カラーマネージメントの重要性

最近”カラーマネージメント”と言う言葉を良く目にする。解像度が4Kまで引き上げられ、より高精細な映像を取り扱わなければならないトレンドはいろいろと問題も抱え持つ。果たしてカラーマネージメントと言われても今イチぼんやりとした状況だ。それは4Kを牽引するデジタルシネマの世界や、ブロードキャストの世界でも同じ事が言える。

ビデオはその放送が始まった当初からブラウン管に投影された映像が元になっており、ブラウン管の蛍光体の特性に合わせたガンマや色再現性も蛍光体の発色を元に規格が決められていた。カメラやVTRは放送波の帯域といった電気的物理的な規定を加味しながら当時の技術で実現可能な中で発展していくことになる。普及促進を念頭におくと、ある程度最大公約数をとるようにしていくことは必要である。とはいえ、当時としてはハイテクであることに変わりなく、実現可能な最先端技術の性能を犠牲にせず、いかにコストダウンしていくかが課題となっていた。

一方、映画はビデオよりはるかに歴史が古く、当初は見世物小屋にあるギミックなものから興行という過程において規格化が進んでくるとともに、製作過程においても標準化や規格化が必要になってくる。これは、映画館の映写機がバラバラだとそれに合わせて上映用フィルムを作らなくてはならないとか、製作者の意図を映画館の上映でも反映したい場合に必要なことと言える。もちろん、観る側も同じ金額を払うのであれば映画館によって差があるのはあまり面白いことではなく、興行的にもある程度の水準を保つ必要もあるだろう。

こうした異なる業界を股にかけてデジタルシネマは現在に至るわけだが、ビデオやテレビを超えることはできても全ての面でフィルムを越えられないのが現状で、まだ発展途上の状態だ。とはいえ、コダックは経営破綻し富士フイルムはすでに撮影用上映用のフィルム生産を終了している。デジタルシネマへ移行せざるを得ないという現状がそこにある。

デジタルシネマというとテレビ業界とは無縁ともいえそうだが、国内ではCM制作にフィルムが使われていたり、海外ではテレビドラマの撮影でフィルムが使われている。さらに、総務省は4Kや8Kの放送を前倒しし、4Kの本放送を2014年に、8Kの本放送を2020年に実施すると表明しており、もはや他人事ではなくなっている。そこで問題になるのが映画とビデオの物理的特性の違いやワークフローの違い、さらにはカメラやモニターのメーカー、編集など後処理を行うツールのメーカーなどで異なる基準を使っている現状だ。

ビデオは最終的に放送電波に載せる必要があることとVTR記録することから、映像信号のピークは厳格に決められていた。ガンマは蛍光体の特性に合わせた2.2(0.45)で特別なこと(KNEEなど)がない限り守られていた。一方映画はフィルムの幅やパーフォレーションといった映写機への互換性のための規格は厳密に決められているが、ガンマや色再現などはフィルムメーカーや銘柄に依存している。ただし、ネガで撮影ポジで映写というワークフローがあるため、各フィルムの特性は公開されている。もっともフィルムはその時の乳剤のでき(エマルジョン)や現像によっても微妙に特性が変化し、撮影時にはフィルターによる厳密な色補正も難しいため、ネガからポジへプリントする時に補正することになる。また、ネガの方が再現領域が広くポジの方が狭いので、こうした作業(タイミング)は必須である。ビデオでは、撮影時にVEが調節することはあるが、後処理で補正することはあまりなく、やっても僅かな補正にとどめるのが一般的だ。

今から始めるカラーマネージメント

PointofView_vol56_ACES_4.jpg

セミナー会場の様子

さて、4Kではこうした歴史的成り立ちの違いやワークフローの違い、さらにはフィルムに追いつけ追い越せで開発されるカメラなど、ある種無法地帯といえる現状があり、ある程度の秩序が求められている。こうした混沌としたなかで秩序をもたらす有力候補としてACESがある。

4月24日にセミナー「デジタルシネマカメラ時代のカラーマネージメントセミナー〜ACESワークフローの理論と実践」が開催された。このセミナーは、情報通信研究機構の川上一郎氏、富士フイルムのデジタル映像撮影現場向け色管理システム「IS-100」の開発を担当した内田充洋氏、デジタルシネマカメラのコンサルティング業務を展開するライトメディアの松井幸一氏により講演されたもので、デジタルプロダクションにおける基礎知識や実際の運用などについて解説された。前置きが長くなってしまったが、セミナーの内容について概要を紹介しよう。

各分野の識者が語るカラーマネージメントについて

PointofView_vol56_ACES_1.jpg

情報通信研究機構 川上一郎氏

基礎講座として川上一郎氏は、人の目の特性とともに様々な色空間があることや白の基準がまちまちであることなど現状の問題点を提起するとともに、デジタルシネマやビデオ、フィルムの特性などを解説した。たとえば、代表的な色空間としてHDTV、デジタルシネマDCI-P3、スーパーハイビジョンがあるほか、HSVやxyzなど3次元色空間としての定義や映像信号とビット幅による階調範囲など、現状様々な色空間や階調範囲が用いられていることを例に挙げ、ワークフロー上統一していくことの必要性を提示した。

PointofView_vol56_ACES_2.jpg

富士フイルム株式会社 内田 充洋氏

これを受けるような形で内田充洋氏がACESの解説を行い、同社が開発したACES対応のデジタル映像撮影現場向け色管理システム IS-100による制作ワークフローのメリットを解説。ACESはデジタルメディアを念頭に策定されており、将来にわたって使用できる余裕をもっている。ただ、カメラやモニターなどACESに対応する必要があり、こうした作業も含めて同社は積極的に対応して行こうという姿勢だ。カメラやモニターのメーカーがACESに対応しなくてもIS-100を使う上で支障が無いよう、市場で使われる主だった製品については対応していくという。

PointofView_vol56_ACES_11.jpg

IS-100

従来LUTがこうした役割を果たしてきたが、ACESの特徴はLUTのように予め設定されたものを参照するのではなく、色空間の変換などきちんと計算している点だ。これにより、極めて正確な色空間の変換が行えるほか、カメラやモニターがもつ能力を最大限に活かせることになる。

PointofView_vol56_ACES_3.jpg

株式会社ライトメディア 松井 幸一氏

最後に松井幸一氏が実際に異なるカメラで撮影し、ACESを利用したワークフローを紹介した。通常カメラごとに色合わせなどが必要となるが、ACESを採用したIS-100を使うことで異なるカメラでもほとんど遜色のない状態で、作業を行うことが可能だ。これにより、面倒な下準備をしなくても本来のクリエィティブな作業をすぐに行うことができる。

PointofView_vol56_ACES_8.jpg

ワークフローのデモンストレーション

ACESはあらゆるカメラやモニターなどを統一的に色管理することが可能な万能薬的な存在だが魔法の薬ではない。したがってモニターの能力外(表現できる色域以外)を表示できるようになるわけではない。これは、複数のカメラの場合でも同様でお互いのカメラが持つ色域内であれば合わせることが可能だが厳密に言うと無理である。ただしこうした状況は特殊な例といえるだろう。

PointofView_vol56_ACES_5.jpg

異なるカメラでの映像比較

PointofView_vol56_ACES_10.jpg

モニターでのプレビュー

ビデオの世界に4Kの波が押し寄せることで、解像度だけでなく圧縮コーデックやRAW、さらにはこうしたカラースペースの問題などデジタルシネマの知識が求められてきた。一方、フィルムを中心とした映画の世界でもファイルベースを中心としたワークフローが必須となり、現場的にはビデオで使われる機材を運用している。しかしこれまでは(専門性の壁もあり)あまり触れられる事の無かったカラーについては、まだまだ知るべきところは多い。この発展途上で混沌とした映像制作の今をPRONEWSでは今後も積極的に追いかけていきたい。

WRITER PROFILE

稲田出

映像専門雑誌編集者を経てPRONEWSに寄稿中。スチルカメラから動画までカメラと名のつくものであればなんでも乗りこなす。