txt:酒井洋一(HIGHLAND) 構成:編集部

時代は変わる。新しいウェディングビデオの世界へ

「ウェディング撮影でもやるか」――私がウェディング撮影を始めた5年前、仕事が減ってきた制作会社やフリーランスから、そんな声が聞こえてきた。私は、それまでミュージックビデオの仕事を中心に活動していた。映画やTV、CMというような同じ映像業界の中でもウェディングは”底辺”として扱われていることは、もちろん私自身もよくわかっていた。

エミー賞を受賞したStillmotionの作品群から

時代は変わる。Stillmotionを筆頭に海外から質の高いウェディング映像がYouTubeやVimeoで配信されると、その状況は一夜にして変化した。そのDSLRで撮られたそのルックは誰が見ても一線を画すものだった。さらにストーリー性に溢れる構成はこれまでの日本のものとは別格だ。まさにこれまでに見た事のないウェディング映像だったのである。

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私は、Stillmotionの存在を知ったその夏に、居ても立ってもいられずロサンゼルスでのワークショップに参加した。小さな倉庫をリノベーションした無機質なスタジオに、世界からウェディング映像を”本気”で撮ろうとしているカメラマンが集まる。これは非常にエキサイティングな事であると同時に、やはりこのウェディング撮影の分野で世界にリードされていることに危機感が芽生えた事も覚えている。

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なぜ同じDSLRを使っているのに、こうもクオリティが違うのか?技術うんぬんを学びたいというよりは、彼らのウェディング撮影への「理念」を知りたい一心だった。そこで学んだ言葉に「ストーリー」というものがある。100名近いゲストが集う会場は、必ず小さなストーリーがたくさん起きている。その人間の感情が揺れている瞬間を映すストーリーを集めていけば必然的に「感動」する映像になるというものだ。

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国内にも広がる新しい潮流

帰国後も、海外と同じような環境ではできないが、日本の会場に合うような形でそれを実践してきた。もちろん周りからは「そんなクオリティはカップルにいらないでしょ」という声もあったが、私としてはできる限りのことをしたかったのである。そうこうしていると時代も進み始めたのか、DSLRでのウェディング映像が少しずつ注目を浴び、ビデオカメラに関しても大判センサーを搭載したカメラがウェディングの現場に入ってきたのだ。カップルも海外や国内の質の高いウェディング映像を容易に検索して視聴する事ができるようになり、ただの記録映像はいらない、もしくは仕方なく発注していたというカップルでも「ステキ」と思わせる力があった。つまり以前のように自動的に商品として売れるという時代は終わり、「良いウェディング映像」と「悪いウェディング映像」の判断をカップル側でつけられるようになり始めたのだ。

そんな中、次々とフォトグラファーがDSLRでの映像をスタートさせ、1枚画にかける構図や光の捉え方に長ける彼らのアプローチは既存のビデオカメラマンの画とは異なり、CMやMVでもカメラを回すという事例が一気に増えてきた。個人的に写真をやっていたり、ぎりぎり8mmフィルムを切ったり貼ったりできた年代なので、1フレームにかける大切さは少なからずわかっている。

一方、ミュージックビデオという限られた時間と予算の中で、照明や撮影において動いているフレームに対して最善を尽くすという環境も、実は撮り直しがきかない以外ウェディング撮影に似ている。この静止画と動画の垣根が取り払われようとしている時代にいられることは双方にとってプラスになるであろうし、私自身フォトグラファーとの関わりが増えた事にとても感謝している。

また最近はRED EPICやBlackmagic Cinema Cameraなど解像度的に一眼レフ動画を超えるシネマカメラでの撮影も開始し、より高画質に、そしてより丁寧にシーンを紡いでいく撮影も始めている。EPICなどはファッションの撮影などにも多く使われている。フォトグラファーでも問題なく参入して来ている事は言うまでもない。5年前は、劇場公開の映画を撮るようなカメラでウェディング撮影をしているなど想像もつかなかった。本当に不思議な感覚ではあるが、実際のストーリーは現場に転がっているし、それを拾い集める事で「シネマチック」ではなく「シネマ」になる。

どうか少しでも興味があればウェディング映像を始めてみて欲しい。一度その世界に飛び込めば、その難しさと面白さにすぐに魅了されることだろう。そして撮り直しの無い、一発勝負の心地よい責任を感じてみるのも面白いかもしれない。最後にStillmotionからの言葉を引用したい。「私たちはウェディングを撮っているのではない、カップルを撮っているんだ」


Vol.01 [DSMC/DSLR #3] Vol.03