2010年も前半が過ぎ去った。遺憾ながら世界中で停滞した経済状況であり、日本でも政権交代後の与党内政変が起こり、世の中決して景気が良いとは言えない。オタクの世界も同様であった。

しかしながら、いくつか希望も見えている。それは、中国などBRICs諸国のアニメ制作も新興国故にそうした停滞した景気の影響を色濃く受け、未だに日本のアニメを駆逐するところまでは成長していない、という点だ。幸か不幸か、まだ日本にもこの敗戦間近な状況をひっくり返すチャンスが残されているのだ。

見えてきた今年の動向

アジアに限らず今年前半の世界のオタク市場を追いかけてみよう。

まず、今年流行すると予想されていた、スマートフォンによる3G携帯コンテンツの世界的な流行が遅れている点が非常に気になる。半年前の予想では、今頃世界中の携帯で萌えキャラがうごめいている楽しい状況になっているはずだったのだが、残念ながらそうなっては居ない。

世界的に見ればスマートフォン向けゲームアプリの種類は出ているのだが、いかんせん個々のソフトの本数が出てない。現状、どのゲームも軽量かあるいはPCゲーム移植などで、スマートフォンゲームならではのおもしろさを一目で理解できるようなキラーアプリも存在しない状況だ。ゲームアプリ以外でも同様で、ネットで携帯電話の追加機能を購入するという商行動にユーザーが慣れていないのが何よりの原因と思われる。

iPhone4の最大の目玉であるiMovieが、あえて標準ソフトではなくアプリとして安価に別売りされたのも、ネットでのアプリ購入に慣れさせ、この辺の起爆剤となることを狙ってのことだと考えられるが、果たしてどうなることか?

また、iPhone以外のスマートフォンがお世辞にも成功しているとは言い難いのもこの問題を大きくしているだろう。強烈な世界不況下で普通の携帯よりもかなり高額なスマートフォンが売れにくい状況ではあるが、上海万博でイケイケの中国ですらそれらがあまり売れてないのは深刻だ。そもそもプラットフォームが広がらなければアプリなど売れるはずもない。

そんな中、さらに追い打ちを掛けるように、米国大手電話通信会社などでは、スマートフォンの定額パケットを中止しパケット料に制限を掛ける動きが出てきた。これではますます3G携帯コンテンツのブレイクが遠のく。

今年の後半には中国などのBRICs向けスマートフォンが市場に出そろうので、スマートフォン市場の動きは全てその後になる。しかし、各国携帯キャリアは政治状況に振り回されやすい状況で、諸手を挙げて強気に開発に乗り出すには、どうにもやりにくい。

また、同じく今年の後半以降、ニンテンドー3DSなどの携帯型3Dゲーム機の登場で3Dゲームが一気に発売されるかとも思えるが、はっきり言えばこの辺はまだまだ未知数である。

実は既に現状の制作現場では3DCGによるゲームグラフィック制作になっているため、立体視化そのものにかかるコストはさほど大きくなく、現場対応もしやすいとは思われる。もともと携帯ゲーム機の開発コストは安めの事が多いため制作コスト上昇が気にはなるが、2Dドット画が3DCG化した頃よりはコスト上昇は少ないだろう。

ただ、問題は肝心の売れ行きの方だ。立体視とはいっても、裸眼立体視は個人差も大きく、特に子供に対しては目の負担も大きい。ゲーム性の安定化は難しく、売れ行きに影響するだけの立体視ならではの特性を出すのも難しい。そもそも、まともに数分間以上立体視が出来る人は7割程度で、2~3割の人は、そもそも立体視が出来なかったり、強烈な眼精疲労ですぐに立体視が不可能になってしまう事が既に明らかになっている。

先般話題になった立体視映画「アバター」などでも、こうした個人差や体質によって立体視が出来ない人が一定数居ることが確認されており、万人受けが求められるコンシューマゲーム機の世界でこの欠点がどこまで受け入れられるかは全く未知数と言えるのだ。 また、実は、ゲームでも映像でも、今のところ、ここのオブジェクト毎の立体視の飛び出し具合は機械的なままだと違和感があるために手作業でメリハリを付けられており、この辺のノウハウ蓄積がない今年はコンテンツや機材毎の立体具合の違いにも戸惑うことになりそうだ。3Dゲーム機の話題性は高いだろうが、制作側からすると少し様子を見たいところがある。

ゲームは、体験型へ進化する

私が注目したいもう一つの目玉は、体験型家庭用ゲームの普及だ。SONYやMicrosoftXbox360などへ向けて発売された体験型の家庭用ゲーム機オブションは一見Wiiの後追いだが、精度は先行するWiiに比べても段違いに上がっており、ゲーム性のコントロールがしやすい。制作側から見て、明らかにゲーム制作もしやすく面白いものが作りやすくなっている。

中でも先のE3で発表されたPS3の「PlayStationMOVE」モーションコントローラはシンプルかつ直感性の高いものであり、対応ゲームもその精度を生かしたものが想定されている。先行する家庭用体験機「ニンテンドーWii」の印象があるため、これらの機器はE3での発表でもいまいち注目を集めていないが、「最新」よりも「おもしろい」が優先されるのがオタクの世界だ。実ゲームのプレイアビリティを考えればこうした体験型家庭用ゲームオプションは案外伸びるのではないだろうか。

また、もう一つ。最新機材に触れすぎているとついつい忘れがちだが、今年11月の地デジ化で、日本でも一気に一般家庭でのHD化が進んでいる点も見逃せない。HD向けリメイクや、HDならではの横長画面を生かした物語性の強い画面構成のアニメ制作など、新規映像制作には大いに期待したいところだ。

WRITER PROFILE

手塚一佳

デジタル映像集団アイラ・ラボラトリ代表取締役社長。CGや映像合成と、何故か鍛造刃物、釣具、漆工芸が専門。芸術博士課程。