今回は前回に引き続き、中国で活躍する日系企業を例に挙げた話を展開したい。

これまでの連載で、意図的に視点をずらしてきた部分がある。それは中国ビジネスにおいては「政府との関連」が必須である、という点である。

もっとも、政府との関連といってもそんなに難しい話でも後ろ暗い話でもない。共産国である以上、そこを牛耳る役人に話を通し、彼らと友人となり、彼らを通じて政府機関の公的な援助を申請しなければ行けない、というだけのことだ。

もちろん、何のコネもない人間がそうした援助を得るのは並大抵ではないが、中国に進出しようというからにはそれなりのツテもあるわけで、そうしたツテを通じて面会を願えば、案外簡単に顔がつながるのもまた大中国のおおらかさ。いわゆる中国系の交流会に参加するだけでも、ツテは大きく広がることだろう。

今回はそうした点に着目して、中国の政府機関、特にいわゆる動漫基地(政府支援のアニメ産業の拠点)との連携などについて触れてみたい。

動漫基地と、連携

天津市のアニメゲーム産業協会(天津市動漫遊戯行業協会)。天津索浪数字の向かい側にある。中国では、こうした政府機関との協力が欠かせない
杭州のメイド喫茶ならぬ、メイドバーの風景。ここは杭州で一番旨いハンバーガーを出す店なので、もし杭州に足を運ぶ機会があれば寄ってほしい。
このメイドバーは、杭州西溪路にあり、現在工事中だが、近々「金田中カフェ」として再開予定のようだ

前回、天津索浪数字へと訪問した話は読者諸賢の記憶に新しいことと思う。前回のラストでも触れたとおり、その天津索浪数字でたまたま見かけた会社があったのだ。天津(Tianjin)市のアニメゲーム産業協会(天津市動漫遊戯行業協会)と、その関連企業がそれである。

実はこのアニメゲーム産業協会は、前回ご紹介した天津索浪数字の真ん前にある団体で、天津市の市政府の方針で設立された公的な組織である。何かとアニメやゲームが格下の存在に見られる日本的視点からはこうした政府の方針でアニメ作りというのも奇異に思えるかもしれないが、政府方針によるアニメ・ゲームコンテンツ制作体制は、実は中国だけでなく各国できわめて一般的な産業支援手法である。

たとえば前々回にご紹介した韓国などではネットゲームが国策としてこうした支援を受けて海外展開をしている。また、日本でもおなじみの米国ハリウッドなどは、そもそも対日独伊三国枢軸への対抗策としてディズニーのアニメ映画「白雪姫」の支援のため、ドイツからの避難者の手を借りて活性化し、現在に至るまで米国の国策として何かにつけて政府からアニメ制作に関しても多数の支援をされ続けているという現実があるのだ。

人材のきわめて豊富な中国においても、未来の産業はこうしたコンテンツ産業であると考えられている。そのため、中国でも他国に負けず、最近話題の中国映画だけでなく、アニメゲームなどへの公的支援も非常に盛んなのである。天津でのアニメゲーム振興協会でのこうした活動も、そうした流れの一環なのである。

もちろん、こうした流れは、天津だけにとどまらない。たとえば上海(Shanghai)に近い街、杭州(Hangzhou)で年に一度開かれる「中国国際アニメフェア」は世界的に有名であり、このアニメフェアには、日本企業をはじめ世界中から多数の企業が参加している。こうした公的支援は、日本的な形式的な箱物支援だけでなく、街の空気そのものをも変えるような徹底した全面的支援である。

この杭州は私の所属する小沢塾の先輩が外国人講師として大学勤務していることもあり、縁浅からぬ街なのだが、この街に行くと学生たちがごく普通にアニメの話をしているだけでなく、中にはコスプレなどをしている子もいて、面食らう。

これは、単に杭州市内にある二つの大学のどちらにもアニメ漫画関連の学科があるというだけでなく、昔から日本製アニメの下請けをこの街で行っていたため、街の産業としてアニメが認知されている面が大きい。たとえば、この杭州の街で知人の経営するジャズバーにおいても、メイドの格好をしたウェイトレスがお酒のサーブをしてくれるのだが、これも街の空気をつかんでのことだという。この、杭州の街は、今では日本からだけではなく、世界中からアニメ制作の受注を受ける、一大アニメ制作地となっているのだ。

日本の政府支援の類が、箱物ばかり作るだけで実際には土建業界への支援にしかなっていない現状とは大きく異なり、こうした中国における政府支援は、制作現場への実効性のある支援になっていると言えるだろう。

また、私が実際に訪れた中では、杭州よりもさらに内陸の土地である古都、西安(Xian)でも動漫基地の建設が進んでいて、こちらでも着実に入居企業の活躍が始まっている。この西安にも日本企業が入っているので、これもいつかご紹介できれば、と思う。

中国アニメ制作の未来

さて、こうして中国へ進出した制作企業にとって、中国市場開拓を目指すというのは宿命とも言えることである。

今はまだ、人件費の安い中国で制作したものを日本に売れば利益が出るが、近い将来、中国の近代化がある程度進んだ段階で中国の人件費が跳ね上がり、こうしたビジネスモデルが崩壊することは明白であるからだ。また、閉鎖的で独特の商習慣の多い日本経済の将来性についても、正直なところ疑問は多い。そうした将来性に疑問のある市場だけをターゲットに制作を続けるのは、クリエイターとしては不安が大きい。

前回紹介した天津索浪数字の制作したサンプルCG。単に受注を受けるだけでなく、世界に向けたアニメ制作を意識した着実な実力を持っていることがわかる

それに対して、中国は、2008年現在で一億二千万人を超える富裕層を抱える一大市場である。携帯電話の普及台数だけでもすでに六億台。とんでもない規模の巨大市場が目の前にあるのだ。これを逃す手はない。

しかし、中国市場開拓と言っても、そう簡単なことではない。まずは、文化の違いの問題がある。

中国は多民族国家だけあり、文化のズレには許容範囲が大きいが、それでも、日本流をただひたすらに押しつけていては、売れるものも売れなくなる。実際、日米のネットゲームが中国市場で大きく外した原因は、自国文化そのままで、言語面以外のローカライズを一切行わなかったところにあるといわれている。

次いで、参入障壁の問題がある。

中国における言論の自由は、実は、日本で多くの人が思っている以上にある。正直言って、日本特有の各種団体の権益主張や自主規制などの事実上の規制を考慮すると、日本よりも中国の方が、全体的に自由があると言っていいだろう。

とはいえやはり、出版や放送に必要な公式な認可は日本以上に下りにくい。前述の政府支援の問題ともあわせ、どうしても現地でのパブリッシュに関しては、現地企業の手を借りる必要性が出てくるだろう。これは、単に外圧を掛ければ済むという話でもない。こうした部分で自国産業を優先するのは共産国でなくとも当然の独立国の権利であるからだ。こうした部分に日本企業が本格的に乗り込むのは、相当大変な道のりが予想される。特に、日本では、日本政府からの支援が充分とは到底言えない現実があるため、この道のりの険しさはより厳しいものとなるだろう。

ここで考慮すべきは、先行他国の中国コンテンツ産業参入の前例だろう。直接的に出版放送に食い込むのが困難でも、政府との連携方法などによっては、中国市場に食い込むことが可能なのだ。

たとえば、ネットワークゲームにおいては、韓国は中国市場に早くから着目し、中韓の政府間協定を結ぶことでビジネスに参入、一時期は中国ネットゲーム市場の九割を韓国系が占めるという状況にまでなったという。

中国市場を狙う日本のアニメ産業が、この先例に習わない手はないだろう。次回はここに注目し、中国で爆発的に盛り上がっているネットゲーム制作企業について述べたい。

WRITER PROFILE

手塚一佳

デジタル映像集団アイラ・ラボラトリ代表取締役社長。CGや映像合成と、何故か鍛造刃物、釣具、漆工芸が専門。芸術博士課程。