『戦場でワルツを』(WALTZ WITH BASHIR)
(c) Bridgit Folman Film Gang, Razor Film, Les Films d’Ici, 2008.
Distribution by Matchfactory, Pandora Film.
Image courtesy of CinePostproduction.

一番の肝はカラーかもしれない?

映画やCMなど映像制作においては、撮影素材のカラーとトーンコントロールをしてシーンの雰囲気作りを行うカラーグレーディング作業をVFX・コンポジット作業とは別に行うことは、かなり一般的になってきた。だが、アニメーション制作となると、カラーグレーディング作業はまだまだという印象だ。あらかじめ決めた色を使用してペイントし、エフェクトを追加していくアニメーション制作では、編集を終えた段階で最終出力に移り、最終段階でカラー調整を行うようなワークフローになっていないためだ。確かに、ペイント色のマネジメントをしておきさえすれば、どこで制作しても一定レベルのアニメーションが制作できる。しかし、コンテ段階のストーリー作りで差別化するほかは、何枚線画を描き、何枚塗るかということで作り込まれて来たと言ってもいい。

もし、アニメーション制作のワークフローのポスト作業として、カラーグレーディング工程が追加されるのであれば、アニメーションで表現できる幅を確実に拡げられる可能性があるのではないだろうか。もちろん、アニメーション制作の限られた制作費の中でどう実現していくかという課題は残るが、カラーグレーディング工程を追加して作品全体におけるシーンの雰囲気作りをすることは、1つのアニメーション表現手法として検討してもいい段階に入って来ているのではないか。

映画『戦場でワルツを』とカラーグレーディング

イスラエルのアニメーション映画『戦場でワルツを』(2008年、アリ・フォルマン監督、原題:Walts with Bashir、配給:ツイン、博報堂DYメディアパートナーズ)で行われたカラーグレーディングの例を紹介しておこう。『戦場でワルツを』は、イスラエル人のフォルマン監督自身がイスラエル軍として従事した1982年のレバノン侵攻を題材に、記憶から抜け落ちてしまっていた当時の出来事をかつての戦友達を取材しながらとりもどし、自分自身の内面の真実を見つけていくドキュメンタリー・アニメーション映画だ。2009年春には、アカデミー賞外国語映画賞にノミネートされ、ゴールデングローブ最優秀外国語映画賞を受賞している。日本では、2009年秋から順次、シネスイッチ銀座、梅田ガーデンシネマなどで公開される。

この『戦場でワルツを』で、シーンの雰囲気づくりや演出に欠かせないカラーグレーディングを行ったのが、ドイツのポストプロダクションCinePostproductionだ。テレシネ、編集、VFX、コンポジット、MA、フィルム出力などのポストプロ業務をワンストップで提供しており、ステレオスコピック制作やRED ONEを使用した4K映像制作、DCP(デジタルシネマパッケージ)オーサリングなど最新制作ワークフローにも対応していることが特徴だ。このCinePostproductionでシニアカラーリストを務めるセバスチャン・グース氏が、『戦場でワルツを』のカラーグレーディングを担当した。

CinePostproduction セバスチャン・グース氏

アニメーション制作においては、ワークフローにカラーグレーディングを取り入れられるだけの費用も時間もないというのが現状ではないだろうか。しかしグース氏は、「アニメーション制作においても監督の意図するシーンをより効果的に生み出し、作品性を向上させる作業として重要だ」と話す。CinePostproductionでは通常、90分番組ではカラーグレーディングに5日程度をかけているが、今回、カラーグレーディングにかけた時間は、わずか2日半ほどだったそうだ。

「アニメーションは実写とは異なり、制作段階で色などをコントロールして作られている。カラーリストの役割としては、多少の修正を加えてシーンに味付けを行うことが中心となる。『戦場でワルツを』ではカラーグレーディング部分だけを担当したのだが、すでに編集が終わった段階の素材が持ち込まれてきており、そのシーンをどんなルックにするのか、シーンの一部分を作り込んでいくのかを話し合いながら作業を進めていった。通常の半分の時間で済んだことは、色をコントロールされたアニメーション作品であったということが大きかった」

『戦場でワルツを』のカラーグレーディングはAutodesk Lustreを使用して行っている。CinePostproductionではオートデスク製品を中心にシステムを構築しているが、グース氏は「常に最善のツールを提供してくれているということが大きい」と話した。「特にエフェクトやカラーグレーディング部分については、使いやすく、最適な製品であると感じている。また、各製品間の相互運用性も高く、メタデータの共有化による作業効率の改善も可能であり、私たちにとっては制作の柔軟性を高めてくれるものであったことから導入しています」

短期間でのカラーグレーディングではあったが、作業が大変だったシーンもあるとグース氏は話した。狭い通路を戦車が通っていくシーンでは全体のトーンが抑えられていたようで、より影の効果を高めるためにマスクを切り直し、上から光を当てるように照明の設定をやり直したのだという。また別のシーンでは、より緊迫感を与えるために、カラーグレーディング作業を応用して、ヘリコプターの影を追加することも行ったりもしたようだ。

表現の深さを図るカラーグレーディング

作品性を向上させるカラーグレーディングだが、CRT、薄型液晶ディスプレイ、プロジェクターなど、作品を表示するデバイスによって色味が異なってしまうのも事実だ。グース氏は、最終的な表示デバイスを考慮しながら、しっかりと制作環境のキャリブレーションを行ってから、カラーグレーディングの作業にとりかかることが重要だと話した。その上で、時間もコストもかかるが、アニメーションにおいても作品性を上げる上で欠かせない作業になると話した。

「カラーグレーディングは、作品における音響効果を追加するのと同じくらいに重要なものだと言えます。音響効果は、シーンの中でおきるアクションを音によって効果的に伝えています。カラーグレーディングは、暖かい感じなのか、冷たい感じなのかといったシーン全体の雰囲気を伝えるだけでなく、さらに画面の一部のカラーを変更してよりシーン全体の効果を引き出す役割としても重要です。それは、画像から生み出されるイメージやフィーリングをコントロールするほどの力を持っていると思います。アニメーション作品にも、カラーグレーディングをどんどん活用してもらいたいですね」

ワークフローに短時間の作業工程を追加するだけで、そのシーン表現の効果を増すことが可能になるカラーグレーディング。アニメーション表現を深めるためにも、注目してもらいたい。

WRITER PROFILE

秋山謙一

映像業界紙記者、CG雑誌デスクを経て、2001年からフリージャーナリストとして活動中。