石川幸宏

4K、8K時代に求められる高画質映像とは何か?

このInter BEEではその回答が単に解像度アップだけではないということがまさに実証され、さらにそれを実利用するための新たな試みが公開され始めたことも大きな特色だったように思う。

各メーカーもより深い技術の研究が進んでおり、それが公開できる段階に来ているのが見られたことも興味深い。より細かいピクセル数を求める解像度アップが取り沙汰されるいま、実は人間が実際に見て感じる「美しく、キレイで、圧倒されるような映像」というのは、決して解像度が上がったことだけでは得られる訳ではないということはもう周知の通りだろう。

むしろ解像度が上がるとともに、ワイドカラー(広色域)、ハイダイナミックレンジ(HDR=高諧調)、そしてハイフレームレート(時間解像度)の向上も伴わなければ、解像度アップの意味も薄い物となり、あるべき品質も再現されない。実際に解像度アップだけによるその末路というのは、実は数年前のSDからHDへの移行時、つまりTVの地上デジタル波への移行とハイビジョン化の時に我々はすでに経験している。

そこで分かっているのは解像度というのは人間の体感でしかないということ。最初はその解像感に驚かされるが、段々と見慣れてしまえばそれが普通になってしまう。そして解像度が上げるための初期投資が大きく必要とされる反面、そのビジネスメリットは反比例するようにほとんど得られ無いのである。

しかし4K、8Kとなる解像度時代には、そこにワイドカラー、ハイダイナミックレンジ、ハイフレームレートの加わった映像というのは見る者を圧倒し、さらに作り手の意図をそのまま作品にまで反映できるというメリットが生じてくる。このことで、次世代高品質映像の意味はまた違った意味を持つことになるのだ。

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例えばスイート展示のみの一般非公開で見せていたのは、ソニーの来年2月に発売が予定されている4K有機EL業務用モニターには、次世代放送規格の色域であるITU-R BT.2020の広色域の表示に加えて、最新のHDR機能が実装、誰もがハッとするような視覚再現の高い映像が表現されていた。

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テクトロニクス社ではこれもまだ参考技術展示ではあるが、カメラのダイナミックレンジを波形モニターのようにストップ数で計測できる「STOPメーター」なども研究開発されており、今後の高画質を支えるテクノロジーの研究が進んでいることが垣間見える。

さらに実装4K、8Kに欠かせないソリューションとして、新たな高性能圧縮技術の必然性も無視できない。アビッドテクノロジーの次世代中間コーデックとして新たに発表された「DNxHR」やパナソニックの「AVC ULTRA」なども今後4K対応のノンリニアシステムにどう展開されるのか?気になるところ。

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また肥大化するデータ量とともに大きく立ちはだかるがケーブルの問題。これも光ファイバーなどに加えて、HDBaseTなど新たな規格による実用製品が出始めていることにも注目される。

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そして今回キヤノン、フジノン、ツァイスといったレンズメーカーが次世代に向けた自社の光学技術を大きくアピールしていたことは、カメラセンサー前の、いわば“光学空間解像度”とも言える光を吸い込み、いかに捉えるか?といった技術分野でもまた、更なる進化を余儀なくされていることが見て取れた。

旧来からの放送技術がすでにある意味“ローテク化”している中で、ITベースの最新技術や上記の概念をどう放送、そして次世代映像制作に取り込み、活かせるのか?その課題を克服するには、これからの勉強=研究とトライアンドエラーに掛かっている。

小寺信良

InterBEE2014を象徴するテーマは「混沌」や「夜明け前」

InterBEE2014、3日間の取材を終えての個人的な感想だが、今年は非常にテーマが見つけにくい回ではないかと思う。もちろん、目的をもって会場を回られた方は、目的を達成できただろう。だが会場全体を象徴するテーマという点では、「混沌」や「夜明け前」といったところだったのではないだろうか。

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InterBEEで未来は見えたか

放送に関係する以上、4Kは避けては通れない道であることはあきらかだが、じゃあそれをいつ実際どうやりましょうか、という話になってきている。今ある技術ではここまでなんだけど、それが未来かと言われると多分違うよね、というのを肌で感じたイベントだったのではないだろうか。

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4Kのフレームレートコンバータ。このあたりのスピード感はさすが

朋栄では、同社が得意とするフレームレートコンバータ、超解像アップコンバータ、4K対応スイッチャー、4KDSK/クロマキーヤーといった、4K放送に必要な周辺機器からメインまでを一同に取りそろえた。周辺機器の充実度はさすがである。

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4Kに対応できる2M/Eスイッチャー、HVS2000

ただ、これはHDシステムのリプレース予算を使って、将来4Kまで対応できるように仕掛けておくシステムである。4Kがスタンダードになったときには、すでに映像伝送がHD-SDI4本ではあり得ないため、まさに過渡期の商品群だと言える。これはソニーしかりパナソニックしかりだ。

PFUでは、JPEG2000を使って4K/60Pを1Gbpsにまで圧縮してIP伝送するという技術展示を行なっていた。およそ1/12程度にまで圧縮するが、画質的には十分である。

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PFUのJPEG2000を使った圧縮伝送デモ

若手のクリエイターはご存じないかもしれないが、SDからHDに移行する際に起こったのは、「非圧縮に対する狂信」だ。どんなに画質的に優れていても、クライアントや代理店が非圧縮処理以外はNGという方針を打ち出した。なぜならば、圧縮したことによる画質のロスを、誰も責任が取れなかったからである。だから非圧縮がマストだった。

これを実現するために、莫大な設備投資が行なわれた。丁度バブル崩壊の時期と重なり、映像クリエイティブ業界は壊滅的に疲弊した。これと同じ事を4K・8Kでまた繰り返すのかと、今4Kを手がけているクリエイター達が危惧しているのが印象的であった。

その常識を変えていくのは、映像技術ではなく、コンピュータテクノロジーを含めたIT技術だ。これまでIT技術は主にワークフローの部分でコストダウンに貢献してきたが、今後はベースバンド伝送に変わる、基幹技術となり得る。

これから映像技術者はSDIではなく、TCP/IPでシステムを考えていく事になる。あと2年3年先に、今のモヤモヤとした状況の答えが出現するだろう。

岡英史

個人的Top3

InterBEE2014もいよいよ最終日である。個人的に面白かった者を主観で選んでみた。

ステディカムSOLO

いよいよ製品版に近い形で参考展示されていたステディカムシリーズの新製品。その特徴はスタビライザー&一脚と言う組み合わせ。移動ショットの時は独特の浮遊感を得ることが出来、下の脚部分を延ばすことによりそのまま安定した一脚としての運用が可能なマルチガジェット。近年流行のブライダルでの撮って出しにはばっちり。勿論ベストアームの用意もあり、本格的なステディーショットも可能だ。

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NIXUSブランドから登場したEDIUSプラグインとして国産初のテロップソフト。業務ユーザーには根強い人気を誇るEDIUSだが、テロップの弱さは前々から言われており、Adobe等の製品を使って作っていた方も多いが、この製品はそれらの弱点を殆どカバーしてると言って良い。3Dテロップを初め出来ない事は無いと思える仕上がり具合。レンダリング不要のネイティブ動作も好感が持てる。

計測技研8Kアップコンバーター

4Kを言われている昨今で既に8Kのロジックの展示。しかしそれは8Kカメラやレコーダーと言う物ではなく超解像度技術を使ったアップコンバーター展示。その解像度は凄まじい。HDから8Kの16倍アップコンバーターでもそう見えない所が凄い。実際に映像を見て貰えば、その凄さが実感できる。もしくは、筆者の動画で見てもらいたい。

ハイブリッドスタビライザー
番外編として手前ミソで申し訳ないが、コラムや「PRONEWS mag」にも書いたMoVI+ステディカム=ハイブリッドスタビライザー。会場デモでは多くの方に関心を示して頂いた。特にベテランステディカムパイロットの方に好評頂けたのは嬉しい。MoVI M5+ステディカム・パイロットの組み合わせは価格的にもかなり安く抑えられている。レンタルでもこの組み合わせなら5万円程度で1日可能だろう。是非試して欲しい。

総評

他にも沢山面白い物はあった。JVCの4Kカムシリーズ、特にレンズ交換式のGY-LS300はMFTマウントながら独特の機能によりその可能性を更に広げている。そして50周年を経過したInterBEE、イベントも活気も例年より間違いなく盛り上がっていた。このままの勢いで来年は更に面白く興味のある機材の登場に期待したい。

ふるいちやすし

若い人が増えたInter BEE

Inter BEEが終了した。今年は特に刺激的な物が出ているという事も無く、良い意味で落ち着いていたように思う。もちろん4K、8Kという大きな流れはあるものの、それはSDからHDの時のような必要に迫られたある種の脅迫概念があるわけでもなく、その分、クリエイターにとっては地道に足下を固める視線で自分の活動に関係のある物と無い物を冷静に見分けられたのではないだろうか。正直言って私はハイエンドの人間でもないし、最先端技術を追いかける性分でもないので幾らか取り残される感覚があるかもしれないと危惧していたが、意外にも周りの多くの人がそういう落ち着いた見方をしているようだったので嬉しくなった。

だから私が撮影の「フィジカルサポート」をテーマにして見て回ったのも決して見当はずれなことにはならなかったように思う。派手さはまったくないが、三脚やジンバル、スライダー、果てはリュックやバッグまで、それでもしっかり進歩しているのが嬉しかった。クリエイターが最先端のテクノロジーを浴びせられ「こんな事もできます!」「今までになかった映像です」という商品説明的な「ドヤ顔映像」を作っている内は本当に美しい映像など撮れるものではない。テクノロジーが自然な形で身の周りにあって初めて心と身体が先に動き出す。それを成熟と呼ぶか本当の挑戦と呼ぶかは意見の別れるところかもしれないが、いずれにしてもそこから良い作品は生まれる気がする。

期間中のとあるパーティー。いつもなら新製品の品評会になってしまうそんな場で、「映像の世界をもうちょっと色っぽい物にしよう」とか「最近撮影する時に着るジャケットにこだわってる」なんて言葉が飛び交っていた。そんな事はInter BEEの主役である機器メーカーにとってはたまった物じゃないかもしれないが、それでも良い作品が生まれて、それに触発されて映像を作る人が増えればきっとメーカーにとっても嬉しい状況になるに違いない。

気のせいかもしれないが、今回の会場は少しだけ若い人が増えたような気がした。映像っていいもんだぞ、作ってる人たちはかっこいいぞ、若い人たちにもそう思ってもらえるよう、我々クリエイターはここが頑張りどころだと思う。

江夏由洋

4Kクオリティを次のレベルへ

4K映像が今年の会場では溢れていました。大型のLEDパネルは300インチを超えるものもあったりして、高解像度の映像の威力を感じております。4Kのカメラも相当数に上り、ミドルクラスともいえる100万円前後の「ハイクオリティ」カメラが注目を集めていたという印象です。AJAのCIONやBMDのURSA、そしてSONYのFS7といったラインアップには大勢の人々が集まっていました。

さてそんな中、4K映像を更にレベルアップさせるのが「レンズ」です。今年のInterBEEでは4Kを担保したレンズが数多く見られました。一番の注目といってもいいのが、FUJIFILMのZKシリーズです。ZKシリーズはFUJINONのレンズ技術が集結されたPLマウントの大判センサーに設計されたズームレンズシリーズです。特にサーボによるズーム/フォーカス/アイリス制御が特徴で、ENGスタイルや中継といった放送も視野に入れたレンズになります。もちろんシネマ用途としても十分に使え、広い4K市場を狙ったレンズといえるでしょう。

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FUJINONのZKレンズとPanasonic Varicam 35

また、ちょっと面白いのがARRIのAMIRAがEFマウントにも対応したことです。ARRIといえば「ハイエンド」の印象が強く、やはりPLマウントによる一貫したレンズ運用が特徴でした、しかしAMIRAのEFマウントとなると、更にローバジェットの市場においてもARRI機材が使える機会を広げることになりそうです。またAMIRAは4Kにも対応することが発表され、ARRI初の4K機になることが決定されました。ちょっと面白いことになりそうです。

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今まで完全に分離していた放送と映画の2つの世界が4Kによって融合する時代になりました。さまざまなシーンで「使える」ことが、これからの機材が売れるか売れないかを左右することになるのかもしれません。FUJINONのZKレンズやAMIRAのEFマウントといった機器の登場はそんな世相を表しているのかと実感しました。最大動員数を記録した今年のInterBEEは4Kというキーワードを舞台に多岐にわたる機材が個々に光っていた展示会でした。ああ楽しかった!

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変わりゆくInter BEEに期待

InterBEE、今年は初開催から50周年目の節目だそうで、つまりはInterBEEとボクはほぼ同い年ということ。そろそろ代替わりして若手に道を譲る…つもりなど、まだまだ毛頭ないけれど(ないのかよ!?)、今年は特に最終日に若い来場者の姿を多く見かけた。元々はお堅い「放送機器展」。ややもするとスーツ姿、あるいはポケットがいっぱいついたベストのようなものを着たオッサンが幅を利かせるイメージが強いInterBEEに、若い人たちが多く訪れるのは非常に良いことだ。

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幕張メッセ内に設置されたPRONEWS編集部派出所

映像業界というのは、すなわち「コンテンツ」業界である。面白い番組、面白いプログラム、面白いショー、面白いイベント。そうしたコンテンツの作り手が集う業界には、サラサラした若い血が駆け巡っていなければならぬ。古くて濃いドロドロした血液が、適宜新しい血で置き換えられなくなった業界からは、新しい、見るに値するものなど生まれる由もない。

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セミナーに登壇する筆者

徐々に、だけど確実に古い血族の手に落ちつつあるボクは、今年はのど風邪にやられた状態で幕張に到着。うまく声が出ないまま某ブースステージに登壇して小一時間喋るも、その日の夜には声が出なくなった。…と、某所で再会した江夏由洋さんも時々裏声が混じるしわがれ声。ただし彼の声枯れはのど風邪のせいではなく「セミナーホストのやり過ぎ(=超売れっ子で喋り過ぎ)」らしく。『でも今は楽しい時期ですから〜』とそのまま恒例の「練り歩き」に出かけて行く江夏さんの元気を妬みつつ、ボクは自分の練り歩きをドタキャン。

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裏声が混じるしわがれ声の江夏氏

それはもちろん、これ以上声を出したら血が出そうな勢いで喉が痛かったから!という表向きの理由もさることながら、実はボクが行こうと思ったブースはすべて前日までに手塚社長に先を越されていることが判明したからだった。…毎度、目のつけどころがボクとかぶる社長も、そろそろ古い血族?

番組表


Day02 [Inter BEE 2014の歩き方.tvデイリーレポート] Day01