txt:石川幸宏 構成:編集部

ソニーがR&Dで温めてきた、新たなディスプレイ技術「CLEDIS(クレディス)」とは?

先述の通り、今年のinfoComm16で、最も注目を集めたソニーの新型ディスプレイデバイス「CLEDIS(クレディス)」。元々は2012年1月のInternational CESにおいて、“Crystal LED Display”として技術参考出展していたものが、今回のinfoComm16で新たに「CLEDIS」として正式に商品化された。

CLEDISは、画面表面にRGBの微細なLED素子を配置した画素を、画素毎に駆動させる自発光のディスプレイ方式を用いて、RGBを1画素とする1つの単位の光源サイズを0.003mm2と極めて微細なLEDとして新設計。この微細なLED構成によって画面表面の黒が占める割合を99%以上に高めることができ、素子の広配光性能などと合わせて高コントラストと広視野角、広色域の豊かな映像表現を可能にしている。また、独自の画素駆動回路により高速動画応答性能に優れており、最大120fpsのフレームレートで映像表示が可能だ。

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コンテンツはF65で撮影された8K映像を中心に上映されていたが、その圧倒的なクオリティにどの来場者も驚嘆していた

また、専用のディスプレイコントローラーで1枚単位のディスプレイユニット(403mm×453mm)を複数枚つなぎ合わせ任意の場所、サイズで大型ディスプレイを自在に構築でき、さらに1枚1枚の継ぎ目がほとんどわからない単一パネルのように、接合出来る組み立て技術で画像補正が可能だという。会場内のソニーブースでは今回、144枚のユニットをつないで横9.7m×縦2.7m(=約8K×2K)の大型ディスプレイとして展示された。コントラスト比=100万:1以上、広色域=sRGB約140%、視野角=ほぼ180度、高輝度=約1000cd/m2と、その高精細さ、ハイフレームレートにも対応する未体験の高画質感覚に、多くの来場者が足を止めていた。

CLEDISは、来年1月~3月の実発売を目標に開発を進めているが、基本技術としてどのような特徴があるのか?利点や利便性はどこなのか?これまでのLEDやOLEDとはどのようなところが違うのか?発表された現地ラスベガスで、CLEDISの開発担当者、マーケティング担当者にそれぞれ話を聞いた。

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(写真左)
ソニーセミコンダクタソリューションズ株式会社
ディスプレイデバイス事業部 ディスプレイデバイス3部
統括部長 門田久志氏

(写真右)
プロフェッショナル・ソリューション&サービス本部
B2Bセグメント事業部門 VS-VEセグメント部 マーケットディベロップメント課
統括課長 増田朋矢氏

――CLEDISの製品概要について

増田氏:「CLEDIS」は“Crystal LED Integrated Structure”を略した技術名称で、商品としては1ユニット約45cm×40cmのユニット単位のパネルを自由に組み合わせて、これを複数合わせる事で好きな解像度やアスペクト比でご利用頂けるディスプレイ製品です。また映像を制御するための専用コントローラーがあり、これ1台につき最大72台のユニット制御が可能です。今回のInfoComm会場で展示したデモは、横幅9.7m×縦2.7mで、全部で144のユニットで構成しているので2台のコントローラーで制御しており、解像度は7680×2160画素(8K×2K)になっています。

各ユニットはイーサネットケーブルで接続しており、デイジーチェーンで連結しています。またCLEDISは単にディスプレイデバイスのみをご提供するというものではなく、サーバとディスプレイをつなぐ伝送に必要なシステムも一緒に提供するという、その部分の品質までを保証する形でのパッケージ商品としてのご提案を考えています 。

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ディスプレイの裏側では、今回の8K×2KのCLEDISによるディスプレイシステムを各実機とともにわかりやすく解説

――CLEDISの技術的特徴

門田氏:CLEDISは長年ソニーの中のR&D部門で開発してきた技術であり、他社を含めてこれまでのLEDと大きく違うのは「UltraFine」と呼んでいる通常の約1/100サイズの非常に小さなLEDをRGBの3色で作り、それを一つのパッケージにしてCellと呼ばれる80×120ピクセルのパーツに並べていきます。このCellを12枚組み合わせたものが1ユニット(320×360ピクセル)で、この1枚のユニットで初めてディスプレイとして機能します。

サイズとしてはこのユニットを横6枚×縦3枚=18個(270cm×120cm)に並べればフルHDサイズになります。また通常のLEDとの大きな違いは、1つのLEDサイズが1/100程度と非常に微細なため、発光部以外の他の部分がより黒くできるという特徴があります。他のディスプレイの黒占有率が30~40%なのに対して、CELDISは黒占有率99%以上を実現しました。黒がしっかり出せる事で、色域も広く鮮やかな色彩表現も可能でCLEDISの一番の特徴と言えるでしょう。

――実装技術も同時開発

門田氏:Ultra Fine LEDをCellに並べる際は通常の機材では小さすぎてつかむ事すら出来ませんし、これを並べるだけでも膨大な時間がかかってしまいます。そこで今回はこのLEDを並べる製造技術として、マウントするための高速実装技術も同時に開発しました。もし仮に他社が同じようなLEDを作ったとしても、それを実装するこの技術が無ければ実現は不可能な部分です。

――タイルムラを補正する技術

門田氏:パネルをつなぎ合わせる“タイリング・ディスプレイ”でよく見かけるのは、目地と呼ばれる各パネルごとの継ぎ目が見えてしまうことですが、我々がCLEDISで目指したのはこれが全く見えない、何枚つないでもまるで1枚もののようなディスプレイの開発を目指しました。物理的にキレイに接合出来るメカニカル部分でのタイリング技術と、タイルムラと呼ばれる各パネル毎の映像ムラの色補正をするソフトウェア技術を組み合わせた「目地レスタイリング&補正技術」が、今回CLEDISの商品化が実現出来た基本技術でもあります。

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「目地レスタイリング&補正技術」により、パネルのつなぎ目は全く感じられない

――視野角ほぼ180度

門田氏:通常のLEDは非常に指向性が高く、前に光を出すクセがありますので斜めから見たときにはどうしても影が出来てしまいます。斜めからみるとLCDでもOLEDでもこの影の補正は難しいのですが、CLEDISではLEDから光が四方八方に出るように工夫しており、斜めから見ても、どの角度までいっても画が破綻しないので視野角ほぼ180度という設計になっています。また普通のLEDやOLEDでも起こる「カラーシフト」という色が変わってしまう現象に対しても工夫しており、斜めから見てもほとんど色が変わりません。

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視野角180度というのは、本当は見えない(!)が、ほぼ真横から見ても色のシフトや偏光が起こらない

――OLEDとの違いとは?

門田氏:OLEDは有機ELですが、このCLEDISは無機ELなので、電灯に使うLED照明と同じLED技術です。ですので有機ELに比べ、かなり長寿命なディスプレイパネルでもあります。OLEDは非常に美しい映像を表示できますが、24時間×7日間といった長時間の点灯には向いていませんし、サイズもガラス基板の製造設備の問題で、現状では120インチ以上の製造は非常に困難です。

――CLEDISの使用範囲は?

増田氏:CLEDISのいま最も期待されている市場としては、デザインシミュレーションの分野があります。特に業務効率改善といった部分で、例えば大型ディスプレイに実寸大のCGを使ってデザイン決定までのプロセスを評価するような自動車産業や航空産業。こうしたメーカーのデザイン部門においては、今までの実寸モックアップ制作や低解像度の大型ディスプレイに変わる、リアリティの置き換えになるようなシミュレーション用ディスプレイとして、このCLEDISが期待されています。

もう一つは高画質による没入感、臨場感を求められる分野で、それによって収益性を高めるテーマパークなど、エンターテインメントの現場での利用が期待されます。今後は3Dへの対応も検討しています。

CLEDISの実物を見れば一目瞭然だが、現状における映像表示のためのディスプレイ技術としては、ある意味で究極の製品が出て来たことで、新たなレベルでのディスプレイ表現の世界が開かれたと感じた。これによりまた更なるデバイス技術の進化が、この先どんな映像を我々に見せてくれるのか?未知の世界の高画質へ、更なる期待が膨らむ。

txt:石川幸宏 構成:編集部


Vol.01 [InfoComm2016]