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Column

Vol.25 最近のHDRの流れを振り返る

2012-09-21 掲載

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RED ONEの登場で認識されたのは2点の事

一つは、RAWを始めとするHDR映像や撮影後に色を作り上げるカラーグレーディングの重要性。これはすでにAppleがColorで環境を整えていたために、比較的容易に対応出来た。二つ目が、センサーサイズそのものの問題点で、要するに、フィルムと同じサイズに切りそろえられたセンサーは、フィルムと同じような映像を吐き出すことが改めて認識されたのだ。

この二つ目の問題は、同年2008年秋のPhotokinaにおけるCanon EOS 5D Mark IIの登場で再認識されることとなった。フルサイズセンサーを積んだ同カメラに搭載されたおまけ機能のフルHD動画は、ただのおまけ機能の枠を越え、フィルムに近い、あるいはフィルムを越える新しい表現として世界中の映像クリエイターたちの話題をさらったのだ。フィルムサイズの素子はフィルムと同じ絵を出す。それにフィルムと同じようなダイナミックレンジがあればそれはフィルムと変わらない。そんなシンプルな話であったのだ。

そして舞台は日本へ

2010年発売のAG-AF105は、大判素子カメラとして先陣を切った。しかし、HDR対応は従来のビデオカメラの延長線上のものであった

ここから、カメラメーカー各社の開発競争がスタートする。大判素子シネマカメラに先陣を切ったのが、我が国日本のメーカー、2010年末発売のPanasonicのAG-AF105であった。しかしこれは、AVCHD収録という実験機的要素があり、また、HDR対応も、従来のハイダイナミックレンジ映像の延長線上の3段階レンジの機能しかもってないものであった。あくまでも大判素子に注目したカメラであったのだ。しかし、レンズ交換式で豊富なレンズ群が使えるとあって、マニア必携の一台となった。

2011年発売のC300は、大判素子レンズ交換式カメラで、LOGガンマを大々的に採用し、話題をさらった。写真は2011年のInterBEE

続いてやはり日本で激震が起こる。2011年、日本のカメラメーカーCanonがCinema EOS C300という怪物カメラをリリースしてきたのである。これは、フルHDという画像サイズ、QuickTime収録ながら、対数ガンマを大々的に採用したレンズ交換式カメラで、センサーサイズもスーパー35mmに揃えられており、まさにフィルムのような映像を撮影出来るカメラだったのだ。

しかし、C300の誕生前後には大きな問題点があった。Canonカメラはシネカメラとしては未知数だったためその独自LOGガンマのソフトウェア対応がなく、どのようにしてこれをカラーグレーディングするものか、道筋がまったく見えなかったのである。Canon自身もシネカメラに不慣れなのかオリジナルDeLogデータの提供が遅れた上、折悪く、Apple Colorが2011年6月のFinal Cut Pro Xへのバージョンアップで消滅してしまい、新型カメラへのColorの対応が絶望的になってしまったのである。

業界のディファクトスタンダードであったFinal Cut Proがコンシューマー向けソフトであるFinal Cut Pro Xへと大きく変化してしまったことと、それに伴うApple Colorの事実上の廃盤は、業界全体の方向性に沿ってカラーグレーディングを前提としたシネカメラの開発を進めるCanonにとっても、全く予想外であったことだろう。

しかし、これは幸い思わぬところから救われることとなった。オーストラリアの格安映像機器メーカーBlackmagic Design社が、同社製ハイエンドカラーグレーディングソフトウェアDaVinci ResolveのフルHD対応版を、C300の発表直後に合わせてLiteと銘打って無料でリリースしてきたのである。発表時期から見ても、明らかにCanonユーザーの囲い込みを狙い撃ちした対応とも言えたが、CanonのC300は、これによって救われたと言っていいだろう。

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RED Scarlet XはハイエンドRAWカメラが個人クリエイター価格に降りてきた衝撃的なカメラだ。写真は2011年InterBEE

しかし、それに手をこまねいてみている海外勢では無い。HDRデジタルフィルムカメラの元祖とも言うべきREDが、一般クリエイターが気軽に購入出来る廉価版のREDカメラ、RED Scarlet XをC300発表の翌日にリリースしてきたのである。このカメラは、RED社従来通りのRAW収録機ながら、転送速度以外では同社最高製品のEPICとほど同じ性能を持ち、そのため、5K動画やハイスピード映像以外では全くEPICと同じクオリティの映像を撮ることが出来るカメラながら、なんと、日本円で100万円前後という格安本体価格で売り込んできたのであった。

REDは元々現像ソフトウェアを同梱している上、ファイル形式は業界標準化しつつあったRED独自のR3D形式なので、出力面での不安も無かった。まさに万全のミドルレンジシネカメラであったのだ。しかし、実はこのRED Scarlet Xの発表は、ある一つの理想を犠牲にして成り立っていた。このカメラの発売は、RED社がそれまで提唱していた「3K for 3K(3000ピクセルのカメラを3000ドルで)」という理想を放棄したことを意味していたのだ。

RED社のそれまでのロードマップに寄れば、RED ONEやEPICなどの4K RAW機器はあくまでもハイエンド商用映画向けで、零細企業や個人クリエイター向けには、Scarletという3000ドル後半の価格帯の3K RAWカメラを販売することになっていたのだ。その理想を放棄した代わりとして、ハイエンド機器とほぼ同じものを1万ドルで出してきたわけなのだが、ローバジェット映像が多いそうした零細個人クリエイターには、1万ドルというミドルレンジ価格はまだまだ厳しいものであった。

映画の世界では飯を食いにくいのは、なにも日本に限ったことでは無いのであるが、元々こうしたHDR撮影技術というのはローバジェットの世界でこそ力を発揮するものなので、そこで100万円のカメラというのは、なんとも微妙なラインであったのだ。

受け継がれる理想

Blackmagic Cinema Camera。25万円前後と、とにかく安いRAW&LOG収録カメラ。特に凄い機能は付いてないが、HDRに特化したカメラだ

そして、その5ヶ月後、この理想は他のメーカーによって引き継がれることになる。NAB初日、Blackmagic Design社がBlackmagic Cinema Camera(BMCC)と題して、2.5K RAW収録のカメラを2500ドルで出してきたのである。これはまさに「3K for 3K」の上を行く「2.5K for 2.5K」であり、零細個人クリエイターがローバジェットで運用しても全くコスト的に見合う素晴らしい価格帯だ。

同社によるカメラ開発は2011年のInterBEEにおいてDaVinci Resolve Liteの無料提供を言い出したときから噂されていたのであるが、それにして素早い対応で、NAB参加者たちは完全に度肝を抜かれた。正直言って、Blackmagic Design社からカメラの発表があるにしても、2012年秋か、あるいは2013年の発表だと思っていたのである。

しかもこのBlackmagic Cinema Cameraは、最大の売りの2.5K RAWだけではなくQuickTimeによるProRes収録にもネイティブ対応しており、Canon EOS C300のようなLOG中心の使い方も出来る。格安ながらも、まさにHDRに特化した本物のシネカメラなのである。しかも、DaVinci Resolve 9の解像度無制限の正規版がオマケについてくるという太っ腹振り。このカメラ一つあれば、あとは周辺機器とMacを買うだけで、撮影から現像、フィニッシュまで出来てしまうのである。

代わりに、BMCCには一般のビデオカメラにあるような機能はなにも付いていないが、そうしたビデオ機能が必要な撮影には安価なビデオカメラを使えばいいのである。BMCCは、そうした機能を全て切り捨て、さらには何かと高価になりがちな35mmフィルムのセンサーサイズではなく、フィルム時代末期の事実上のスタンダードであったスーパー16mmフィルムサイズに特化することで、一気に値段を下げてきたのである。24Pの世界において、最終クオリティを管理統一するためには、HDRという手法しか無いし、それがついに現実的にコストを意識せずに自由に使えるレベルにまで降りてきたのは諸手を挙げて歓迎する他無い。

ここからもまだまだHDR映像の発展は続く

この後、BMCCと同じく16mmフィルムを意識したHDRシネカメラとして、Digital Bolexの登場が予想されている。これは、16mmフィルムカメラの名機Bolexを同カメラのファングループがデジタル化して販売しようという試みで、投資サイトなどで多額の投資を集めて順調な開発が進んでいるようだ。また、CanonからもAVCHD機ながらHDRガンマを積んだ小型機、EOS C100の発売が発表された。その他のカメラメーカーからもHDR対応カメラの噂は聞こえてくる。この秋のアムステルダムIBC、ケルンPhotokina、そして幕張のInterBEEでは、続々と、こうした最新の広帯域ダイナミックレンジ対応カメラが発表されると予想されているのである。

これに合わせてソフトウェアやコンシューマへの映像提供環境も今後大きく変わってくるのだろう。改めてこうやって振り返ってみると、HDR映像20年の歴史が、今、まさに花開こうとしていることがわかる。20年の年月を掛けて、デジタル映像は、今ようやくフィルムと同等の映像にようやく到達しつつあるのである。これからも、HDR映像、そしてそれを実現するデジタルフィルムに注目して行きたい。

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WRITER PROFILE

手塚一佳 デジタル映像集団アイラ・ラボラトリ代表取締役社長。CGや映像合成と、何故か鍛造刃物、釣具、漆工芸が専門。芸術博士課程。


[ Writer : 手塚一佳 ]
[ DATE : 2012-09-21 ]
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手塚一佳 デジタル映像集団アイラ・ラボラトリ代表取締役社長。CGや映像合成と、何故か鍛造刃物、釣具、漆工芸が専門。芸術博士課程。


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