txt:石川幸宏 構成:編集部

カメラの要、それはレンズにあり!

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“レンズは資産”という考え方は、個人のレベルでも写真の世界だけでなく、映画の世界でも共通のものになりそうだ。

ここ近年の映画の世界では、デジタル化によっていまやカメラ本体の中身がすでにPC化してしまったこと、つまりムーアの法則に準えるならば、18ヶ月でCPUは2倍のスピードになるという進化の方程式に適合した電子製品になったことで、カメラ本体はPC類と同じく2〜3年で世代交代を迎えるという代物になりつつある。カメラに愛着を持つオジサン世代にとっては些か悲しい現実だが、デジタルを取り込むということはそういうことだ。

しかし、カメラの最も重要な部分であるレンズは、保管さえしっかりできていれば時を超えてその魅力を失わないことはこれまでにも証明されている。良いレンズはそれなりの高価な買い物になるが、カメラの命という部分では今も変わりはない。それゆえ映画業界でもREDをはじめとする個人でも所有できるシネマカメラの時代になって、レンズも自前で持っていれば、カメラが変わっても”レンズは資産”という考え方が浸透してきたように思う。しかもこれまで高価すぎてとても個人で持てる代物では無かったシネマレンズも、いよいよ個人ユーザーでも手の届くものになりつつあり、しかもレンズの好みも選べる幅もできて、個人や会社としてシネマレンズに投資するユーザーも少なからず増えてきた。

ちょうど4年ほど前のZeissのコンパクトプライムレンズの登場(現行はCP.2)あたりから、安価で入手しやすい価格と品質のデジタルシネマカメラ向けレンズシリーズを各メーカーがリリースするようになってきた。またDSLRムービーの隆盛以来、参入ユーザーが増えた分、シネマレンズの行方にも大きな関心が寄せられている。キヤノンのEFレンズに代表されるスチルカメラ用のレンズもムービーの世界で活躍し、またCINEMA EOS SYSTEMとしてキヤノンもEFシネマレンズのシリーズを出し、ソニーも自社レンズ製品としてPMW-F3以来、最新のF55・F5でも新しいレンズラインナップを出してきていることから、ここに来てシネマレンズ業界の市場争いも一段と激しさを増している。

Tokina
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昨年9月のフォトキナで参考出品され、InterBEEでもお目見えしたTokinaのシネマレンズも初出展。すでに発表の16-28mmに加えて、BMCCに装着されているのは、新しい11-16mmT3(F2.8)。マウントはPL、キヤノンEF、そしてニコンFにも対応。どちらも参考出品で発売時期などは未定。

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FUJINON
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FUJIFILMとして統合したはずのFUJINONブランド。どうも世間からの見方としてレンズブランドとしてのFUJIFILMは受け入れがたいという意見がハリウッドでも多かったようだ。D.P.やカメラマンへの浸透もやはりFUJINONがしっくりくる。

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今年からまたFUJINONのロゴを全面に出したブースで、シネマレンズは相変わらずの人気の高さだ。新たなミッドレンジのシネマレンズシリーズで、ズームレバーを最初から装着(脱着可能)するという新しい試みのレンズシリーズ「Cabrio(キャプリオ)」コンパクトズームシリーズは、PL19-90とPL85-300(ともにT2.9)の二つの実機を展示。これにPL14-28を足した三兄弟が最初のラインナップとして年内発売を予定している。

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Varizoom
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レンズ周りの番外編として、Varizoomからは、ステディカムなどのスタビライザー専用のワイヤレスフォーカスシステムを展示。ズーム、フォーカス、アイリスの3chで遠隔操作可能。

シネスコ信奉? アナモフィックレンズの隆盛

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このところ注目の動向はアナモフィックレンズ製品の動きだ。今回のCine Gear Expoでもアナモフィックレンズの専門メーカーであるHAWKが、例年の3倍ほどのブース(キヤノンと同じ面積)を出していたり、ツァイス/ARRI、アンジェニュー、Cooke、といった老舗からもそれぞれアナモフィックレンズの新製品を出すなど、このところの動きが活発だ。

アナモフィックレンズはご存知の通り、35mm/4:3の画角にあわせて、横幅を光学的に圧縮して撮影された画像を正体に伸張すると、横約2.35:縦1という、いわゆる”シネスコ”=シネマスコープサイズになる。最近では4Kサイズから2.35:1の画角に上下を切ってクロップするという切り出し方もあるが、アナモフィックシリンダーと呼ばれる凹面グラスを配した特殊レンズ=アナモフィックレンズを使うことで得られる、横一文字に広がるようなレンズフレアは独特な魅力があり、リドリー・スコットなど多くの映画監督が魅せられている理由もそこにある。ARRI ALEXAの新たなXTシリーズの撮像素子が4:3なのも、このアナモフィックレンズに合致させるための仕様に他ならない。

HAWK
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アナモフィックレンズ専門メーカーとして、このCineGearでしか観ることもほとんどないHAWK。いつもはひとつのテントで頑張っている感じだったのだが、今年は一転、隣にキヤノンのブースを見据えて堂々三倍のブースで気張っていた。白の筐体が美しい、V-Lite Vintage ’74 アナモフィックプライムシリーズは70年代のレプリカバージョン。オールドスクールな外観だが中身は最新とのこと。

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ところでCine Gear Expoの会場でカメラやレンズメーカー関係者を捕まえて、このところのアナモフィックレンズ流行の要因を色々と訪ねるのだが、これといったハッキリした回答は得られなかった。 ただ、近作ではJ.J.エイブラムの「スタートレック」に代表されるアナモフィックレンズの効果や、Q.タランティーノ監督「ジャンゴ」もアナモフィックレンズで撮影されたこと、またデジタル処理でシネマスコープ(ちなみにシネマスコープは商標名で20世紀FOXが所有しており、他社は使えない)サイズでの作品作りも比較的簡単になったことなどから、これらに触発されて新たなシネスコ風サイズの作品も増えているようだ。そういえば、北野武監督の「アウトレイジ・ビヨンド」も一部、HAWKのアナモフィックレンズを使って撮影されていたとか…。安く良いアナモフィックレンズが増えれば、日本でもカッコいいシネスコ作品(?)が増えるのか、今後が楽しみだ。

ARRI
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レンズといえば、持ち運び用のバッグも必要?なんとARRIのロゴが入った新しいカメラバッグシリーズ「ARRI Media」。バッグ自体は、ARRI Large Production BagとARRI Small Production Bagの2種。その他細かいポーチ類、ストラップ、グローブなども揃っている。販売はすべてFilmtools Internationalから。


Vol.01 [CineGear 2013] Vol.03