音響経験が、映像の世界でも活かされる

小寺信良(ポスプロ関連担当)

今年のNABもなんだかバタバタしているうちにあっという間に終了である。最終日は午後2時には終わってしまうので、午後のまったりした余韻もなくパタッと終わってしまう感じがドライだ。

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Dolby自信のリファレンスモニター「PRM-4200」

さて最終日の今日は、Dolbyが作ったリファレンスモニター「PRM-4200」をようやく見ることができた。いや日本で見る機会もあったのだが、ずっと見逃していたのだ。

リファレンスモニターは、放送用のマスターモニターともまた微妙に立ち位置が異なる。このNABでいよいよ制作はRAWで撮るのが標準になりつつあるが、カラーグレーディングを行なうときに、正確な発色のモニターが必要になる。現状はマスモニでやるしかないわけだが、普通マスターモニターはカラーグレーディングをやるときに、1カットずつ表示をいじって細部を確認していくような使い方には向いていない。

一方このモニターは画面内に表示を出さず、すべて外付けのコントローラを手元に置いて調整する。暗部の階調を確認する際には明るくしてカーブをいじり、表示を元に戻して仕上がりを確認するといった繰り返し作業に特化している。

ただこれはフルHDのモニターなので、4Kソリューションの中でマスモニをどうするかという問題は未だ解決していない。これも早々に登場が期待されるところである。

4Kというモンスターにどう向き合っていくのか?

石川幸宏(デジタルシネマ&DSLR関連担当)

2012 NAB SHOWの大きなテーマの一つは予想通り、4K。REDの3D/4KシアターやソニーのF65/4Kワークフローに始まり、パナソニックの4Kカメラモックアップの発表、そしてこの会場を席巻していたキヤノンのEOS C500 /EOS-1D C。その他にも様々な4Kソリューションが紹介されていたが、よく見ると4Kの文字が踊るのは大手メーカーとレコーダー、グレーディング関係のブースのみ。

4Kは、やはり映画産業など大型映像を手がける分野の話なのであって、NAB(全米放送局協会)という放送ベースの団体が主催しているせいか、テレビ業界は4Kに関しては意外と冷めていて、特に4Kという動きはハリウッド中心で、今後の技術として関心はあるものの、現実問題としてテレビでの実用にはほど遠い。

日本ではフル4Kで全てを処理できる会社はほとんど無いと思われるが、4K、特に4K RAWやLogの処理を行うには、単に機材を買い揃えただけでは太刀打ち出来ない問題が多くある。

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こうした話になると毎度ハリウッドを引き合いに出すのは心苦しいが、ハリウッドと日本のポストプロダクションの決定的な違いは、オリジナルワークフローの技術開発ができる部門があるか?ないか?というところだ。今回各社の4Kのワークフロー展示で特徴的だったのは、メーカー内のブースにポスプロの製品、例えばオンセットデイリー(現場データ処理)のための製品やサービス、またオンセットグレーディングなどの処理システムの展示が多かったことだ。日本でもIMAGICAが同様のサービスを始めたが、実用4Kとなるとまだこれからである。

また4Kワークフローの問題で一番のネックになってくるのはデータ量の問題だ。今回キヤノンのブースでは、EOS C500で撮影されたデモ映像が4Kシアターにて上映されていたが、たった10分以内程度のこの作品も4Kとなる総データ量は、約20TBだったという。さらにポストに移行する際のグレーディング用のデータなど、諸々をコピーを含めると最低でも60TBのサーバ容量が必要になってくる。これをどう確保するのか?さらに現実問題として、撮影部にとってさらに大きな問題を生む。このデータをやり繰りするのには、これまでとは異なる新たな職種でありシステムである、DIT(Digital Image Technician)という部署と技術者が必要になってくるということだ。これは撮影データを管理しつつも、デイリーのデータのバックアップ取り、さらにポストへ持って行くための様々な下準備までを担当する部署だ。

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ハリウッドでは、RAW現像やLOG処理前提で作業するためにさらに、この部署が露出までを決めるという。しかし現実は厳しく、各社の4Kレコーダーはcodexと計測技研以外はまだ未完成品も多く、各社の様々な特徴もある。さらにはコピーするだけでも膨大な時間がかかるので、日本の撮影現場で今後どのくらいの時期に受け入れられるのかも未知である。しかし、4Kという言葉を全面に出しても良い時期が、確かに来ていることは明白。ポスプロとはいえ、研究開発をする作業が必要な時代に突入していることを強く感じた、2012 NAB SHOWだった。

映像制作をリードする人たちの邂逅

江夏由洋(High Resolution担当)

NABの大きな醍醐味は、最新のカメラなど多くの機材を実際に手にすることがですが、何といっても現場で活躍するクリエーターや撮影監督など、最先端で映像制作をリードする人たちのプレゼンテーションが挙げられます。Webを通じてそういった人たちの活躍を垣間見ることができますが、生の姿を見ることは非常に大きな刺激になります。もちろんプレゼンを聞くだけでなく、実際に話を聞いたり、質問をしたりできるのはNABという特別な場所が与えてくれる大きな魅力です。

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今回CanonブースとAdobeブースでは数多くの著名人によるユーザー事例紹介が、本人によって行われていました。私がまず参加したのは、C300のデモショートフィルム「Mobius」監督でもあり、ピューリッツア賞の経歴を持つビンセント・ラフォーレ氏のプレゼンでした。彼のワークフローのトレンドはズバリ「ネイティブ編集」です。C300の素材をそのままAdobe Premiere CS5.5のタイムラインを使ってネイティブ編集し、そのままAfter Effectsでコンポジットするという流れで、台本に至ってはAdobe Storyでオンライン上の制作者たちと共有編集したそうです。彼のワークフローはまさに次世代の編集スタイルといえるでしょう。

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個人的にはAfter Effects関連でのプレゼンテーションが面白かったです。まずTrapcodeのペダー・ノビ―氏と話をすることができました。彼の作った数々のプラグインは日本でも大変人気があり、多くの作品で使われています。今回はMirという新しいプラグインのデモを見ることができました。ペダー氏から直接デモを聞けるというのは、本当に貴重な体験でした。

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またWeb上で世界的に人気のあるVideo Copilotのアンドリュー・クレーマー氏のプレゼンを聞くこともできました。200人以上の人が集まるほどの大盛況ぶりで、おそらくアメリカ国内からもわざわざ聞きに来ている人がいたでしょう。日本でも彼のチュートリアルやプラグインを知っている人も多いと思います。今回はアンドリュー氏と食事も一緒にすることができて、現状のAfter Effectsの問題点などを話することができました。5月にはかなり高機能な新しいプラグインの発売があるそうです。

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また今回Canonから発表になった4KDSLR・EOS-1D Cのデモショートフィルムを制作したシェーン・ハールバット氏の講演も印象的でした。彼はあらゆる最先端の機器を駆使して映像制作のあり方を常に追求しているのですが、それらの機材は「作品」そのものの価値を高めるものとして捉えていました。

そんなシェーン氏いわく「われわれの映像制作のあり方は大きく変わった。技術が飛躍的に進歩したために、誰にでもチャンスはある」と。そして彼は機材の進化で支えられる制作者の可能性について、こう表現していました。「Sky is no longer the limit. It goes above stratosphere(もはや限界なんてない。宇宙まで行っちゃうよ)」なんか、とても僕らに勇気を与えてくれる言葉ですね。4日間を通じてNABの会場ではたくさんの有意義な出会いがありました。

あっという間の四日間?!意外に多い車ネタ

岡英史(ファイルベース関連担当)

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NABは映像機材の集大成と言うのは周知の通りだが、実はその機材の展示に自動車を使った物が多い。移動中継車両の展示もその大きさにビックリするほど!ま、それ以上に機材を展示するためのアクセサリー的な展示が実に目立つ。特にGoProは室内展示としてる為に余計にそのように見えるのかも知れない。

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この2台はGoProブースに在った物。車好きなら価値は解ると思うが、両方ともレプリカではなく本物GT40!この一台でも驚きの価格なのに今年は裏手にロスマンズポルシェまで展示してあった。この2台だけでどれだけ予算?しかも更に驚くのはこの希少価値のある車に何の躊躇もなくGoProを付けてしまうことでポルシェにはルーフに無理矢理レールを付けて何10台ものGoProが…。そして毎日、抽選でブース内でGoPro全製品をプレゼントと言うイベントも…。 okadat4DSC01066.jpg

スマートはおなじみNewTekのTriCaster号。中にはTriCaster 850と3PLAY、24inchディスプレイ2台がリアドア廻りに綺麗に組み込まれている。ちゃんと2名乗車のスペースか確保。オペレーターの移動も問題なし。

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もう一台は今年の定宿に飾ってあるストックカーの本物。これも日本じゃ絶対に見られない本物。カジノで稼いでこの車を持っていけ!と言うようにしか見えない。それよりもHootersがNASCARのスポンサーになってる事が不思議だが。

総評

NAB2012は思ったより人数が少なく、ゆったりと見に行ける感じだった。SONY・Panasonicの2大メーカーがちょっと元気なさ過ぎ。Panaに限って言えば、今年は終わった感じさえする。その中で1人ガチとも言えるのがJVC。展示数は少ないながら、既に国内の大手放送局、新聞社から引き合いが多いと聞く。さて、いろんな楽しみ方も在るNABは止められない。来年はどんな演出があるか楽しみである。

もっとノーバンダリーな世界へ

猪蔵(モンドガジェット関連担当)

NAB最終日。例年この日の下りは、午後は撤収モードで会場もまばれ…という言葉が似合う。なんと今年は14時には会場もクローズという。時間を切り上げての終了という…余韻無しで幕切れ。毎回夕暮れに寂しさと供に会場を後にするのだが、今回は、午後から立て続けに打ち合わせが入り、まだ終わらないNABが個人的には続いている。

折にふれ民生と業務用がシームレスに渡り合う様になると感じ言及してきたが、今年は企業側もそれを折り込みで新しいプロダクトやサービスを提案してきた様になった。

編集プロセスに置いてはハードウェアでは長大になる部分をソフトウェアでカバーし、開発に置けるカジュアルさはいっそう増すだろう。実際に4Kカメラというキーワードに置いても多くのベンチャーが参入してくる事は言うまでもない。

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Panasonicにおいては、4Kモックの中心部に置かれているコントロール部分は、スマートフォンが装着できる様になっている。あえてバリカムフォン(映像制作に特化したアプリ満載の…)をぜひ作ってほしい。効率化できる物はどんどん取り入れていく事も今後の時代を図る上では重要な事である。

さて来年はどんな物が我々の目の前に現れてくるのだろうか?そんな2013 NAB Showは、4月8日から11日までラスベガスで開催される。