サブスクリプション、ダウンロードなど変容するソフトウェアの世界

編集ソフトは進化を続け、完成の域を超えたといえる。とはいえ4Kやそれに伴う新たなカラースペースへの対応といった新技術への動きがあり、各社のアップデートが行われている。

最近のトレンドとして、編集などの後処理系ソフトウェアはパッケージ販売から毎月使用料を支払う形式へ移行している。ソフトをダウンロードして使用料を払うという形式は音楽CDからダウンロードへ向かった流れが一般化した現在、ユーザー側もあまり抵抗感がなくなったこともあるだろう。メーカー側からすればパッケージやマニュアルを作る必要がなく、エンドユーザーからのお金の回収も速くかつメジャーバージョンアップするしないにかかわらず毎月の収入が安定して得られるというメリットもある。Adobe、Avid、Autodeskといったメインストリームのメーカーが、サブスクライブやダウンロードという方法をとっている。いずれのメーカーも編集ソフト以外との連携を中心にネットやクラウドを利用した次のフェーズへと向かいつつあるようだ。

Avidはハードウェアも含めたInterplayなどのソリューションで放送を中心に大きなシェアをもっているが、もはや映像を抜きでは成立しない音楽業界に向けたPro Toolsがある。放送では、素材の管理や編集、アーカイブと作業の進行とともに管理業務も必要になるほか、音楽関係ではオペレーター(クリエーター)同士の連携も必要なことから、ワークフローの一元管理の方向へネットを介して行える環境を提供している。

AdobeはPremiere ProやAfter Effectsといった映像系のほか、PhotoshopやIllustratorなどのソフトウェアとの連携をクラウドベースで図っている。Photoshopは映像編集でもタイトルやフリップなどで使われるが、Illustratorは動画で使われることはあまりない。とはいえ、DVDなどパッケージメディアの場合はライナーや小冊子を同梱するなど紙媒体との連携は必要になってくる。また、元々マルチメディアに強いAdobeはFLVを持つことからWeb配信などでも強みを発揮できる。

Autodeskは3DCGで業界に大きな影響力をもち、映像業界ではCM制作で使われることが多い。

特にメーカーのプロダクトデザインはAutodeskの3DCGソフトを使っていることが多く、そうしたデーターを元に映像制作を行うことができることがCM制作を行う上での強みの一つとなっている。また3D空間で編集することができるので、フォアグランドとバックグランドなど複数の画像を立体空間の中で処理することができるほか、平面の映像を疑似的に立体化して編集作業を行うことも可能だ。

AvidやAdobe、Autodeskはそれぞれ性格の異なるソフトウェアのコラボレーションで得意分野へのアプローチを行っており、素材や中間生成物の共有のほか進行管理などをネットやクラウドベースで一元化することで、作業の効率化を図っているといえよう。

一方、専用機を中心にしたシステムでDI系に強いQuantelも今回ネットの活用を更に進めるべくWorkflow over IP技術のQTubeの機能、管理、柔軟性の向上や、EBU、SMPTE、VSF共同のプロジェクトJT-NM(Joint Task Force on Professional Networked Streamed Media)の提案の支持などを発表している。ただ、Quantelはネットをインターフェースとして活用する方向のようで、素材などのデーターのやり取りを遠隔地でも違和感なく行える環境の構築を中心に考えているようだ。

編集ソフトとしては、Apple Final Cut ProやGrass Valley EDIUS、Sony VEGAS PROといったソフトもあるが、パッケージまたはダウンロード販売のレベルで、ワークフローをネットで共有するという方向にはなっていないようだ。ある程度の規模になるとビデオやオーディオなどの分業だけでなく、著作権などの管理も伴ってくるものだが、今後どのような方向にいくのだろうか。

Macユーザーは同じAppleのFinal Cut Proを使うことが多く、また価格的にも手ごろなことから個人ベースのユーザーが多い。EDIUSも個人ベースのユーザーが多いソフトだが、Grass ValleyがBELDENの傘下に入ったことから、Mirandaも含め今後の行方が注目される。VEGAS PROは、毎年ソニーがNABに出展し新機能などを披露しているが、ビデオジャーナリストなど個人ユースを中心に考えているようだ。分業があまり必要とされないか否かでクラウド化への対応も異なるようである。

さて、そうした中でNewTekのTriCasterやRolandのDV-7HDは専用ハードという点でそれぞれ独自の路線を進んでいる。TriCasterはネット配信を含めたオールインワンの方向へ、DV-7HDは昔ながらのターンキーという方向だ。いずれもソフトのインストールやハードのインストレーションなどの必要はなく、映像制作やオペレーションに専念できるという方向性だ。ビデオ編集を必要とするシーンは多様化し、それぞれのシーンに最適な製品を各社構築し、ある意味うまく棲み分けができているというのが現状であろう。

そうした中でクラウドベースのシステムは、その業務に携わるユーザーやクリエーターが同じシステムを使うことで最大限のメリットが得られるようになっており、ユーザーの囲い込みによって不動の地位を確保し安定した収益を求めた結果ともいえる。いずれにしてもネット利用やクラウド化が進みユーザーが増えればハッキングやウィルス感染などの危険性も増してくる。セキュリティに関しては万全を期しているとはいえ、大手金融機関や国防省などが標的になる昨今、社会的な影響力が大きくなればそうした危険性は増すわけで、個々のユーザーがIDやパスワードの管理に気を使うだけでなく、最悪の事態に備える心構えが今後は必要になってくるだろう。

Avid

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Avid Everywhereは、クラウドベースのビデオ制作サービスにより、エディター、ログ作業担当者、ディレクターなどが、世界のどこからでも、メディアやプロジェクトにアクセス、編集、共有、コメント追加、トラッキング、同期することが可能。素材、プロジェクトファイル、エフェクトなどをクラウドのマーケットプレイスでシェア(売買)することもできるという。個人のクリエーターにとって魅力的な仕組みといえるが数カ月前にNASDAQ上場廃止になったため再上場のための施策ともいえそうだ

Adobe

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Adobe Premiere Pro CC、Prelude CC、After Effects CCに標準搭載されたAnywhere連携機能により、ビデオやオーディオの素材やシーケンスメタデータなどを共有しながらリアルタイムで共同作業が行えるほか、アセットマネジメントやメディアストレージにより、複数のメンバーがさまざまなアプリケーションを使い、同じプロジェクトファイルに同時に作業を加えることができる。また、Adobe Creative Cloudグループ版では、アプリケーションのアップデート一元管理やメンバー1人につき100GBのクラウドストレージが利用可能

Autodesk

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3DCG制作では効率よくレンダリングを行うため複数台の演算用PCによるレンダーファームを必要とするが3DCGを製品にもつAutodeskではAutodesk360のクラウドレンダリングや25GBのクラウドベースストレージなどをAutodesk Subscriptionで提供しており、コラボレーションワークスペースによるファイルを閲覧、編集、および他のユーザーと共有する機能が提供される。また、会社で所有しているSubscriptionに契約済みのソフトウェアライセンスを、自宅のPCにインストールして利用することが可能

Grass Valley

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EDIUS Pro 7はPanasonic AVC-ULTRAやSONY XAVCといった4Kの最新コーデックだけでなく8Kの編集が可能な特別バージョンを披露。こうした最新のコーデックへのいち早い対応やデジタル一眼への対応などもあり、個人ユーザーの支持も多い。カノープスからGrass Valleyへ移ってもあまりその影響を受けずに進化の道をたどっているといえよう。Grass ValleyがBELDEN傘下に入り今後どのような方向に向かうのか注目される

Sony

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Sony VEGAS PROはバージョン13になり、ラウドネスメーターが搭載されたほか、iPadによるコントロールが可能になりVEGAS PRO上のタイムライン操作やプロジェクトのプロキシをダウンロードすることでiPadで簡易編集したものをVEGAS PRO 13へ反映させることができるようになった。ソニーのソフトウェアということもあり、業務用を含め同社の最新コーデックへの対応も早く、XAVC、XAVC S、XDCAM、NXCAM、AVCHD、HDCAM SRのほか、REDやPanasonic P2 DVCPRO、AVC-Intraなどに対応している

NewTek

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NewTekのTriCasterは、イベント、ライブ放送、ストリーミング放送、社内会議、セミナー、企業ビデオ、商品説明など必ずしもビデオに精通したオペレーターが操作しないような場面でも活用できることを考慮して設計されており、スイッチャーやノンリニア編集、ディスクレコーダー、バーチャルセット、プログラムモニター、エンコーダーなどを統合し、ワンセットでビデオエフェクトやキャラクタージェネレーター、PC画面入力などに対応した統合型ライブビデオプロダクション・システムとなっている

Roland

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RolandのDV-7HDは独自の編集ソフトウェアに専用コントローラー、インターフェースなどをPCとともにセットにしたターンキーシステムとなっており、ジョグ/シャトルノブや音声フェーダーなどが装備されたコントローラーにより、リニアライクな操作性を提供している。また、ラウドネスメーターの装備や独自の音響技術によるノイズ除去や残響の低減などが行えるようになっている。また、サンプル素材として動画や静止画、音楽や効果音、イラストなどの素材を1800以上収録している



txt:稲田出 構成:編集部


Vol.01 [After Beat NAB Show 2014] Vol.03