text :PRONEWS特別取材班

今年で20周年を迎えた3ds Max。PC初の3Dアプリケーションとして産声をあげ、今日に至るまでの功績を、オートデスク メディア&エンターテインメント部門ディレクターであるケン・ピメンテル氏、シニア・プロダクト・マーケティング・マネージャーであるシェイン・グリフィス氏に伺った。

3ds Maxの歴史を振り返る

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左から、シェイン・グリフィス氏、ケン・ピメンテル氏

-3ds Max 20周年おめでとうございます。これまでの歴史をお聞かせください。

丁度20年前、1990年のシーグラフ、Maxは当初「3D Studio DOS」という商品名で、北米で初めてのPC上で動作する3Dアニメーション・パッケージとしてリリースされました。これは、ゲリー・ヨスト率いる6人の開発チームから成る、オートデスクとは別の独立した会社ヨスト・グループによって開発され、オートデスクがこれをパブリッシュする形でリリースされました。

1990年10月末、ハロウィンの時期に合わせて、記念すべき3d studio DOS Version1.0がリリースされました。これは、アニメーション、モデリング等の5つのモジュールから成っていました。この当時、シリコングラフィックスのワークステーション上で動作するCGアプリケーションは沢山ありましたが、MS-DOSの環境で動くPCアプリケーションは3D Studioだけでした。16ビットパソコンとMS-DOSの環境では、利用できるメモリー範囲が640Kバイトしかなかった制約等から、PC上での3Dアニメーション・ツールの開発は、まだ難しかった時代でした。

その後5年間、幾度かのバージョンアップを経て「ジャガー」と呼ばれる社内開発コードネームの下に進められた32bit対応のウィンドウズがリリースされた時に「3D Studio MAX」という商品名になったのです。これは1995年のシーグラフで発表され、翌年4月から出荷されました。

-「Max」のネーミングには、何か由来があるのでしょうか?

意外と知られていない事なのですが、今日は特別にお話しましょう。Maxという名前は、我々のマーケティング部門の、女性社員の息子の名前から由来しているのです。丁度新しい商品名を検討していた時期、女性社員が「うちの息子のMaxが」と電話口で話しているのをたまたま聞いたゲリー・ヨストが、「Maxか。すごく良い名前だね」と。その結果、商品名がMaxになったというエピソードが残されているのです(笑)

-この頃から、Maxは数多くのユーザーに支持されていく訳ですが…

それとほぼ同時期に、もう1つ重要な出来事がありました。「チーター」と呼ばれる社内開発コードネームの下で、キャラクター・アニメーション・システムの強化が行われました。これはアンリアル・ピクチャーズと呼ばれる小規模チームによって開発され、シーグラフで発表しました。この時オートデスクのブースでは、ウィンドウズ環境上で動くアニメーション・ツールとしては非常に高速な表示を実現したMaxをお披露目し、多くのユーザーを驚かせました。なにしろ、まだDirectXやOpenGLが登場する前の時代です。そこでオートデスクではハイジ(Heidi Development Kit )と呼ばれる独自のウィンドウズ環境でのグラフィックス開発キットを供給しました。

しかも、Undo機能を他の3Dアプリケーションに先駆け、いち早く採用したのもこの時期でした。また、多くの人が大変驚いた事の1つに、Maxが大変低価格だった事があります。覚えておられるかもしれませんが、当時の3Dアプリケーションの価格帯は7,000~30,000ドルが相場でした。20年前のその時代に、販売価格がたったの3,495ドルだったのです。そして現在でも同じ価格をキープしています。高価なSGIやSUNのワークステーションには手の届かない、多くのPCユーザーがMaxを導入し、こうしてユーザーが飛躍的に伸びました。そして、その数年後にはネットワーク・レンダリングを実現し、誰もが社内にある沢山のPCでレンダリング出来るように仕様を変更しました。

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シーグラフでのAutodeskブース

2000年、ご存知のようにオートデスクはディスクリートを買収しました。この時にリリースされたバージョン5は、初めてオートデスクの開発チームの手によってリリースされた、記念すべきバージョンでした。この時、商品名を3ds Maxに変更しました。この段階で、それまで長年開発に携わって来たヨスト・グループは、Maxの開発からは離れる事になりました。

その後、バージョンアップを重ねる毎に機能強化を行ってきました。バージョン8ではヘアー、ファー、ダイナミクス、クローズに加え、当時世界で最もポピュラーな人体リギング・システム「キャラクター・スタジオ」をリリースしました。「キャラクター・スタジオ」は多くのゲーム・タイトルで使用されました。さらに、バージョン9では64ビット対応を行いました。Maxはこのような歴史を経て、世界的に有名なCGアプリケーション・パッケージへと成長を遂げました。3ds Max 2011のリリースでは、1年間のダウンロード件数は30万件に達しました。

現在、全世界に推定約50万のMaxユーザーが、プロ&学生の垣根を越えて存在しています。さまざまな国のユーザーに対応する為、現在6ケ国語(日本語、韓国語、中国語、英語、フランス語、ドイツ語)のユーザー・インターフェイスをご用意しています。しかし、お蔭さまを持ちまして、Maxは日本市場において圧倒的な支持を頂く事が出来ました。日本では、多くの映画、CM、ゲームがMaxによって制作されているはご存知のとおりです。20年程前は、映画でVFXが使用される事はごく稀でしたが、現在ではVFXを使用していない映画を見つける事が難しい程になりました。コンピューターのテクノロジーと、デジタル・ツールの発展は日進月歩で成長を遂げましたが、Maxも同じように発展を遂げてきました。

新しい3ds Max 2011 の行方

-新しい3ds Max 2011についてお聞かせください。

Max 2011は、ネット上のフォーラムで多くの方から「過去のバージョンアップの中で、最高の出来」という評価を頂いております。大変パワフルなツールに仕上がったと、我々も自負しています。例えば、フォトショップを使う事なく、まるでフォトショップを3ds Max内で使っているかのように、ビューポートの上で直接2D/3Dを問わずペイント出来、レイヤー機能も備わっています。この新しいワークフローは、作業時間を大幅に短縮する事でしょう。また、複雑なシェーダー・ネットワークをコントロール&管理出来るようにマテリアル・エディターも強化しました。

ここ数年、テクノロジーが進化した影響でシーンに登場するオブジェクトはどんどん膨大になり、その反面、納期はどんどん短くなっていますが、それを扱うアーティストがクリエイティブな作業により集中出来る環境を整える事が重要なのです。最近、YouTubeで話題を呼んでいる「Iron Baby2」をご存知でしょうか?あの作品は、カナダのモントリオールに住むアーティストが3ds Maxを使用して、たった1人で、1~2ケ月で作ったものなのです。

この作品に代表されるように、3ds Maxは、必要な機能がすべて含まれた「箱を開けたらすぐに使える」パッケージなのです。それが他のアプリケーションとは異なる点でしょう。 英語では”ジェネラル・パーパス”という言い方をしますが、映画、テレビ、ゲーム、そしてアーキテクチャ等の幅広い分野のニーズに応えた、アプリケーションなのです。

「Iron Baby2」

-3ds Maxの未来を、お聞かせ頂けますか?

これまで、我々はMaxの未来の開発プランについて公表していませんでした。しかし、今回は特別に、日本の皆さんに向けてお話したいと思います。Maxは今年20周年を迎えた訳ですが、我々は、もう既に20年後の「40周年記念」を意識して開発を進めています。その為には、業界スタンダードとなる事を目指し、現在のMaxの仕様の持つ限界を打開する為、コアの部分からの仕様リストラクチャーを行う決断を下しました。

現在、「プロジェクト・エクスカリバー」という開発コードの下、今後5年間をメドに、3段階に分けた大規模な仕様のリストラクチャーを計画しています。ここに、Maxの未来があります。この3段階が終了した時、インターフェイスは改善され、パフォーマンスは向上し、想像もつかないような機能が実現するでしょう。これが「プロジェクト・エクスカリバー」なのです。

その1例を挙げますと、ビューポート・システムのコードを大幅に書き直しています。ビューポート・システムは、マルチスレッドのGPUアクセラレータ・エンジンによって、膨大なデータを瞬時に表示出来るようにします。ただ、ご心配はなさらないでください。我々は、ユーザーの皆様に「操作感やインターフェイスは一新されました。今までの事は全部忘れて、ゼロから新しいツールを覚え直してください」などという事は、決して言いたくありません。

そうではなく「これから3ds Maxは段階的に変革していきます。どうか、我々と共に、時間をかけて、歩んで行きましょう」と申し上げたい。それが、我々の哲学なのです。そして、20年後には3ds Maxは業界スタンダードとなっている事でしょう。現段階では、第1段階がほぼ完了しています。

-微妙な質問かもしれませんが、MayaとMaxの今後の位置づけについては、どうお考えでしょうか?

たしかに微妙なご質問ですね(笑)しかし、大丈夫です。オートデスクとしての姿勢を、ご説明致しましょう。現在Mayaは、映画のVFX市場で圧倒的なシェアを持っています。Maxは、まだそれ程ではありません。デザインやビジュアライゼーション市場では、Maxユーザーが大多数です。ゲーム市場では、MayaとMaxが50% 50%です。オートデスクの姿勢としては、ユーザーの皆様が、「ニーズによってどちらのツールを選択するか」という事を尊重しています。

例えば、ピクサーではMayaが主流ですが、マット・ペインティング部門ではMaxが使用されています。このように、どちらのツールが作業により適しているのか、選び頂く事が出来るのです。我々Maxチームとしての姿勢は、ブラー・スタジオ、プライム・フォーカス、「プラネット51」を制作したイリオン・アニメーション・スタジオなどの映画市場のMaxユーザーの意見に耳を傾けながら、映画市場でのシェアを拡大していきたいと考えています。同様にゲーム市場、デザイン市場の拡大も積極的に行っていきます。20年後の「40周年記念」では、是非、また取材にいらしてください。その時にお会い出来る事を楽しみにしています。

*7月28日(水)シーグラフ2010会場内の特設プレスルームにて、インタビュー