MacBook Proと登場したThunderbolt

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日本時間の2月25日、2011年モデルのMacBook Proが発表されました。外見デザインは従来通りではあるものの、ハードウエアに関しては新インターフェースThunderboltが実装されました。この聞き慣れないThunderboltとは何者なのでしょうか?Wikipediaによればこんな特徴が記されています。

  • CPUメーカーIntel社とApple社が中心になって開発。
  • 汎用性を持たせた伝送路として設計されているので、USBやイーサネットをThunderbolt上に載せることも可能。
  • USBインターフェース以上の10Wまでの電力を供給可能。
  • ハブ装置を介した並列接続に加えて、直列接続のデイジーチェーンにも対応。
  • 現状のバージョンでは10Gbit/sec、コネクタはMiniDisplayポートを使用。今後のバージョンアップの計画により、更なる転送レートの向上が見込める。

映像業界でも、メーカー各社がThunderboltへの対応を予定していると聞きます。AJA、Avid、Blackmagic Designなどがその意向を表明しているとの情報もあります。そんな追い風を受けて、単なるAppleの一製品に限って搭載された小さなインターフェースというよりも、この先何年かにおいて制作現場における強力なアシスタントになってくれる可能性を私は感じています。現状ではMacBook Pro以外でThunderboltを受けとめてくれる製品は限られています。しかし、コンパクトでパフォーマンスに優れたこのインターフェースは、大きな転送レートを必要とする映像業界では頼もしいインターフェースに違いありません。

制作現場での使用イメージ

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Thunderboltは運用面で考えると、これまでMac Proで搭載されてきたPCI Expressバスと考えることができます。使用用途に応じてバスの転送レートを使い分けられるこのインターフェースは、いわゆるボードと呼ばれるPC用の拡張基盤を実装して、Mac Proに純正以外の機能を盛り込むことができます。映像系でポピュラーなのは、ビデオI/O用の拡張カードでしょう。AJA、Blackmagic Designなど各社から専用のボードがリリースされています。

これまではその形状から、基本的には専用のバスを持っているMac Proでしか使えませんでした。そのため、ビデオI/OをMacでやりたければMac Proを用意するしかないという選択肢しかありませんでした。そのことはハイエンドの制作環境を手に入れるためにはMac Proしかないとの認識につながっていました。そんな背景があったところに登場したのがThunderboltです。

Thunderboltに対応した機器は、MiniDisplayポートケーブルを使えば簡単に接続することができます。そのコンパクトで壊れにくいコネクタは業務用途でも信頼性があります。現状ではコネクタにロック機構は付いていませんが、もし標準のDisplayポートが使えるようになれば簡易的なロック機構は使えるかもしれません。コンパクトで接続しやすいインターフェースは、USBのように手軽に誰でもが使いやすい使用感を提供してくれます。

Thunderboltはどんなイメージで使われていくでしょうか?現在対応を表明しているメーカーはストレージ系の数社に限られています。はじめに登場するのはHDDのインターフェースにThunderboltを搭載した製品と見ていいでしょう。これまでFireWireやeSATAを使っていてその転送レートに満足していなかったユーザーは、Thunderbolt対応のHDDへの乗り換えに期待しているのではないでしょうか。

これまではFireWire接続での実効的な数値は、私の経験値では40Mから70MByte/secくらいの間でした。せっかくHDD自体のスペックがもっと高いにも関わらず、インターフェースのボトルネックのために低い転送レートで使うしかない。そんなジレンマがありました。ThunderboltはPCI Expressで言えばx4のバスに相当するとの情報があるので、HDDと接続した時にバスの転送レートがボトルネックになることは当面少ないと考えれれます。

たとえば、MacBook ProでThunderbolt対応のHDDを接続することで、非圧縮相当の転送レートを簡単に実装することも夢ではなくなるのです。非圧縮は使うことが少なくなるとはいえ、その高いレートによって同時に再生できるタイムラインのトラック数が増えることになり、これまで我慢していたパフォーマンス面でブレークスルーが期待できます。

MacBook Proがもたらす効果

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MacBook Proはその前身のPowerBook時代から、Appleのラップトップ型Macの最前線を走り続けています。過去のこのジャンルの新製品発表の場では、いつもその高いパフォーマンスをアピールされてきてはいるものの、実際には高いパフォーマンスを得るためにはデスクトップタイプのPower Macや現行機種のMac Proにその座を譲ることになっていました。その最大の理由が拡張性の有無でした。

MacBook Proは、現状の17インチモデルでのみExpressCardバスを持っています。PCI Expressのレーン数で言えばx1が最大で、接続できる各調製品も限られているのが実情でした。私も17インチMacBook Proを所有していますが、持っているExpressCard対応機器はeSATAだけでした。これまではこのように拡張性で一歩譲らざるを得なかったMacBook Proですが、Thunderboltの登場によってMacBook Proでも十分な制作環境も増えてくると感じています。

その背景にあるのが、最近急増しているデータ収録型カメラの台頭です。ファイル形式で記録するカメラはVTRを不要とします。これにより、専用の機器を用意しなくても済み、パーソナルコンピュータさえあれば撮影素材をオリジナル品質で取り扱うことができるのです。このときのコンピュータはコンパクトであることが望まれるので、強力になったMacBook Proが今後のデータ収録するワークフローでは大きな役割を果たす予感を持っています。

データ収録タイプのワークフローでは、VTRからのキャプチャ作業が不要になります。そのためこれまでのビデオI/Oハードウエアは必要不可欠ではなくなりますが、コンピュータから出力するためのモニタリング用途のハードウエアは従来通りに必要です。すでに対応を表明しているAJAやBlackmagic Designの両者がThunderbolt対応機器をリリースしてくれば、MacBook ProでもこれまでのMac Proでしかできなかった制作環境を構築することが可能になるのです。このことは、言い換えれば映像を作る環境がポストプロダクションなどの、ハードウエアが設置してあったいわゆるスタジオ以外でも可能になることを意味します。

コンパクトな機材を使うことで、制作者の好きな場所で好きな時間に制作をすることができるようになるのです。ポータビリティのある制作環境は、柔軟性のある制作環境をもたらすのです。スタティックからダイナミックへ、テクノロジーの進化だけではなくて、我々の作る環境も少しずつ進化させるべきだと私は考えています。

Thunderboltの課題

FireWireインターフェースは、家庭用MiniDVカメラとパーソナルコンピュータ、そして映像編集ソフトウエアが見事に連携して、爆発的にビデオ編集を手軽なものに押し上げました。Final Cut Proバージョン1.0は、当初からFireWireからのビデオI/Oをサポートしていました。まさにFinal Cut ProはFireWireと共に進化してきた経緯があります。しかし、FireWireの持っている課題をも引きずってきた負の一面もありました。

カメラからの接続を容易にする反面、デイジーチェーン接続した時の不安定要素は、何年も経過した現在でもまだ解決できていない問題です。業務用途にしては不安定過ぎるこの仕様は、便利なインターフェースが合わせ持つ課題でもありました。

まだ手にしていない新しいインターフェースのThunderboltでも、同じような負の一面を持っていないことを期待します。よく言われる「相性問題」はインターフェースでも大きな課題ではありますが、登場当初だけで勘弁してほしいところです。安定要素を持ち幅広い対応機種を合わせ持つことができるのならば、FireWireで解決できなかったネガティブな部分を払拭して使うことができます。そんな素晴らしいインターフェースであることを私は期待しています。

WRITER PROFILE

山本久之

テクニカルディレクター。ポストプロダクション技術を中心に、ワークフロー全体の映像技術をカバー。大学での授業など、若手への啓蒙に注力している。