txt:西田 宗千佳 構成:編集部

今年のCES、を振り返る。特にAVに関わる業界のテーマはなにか?

International CES 2011が終了した。世界最大の家電ショーは、出展メーカー、製品、サービス、来場者など全てにおいて圧倒的だった。そこで本来の家電ショーであるCESの今年のテーマを探ってみた。テーマは大きく二分できる。「テレビのスマート化」と「カムコーダーの3D化」が2011年のテーマだ。

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パナソニックが開発と2011年中の発売を表明した「VIERA tablet」。アンドロイドOS採用、テレビと連携を行う機能を持つとされるが、詳細は未公開

まず一つ目の「テレビのスマート化」。もうすこし別の言い方をするなら、「携帯電話に起きたことがテレビにも起き始めている」と言った方がいいだろうか。 ご存じの通り、携帯電話の世界では「スマートフォン」への移行が進んでいる。アンドロイドやiOSといった汎用OSをコアに、オープンなインターネットのコンテンツの利用と「アプリ」と呼ばれる小規模ソフトの追加ができる形を整えることで、電話から真のモバイルコンピュータへと姿を変えた。

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ソニーエリクソンが2011年第1四半期に発売を予定している新スマートフォン「Xperia Arc」。すでに日本語で動作しており、春には日本でも販売を開始する

ハードウエアメーカーの動きは活発だ。LG電子やサムスン、モトローラといった、元々携帯電話を得意とするメーカーはもちろん、DELLやASUSといったPC系メーカーも一斉に、OSにアンドロイドを採用したタブレット端末やスマートフォンを主軸製品に据えている。中国系を中心とした、もっと小さな規模のメーカーは、デザインやクオリティ面で見劣りはするものの、積極的にアンドロイドを使ったタブレット端末を展示している。単にアンドロイドを使った機器を作るだけならどのメーカーにも可能であり、すでに特別な技術はない、というのが正直な印象だ。

アンドロイドをコアにした「スマートなデバイスの増加」が、今回のCESのトレンドであることは間違いない。

テレビの「スマート化」の隆盛を見る

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サムスン電子が展開する「SmartTV」機能。2010年中より機能としては提供を開始していたが、スマートフォンとの連携やアプリを買って追加する「マーケットプレイス機能」などを強化し、2011年はビジネスを本格化する

韓国系の2社である、LG電子とサムスンが打ち出したのは、そのものズバリ「SmartTV」というコンセプトだ。高度なウェブブラウザを核に、アプリケーションの追加やインターネットベースのビデオ・オン・デマンドを搭載、操作はスマートフォンやタブレットからも行える、というのが、両者の基本的な考え方である。

それに対して日本メーカーはどうか…というと、実はしっかりやっているのである。パナソニックは2008年より展開していた「VIERA Cast」を「VIERA Connect」に改称、よりオープンで積極的なテレビ向けアプリサービスに変え、今回はUstreamの視聴にも対応した。シャープは「AQUOS Net」という名称で2009年よりサービスを展開中。そしてソニーはGoogleと組んで、俗に言う「Google TV」こと「Sony Internet TV Powered by Google」を2010年10月より発売している他、BRAVIAシリーズにも、「Quriocity」「Hulu」をはじめとしたネット配信サービスと、米ヤフーが提供する「Yahoo! TV Widget」を搭載している。

どこもやっていることなのに、会場ではなぜか「韓国勢がSmartTVという潮流を作り始めた」という印象を持つ人が多かったようだ。それはすなわち、スマートフォンやタブレットで先行する韓国勢が、それと同じようなイメージの用語を使って「テレビの多機能化をはじめた」というマーケティングキャンペーンをはじめた、というのが実情だろう。これは非常にうまい作戦だ。

韓国勢2社は現在、北米のテレビ市場でシェアトップを占めている。その元となったのが、2008年に、バックライトにLEDを使った液晶テレビに「LED TV」という名称をつけて販売したことである。画質よりも薄さとデザインと買いやすさ、そして「新しいイメージ」を持ち込むことで、ビジネスを成功に持ち込んだ。ネット対応における「高機能テレビ」でも、同じ作戦を採ろうとしているわけだ。

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ソニーが「技術展示」として公開した、ヘッドマウント型の3Dディスプレイ。1280×720ドットの有機ELパネル2枚をディスプレイとして使い、目の前に二重像のない3D表示を実現する。商品化予定は公表されていないが、「このまま販売しても10万円を超えることはない」(ソニー関係者)という

それに対し日本勢は、すでにネット対応をすすめていることもあり、いくつかの新機能をのぞくと「3D」を軸とした画質方向での改善をアピールするものが多かった。昨年以降、東芝がグラスレス(裸眼)方式による3Dテレビの開発をすすめている関係上、ソニーもグラスレス3Dテレビやヘッドマウントタイプの3Dディスプレイを展示し、「うちもやればすぐできる」(ソニー関係者)ことをアピールする作戦に出ている。韓国勢が、特別な技術が不要で、低コストかつ「軽い」メガネが使える「偏光方式」重視に舵をきってきたこととは、対照的な流れといえるだろう。

なお、実はパナソニックも、3Dに関しては大きな発表を準備していたという。元々はCESにて「3Dメガネの統一規格」に関する発表を予定していたのだが、こちらは種々の事情によりキャンセルされ、会場や会見で見かけることはなかった。

カムコーダーの3D化が3Dの普及を促す?

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ソニーの3Dカムコーダー「HDR-TD10」。レンズも撮像素子も2つなら、処理系のLSIまで「デュアルコア」だという。フルHD/60iでの撮影が可能

テレビの側は、3Dが「新しいもの」ではなく、より画質の良いもの・楽に使えるものを目指すフェーズに入ったのに対し、スタートのフェーズに入ってきたのが「3D対応カメラ」だ。特に注目は、ソニーとJVCが二眼式・フルHD対応の民生用カムコーダーを発表したことだ。多くのカメラは「サイドバイサイド」での収録であり、低コストで小さくまとめられる一方で、横方向の解像度に不満が残る。ソニーとJVCの製品は、どちらもそれなりに大きなサイズではあるが、解像度の問題はない。他方で、低価格な3Dウェブカメラや2D-3D変換機能入りの2Dカムコーダーも登場している。「そこそこの価格で民生用でもあなどれない高画質」という製品と、「200〜400ドルだが十分な画質」が両立しているあたりが、現在の市場のバランス感覚といえそうだ。

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JVCのカムコーダー「GZ-HM960」。2D撮影用のレンズしかもっていないが、2D-3D変換機能と裸眼式の3D対応液晶ディスプレイを搭載し、その場の情景を3Dで残すこともできる、ユニークな存在

米Sony Electronics社長のPhil Molyneux氏は筆者に「2011年からパーソナルコンテンツの3D化が広がり、3Dのマーケットを後押しする」と話した。これはまったく同感で、下手をすると映画コンテンツ以上に「3Dテレビへの買い換え」を後押しする力を備えていそうだ。

2012年のInternationalCESは、1月10日から13日の予定で開催される。何が出てくるのかはまだ予想はつかないが、新しい技術や流れを掴むことができる事の展示会にまた来年期待したい。