映像を初めとするコンテンツ産業に関わっていると強く感じるのが、アジア諸外国が日本に追いつき追い越しつつあるという点ではないだろうか?もちろん、この点こそがこの連載のメインテーマでもあるのだが、近年、その勢いがさらに加速しつつあるという実感を持たざるを得ない。従来からこの連載で繰り返し申し上げているとおり、日本と他の新興アジアコンテンツ大国との比較で、もっとも異なるのが、政府・行政からの支援の有無である。中国は映像、特に特撮映像とアニメに大きく力を注ぎ、韓国はネットゲームへの支援を強く行っている。

これに比べ、先般、日本でもようやくアニメ支援のプランニングが始まったと喜んだら、出来たプランはアニメの殿堂と称して、ビルと特殊法人を建てるだけの従来型の建築業者への支援となるハコモノ行政であり、アニメ業界には実質的には一円の支援も無いものであった。これではますます、日本のコンテンツ産業の地位は落ちてゆくばかりである。では、具体的にはどうすればよいのだろうか?

私は先日小沢塾を卒塾したのだが、その関係で、政治家や官僚などの非業界人に具体的な支援策を聞かれることがある。その際に説明するのが、中国や韓国など、他国での政府・行政支援の実態である。

今回は、この点に着目して、他国では具体的にどういった支援を行っているかを書き記してゆきたい。まずは、中国のアニメ支援をご紹介する。

中国のコンテンツ産業への行政支援のひとつ 撮影村

中国のコンテンツ産業への行政支援で、何よりも目立つのが、制作場所の提供である。以前、連載第三回でご紹介したような中国武侠映像、いわゆる「華流」では、島を丸ごと撮影場所に提供したような、いわば特撮のための島まで存在している。島全体や地域全体を撮影地域にすることで、火薬やワイヤーアクションなどの危険機材使用の際の安全を図れるほか、映画・映像にとっては欠かせない情報機密も保つことが出来、また、大規模撮影につきものの交通規制や上空を通過する航空機のスケジュールの把握などが必要なくなるなど、メリットは非常に多い。

半面、そうした大規模撮影地域は、必然的に都市部から離れた場所になるため、スタッフやキャストなどの交通の便の確保や、宿舎食料燃料電気などの確保には地域行政機関との連携が不可欠となる。

実は、こうした島や、地域全部を一種の映像特区として撮影場所にする手法は、そもそもアメリカがハリウッド創生期から行っていた手法であり、特に目新しい手法ではない。例えば、バビロンの街並みを丸ごと作り上げた事で知られる、映画の父グリフィス監督の「イントレランス」や、日本でも大ヒットをした「ベンハー」などが同様の手法を大規模に行ったことでも有名だ。中でも「ベンハー」は、何度もリメイクされ、そのたびに戦車競技の競技場や街並み丸ごと建設するなどの大規模セット設営を行ったことでも知られている。

こうしたハリウッド的な地域政策としての映像制作手法を持ち出してきたところは、良い着眼点だと言えるだろう。

この連載の本題であるアジアに目を戻してみれば、中国以外には、韓国も韓流映画のための同様の政府支援地域があり、政府から提供された土地で大規模セットによる撮影が行われ、撮影終了後は、それぞれの作品名を関した観光名所として広く開放されている。

通常であれば壊してしまう撮影セットを観光に使うという手法は、新しい村おこしの手法として注目もされているところだ。とはいえ、土地の足りない日本では、こうした撮影村の提供は極めて難しいだろう。また、映像コンテンツがいくら日本の主要産業の一つとはいえ、一地域による行政丸抱えのような制作状況は、そこまでの一方的な政治的支援を受けて良いものかどうかという問題もあるだろう。

実は、中国でも、湾岸地域の発展と共にこうした大規模撮影場所の不足が言われ始め、さらには一部特撮業界への支援偏重だとして、こうした撮影村の提供を控える動きが出始めているのも事実である。中国では、撮影だけではなく、映像制作場所の提供をも行っているのだ。

中国が国策で進める動漫基地とは?

西安の動漫基地外観。古い歴史ある街並みの中に、突然現れる近代的ビルは面白い
動漫基地内部。アメリカ的CG開発室スタイルの、お洒落な内部だ
大学生のOJTのため、大型講義室も存在している。イベントなどもここで行われるそうだ
動漫基地に入っている企業。ここの仕事は上階にある支援団体の紹介で取ってくることが多い

中国の映像制作場所の提供の中でも、もっとも日本人が衝撃を受けるのが「動漫基地」の存在ではないだろうか。動漫とはアニメーションのこと。基地はそのまま基地。つまり、国策によるアニメーション開発のための基地が、動漫基地なのだ。

中国では、IT特区として、日本の一つの市町村が入ってしまうような大規模な新興地域全体がソフトウェアパークとして企業に安価に提供されているが、その亜種として、アニメ専門のソフトウェアパーク「動漫基地」が設定されることが増えてきたのである。

動漫基地の特徴は、まずその立地である。動漫基地は中国各所にあるのだが、いずれも、従来の都市部から離れたソフトウェアパークの中ではなく、地方中枢都市の都市部やその近郊に建てられ、近隣にコンテンツ関連学部を持つ大学があることが多い。

どうしても24時間態勢になりやすいアニメ制作には、生活に便利な都市部での立地が必須なのだが、動漫基地が都市部にあることが多いのは、そこを十分に理解した設定と言えるだろう。また、美大出身者をそのまま学生時代からインターンとして制作に参加させるためのOJT(オンジョブトレーニング)の場としての役割を考えると、大学に近い場所に設定されることが多いことも納得が行く。

中国企業のみならず、海外からの進出企業であっても、こうした設備を数年の間極めて安価に使うことが出来るのが、動漫基地なのだ。動漫基地への参加企業へは、地元学生の雇用義務や納税義務などが存在しており、ただ一方的に政府から税金が垂れ流されているだけではない点にも注目したい。まさに、産学行政の連携が上手く行っている好例と言えるだろう。

また、動漫基地では、単に、企業向けの安価な設備が政府支援で提供されているだけではない。全ての動漫基地で、政府主導による企業向けの支援団体もここに入っており、中国内外の企業や政府団体、各地の大学などと、仕事や人材のやりとりを仲介している。日本の、ただ作っておしまいのハコモノ行政との違いは、まさにこの仲介や継続支援部分にある。ここが強いからこそ、中国のコンテンツ産業は急激に強くなったのだと実感できる。

日本においても、こうした、きちんと企業の将来から業界設計、人材育成までトータルに見据えた、きちんとした政府支援があればなあ、と、強く思わざるを得ない。

WRITER PROFILE

手塚一佳

デジタル映像集団アイラ・ラボラトリ代表取締役社長。CGや映像合成と、何故か鍛造刃物、釣具、漆工芸が専門。芸術博士課程。