おかげさまでこの連載も第3回となる。過去2回は主に中国における日本向け映像制作現場の概略を紹介してきた。今回はいつもの逆の立場、日本国内企業から見たアジア映像制作と、映像ビジネスの実情を取り上げてみたい。

日本企業から見たアジア映像といえば、買い付けと日本語版の制作、配信、DVD販売というのが主なポイントとなるだろう。そこで今回は、株式会社マクザムの柳川由加里氏と、日活株式会社・チャンネルNECOの森ヶ崎正人氏にお話を伺ったので、そのお二人とのお話を中心に今回のコラムを展開していこうと思う。

韓流ブームは通過地点?

マクザム社といえば韓流で名高いのでその印象が強かったのだが、マクザム柳川氏にとっては「実は、当初華流(中国ドラマ)をメインに持って行ければと思っていました。韓流は、たまたまヒットに恵まれた感じなんですよ」ということであった。

マクザムが発売している中国武侠ドラマDVDの数々。「亞洲惑星」というレーベルでの発売 いずれもアジアTVドラマとしては異例の大ヒットを遂げている http://www.maxam.jp/

同氏によれば、香港返還の影響などで中国の娯楽TVドラマが飛躍的にレベルアップしたことを知り、なんとしてでもそれを日本に紹介したい、と思っていたとのこと。しかし、中国のTVドラマは基本的に大河志向のため話数が非常に多く、日本での「海外物映像といえば映画」という印象からも、なかなか企画が進まずにいたそうである。ところが、あるドラマのディレクターズカット版(全4巻の短縮編集版)に出会い、試しに買い付けてリリースしたところ予想以上にヒット。その後、何作品か中国ドラマを買い付けてカットして発売し、アジアのドラマのためのレーベルを作った段階で、たまたま韓流ブームが来た、ということだそうだ。

最近注目されているのが、こうした中国現代ドラマの数々 NHKで放送された「北京バイオリン」は知っている人も多い作品なのではないだろうか?

柳川氏は韓流ブームでの忙しさに追われながらも、元々の夢であった中国映像を日本に流行らせる準備を着々と進めていたという。中国映像でも、映画やディレクターカット版だけを入れるのであればもっと話は楽だったと思うと柳川氏は言う。しかし、どうしても中国ドラマを全編全カット入りで発売したいという熱い思いがあったようだ。柳川氏は「やはりノーカットの方が圧倒的に面白いんですよ。特に金庸さん原作の武侠ドラマは、登場人物も多いし、人物描写が細かくて台詞も秀逸、ストーリーも入り組んでいるので、絶対にカットできないな、と思ったんです」と、その思いを熱く語ってくれた。

やがて韓流ブームが利益を産んだことで会社上層部を説得、柳川氏の思いは実現。「射雕英雄伝」全42話、しかも日本語吹き替え、DVDにして11枚という超大作全編の日本発売にこぎ着けたのだった。

しかし、こうして満を持して発売された「射雕英雄伝」だが、最初は全く売れず、なんと初回販売が500セットにとどまった。ポジティブ思考の柳川氏をしても、一時は「これは責任を取って会社を辞めなければ行けないかも…。いや、会社を辞めてすむような金額じゃなかったんですけど(笑)」というような状況に追い込まれたという。

そこを救ったのが根強い映像ファン層を抱える「日活株式会社・チャンネルNECO」での放送であった。森ヶ﨑氏は当時を振り返ってこう言う。「作品を見て、とにかくこれはすごい、と。実際、放映してみても「射雕英雄伝」だけ視聴率やお客さんの反応が断然違うんですよ。何しろ(販売元のマクザム社だけでなく)弊社にまでDVD販売の質問がひっきりなしに届く状態で(笑)。これはものすごい波が来たな、と」

こうして映像ファンに認知された「射雕英雄伝」は瞬く間にヒットとなり、無事、DVDセットも中国ドラマとしては記録的な販売枚数を記録。その後も続々と中国武侠ドラマでヒットを連発、こうして、柳川氏の夢の第一歩は実現したのであった。

著作権への理解を得ることに苦労

とはいえ、こうした成功の課程で問題がなかったわけではない。成功の陰には中国映像ビジネス特有の様々な苦労があったようだ。

「射雕英雄伝」のヒットで期待されたのが次の「天龍八部」であった。この「天龍八部」は「射雕英雄伝」と同時期の買い付けで、契約時には制作段階であった。そこでマスターテープが届くと同時に日本でも吹替や字幕の制作を始めたのだが、8割方完成した時点に至って大変なことに気がついたのだという。

(C)BEIJING CATHAY MEDIA, All Rights Reserved. 金庸ドラマ最新作の「鹿鼎記」は、チャンネルNECOで絶賛放映中 また、4月3日よりDVD順次レンタル開始中、5月29日より順次DVD-BOXを発売

「ターミネーターのサントラに入っている曲が使われていたんですよ(笑)。向こうに聞いたら『大丈夫だよ、他の国でも何もなかったから』って」と柳川氏は振り返る。

もちろん日本ではそれで大丈夫なはずもなく、全編チェックの上、急遽音楽は差し替え。8割完成時での差し替えはコストも膨大であり、本当に大変な状況であった事は想像に難くない。柳川氏は今後の仕事のため、また中国映像ビジネス全体の発展のためにも「絶対に今後はちゃんと権利処理をしてね!」と繰り返して念を押したという。当然、中国側の返事も神妙であり「判ってる、判ってる大丈夫だから、ちゃんと確認するから」というものであったというが…。

「でも、その後の『神雕侠侶』ではハリーポッターの曲が…(笑)」

このハリーポッターの音楽の件では一見ちゃんとした音楽出版社と中国側の契約書まで出てきたという。しかし、その契約を翻訳してみると、中国国内での放送だけを許諾し、中国でのDVD販売に関してすら言及されていないものであった。もちろん、この「神雕侠侶」も全話音楽差し替えとなったが、用心して制作開始前に確認したため、コスト的にはさほどの被害がなかったのが不幸中の幸いだった。

しかしこれで終わらないのが中国映像ビジネス。さらにその次の作品「碧血剣」では、なんと、米大手映画制作会社の未公開映画の音楽が使われていたという。

「ほらほら、あったよーって…(笑)。権利元に、一体どうなってるの?って聞いたんですよ。そうしたら今度は『日本での放送、販売を許可する』っていう音楽出版社との契約書を送ってきたんです」

まさに3度目の正直。今度こそは何ら問題ない契約書だったため、音楽をそのまま使ってスムーズに制作が進んだという。中国の制作者たちだって、単に著作権の知識がないだけであって、悪意があって著作権法違反をしているわけではない。従って、柳川氏のようにちゃんと伝えるべき事を伝えれば、理解はされるのだ。中国映像ビジネスでのこつは、あきらめずに何度も言うべきこと、正しいと思ったことを伝えるということなのだろう。

将来の日中合作を目指して

クオリティのばらつきも、こうした海外映像ビジネスの問題だと柳川氏は言う。

「例えば『天龍八部』では貂(てん)というイタチみたいな動物が出て来るんですが、登場シーンは綺麗なCGで感動したんです。ところがそのすぐあとのカットではぬいぐるみになって、酷い時は手描きのアニメになっちゃう有様で…(笑)。『神雕侠侶』では、主要キャストと言えるくらい重要なキャラの巨大な鷲が、カットごとに大きさも質感も、顔すら違う(笑)」

こういうクオリティギャップは、日本版制作の際に、編集機上で再編集をかけて対応しているとのことだ。他には、共産圏ならではの検閲段階での台詞差し替えなどによる不自然さへの対応などもあり、台詞の翻訳では原作小説を当たってより原作に近い台詞に替えることも多いという。こうした膨大な手間を惜しまないからこそ、中国武侠ドラマの日本でのヒットがあったのだと思うと、頭の下がる思いである。

ここまで成功すれば、夢は実現したのかと思いきや、将来への夢はまだまだ続いているようだ。

柳川氏は「やはり、コンテンツホルダーとしては、日本企画、中国制作による日中合作の実現は夢ですね」と語る。

実は、現代物中国ドラマも数作品発売したが、なかなか日本での大ヒットとは行かなかったらしい。そうした現代ドラマでは、日本の力が生かせるのではないかというのだ。日中合作でドラマが制作され、それが中国だけでなくチャンネルNECOなどで日中同時放映され、そこから世界市場に向けて発信される日が、すぐそこまで迫っているのかもしれない。

WRITER PROFILE

手塚一佳

デジタル映像集団アイラ・ラボラトリ代表取締役社長。CGや映像合成と、何故か鍛造刃物、釣具、漆工芸が専門。芸術博士課程。