた完璧なシーンで、それはまさに”動く写真”といった作風に仕上がっている。その一方で、その良さを引き立てるように、手持ちカメラやビデオ風に撮影された現実世界のドキュメンタリーシーンも多い。こうした2つの撮影カルチャーが共存できるのも、DSMCの機動性と表現力が一体化した現場だから実現出来たようだ。また作品として[FLAME FRAME]が面白いのは、全くサウンドの付いていない(無音)5分という尺の時間で、観客を全く飽きさせないことがまず驚異的(実は、展示会場内のサウンドデザインも、ループ上映される画とはシンクロしていないが、どのシーンでもフィットするような選曲を貫井氏自らが細部にわたり演出している)。

そして、実はその部分でこの2種類の映像を交互に見せる編集のタイミングも絶妙に計算されている点だ。ドキュメンタリーのビデオ映像と、細部まで繊細に研ぎすまされた動く写真が自然と交互に現れることで、限られた時間内のテンションをほどよいバランスで保ちながら、観る者に心地よい時間を提供してくれる。そこにはカラーグレーディングや編集において、演出家や撮影監督の意図が細部にわたって正確に反映されることも必要不可欠な要素になってくる。

貫井氏:4Kでこれから制作して行くにあたって、特にプリプロダクションの重要性については、この[FLAME FRAME]で試したことがとても良い経験になりました。

今後4Kを撮影していく中で、これまでの映画やCM撮影と同様、細部に注意を払う撮影が必要なのは当たり前だが、さらに4Kの映像作りを極めると、プリプロダクション段階における緻密な構図設計も当然ながら、4K解像度をその作品の流れの中でどう活かすのか、そして色調整や音像によって人の目にどうそれが感応するのかまでを理解しながら、そこを会得して行く必要もあるだろう。そこは「フィルムを経験してきたから出来る」という経験則とは明らかに異なる技術が必要なようだ。全く新しい4K制作の修練として、ある一定量の研修期間が必要になってくるのではないだろうか?

2013年現時点では、”来るべき4K時代に備える”まさに『4Kモラトリアム』時代と呼べる時期。日々のHD制作によるプロ業務をこなす中で、徐々に4Kという画像設計を学習しつつ、4Kに慣れていくための時間は必要だ。


Vol.00 [DSMC/DSLR #3] Vol.02