txt:石川幸宏 構成:編集部

ブライダルビデオはどこへいく?

Vol.02で酒井氏が示されていた通り、ウェディングムービーの世界においてDSLR/DSMCでの撮影は次第に増加傾向にある。しかし日本全国の結婚式場の実状から言えば、そのほとんどは従来の記録ビデオ的ないわゆる”ブライダルビデオ”であり、その現実はとても複雑だ。一般的に式場には外部のDSLRムービーを撮れるカメラマンが自由に入り込む余地は許されず、ビジネス的にも業界としてすでに出来上がっている。そのほとんどが制作会社との専属契約による提携などで、専属スタッフによる定型オプションとして設定されている場合が多く、そこでは別業者の撮影や個人のビデオ撮影も簡単には許可されない場合が多いのは周知の事実だ。さらにオプションという追加予算の面を考えると、実はビデオ撮影すら式のセットから外されてしまうケースも今は少なくないという。

実際に国内でいま、DSLR等を配したいわゆる”カッコいいウェディング・ムービー”の映像の撮影が許されるのは、レストランや貸しスペースなど、限られたケースでの挙式がほとんどであり、その他多くは記録ビデオとしてのブライダルビデオを選択せざるを得ない状況も確かにある。

またユーザー(結婚する当人)の側も、画像の善し悪しを含め、記録ビデオとDSLRムービーのそれぞれの違いや良さを判断出来る人は少ないし、記録としてのこれまでのようなブライダルビデオを欲している場合も多いと聞く。難しいのはブライダルビデオ=オプションサービスとしての扱いが、その内容やセンスの善し悪し、クオリティといった部分とは関係ないところで受注が行われていることだろう。そして一般の式場スタッフでは、その違いをなかなか伝えられないことも大きいらしく、この辺りは現況をもっと取材したいところだ。解っていることは、写真や映像のわかる一部の人にはDSLRムービーの良さを理解できるだろうが、そこのセンスまでを客に強要することはできない、ということだ。

しかし、こうしたシネマティックな手法が好まれる傾向は徐々に広がっていることは間違いなく、昨年ぐらいからは一般的なブライダルビデオ業者でも大量にDSLR機を導入している。ただし問題は、単に大判センサーを搭載したカメラがあれば、”シネマティック”にカッコイイウェディングムービーを誰もが撮れる、という訳ではない。酒井氏も述べていたように、ウェディングムービーにそれ相応のセンスとクオリティを持ち込む技術があるかどうか?問題は、写真家的なもしくは映像作家的なセンスを持って、現場に存在するストーリーを汲み取り、結婚式というドキュメントを切り取れるかどうかである。そこに至るにはカメラマンとは別に、ドキュメンタリストとしての訓練と技術が必要になって来る。

女性ならではのオリジナリティを引き出すシネマカメラ

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シネマトグラファーのリーダー小林奉葉さん(右)と井上香里さん(左)

鳥取県米子市にある『ROSE GARDEN米子』。ここはハウスウェディング、つまりチャペルの付いた大邸宅風の式場をまるごと貸し切りで提供する結婚式場だ。広島県三次市に本店があり、ここが2店舗目となる。ここではお客とのアットホームな関係を築き、その距離が近いことを特徴として、1日2組限定で挙式を受け付けている。またここに従事する約20名のスタッフのほとんどが女性で、もちろん映像スタッフも全て女性だ。ここでは昨年からDSLRムービーを導入、いわゆる『撮って出し』部分を挙式サービスの一環として制作/上映を開始した。さらにこの3月からはキヤノンのCINEMA EOS SYSTEM/EOS C100×2台と、コンパクトデジカメのEOS Mをムービー用に導入して本格的なシネマカメラによる制作体制を整えた。もちろんこれとは別に、ソニー HDR-AX2000で収録する、従来の記録用ビデオのサービスもある。

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チャペルではリハーサル段階でも本番時で撮れないアングル等を収録する

担当スタッフは、リーダーでシネマトグラファーの肩書きを持つ小林奉葉さんと、同じくシネマトグラファーでウェディングプランナーの井上香里さん。昨年からEOS 5D MarkⅡによるDSLRムービーを習得、3月からはEOS C100へ機材を変更して、さらにグレードの高い映像を日々制作、提供している。撮影されるのはいわゆる「撮って出し」で、 挙式当日のドキュメンタリーを収録して、式の最後にエンドロールとして上映する。これをDSLRムービーとして撮影を行うのはそれなりのスキルも必要になってくるが、EOS C100の機動性とムービーカメラとしての操作性はこれまでのDSLRの不便さを解消し、作品はたった数ヶ月の修練とは思えない出来栄えだ。さらに挙式する当人たちとの距離感も近いことや小物や花など被写体に繊細な題材を選ぶところなど、 女性視点によるキメ細やかなカットも多く、品のある映像に仕上がっている。

会場内や中庭などを忙しくポジション移動するため、ムービー用の一脚は必須アイテム

制作手順は、チャペルでの結婚式〜中庭でのフラワーシャワー〜披露宴のお召替えまで一通りの撮影を終えた後、すぐにバックヤードで素材をEDIUS Neo 3に取り込んで編集、音付け、テロップ入れを60分〜90分でに行い、.movファイルに書き出された映像データをiPadへ転送、披露宴会場ではiPadから式の最後に本日のダイジェストをエンドロールとして上映するといった流れだ。

GLIDECAMを装備したEOS Mも狭い所や動きにくい場所での移動カメラとして活躍

1時間前に起こったことがシネマティックムービーとして式の最後に上映されることで、来場者からは感動した等の評判も高いという。さらに特筆なのは、女性ならではカメラの動きや視点は作品にオリジナリティを加えていることだ。機材的にも女性の機動力を考えた選択で、EOS C100×2台を基本的にマンフロットのモノポッド、561BHDV-1フルードビデオ一脚を装着、さらにKONOVAのK3 60cmスライダーなどを多用している。さらにGLIDECAMを装着したEOS Mも、狭い場所を女性でも動きのある映像が撮影できる機材として導入。現場では2人がこれらを適宜に入れ替えて操作し、忙しく動き回る。

小林:「撮って出し」は私たちが選曲した曲、もしくは新郎新婦の持ち込んだ曲に合わせて、4分半程度の尺の映像を作ります。EOS C100での撮影では全てワイドDRガンマを使用しています。撮影から編集まで時間がないので、あまり凝った色調整などはしていませんが、ワイドDRガンマならそのままでも雰囲気のある映像が撮れます。またEOS C100には内蔵NDフィルターがあるのが便利で嬉しいですね。

井上:最初は記録ビデオから初めて、半年前からDSLRムービーによる「撮って出し」を始めました。(撮影は)面白いなと思う反面、とても奥が深いですね。自分で撮っているうちに、普段見ているテレビや映画のシーンでも『これ、どうやって撮っているんだろう?』とか、いままで流していたカットも目に付くようになりました。毎回自分の作品には喜んだり落ち込んだりと一喜一憂しています。

ちなみにEFレンズも、EF-S10-22mm F3.5-4.5 USM、EF35mm F2 IS USM、EF50 F1.4 USM、EF24-70mm F2.8 L、EF24-105mm F4 L、EF100mm F2.8 L マクロ IS USMなど、主要なラインナップを揃えており、EOS MにもEFマウント変換アダプターを装着、EOS C100とともに現場では場面によるレンズ交換の判断、装着も非常にスムーズだ。

実地レクチャーで技術とセンスを向上

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講師の高橋拡三氏(左)と村本万太郎氏(two door pictures)の2人に実際のウエディング撮影を通して、具体的な評価を得る

実は彼女達の撮影法や技術面、機材のアドバイスなどをバックを支えているのは、広島在住のプロフォトグラファーで、ビジュアルイメージ撮影チーム『e-Motion Photographers』の代表でもある高橋拡三氏による講習の成果がある。ニュージーランドなど海外でのフォトグラファー経験も豊富で、海外の最新機材情報などDSLRムービー事情にも詳しいことで有名だ。

高橋氏は昨年夏、倉敷市のフォルトゥナにおいて、DSLR(EOS 5D Mark Ⅲ)を使った、海外で行われているような本格的なウェディングムービーセミナーを開催。講師としてクリス・モア氏、柴崎旭仁氏らとともにDSLRムービーの魅力を伝えてきた。参加者は有料の泊まり込みセミナーであったにも関わらず、中国四国地方を中心に、関東や九州からも集まり、ここに彼女達も参加したことがきっかけで、本格的な撮影と機材導入に至った。

小林:昨年の高橋さんのセミナーをきっかけにDSLRムービーを知りましたが、これまでの映像とは全く違うと感じました。ワークショップだったのでその場で5D MarkⅢを触ったのですが、当初はこれで「撮って出し」など、自分では絶対無理だと思っていました。でも会社では5D MarkⅢをすぐ購入し「撮って出し」もすぐに5D MarkⅢで撮ることになり…(笑)。それで詳しいレクチャーを受けたいということで高橋さんに直接、月1回/半年間の定期講習をして頂きました。それまで(記録ビデオ)は全てオートで撮っていたわけですが、露出やピントなどマニュアルで合わせるのは最初は難しかったですが、とても丁寧に解りやすく教えて頂きました。

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撮影後すぐにEDIUS Neo 3で編集を開始。実時間90分ほどで4分半の映像を毎回完成させる。映像制作のスキル向上としては最高の訓練の場

高橋氏が教えるポイントとして、機材の使い方や選び方もあるが、最終段階ではどんな場面でどんなカットが有効なのか?撮影ポジションは?、そのカットの意味など、解り易い表現でクリエイティブに寄ったポイントを教えている点も興味深い。それによって彼女達自身が自発的にオリジナリティを見つけ出し、結果としてその視点で撮影/編集された作品が、ROSE GARDEN米子の映像の特徴としてお客様に喜ばれるという図式を演出している。

▶高橋拡三氏の撮影による、EOS C100のデモ映像

現場で真剣勝負のスキル磨き

DSMCDSLR3_1SP03_04g.jpg完成した『撮って出し』映像を、iPadで会場に持ち込み、式の最後にプロジェクター上映。最高の感動の瞬間を演出

海外では「イベント・シネマトグラファー」という人たちがいて、以前からこうしたシネマティックウェディングビデオを作品として提供しているアーティストが存在する。プロフィールや「前撮り」部分は、30pで派手なCMのような演出とカット割、結婚式自体は24p&シネガンマで感動を演出、夜のパーティーは一転してミュージックビデオのようなバラエティ感とライヴ感を60iで撮影するなど、DSLRが出て来る以前からこうした手法は海外では出来ていた。それがDSLR/DSMCの普及とYouTubeやVimeoの広まりで一気に市民権を得た形だ。

いまEOS C100のようなシネマカメラが市場に入って来たことで、その操作性と画質は大きく向上した。さらにROSE GARDEN米子の彼女達のいまの環境は、映像制作の基本が『撮影して、編集して、人に見せて、評価を得る』ことだとすれば、 映画学校と同等、いやそれ以上に、毎週客からのプロとしての評価を毎回受けるという意味においては、映像制作のスキルを身につける絶好の『映像制作道場』となっている。彼女達のようなウェディング/イベント・シネマトグラファーがこれから沢山輩出されることで、ブライダル映像自体の品位や作品の品質、そして、そこで活躍するクリエイターたちのスキルも格段に向上するのではないだろうか?

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昨年7月31日〜8月1日に倉敷フォルトゥナで開催されたウェディングムービーセミナー。5D MarkⅢを使って実際のウェディング会場を貸し切った本格的な内容に全国から参加者が集まった


Vol.03 [DSMC/DSLR #3] Vol.00