デジタル時代の音とは?

少し前までノースホールはほぼオーディオメーカーで占められていたが、現在ではセントラルホールの一角を占める程度になってしまった。オーディオは歴史が長いだけにいわゆる老舗も多い。デジタル化が進む過程でレコーダーメーカーなど、比較的新しく参入したメーカーもある。

基本構造の変わらないマイクはその時代の“音”を作ってきたということもあり、らしさを求めると必然的に当時のマイクに行き着くようで、Shure SM58やSENNHEISER MKH416、NEUMANN U67、AKG C414など多少構成する部品の素材などは異なるだろうが現在でも販売されている。日本のメーカーは常に性能を追い求めて新製品を開発しているせいもあり、海外メーカーのように長期間にわたり同じ製品を販売するとこはほとんどない(ソニーC-38くらいか)。こうした定番となった製品を元に新たな展開を求めているメーカーがある一方で、レコーダーを初めとしたデジタル化された機材を開発している新興メーカーに2分されたようになっている。もちろん一貫してレコーダーを開発しているNagraのようなメーカーもあるが稀有な存在だ。

オーディオは性能だけでは語れない「味」とか「艶」といった面が重要視される傾向にあり、最近では映像の業界でも「ボケ味」とか「フィルムルック」といった言葉を聞くようになり、後追いしているような印象だ。すでに8トラックテープを使ったCM送出装置やテープレコーダーを出展しているメーカーは皆無で、マイクやミキサー、レコーダーのメーカーがほとんどとなっている。

マイクは主に老舗メーカーがほとんどだが、定番として使われるマイクのほかデジタル一眼や小型ビデオカメラに適合した製品やワイヤレスマイクが各社から出展されている。カメラ収録では指向性マイクを使うことが多いが、カメラの小型化に合わせたサイズのものや、レコーダーを組み込んだ製品などがShureやオーディオテクニカ、AZDENなどから新製品として登場している。ワイヤレスはデジタル化とともに周波数の変更もあり、ソニーやパナソニック、Shureなどの各メーカーから対応製品があり、特にデジタルで問題だった遅延の問題も解決され各社とも製品化が進んでいる。

音楽収録や対談など複数のマイクを使う場合では、カメラマイクだけでなくミキサーを使うことも多く、ミキサーもデジタル一眼に適した製品やデジタル化されたものなど様々な製品があるが、チャンネル数が4ch程度のものはアナログのものがほとんどだ。シグマシステムエンジニアリングやFOSTEX、TASCAM、AZDENなど日本のメーカー製品やShure、Sound Devicesといった海外メーカーもあり、メーカーごとの機種は少ないものの扱うメーカーの数は比較的多い。また、ライブや放送用のミキサーもSTUDERやYAMAHAなどから新製品が出展されている。

レコーダーは、様変わりした映像機材に適応した製品が各社から出展されていたが、Sound DevicesからDanteおよびMADI対応の64トラックデジタルオーディオレコーダーが出展されていた。多チャンネルのレコーダーは以前から製品化されているが、Sound Devicesのレコーダーはポータブルサイズというところが新しい。オーディオでもチャンネル数が多くなれば記録媒体への転送レートがそれなりに高速である必要があるが、フラッシュメモリーも高速化され、多チャンネルが可能になったといえる。昨年あたりからSound Devicesからデジタルビデオレコーダーが製品化され、今年も新製品が投入されている。

Roland

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Roland 8chレコーダー&ミキサーR-88。ワンポイントサラウンドマイクロフォンHolophone H2と組み合わせてサラウンド収録のシステムを披露。Holophone H2からはL、R、C、LFE、LS、RS、Top、BSの出力があり、それぞれ独立したトラックに収録するというもの

Nagra

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Nagra VI。Nagraはタイムコードトラックを持っていたこともあり、6mmアナログオーディオ収録が標準の時代に映画やテレビなどの音声収録では必需品であった。トランスポート系の精密さや頑丈に作られていたこともプロの現場で定評があったが、ファイルベース化とデジタル化により精密機械工作が必要無くなってしまった。RECやPleyなどのファンクションダイアルに当時の操作性とデザインに名残がある

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新製品のNagra Seven Universal Digital Recorder。24bit/192kHzで2chのレコーディングが可能。記録は16GBの内蔵メモリーまたはCFメモリーに行う。オプションでMPEG-1 Layer II記録やSMPTE/EBUタイムコードなどに対応できる。タッチスクリーンの操作と昔ながらのダイアル操作とのデザインの組み合わせが面白い

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Nagra SD。一見ありがちなデザインだが、マイクユニットが着脱式になっており、指向性やステレオ/モノラルといったマイクカプセルが4種類用意されている

DiGiCo

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ラックマウントできる小型デジタルミキシングコンソールDiGiCo SD11i。32ch入力、12chバス、最大8×8マトリックスに対応。サンプリングレートは24bit/96,48kHz。オプションで5.1ch、ミックスマイナス、スピーカーセレクトなどのブロードキャスト固有の機能を追加可能

FOSTEX

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FOSTEXオーディオインターフェイスAR101。左右独立したレベルメーターやモニター出録画装備されているほか、iPhoneやiPod使用時は専用アプリにより、Pan、Low Cut、Limiter、出力レベルなどの調整が可能。マイクロホンや専用グリップが付属となっている

YAMAHA

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4月に発売となったYAMAHAデジタルミキシングコンソール。16+2フェーダー構成のQL1&32+2フェーダー構成のQL5で、いずれも目的に応じて柔軟に拡張可能なオールインワンミキサーとなっている。Dan Dugan Sound Design社との協業によりDan Duganオートマチックミキサーを搭載。マイク回線のゲイン配分を自動かつリアルタイムに最適化することが可能

Studer

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大型コンソールの技術を取り入れたブロードキャスト向けミキシングコンソールStuder VISTA X。DSPに新しくInfinity Coreを採用することで、800以上のオーディオDSPチャンネルや5000を超える入出力の管理を行うことが可能。Quad Star技術は4つのプロセッサーを採用したCPUベースのDSPを構成しており、DSPと平行して機能することも切り替えて機能することも可能で、2ヶ国語やマルチフォーマットを同時に行える。また、アップデートやサードパーティ製のアルゴリズムの採用も可能

Shure

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ShureはインタビューマイクSM63などをワイヤレス仕様にするプラグオン型トランスミッターFP3や、ボーカルマイクとして定番のSM58、インタビューマイクVP68にトランスミッターをビルトインしたワイヤレスマイクなどを披露。ラジオマイクの周波数割り当てが変更になったということもあり、マイクだけでなくワイヤレスに力を入れた展示だった

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デジタル一眼や小型ビデオカメラに最適なShure VP83FとワイヤレスURシリーズとの組み合わせ。VP83FはRycote社と共同開発した独自のショックマウント機構を採用しているほか、24bit/48kHzのデジタルレコーディング機能の搭載や、収録音のモニタリングや録音データの検聴ができるヘッドホン出力を装備している

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音声レベル圧縮技術ARC(Audio Reference Companding)を搭載したワイヤレスシステムShure UR5。受信する送信機を切り替えられるMTxモードやモニター用のヘッドホンジャックを装備したほか、単3電池のほかリチウムイオンバッテリーでの運用が可能。ENG収録に便利なアクセサリーとともに展示されていた

SENNHEISER

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SENNHEISERデジタルワイヤレスシステムDigital9000シリーズ。写真はマルチチャンネルオーディオ受信機EM 9046で、非圧縮のデジタル音声信号送信に対応しているほか、最大8チャンネルのレシーバーモジュールを装備でき、スペクトラム解析機能やRFレベルレコーダーにも対応している。AESなどのデジタルアウトを備え、24bit/96kHzの出力が可能。送信側としてハンドヘルドトランスミッターSKM 9000やボディーパックトランスミッターのSK 9000などが用意されている

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SENNHEISERアナログワイヤレスシステム5000シリーズ。Hidyn plus方式のコンパンダーの搭載と最大39ch同時運用が可能。単3電池1本で運用が可能な小型トランスミッターSK5212IIと、ソニーやパナソニック、池上などのENGに直接スロットイン可能なダイバシティレシーバーEK 3241

オーディオテクニカ

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オーディオテクニカはデジタル一眼や小型ビデオカメラ、ENGカメラに適合したマイクのほか、スタジオ用マイクやヘッドホンなどを出展。特にショットガンマイクはカメラの大きさに比例して変化し、ステレオタイプのものなどバリエーションが増えてきている

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デジタル一眼、ビデオカメラ用ステレオマイクロホンAT9943。マイクユニットの角度を90°と120°の2段階調節や、収音範囲の切り替えができるほか、振動ノイズやグリップノイズを低減するショックマウント機構や屋外/屋内モードを装備しており、振動や風などの雑音を低減することができる

AZDEN

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AZDENのショットガンマイクロホンSGMシリーズ。新製品のショットガンマイクロホンSGM-3416およびステレオショットガンマイクロホンSMX-100などを出展。SGM-3416は放送局仕様のマイクで、7インチサイズのほか9.5インチのロングタイプSGM-3416Lがラインナップされている

Jünger Audio

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Jünger Audioは新製品としてデジタルオーディオプロセッサーD*AP4 LM EDITIONや、コーディング/デコーディングオーディオプロセッサーD*AP8 CODEC EDITIONを出展。D*AP4 LM EDITIONはLevel MagicやSpectral Signatureといった同社独自の技術を搭載したプロセッサー。D*AP8 CODEC EDITIONはDolby社との協業により開発され、Dolby E/D/D+/ProLogicに対応している

Sound Devices

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Sound Devices 970は64トラックのDanteおよびMADI対応のデジタルオーディオレコーダーでケーブル1本で多チャンネルレコーディングに対応可能なほか、Dsub25コネクターからラインレベルの8ch入力およびXLRコネクターにより2ch入力が可能。設定などはネットを介してタブレットPCなどから設定できる。本体に2基のドライブベイを装備しているほか、2基のeSATAコネクターを背面パネルに装備している

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Sound Devicesレコーダー&ミキサー633。10トラックを装備しており、マイク入力(標準キャノン)×3、ライン入力(ミニキャノン)×3、6つのレコーディングが可能。記録メディアはSDとCFメモリーカードに対応



txt:稲田出 構成:編集部


Vol.04 [After Beat NAB Show 2014] Vol.06