SIGGRAPHの数多くの製品展示や、研究発表

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MicrosoftのIllumiRoom、テレビの周囲の壁にプロジェクタでプロジェクションマッピング風の映像を投影し、より臨場感が増した映像体験、ゲーム体験をもたらす環境

最近の傾向としては、純粋にコンピュータを使って映像を作る技術だけではなく、より多岐にわたった応用が広がっている。また、学術系の研究者だけではなく、テーマパークで応用される次世代のアトラクションの基礎技術を研究するディズニーの研究開発部門Disney Researchや、研究成果が次世代のOSやゲーム機器に応用されるMicrosoft Researchからの発表や展示も多くみられる。また、アメリカを中心としながらも、カナダやフランス、ドイツ、オランダといった欧州勢、日本を含め、韓国、中国といったアジア圏からのCG作品や、研究発表も多い。インターネットの広がりによって、遠い国間での共同研究、共同制作なども見られるようになってきた。

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遠距間でコミュニケーションが可能な、SUITEABLE TECHNOLOGIES社 のテレビ電話移動ロボットBeam。会場のそこここで人の背丈で移動するBeamを見かけることができた。

SIGGRAPH 2013アワード受賞者

右がクーンズ賞のトロフィーを抱えるターナー・ウィッテッド氏

毎年、SIGGRAPHの中で、CG業界への貢献者を讃えて賞が発表される。賞の内容は、CG界のノーベル賞とも呼ばれるクーンズ賞、業績への評価が認められたアチーブメント賞、若手の研究者を奨励するニューリサーチ賞他、SIGGRAPHの運営に尽力したリーダー、CG系のアーティスト活動などにも賞が授与される。

■SIGGRAPH 2013アワード受賞者

今年のCoons Award(クーンズ賞)は、CG描画の基礎となるレイトレーシングの提案者Turner Whitted氏(現Microsoftリサーチ)が受賞。1980年代当時の非力なメモリの少ないコンピュータ環境においても、美しい反射や屈折、透明感のあるCG映像を作るのに貢献したアルゴリズム。当時の最新最速のコンピュータを用いて、640×480の解像度のCG画像を1コマ(フレーム)生成するのに約2時間の計算が必要だったほど。(Coons Awardでは、CG技術の研究と業績、CG界に重要な転機をもたらした功績が評価されるもので、歴代の受賞者を見ると誰もが納得する業界の重鎮達が受賞している。特徴として独特の曲線をもった一つ一つ違う形のトロフィーが授与される。2005年には当時東京大学教授だった西田友是氏が受賞している)

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受賞のきっかけとなった1978年の論文”An Improved Illumination Model for Shaded Display”の映像”The Compleat Angler”

■Artist Award

古くからコンピュータを使ったジェネレイティブアートと呼ばれる自動生成アートの大御所Manfred Mohr氏がArtist Awardを受賞した。http://www.emohr.com

Square Roots,1972-1973(Manfred Mohr氏本人のYouTubeチャンネルより)

Cubic Limit,1973-1974(Manfred Mohr氏本人のYouTubeチャンネルより)

■New Researcher Award

若手に贈られるNew Researcher Awardは影のアート作品や様々な実用寄りの研究で知られるNiloy J.Mitra氏が受賞した。http://www0.cs.ucl.ac.uk/staff/n.mitra/index.html

Shadow Art(本人のYouTubeチャンネルより。2009年の発表から)

VFX業界が抱える課題

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CG/VFX業界でのSociety関連サイト一覧

“The State of the Visual Effects Industry”パネルセッション

最近の興行成績の良いハリウッド映画のほとんどは、CG/VFX技術が駆使された大型作品が多い。大規模作品になればなるほど、特殊効果のカットも多く、1本の作品の特殊効果カットを爆発系の特殊効果や、デジタルダブルと呼ばれる人物表現など、得意分野ごとに各CGプロダクションで手分けして手がけることが多い。しかしながら、数ヶ月から2年といった映画作品制作ごとに、大規模な設備投資や、優秀な人材を大量に確保しなければいけない。そのような仕事の量や期間によって左右されるCG制作プロダクションは一部例外を除いて経営が厳しい傾向がある。

これは数百人規模のメンバーをかかえ、シンガポールやカナダなどグローバル展開している大規模プロダクションでも継続的に仕事が続かないかぎり安泰では無い。数ヶ月前までハリウッド大作のVFXカットを手がけていたプロダクションが経営破綻してしまう例もある。国や米国州によって補助金や税金の優遇制度があり、それらに頼って企業経営される場合もある。その場合、過度に値引いた価格での無理な業務の獲得に結びつきやすく、問題とする意見もある。

SIGGRAPH最終日に開催されたこのセッションは、最終日にもかかわらず参加者が多く、活発な意見交換がなされていた。パネルセッションとしての明確な結論は無かったが、Union(組合)と、Society(団体)による活動の必要性が議論されていた。レッドカーペットを歩く俳優や監督だけではなく、より安定したCGプロダクションの運営と、CG/VFX業界で働く人たちの地位や働く条件の向上が求められていた。

総括

最後に、今年も各種機能が大変充実したスマートフォン専用のSIGGRAPHアプリ”mySIGGRAPH”が提供され、自分のスケジュールや、カンファレンス会場の部屋の場所などを正しく把握できた。このアプリはsmudgeproof社のsymposiumというイベントアプリ開発プラットフォームによるもので、大規模イベントで専用アプリという組み合わせは定番となりつつある。

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smudgeproof社製SIGGRAPH専用アプリ

今年冬のSIGGRAPH ASIA 2013は、11月19日から22日に香港で、来年のSIGGRAPH 2014は2014年8月10日から14日までカナダバンクーバーで開催される。スターウォーズのILM他、数多くの大手プロダクションがカナダにオフィスを構え始めており、日進月歩の世界。次回のSIGGRAPHの内容にも期待が大きい。

txt:安藤幸央 構成:編集部


Vol.04 [SIGGRAPH 2013] Vol.01

WRITER PROFILE

安藤幸央

安藤幸央

無類のデジタルガジェット好きである筆者が、SIGGRAPHをはじめ、 国内外の映像系イベントを独自の視点で紹介します。