txt:江夏 由洋 構成:編集部

ついに登場した4K撮影可能なデジタル一眼レフカメラ「EOS-1D C」

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DSLRで初めて4K収録が可能になったEOS-1D C

2012年12月に登場したCanon EOS-1D Cはこれまでの4K収録が可能なデジタルシネマカメラとは一味違う、デジタル一眼レフカメラ(DSLR)に4K収録機能が追加されたカメラだ。これまでのDSLRはもちろん大判センサーを搭載しているものの、RAW収録機能やLogなどのガンマカーブは内蔵せず、基本的にカメラ内部のピクチャースタイルを使用したRec.709をベースにしたガンマカーブによる収録がメインであった。しかしこのEOS-1D Cは、4K・24fpsの収録が可能だけでなく、記録形式はMotion JPEGの8bit 4:2:2に加え、ダイナミックレンジを広く使用できる「Canon Log」をDSLRについに搭載したのである。これにより、DSLRの収録素材であってもグレーディングの幅が広がり、DSLRの可能性がさらに広がったと言えるだろう。言い換えればEOS-1D CはDSLR型4Kデジタルシネマカメラである。そういう意味も含めてCanonのCinema EOSシリーズに名を連ねているということだ。

EOS-1D CはスチルカメラのフラッグシップモデルEOS-1D Xに4Kの動画収録機能を追加した形となっており、外観はほぼEOS-1D Xのままである。そのため、EOS-1D Cを初めて触った第一印象に真新しさはあまりなく、DSLRと4Kの組み合わせに大きな期待はあまり持っていなかった。言ってしまえば、他社から4Kデジタルシネマカメラが多数出揃ってきた中で、「DSLR+4K」の必要性を強く感じにくい印象があった。だがしかし、実際に撮影をしてみるとその手軽さや100万円弱の4Kカメラという低価格さにだけではなく、高感度撮影時の低ノイズという1D Cならではの特徴にも驚かされた。DSLRだからこそ、動画収録のカメラとして使いにくいイメージを持たれるかもしれないが、画質も含めてその仕様の可能性は非常に高く、DSLRらしさを生かした4Kカメラとして需要は大きくあるだろうと感じている。

CFカード収録と「Motion JPEG」

スチル/ムービーを同じメディアで撮影できるハイブリッドカメラだ。従来のデジタルシネマカメラとは違った撮影スタイルを組むことができる

EOS-1D Cのスペックで驚いた点は、収録メディアがコンパクトフラッシュカード(以下、CFカード)だったことだ。やはりDSLRだけあり、これまでのCFカードを継承していることは理解できるが、RED EPICやSONY PMW-F55などがRAWやXAVCという独自コーデックを、SSDなどの書き込みスピードの速いメディアに収録していることを考えると、CFカードの収録という仕様に一抹の不安を覚えてしまった。しかし新たなメディアを用意して大きく機能を変更するよりも、スチルデータと共に4K映像も汎用性の高いCFカードに収録できるハイブリッドカメラとして使用することが価値のあることなのだろう。そしてキヤノンはC500などを含めて独自コーデックを持たないため、現状のシステムで4Kを効率的にCFカードへ収録する手段として、Motion JPEGというコーデックが採用された。しかし、EOS-1D Cのビットレートは500Mbpsと高く、CFカードにも書き込みスピードの速さは要求される。そのためCFカードの中でも、128GBで約6万円前後する価格のLexerやSanDiskの大容量かつ高速のカードが必要とされてしまう。128GBのCFカードには4K映像を15分ほどしか収録できないことを考えると、撮影現場にはCFカードを数枚用意しなくてはならず、メディアに関してのコストパフォーマンスは決して良いとは言えないかもしれない。

CFカードはUDMA7に対応したものでないと使用することはできない。現実的にこの2種類が候補だ

8bit 4:2:2の色深度とサブサンプリング

動画撮影で大きく画質に影響するのが、色深度とサブサンプリングだ。EOS 5D MarkⅢなどのDSLRはビットレートが40Mbpsを超えるものもあり、1フレームの画質は綺麗なものが多い。しかし、多くのDSLRが8bit 4:2:0の色深度とサブサンプリングを採用しており、ポストプロダクションでの色補正の調整範囲は決して広いとは言いにくい。残念ながらEOS-1D Cの4Kモードでも他のDSLRに漏れず、色深度に8bitを採用しておりグレーディングの際に若干の不利な点はある。しかし、4:2:0ではなく4:2:2を採用したことで、色表現能力はこれまでのDSLRと比較して大きく向上しているといっていいだろう。従来のDSLRよりもワンランク上の色情報を持ち、画質もアップしているため、今までと違った感覚でDSLR撮影を行えるカメラだ。

ついにDSLRに搭載されたCanon Log

撮影時には背面液晶にCanon Logの文字が出る

画質に関して向上したのはサブサンプリングだけではなく、ガンマカーブのCanon LogもEOS-1D Cの人気の一つだ。これまでのキヤノン製DSLRカメラに公式のLogはなく、ポストプロダクションで色補正を大きく行いたいのであれば、ピクチャースタイルを調整し、自作でLog風な表現を作る他がなかった。しかしCanon Logによって、収録した素材を色補正できる範囲が従来のDSLRと比較しても広がり、ダイナミックレンジをさらに生かした撮影を行えるであろう。

もちろん、色補正を必要とするCanon Logではなく、ピクチャースタイルでの撮影もできる。撮って出しのような、色補正をする必要の少ない、スピードを求められるようなコンテンツも4Kで簡単に行えるのも面白い。EOS-1D Cはこれまで慣れ親しんだピクチャースタイルの撮影に加え、Canon Logによる4K収録を導入できるため、使用用途に応じてガンマカーブを選択することもいいだろう。もちろんデジタルシネマカメラとしてはこのCanon Logを使った撮影はマストとなると言っていい。

HR13_03_004.jpgCanon Logでは中間部に粘りがあり、色補正の範囲が非常に広い
※画像をクリックすると元サイズのデータが開きます。
HR13_03_005.jpg ピクチャースタイルのガンマカーブはRec.709のため、ダイナミックレンジが非常に狭い
※画像をクリックすると元サイズのデータが開きます。

高感度低ノイズを実現した、優秀なS/N比!

現場の照明は被写体にあてるLED 1kWのみ

2012年の春、5D MarkⅢとEOS-1D Xが発売になった際に大きな話題になったのが、高感度撮影時にノイズが少ないことであった。この高感度低ノイズはキヤノン製DSLRの特徴の一つでもあり、S/N比が非常に優れていることが魅力だ。もちろん高感度低ノイズはムービーでもその威力は発揮されている。実際に、5D MarkⅡでノイズが顕著に表れるISO感度の限界はISO1250ほどであったが、5D MarkⅢとEOS-1D XではISO3200まで持ち上げても、シーンによってはノイズはギリギリ許容範囲と言え、光量不足の室内や夜間の撮影でも大きな武器として活用することができたのだ。もちろんEOS-1D Xとほぼ同等のEOS-1D Cも高感度低ノイズは継承されており、夜間撮影でもその威力は充分に発揮された。実際に夜19:00から屋外でテスト撮影した映像を見ると、ノイズの少なさは圧倒的だ。夜景の暗部の部分に本来であれば出現してしまう粒子状のノイズも少なく、大きな魅力だと感じた。ISO3200までの広いレンジで露出調整を行えることは、EOS-1D Cの長所だと言えよう。

小型カメラだからこその機動力

三脚ヘッドも軽いものでも問題ないため、運用が簡単だ

DSLRのもう一つの魅力は筐体の大きさだろう。現行の4Kデジタルシネマカメラの中でも最も小さいものがEOS-1D Cで、狭い場所でもグイグイ行けることはこのカメラの特権だ。実際に2012年のNABShow前にCanonの公式作品として発表された「Ticket」という作品では、DPのShane Hurlbut氏がプリウスの後部座席で縮こまりながら、EOS-1D Cで撮影してる風景がメイキングで目にすることができる。もちろんデジタルシネマカメラでできないこともないが、外部ストレージやリグなどを追加して行くとどんどん大きくなってしまい、少々機動力に欠けてしまうことが否めない。そのため、手軽にどんどん撮影できるEOS-1D CはDSLRでもあり機動力は非常に高いカメラだ。もちろん5D MarkIIで培われた動画撮影用のリグもコンパクトなものが多く、1D Cの機動力は目を見張るものがある。

DSLR 4K収録のモニタリングとそのフォーカシング

カメラ背面液晶でモニタリングすることは、4K映像をHDで見ていることであり、フォーカス管理は非常にシビアだ

4K収録をする際に慎重にならなければならない点は、フォーカシングだと感じている。大判センサーによる被写界深度の浅さはやはりフォーカスはシビアだ。さらに4Kという解像度では、フォーカスの甘さは致命的になってしまう。また4Kの場合、デジタルズームやリサイズを行う機会も多く、その場合もフォーカスの失敗は際立ってしまうため、4K撮影時のフォーカスは心配事の一つだ。

外部モニターが4K撮影には必須であり、フォーカスアシストがついていないDSLRではなおさらだ

実際にカメラ背面液晶は3.2型と小さく、フォーカスアシスト機能も付いていないため、フォーカスを確認するには非常に心もとない。そのため、フォーカスアシスト機能を持った外部モニターなどを用意すれば、監視業務をより正確に行えるので、EOS-1D Cでは特に用意しておくといいだろう。ピーキングやドットバイドット表示(拡大表示)などのフォーカスアシスト機能が充実しているモニターを選択するといい。

さらに、EFレンズなどのスチルレンズもまた4Kフォーカシングを難しくしている点の一つだ。開角度が狭くレンズ径が小さいスチルレンズは、フォーカスの微調整がしにくい。「4K+スチルレンズ」のセットは、RED EPICやSONY NEX-FS700などに採用されており、特にワンマンオペレーションで使用しなければならない場合も含めて、4Kのフォーカシングは正直技術を要する時もある。また、デジタル一眼レフのEOS-1D CにはEVFが存在しないため、外部モニターとしてEVFを用意して、細心の注意を払って撮影を行わなければいけない現場もある。もちろん筐体が小さいという利点があってこその1D Cでもあるため、臨機応変で撮影スタイルを決めることが大切なのであろう。

視点

Canon EOS-1D Cは他の4Kシネマカメラとはやはり一味違ったカメラであると感じる。DSLR特有の使い方やカメラの安定させる方法など、派生してきた道がスチル寄りのカメラであることは言うまでもない。しかしだからと言って、使い勝手を否定するのではなく、DSLRに適した使い方もある。8bit 4:2:2というこれまでにない色深度とサブサンプリングに、Canon Logを組み合わせることで、さらに色調整範囲が広くなったDSLRとして可能性の高いカメラだと感じている。価格も100万円弱で購入できるため4K撮影の垣根を大きく下げた一台といえるだろう。その筐体の小ささもさることながら、従来のDSLRが捉える世界を大きく超えた表現力をもっている。


Vol.02 [High Resolution! 2013] Vol.04

WRITER PROFILE

江夏由洋

江夏由洋

デジタルシネマクリエーター。8K/4Kの映像制作を多く手掛け、最先端の技術を探求。兄弟でクリエイティブカンパニー・マリモレコーズを牽引する。