走り始めた4Kの実情

映像業界全体としても4Kという目標値が定まってきた2014年。実際にInternational CESやこれから開催間近のNABshowなど相次ぐ機材展示会では実用に向けた4Kを基本とした様々なプロダクトが発表されたり、準備されている。

昨年は、国内事情として総務省から4K / 8K放送へのロードマップの発表と、今年2014年7月からの4K試験放送が決定したこともあり、年末から特に一般向け家電量販店のテレビ売り場には「4Kテレビ」の文字が目立つ。テレビ需要全体が一時期よりだいぶ下落(分母数はかなり違うが!)しているものの、TV販売数のうち、50インチ以上の購買者の約8%程度が4Kテレビになり、一般にも「4K」という言葉が急速に浸透している。

一般に、HDの約4倍の解像度となる高精細な4K映像は、その表示の鮮明さから人間の目にはステレオ3D以上に物体の立体感を感じる。4K映像を目にする機会が増えれば、その画質の良さは一般人にも日常的に認知され、その高解像度を見据えた様々なコンテンツへの期待も高まり、多くの映像制作者が注目するのは当然の流れだ。

その一方で、コンテンツの制作や上映に向けての収録、伝送方法において、そこで発生する膨大なデータ量に対して、効率的かつ明確なワークフローが未だ見えていないなどの課題も多く、4Kがスタンダードなフォーマットに落ち着くまではまだまだ長い道のりになるという様子もある。

現在4Kと呼ばれる映像フォーマットは、大きく2つの大きなカテゴリーに分けられているのは周知の通り。そもそもの4Kとは、アメリカの大手映画配給会社などで構成されるデジタルシネマの標準化団体“DCI(Digital Cinema Initiatives)”で策定された映画=デジタルシネマ向けの規格「DCI 4K」だ。元々はデジタルシネマカメラや映画上映機材などに向けた規格で、画面サイズは横4096×縦2160ピクセル(アスペクト比 / 1.90:1)。

これに対するのが、現行のHD(1920×1080ピクセル)のジャスト4倍にあたる、解像度が横3840×縦2160ピクセル(アスペクト比は16:9)の「4K UHD(もしくはUltra HD)」という規格。これは主にテレビ放送、テレビ受像機向けの4K規格として、正式に2013年のInternational CESでITU(国際電気通信連合)によって策定された。これら以前、Quad HD、QFHDなどとも呼ばれたが、2013年のCESでのITUの正式策定により、UHD、もしくはUHDTVという呼称に統一されている。

映画業界とテレビ業界の考え方の違いもあるが、どうやら日本に限らず、世界でも現在の4K推進に関しては、このUHDが主流となりつつあり、とりわけ放送分野での4Kには、テレビ業界の存亡を掛けて、各国とも力を入れて行こうというのがいまの流れのようだ。

4K / 8Kへの進展〜4Kを何で見るか?

TRUE4K_00_01.jpg

ソニーがInterBEE2013で発表した4K製品ラインナップ。すでに主要各部門の4K対応が整った

昨年11月に開催されたInterBEE2013でも、4Kもしくは8Kといった次世代高解像度映像へのロードマップを各メーカーが発表した。昨年末に目立った4Kトレンドとしては、4Kディスプレイの充実が上げられる。これまでの4Kは、たとえ4Kで撮影・収録しても、それを見ることが出来なかった世界だったが、ようやく4K映像のまま目の当たりにできる環境も整い始めた。

TRUE4K_00_02.jpg

パナソニックがようやく4Kへの実用提案として動き出した、最初の製品は4K業務用液晶モニター「BT-4LH310」。画角は16:9で、DCI 4K、UHDの両方に対応する

パナソニックはネイティブ4K対応の31型4K液晶モニター「BT-4LH310」を発表、昨年12月からすでに販売も始まっている。ソニーも参考出展として30型有機ELモニターを展示。キヤノンは同社初となるモニター製品として、一昨年から参考展示していた30型液晶による4Kディスプレイを正式発表。こちらも先月末から実発売が始まっている。また三菱電機など数社が業務用4Kディスプレイを参考出展していたり、池上通信機がカメラとディスプレイの各方面で今後の8Kまでのロードマップを公開していたりと、各社やる気は満々である。

TRUE4K_00_04.jpg

池上通信機も、Unicam、HLM / HEM(液晶モニター)等の8Kまでの次世代放送へ向けてのロードマップも発表

UHD、また8Kなどそれ以上の解像度を目指す放送事業への実験も、昨年11月の総務省の発表以降、その動きに大きな変化が生じている。昨年の総務省発表では本年7月に4Kの衛星実験放送、2016年に8Kの試験放送、2020年に本放送を実施するロードマップでその方針を固めており、日本は4K / 8K放送技術で世界をリードし、テレビ、電子機器産業の市場を活性化することが狙いだ。このテレビの4K、そして8Kヘの推進役として機能している、一般社団法人 次世代放送推進フォーラム(NexTV-F)では、現在その準備に余念がない。NHKを始め、在京キー局含む9社のほか、ソニーや東芝といった4社の家電メーカー、スカパーJSATやKDDIら通信3社の計21社が名を連ねる、国と放送局、メーカーの産学官一体となっての、4K / 8Kへ向けてのオールジャパン体制の根幹を成す。

昨年末に公開されたデモンストレーションは、東経124 / 128度CS衛星を利用する高度狭帯域衛星デジタル放送を想定し、実際に4Kカメラで撮影した映像をリアルタイムでHEVCにエンコードして疑似衛星回線で伝送。映像の符号化方式は、現在のH.264比で約2倍の圧縮率を誇る「HEVC(High Efficiency Video Coding、H.265)」で、これをMPEG-2 TS(トランスポート・ストリーム)に多重化して、衛星放送に類似した変調 / 復調を行う。高度狭帯域方式では、一般的な45センチ前後のパラボラアンテナで受信可能だ。今回の映像はビットレートが35Mbps程度で、衛星のトランスポンダー1つの容量は40.5Mbpsのため、映像伝送にも充分な帯域が確保できるという。このHEVCデコーダーを介した4K映像は、UHD=3840×2160=4K / 60pで、カラーフォーマットは4:2:0(YCbCr 4:2:0)。この放送フォーマットはまだ議論中ではあるが、今春にはおそらく4K / 60p 4:2:0に確定される見込みだと言う。

TRUE 4Kとはなにか?

だがしかし、ここに大きな疑問の念が沸いて来る。そもそも解像度は増えたのに、4:2:0というカラー再現性の少ない値での4Kとはどれほどの意味があるのだろうか?さらに欧米諸国ではすでに議論されている動的解像度の問題もある。最近、4Kにおいて実際に60pではその高精細な映像再現性が追いついていないという議論がなされており、昨年のIBCでは150p、300pといったフレームレート実験も行われていた。日本が押し進めようとする放送方式が4K / 60p、そしてその先の8Kに対しても、こうした点でただ単純に解像度だけを上げて行くことが、どれだけ映像文化、映像技術としての適切なポテンシャルを提示できるのかは、スペックレベルの疑問点だけでも甚だ不可解なのである。

また一般市場の動きとして、4K / 8Kへの移行はSDからHDへの変換期のように、アナログからデジタルという、一般の視聴環境の根本的な変革を強いるものではない。そのため、4K / 8K=高解像度映像の視聴という理由だけでは、テレビ受像機の買い替えへ等の喚起は厳しい。先のInternational CESでも論じられていたが、そもそもテレビの視聴方法の単位がこれまでの「世帯」から「パーソナル」へと完全に移行しようとしているのだ。これは全世界的な傾向でもあり、ますます放送と通信、テレビとモバイル端末等の関係性は重要になってくると考えられる。その中において、大画面での有効性を指摘される4K映像において、現在のように各家庭で家族揃ってテレビを見るという方向には必ずしも今後の生活スタイルは向かっていないのである。

TRUE4K_00_03.jpg

IPSα液晶パネル搭載の、20型大画面の業務用タブレット、パナソニックの「TOUGHPAD」は4Kの新たな可能性を引き出せるか?

ただし、そうした中でこれからの4K / 8K映像の活用法について、新たな活路が見いだせるようなソリューションも提案されてきた。例えば、パナソニックが発表した「TOUGHPAD」。世界初のIPSα液晶パネルを搭載した業務用20型タブレットだが、高精細タッチペン等による手書きの書き込みや、いわゆるスマートフォンやタブレットでは当たり前の拡大 / 縮小などが自由にできる。これが動画対応になれば、使用者によるオンデマンドなステッチング(クローズアップからの拡大視聴)が可能になる。

この特集ではこうした2014年初頭の4Kを取り巻く各環境を鑑みつつ、いま考えられる「TRUE 4K」の姿を浮き彫りにしてみたい。

txt:石川幸宏 構成:編集部


[TRUE 4K] Vol.01