txt:小寺信良 構成:編集部

今年のCESは、どうだった?

プロ業界でも、数年前からCESに対する関心が高まってきている。機材面でプロアマの境目がなくなってきたこと、4Kカメラはコンシューマーの方が先に進みそうだという手応えがあり、コンシューマー市場ニーズを掴むという点でも、CESでのトレンドは見逃せないものとなってきた。

だがそういう意味では、今年のCESは肩透かしを食らったと言ってもいいだろう。4K/8Kテレビには多くの人は関心を払わず、イベント全体としてもセンター軸を欠いた回だったのは明らかだ。日本から報道を見る限りでは、なんでもアリの楽しいイベントに見えたかもしれないが、結果的に元気のいいIoTベンチャーが目立った結果となったわけである。

4Kビデオカメラは、ソニーとパナソニックが期待通りの製品を出してきた。ソニーはサイズ据え置きでズーム倍率を上げ、得意の手振れ補正をさらに強化してきた。パナソニックは4K撮影~HDダウンコンバートの間に、強力な手振れ補正やターゲット追跡、パンズームといった機能を入れ込むという、後処理強化カメラを登場させた。

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順当な進化を感じさせるパナソニック「HC-WXF991」

一方でキヤノンとJVCはコンシューマー向けに4Kカムコーダーを投入しなかった。カムコーダー市場そのものが冷え込んでいる上に、4Kテレビの普及を待ってからの方が得策と考えているのかもしれない。

4Kカムコーダーの技術的進化は、現在膠着状態にある。一つは、フレームレートの向上だ。テレビ映像をターゲットにするのであれば60pは必須だが、現在コンシューマー向けカムコーダーやデジタルカメラで、60pをサポートするものはなく、すべて30p止まりだ。筆者の記憶する限り、この状態はもう2年以上続いており、今年どうなるか、先行きは不透明だ。

この理由は、主に画像処理プロセッサの開発スパンにある。画像処理プロセッサは、一度開発すると次の世代になるまで、3〜4年は使い続ける。4Kカメラがたくさん登場した2014年に新世代になったわけだが、3年使うとなれば、今年も大幅なステップアップは望めないということになる。

画像処理プロセッサの能力が上がれば、60pが撮れる以上のメリットがある。その一つが、手振れ補正だ。昨今の手振れ補正は、光学と電子両方の補正を組み合わせることで、大きな効果を得ている。だが4K撮影時には電子手振れ補正がOFFになってしまうため、ありきたりの効果にとどまっている。これも、画像処理プロセッサの能力が不足しているからだ。

VRブームをどう捉えるか

今年のCESのタイミングで、Oculus Riftが正式に予約を開始した。これが現時点で一番優れたVR体験を提供するデバイスであることは間違いないが、価格は599ドル。さらにデスクトップPCに1,500ドルクラスのグラフィックスカードが必須とあって、アーリーアダプターでも買う人は限られるかもしれない。

一方でVRの素材となる360°カメラは元気だ。CESでニコンが同社初の360°カメラを発表したが、それ以外にも有象無象のメーカーが出品。GoProを複数台くっつけるリグや、その画像をステッチするソフトウェアといった展示まで含めれば、VRも間違いなく今年話題をさらったCESの一つの顔と言えるだろう。

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ニコンも360°カメラに参戦

だがプロの映像クリエイターにとって、実写のVRコンテンツ制作はそれほど面白いものにはならないかもしれない。なぜならば、アングルや画角といった概念が存在せず、すべての空間がダラダラと見えてしまうからだ。マイクや照明も映らないエリアがないので、仕込みも大変である。

かつて医療ドラマ「ER」では、リアリティを出すために病院のシーンをすべて1カットで撮影するという手法がとられていたが、演出、シナリオ、役者もあのクラスの苦労をすることになる。これまでカットごとに撮影してきた世界とは全然別の技術とセンスが必要になるだろう。

現在多くのVRのデモは、1つの「現場」を見せるにとどまっているが、シナリオをベースにカットをつないで見せるのであれば、このような撮影を複数回行わなければならない。

「どう見せるか」という根幹の部分を視聴者に任せてしまうVRは、プロの映像クリエイターにとって、魅力的なフィールドとなるだろうか。視聴ではなく体験を売るビジネスということになるだろうが、その点では3Dの失敗をどう捉えるかが、ポイントになる。

来年International CES 2017は、開催が繰り上がり1月5日から8日まで開催される。来年も情報をお届けする予定である。

txt:小寺信良 構成:編集部


Vol.06 [CES2016] Vol.00