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1月特集:最新カメラ探訪2018 インデックス

次世代フラッグシップ機「VENICE」登場

常に他社をリードしてきたCineAltaシリーズに次世代フラッグシップ機「VENICE」が登場する。HDW-F900、F65といった型番ではなくVENICEと名付けられた本機の特徴について、ソニーの商品企画担当の岡橋豊氏と、設計のリーダーを務めた大庭裕二氏に聞いた。

CineAlta VENICEは、ここがすごい

  • 36×24mmフルフレームCMOSイメージセンサーを搭載
  • 4パーフォレーション4:3アナモフィックや6:5アナモフィックに対応
  • 内蔵8ポジションNDフィルター
  • PLマウント、Eマウントに対応
  • 15stop+のワイドラチチュードと低ノイズを実現

設計のリーダーを務めた大庭裕二氏(左)と、商品企画担当の岡橋豊氏

――CineAltaの中のVENICEの位置づけを教えてください。

岡橋氏:CineAltaシリーズには現在「F65」「F55」がラインナップされていますが、VENICEはこれらを超えるフラグシップモデルとなります。

VENICEはよく「○○の後継機ですよね?」とお話しをいただくのですが、そのような位置づけではありません。サイズ感などは確かにPMW-F55に近いのですが、クオリティやターゲットカスタマーなどの面で異なりまして、CineAltaシリーズのフラグシップモデルとして位置付けさせていただいております。

――発売は2018年2月の予定とのことですが、現時点で完成度は何パーセントぐらいですか?

大庭氏:機器自体は90%付近です。

――VENICEは機種名が英数字ではなくて地名になりました。どんな想いでこの名称に至ったのでしょうか?

岡橋氏:24コマが撮れるソニーのCineAltaシリーズはHDW-F900から始まり、F23、F35、F65、F55と数多くリリースさせていただきました。その中でもF55やF65をリリースさせていただいた時期ぐらいから、もう少し愛着の湧くネーミングをつけてほしいとご要望をいただいておりました。

撮影現場のカメラマンや撮影監督さんは、私達以上にカメラと一緒に時間を過ごしています。それが大きい映画のプロジェクトになると3ヶ月から6ヶ月もの長期間になります。そこで現場のスタッフたちからカメラに愛着の湧く名前を付けてほしいと要望をいただいていました。そのようなご期待に応えたいのと、私たち自身も愛着の湧くカメラを作りたいことから、型番ではない名称をつけることになりました。

候補は、24コマのシネマカメラの最大の市場で私たちがいつもユーザーの声を集めていますハリウッドを中心とした西海岸の地名となりました。その中から、彼らの愛着の湧く土地名の“Venice Beach”からVENICEを採用しました。

――VENICEにはどのような特徴がありますか?

岡橋氏:このカメラ最大の特徴は、新開発のデジタルシネマカメラ用36×24mmフルフレームセンサーを搭載したことです。これまでにはない被写界深度の浅い画やワイドな画、さらに高画質な画を撮影できます。このセンサーは撮影モードを切り替えることで、9種類のイメージサイズに対応します。近年はアナモフィックのワイドスクリーンを使った表現が世界的に増えてきているため「4:3アナモフィック」だけでなく「6:5アナモフィック」をサポートすることで、より高品質なシネマスコープ制作に対応しました。Super35mm 24.3×12.8mmに切り替えればPMW-F55の切り取りサイズでの撮影も可能で、1台でさまざまな制作用途をカバーできます。

レンズマウントは「PLマウント」を標準としていますが、6カ所のネジを外すと中から「Eマウント」が出てきます。レンズマウントの後ろには8ステップのNDフィルターシステムを内蔵しており、ワンアクションで光量を変えられます。

また、堅牢性と信頼性を意識して全体をデザインをしています。例えば、ベンチレーション機構をF55やF65から一新しており、排熱機構を基盤や電子部品から完全に分離しています。電子部品と排熱空気が直接触れないデザインになっているため、塵や埃が基板内部に入り込むことはありません。また、ヒートシンクを使って、すべてのエレキの熱をヒートシンクに伝えて、ヒートシンクを換気口の中で冷やす構造になっています。砂漠のかなり埃っぽい中で撮影など、ヘビーデューティーに使っていただいたり、痛めつけて使っていただいても壊れるリスクを最低限にしております。

操作面では、今までF55やF65はカメラマン側に主にコントロール制御部分がありましたが、VENICEではカメラ助手側に大型のアシスタントディスプレイを搭載しています。カメラマン側には小型有機ELモニターを搭載しました。

アシスタント側のアウトサイドにアシスタントディスプレイを搭載。カメラアシスタントが設定操作を素早く行えるようになっている

――VENICEはCineAltaのフラグシップでありながらEマウントへの対応はユニークですね。

岡橋氏:ミラーレス一眼カメラ向けのEマウントをそのまま映画で使用できるのかと言われることもありますが、VENICEをご覧いただければわかる通り外見は完全なPLマウントのカメラに仕上げています。

例えば、α系のカメラにPLアダプターをつけてPLマウントを運用しても実は接点はEマウントのままです。この場合には、「堅牢性は大丈夫なの?」とか、「重量のあるレンズを使った場合に壊れてしまわないのか?」などの問題があります。VENICEはEマウントは搭載をしているものの、Eマウント経由でPLマウントを実現しているわけではありません。あくまでカメラの中に組み込まれているものです。6カ所のネジでフェイス面からPLレンズを支えていますので、堅牢性といったところは安心してお使いいただけるようになっています。

――CineAltaシリーズのF35以降からF65やF55などはSuper35mmのセンサーを搭載していましたが、VENICEでは3:2のセンサーを搭載しています。なぜ3:2なのでしょうか?

岡橋氏:CineAltaシリーズは2/3インチから始まって、F65までSuper35mmのセンサーを搭載していましたが、この先、CineAltaを掲げるうえでターゲットとして捉えないといといけないのがアナモフィックでした。

ここ最近、ラグジュアリーカー・メーカーや化粧品メーカーがテレビ画面の上下を黒にしたワイドスクリーンのCMを制作してます。このようなアナモフィックレンズを使ったシネマスコープサイズの映像表現が全世界的に増えてきています。そこで、4:3アナモフィックに加え、6:5アナモフィックをサポートすることにより、より高品質なシネマスコープ制作を実現しました。

さらにもう1つが、映画を中心に横24mmのSuper35mmよりも大きいセンサーを使ったマーケットやトレンドが増えてきたことです。私たちが映画館で観るブロックバスタームービーと呼ばれる大作だけではなく、すでにα7シリーズを使って被写界深度をすごく浅くした印象的なCMを制作されるユーザーなども増えてきています。

また、フルフレームのセンサーを用意することでフルフレーム撮影ができ、アナモフィック撮影も行えます。かつF55やF65をお使いいただいているお客様には、今まで通りの画角をご提供できるセンサーでもありたいということで、フルフレームを採用したCineAltaになりました。

――VENICEのターゲットとして特に意識している地域はありますか?

岡橋氏:VENICEは全世界で発売されますが、全世界で視聴されるコンテンツを制作している米国の西海岸がもっとも重要な地域となります。その次はヨーロッパと中国で、この3カ国は特に大きなマーケットとなります。ただ基本的にはF65もF55も南米でもアジア圏でも多数使っていただいておりますので、全世界に向けて販売させていただきます。

国内ですと映画、CM、テレビドラマが多くなると思います。国内でも密接に関わらせていただく機会が多いので、積極的に使っていただきたいと思います。

――VENICEを企画するにあたり、どのような方々にリサーチして、どのような回答がありましたか?

岡橋氏:具体的なタイトル名は申し上げにくいのですが、実際にPMW-F55を砂漠の撮影で3ヶ月使ってレンタル会社に戻ってきた例があり、その現場ではカメラが埃まみれになって帰ってきました。弊社としてもF55やF65を埃まみれの環境で繰り返しテストをしているので動作しなくなることはないのですが、埃対策は課題でした。

埃まみれになったカメラはレンタルハウスのサービスの方が何時間かかけて掃除をしなければいけません。私たちのもとに写真が十数枚送られてきたり、意思のこもったメールや多くの意見をいただきました。

内蔵8ポジションNDフィルターに関しては、「ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日」でアカデミー撮影賞も受賞している撮影監督クラウディオ・ミランダ氏からリクエストをいただいて実現したものです。ミランダ氏は、NDフィルター使用時の交換が撮影オペレーションをストップさせてしまう一番の原因であり、俳優の気持ちを一回萎えさせてしまう原因であると指摘しました。そこでNDフィルターをワンクリックで簡単に実現できないかというご要望をいただきました。このような懇意にさせていただいている撮影監督やカメラアシスタントからのご意見を4、5年抽出と集約したのを実現したのがこのVENICEになります。

――この「ロータリーND」はEマウントの狭いスペースで実現するにあたり、相当苦労されたと思います。

大庭氏:Eマウントのフランジバックは18mmと非常に短い距離しかありませんし、2枚のターレットを入れてサーボ制御も実現しています。かつ光学的にきちんと落とすローパスフィルターと組み合わせるなど、材料的に難易度も高くなっています。普通の水晶フィルターを搭載すると、ガラス長として厚くなってしまい特性がうまく出せません。そこは光学エンジニアに協力してもらって何とか薄い材料で入れることができました。

もちろん薄くすると振動や衝撃で割れてしまう恐れもありますが、振動や衝撃など従来のカメラとまったく同じ試験がクリアできるように作り上げたところも苦労しました。

――デザイン面ではどのような点に注意しましたか?

大庭氏:まず「このカメラは使いやすいカメラか?」は見た目の印象で決まります。ひと目見た瞬間に安っぽいチープなイメージは避けたいと思いました。プラスチック系を採用していると非常に堅牢性に乏しいように見えてきます。フィルムカメラは本当に重いですが、ぶつけても壊れそうにない、へこみそうもない非常に堅牢なカメラです。VENICEも使っていて「これは安心だ」というのが伝わるカメラを目指しました。

――材質はどのようなものを使っていますか?

大庭氏:材質自体はマグネシウム合金を採用しています。従来機種では、要所要所のパーツで細かいところはプラスチックにしていたところがありましたが、これもVENICEでは一体感があり剛性のあるマグネシウムで成型しました。

板厚は少し厚くしましたがあまり厚くしすぎると重くなりすぎますので、そこはぶつかっても響かない板厚をきちんと選びました。

また、排熱機構を基盤や電子部品から完全に分離したべンチレーションシステム機能の採用により、水が入り込んでも部品的にショートしなかったり、電源が落ちない試験を行っています。突然の雨でも機器の電源が落ちることがないところまで想定をして実現したものです。

また、今までのカメラはフロント、トップ、ボトム、ギア、サイドを全然別筐体でボルトで締め合わせる構成で実現していましたが、VENICEでは堅牢性を重視してセンターに大きな枠を作りました。その両脇や上部から基盤を配置していくと共に、中に空間ができますので、その空間を使ってうまく空気の流路を考えるベンチレーションンシステムを実現しております。

――モジュラー構造を採用していて、特にセンサーブロックの交換ができるという構造はユニークです。今後センサーのアップグレードが可能があると考えてよいのでしょうか?

岡橋氏:現時点ではVENICEはセンサーブロックを外せて、ボディはそのままセンサーブロックだけ変えてご提供できる素地を持っているだけのご紹介に留まります。VENICEをリリース後、お客様のご要望と業界のトレンドをリサーチしながら、最適なセンサーを開発していきたいと考えています。

――センサーブロックの交換を希望した際は、郵送や持ち込みは必要ですか?

岡橋氏:VENICEは完全に密閉されたセンサーとNDターレット、その後部にコネクターがありまして、接点で差し替えることができますので郵送や持ち込みをしていただく必要はございません。例えばレンタルハウスで、センサーに事故的なトラブルがあった場合はその場で取り換えて、次のプロジェクトに対応可能だと思います。センサーも露出しない構造になっておりますので、一般のオフィスの環境でも交換は可能です。

大庭氏:ファンは、埃まみれになりますとまわりに引っかかったり、油が付いたりします。ファン自体は長寿命のものを使っていますが、環境によっては回りにくくなったりすることもあります。ファンの交換作業は、フロントブロックを開けて簡単に取り外すことができるようになっています。サービスパーツでファンだけ予備を用意しておき、その日の夜や翌日朝に交換をして連続運用することができます。

――最後に、VENICEの見逃せない特徴などはありましたらお願いします。

岡橋氏:VENICEは撮影監督だけではなく、カメラアシスタントの方々にも使いやすいカメラを目指しました。NDターレットが変えられる機能や、電源投入からの素早い起動は、そういった意志の表れです。この起動の早さは、思った以上に高くご評価いただき、いたるところで「これなら気兼ねなく電池の消耗を抑えるために電源を落とせる」と言われています。カメラを意識せず制作に集中できる安定性、堅牢性、シンプルな操作性。すべてを兼ね備えたカメラが、VENICEだと思います。

txt・構成:編集部


[最新カメラ探訪2018] Vol.02