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新しく生まれ変わった「EDIUS X」の新機能を徹底紹介

グラスバレーは、約3年ぶりのメジャーバージョンアップとなる「EDIUS X」を2020年9月にリリースした。早速、バックグラウンドで書き出しに対応した「バックグラウンドレンダリング」や、ピタッと止まった映像を作れる「レイアウターモーショントラッキング」などの新機能が話題だ。本特集では、EDIUS Xの変更点と新機能の魅力を紹介しよう。

コンセプトは「次世代に向けたEDIUSの再構築」

グラスバレーのプロダクトマネージャー粟島憲郎氏と、マキシメディア代表でGrass Valley EDIUSユーザーグループ主催の井上晃氏によるビデオ対談が実現した。井上氏は、EDIUS Xの気になる新機能を粟島氏に直撃。Vol.01では、開発側とユーザー側が本音で語り合った対談の内容を紹介しよう。

井上晃(左)と粟島憲郎(右)のリモート対談の様子

粟島憲郎
グラスバレー プロダクトマネージャー。野球少年から一転、映画→報道→雑誌→テレビ業界を渡り歩き、自身の監督作品を数多く手掛け、現在はグラスバレーにて製品企画として勤務。演出畑の草魂。
井上晃
有限会社マキシメディア代表。キャメラマンとしては海外報道を主体に活動。国内では各種企業用ビデオパッケージの製作や、洋画・アニメの日本語吹替版の製作を行なっている。
井上氏:こんにちは。EDIUS Xのプレビュームービーを拝見しました。従来のEDIUS 9とはまったく違いますね。大きく生まれ変わったEDIUS Xがとても楽しみです。

粟島氏:ありがとうございます。国外では9月15日、国内では9月25日に発売開始しました。

井上氏:EDIUS Xでは、数字だったバージョン番号が、今度は「X」になりました。そのあたりの想いから聞かせてください。

粟島氏:私たちはEDIUS Xバージョン10.00と呼んでいます。「9」から「X」に上がる際に、さまざまな機能を変更しました。コンセプトは「次世代に向けたEDIUSの再構築」です。

技術的な脱却を実現するために、基盤を変えました。特に大きく変わったのは、レンダリングエンジンの独立です。以前のEDIUSのレンダリングプロセスは、EDIUSアプリケーション内で機能していました。EDIUS Xでは、レンダリングのエンジンがEDIUSの内部から独立したサービスとして機能するようになりました。このようなモジュール的な振る舞いを実現できるようになったのもEDIUS Hubアーキテクチャという設計思想のお陰です。

EDIUS Hubアーキテクチャは、データベース、編集ソフト、管理ソフト、レンダリングサービスなどいろいろなソフト間をつなぐ、Hubの役割を意味します。これによってさまざまな連携が可能になります。例えば、Myncのようなメディア管理ソフトとEDIUSがより緊密な関係になれます。今後、EDIUS Hubによってクラウドの解析サービスとつながる、クラウド上のMAMシステムとつながる、ということもできるようになります。

井上氏:となると、アプリケーション内部も新しく生まれ変わった感じですか?

粟島氏:そうです。今回のEDIUS Xの10.00では、まずレンダーサービスの部分がモジュラー化されました。EDIUSから独立しているので、「バックグラウンドレンダリング」と「バックグラウンドエクスポート」ができるようになりました。今ままでのEDIUSは、レンダリング中は平行して作業することができず、レンダリングが終わるまで待つ必要がありましたが、EDIUS Xではバッチエクスポートで複数のシーケンスをまとめて出力しながらも、平行して編集作業が可能になりました。

シーケンスのエクスポートを「GV Job Monitor」という新しいツールで監視可能

井上氏:レンダリングエンジンが別サービスとして動いて、その上にフロントエンドとしてのEDIUS Xがあるイメージでしょうか?

粟島氏:そうです。どちらかというと「上」よりも「横」にあるイメージです。データベースを中心として、EDIUSとレンダリングエンジンが並列で動くというイメージです。

オーディオ、トランジション、タイトラー関係のプラグインをダウンロードして使用可能

井上氏:アプリケーション内部は理想的にきちんと整備してきたイメージを受けました。その一方で、プラグインもずいぶん強化されましたね。

粟島氏:EDIUS Xは「ボーナスコンテンツプラグイン」と呼ぶフリーダウンロード可能なプラグインを3種類用意しました。まず、音の部分を強化しまして、VSTプラグイン対応の改良を行い、より多くのVST2のプラグインを使えるようにしました。それに合わせて、Acon Digitalの「Acon Digital EDIUS Editions」をダウンロードして使えます。

Acon Digitalは、まさに今回のようなビデオ会議の収録時にも有効だと思うのですが、小さい部屋で声がこもった残響音の修正も可能です。プリセットが充実しており、選ぶだけでスピーディーにMA作業が行えます。

新しく搭載されたAcon Digital社のプラグイン

井上氏:Acon Digitalの機能だけでも、EDIUS Xにアップグレードしたいと思いました。私も長時間に渡るセミナー収録の仕事が多く、音を整理するだけでも毎回苦労していたので、これはとてもいいなと思いました。

粟島氏:それと、トランジション/ビデオエフェクトとしてproDADのVitaScene V4 EDIUS Editionをダウンロードできます。インテリジェンスなスムーストランジションが充実したプラグインです。

井上氏:YouTuberなどにぴったりですね。これまでのEDIUSにはないエフェクトで、これはいいなと思いました。

粟島氏:あともう1つ。NewBlue Titler Pro 7 for EDIUS Xをダウンロードして使えます。実はEDIUS 9でもTitler Pro 5を無料で提供しましたが、積極的にアナウンスしていませんでした。今回は、最新版のTitler Pro 7をダウンロード可能です。

テンプレートが豊富で、InstagramなどのSNS系テンプレートが充実しています。ゴリゴリの3D系タイトルも作れますが、シンプルで上品なテンプレートが特徴と言っていいでしょう。

アイデア次第で無限の活用法があるレイアウターモーショントラッキング機能を搭載

井上氏:今回のバージョンアップの中で、もっとも苦労された機能はなんでしょうか?

粟島氏:苦労したのはすべてですが…(笑)。特にレンダーサービスは根本からなので非常に時間がかかりました。UX的に試行錯誤を繰り返したのは「レイアウターモーショントラッキング」でした。この機能は、従来のビデオレイアウター内に、トラッキングエンジンを使えるようにしたものなのですが、既存の機能を活用して効率良く開発するために苦労しました。結果、「固定モード」と「追跡モード」の2つのモードを実装できました。

追跡モードはわかりやすく説明すると、人の頭上に名前のテロップがあるとして、人の動きと同期して動くようなムービングテロップの制作が可能になります。

固定モードは、動いている映像にピンを打って固定するような効果を想像していただければと思います。例えば、手持ちブレブレの状態で飛んでいる飛行機を広角気味の広めに撮って、飛行機のロゴに追跡モードのピンを打ちます。すると、飛行機は完全に止まって、背景だけ動く映像ができます。ユーザーさんの使い方次第で、さまざまなことができるのではないかと思います。

「レイアウターモーショントラッキング」の固定モード

井上氏:固定モードを使えば、スタビライザーとしても使うことも可能ですか?上下左右だけではなくてローリングなどの要素も検出できますか?

粟島氏:現段階では、位置の要素だけです。追跡モードも同様です。人が手前に近づいてきたら、テロップも連動して手前の動きに合わせて大きくすることはできません。今後のアップデートで、回転や大きさのトラッキングの要素も対象に入れたいと考えています。

井上氏:そこまでできるようになったら、スタビライザーとしても使えそうな感じですね。やはりカメラの手ブレも除去できればありがたいかもしれない。

粟島氏:レイアウターモーショントラッキングが、今回クリエイティブ系の中でももっとも目玉の機能かなと思います。

Workgroup版のドラフトプレビュー機能がPro版でも使用可能に

粟島氏:次の目玉ですが、NVIDIAグラフィックカードでH.265/HEVCエクスポートに対応しました。従来はインテルのQuick Sync Videoを使ってH.265のエクスポートは可能でした。しかし、弊社のターンキーシステムのプロセッサーはパワーのあるXeonなのですが、Quick Syncが使えないという逆転現象が起こっていました。それがnVIDIAのカードでH.265のエクスポートが可能になりました。

あとは、GUIを少し暗くし、さらに最適化を行っています。従来のEDIUSは暗くすると全体的にそのまま暗くなって見えにくくなっていました。今回は暗くした場合に、見えにくい線を書き直したり、全体的に細かく調整を行っています。

井上氏:これまでのバージョンは全体的に暗くなってしまい、ダイヤログがどこにあるのかわからない状態になっていましたからね。改善されてよかったです。

粟島氏:あとは、操作パフォーマンスの最適化を行っています。巨大なプロジェクトファイルのロードを最適化したり、セーブのスピード、クリップをプレーヤーにマウントしたときのレスポンス、マッチフレームジャンプ、シーケンスのタブをスイッチして、切り替える際のパフォーマンスであったり、タイムラインのスクロール、タイムラインスケールの変更、アンドゥ/リドゥなどを最適化しています。

少し触っていただければ、全般的にEDIUS快適になったことを感じてもらえていると思います。

井上氏:地味にありがたいですね。

粟島氏:それと、ドラフトプレビュー機能はWorkgroup(日本国内ではグラスバレー社のターンキーシステムのみに採用されているPro版の上位ソフトウェア)のみの機能がPro版でも使えるようになりました。ドラフトプレビューは解像度を下げて再生しますが、エフェクトと特定のフォーマットで非常に有効です。例えば、プライマリーカラーコレクションで少し重い処理をかけた場合も軽くなります。また、ProResやRAW、HQXものデコードが速くなります。ProResが速くなるだけでも、かなり効果的なのではないかと思います。

プレビュー時の画質は「Full」「1/16」「1/8」「1/4」「1/2」から選べます。例えば4Kを「1/2」で再生した場合は、4Kの1/4なのでHD相当の画質で再生します。止めると綺麗になります。なので、再生中はドラフトですが、止めるとハイレゾ表示になる感じです。

井上氏:ドラフトプレビューは、画面上のプレビューのみですか?ハードウェアのIOから出力した映像も同じ処理になりますか?

粟島氏:同じ処理になります。ドラフトプレビューは、使っていただけたら凄く良さがわかると思います。エフェクトが軽くなるのは大幅に使い勝手が向上します。個人的な一押しとしてはドラフトプレビューですね。

一番大切なことは作業効率の向上。バグも短期間で対応

井上氏:モジュール化してレンダリングエンジンがバックグラウンドで動いたことも同じことで、編集作業の効率化自体は、どんどん進化していますね。

粟島氏:そうです。やはりEDIUSの私たちが一番大切にしたいところは、凄い映像やスタイリッシュな映像を作ることももちろん重要なのですが、やはり作業効率が落ちないことです。レスポンスやデコードの速度を担保しつつ、素早く快適に仕事を進めてもらいたいのです。そういう意味では、安定性の確保や早期バグ修正も非常に大切だと思っています。

井上氏:派手めな機能追加も多いので、メジャーバージョンアップとしてふさわしい感じのプロダクトになったと思います。みんな、Xらしいなと印象を受けていると思います。

粟島氏:そう言っていただけるととてもありがたいです。今回は、プラグインの力を借りた部分もありますが、それも全部含めてEDIUS Xの10.00です。

ちなみに、海外では10.00をリリースして、その2日後には10.00のアップデーターをリリースしました。国内発売は海外よりも10日程度遅いので、日本のユーザー様が手に入るときには、実は10.00の修正版になりますね。

井上氏:なるほど。細かいアップデートを的確にしてくれるからこそ、ユーザーも安心して使える。それは大きい支えだと思います。最後に粟島さんからユーザーに向けてコメントをお願いします。

粟島氏:今回Xは、新しいアーキテクチャと新しい映像制作の未来に向けて、出発したところです。この新世代のEDIUS Xの変化というのに期待してもらいたいです。期待を裏切らない自信もありますので、ぜひこれからもご支援のほど、よろしくお願いいたします。

井上氏:なんといっても、貴重な日本製のビデオ編集ソフトですから。叱咤激励しつつ応援を続けていきたいと思います。今日はありがとうございました。

txt・構成:編集部


[ぼくらのEDIUS X] Vol.02