1店舗ごとに一箇所、前後に2面のディスプレイが入った筐体

昨年の10月に、東京都大田区のアーケード商店街に、大規模なデジタルサイネージが導入されたという話を聞いたので早速現場に行ってみた。正直突っ込みどころは満載なのだが、そこに用意されている機能と考え方は、今後の運用次第で先進事例になり得る可能性を秘めているものだった。

典型的な昭和な雰囲気のアーケード商店街。人通りは多い

JR京浜東北線の大森駅から歩いて5分ほどの場所にあるのが、「山王ココ商店街」だ。正式名称は新柳会商店街振興組合というらしい。まずは現場の写真を見ていただきたい。池上通り沿いの両サイドにアーケードが続き、今回のサイネージはその片側に設置されている。よくある店名表示のための内照看板の置き換えで、1店舗ごとに裏表に2面、全部で34カ所あるので合計68面だ。

目線よりは高い位置に設置された22インチディプレイ

JR品川駅の自由通路のデジタルサイネージが44面なので、その数は非常に多い事例である。ひょっとすると、台数は日本最大かもしれない。ディスプレイは22インチで、アーケードの天井部分に設置されているため目線よりはかなり高い。しかし、現地に行った日が雨模様だったこともあるのだが、屋根があるので直射光が入りにくく、視認性は良くはないが、思ったよりは悪くない。40インチ位あるとぜんぜん違うと思われるのだが。

ロゴを表示

システムは意外に、と言っては失礼だが、結構ちゃんとしている。2面1セットでコンテンツを制御できるので、店舗ごとに店主がケータイから写真とテキストを送るだけで、コンテンツの更新が可能になっている。もちろん全モニターに同じ映像を表示させることもできる。総事業費は3600万円で、東京都と大田区がそれぞれ3分の1を助成している。

料理の写真とテキスト

コンテンツは店名やロゴが表示される部分と、店舗の内容や詳細を写真とテキストで表示するものの2パターンが基本で、店舗によってはロゴ以外の部分を数パターン作成している店舗もあった。動画は表示されず、静止画が繰り返しリピートされていた。音声はサイネージとは別に、アーケードの天井に埋め込まれたスピーカーから、サイネージとは全く別のBGMが流れている。

eguchi_05_5599.jpgテキストのみ

課題は視認性であることは言うまでもなく、せっかく各店舗がコンテンツを更新してもわかりにくい。22インチというサイズがどういう経緯で選択されたのかわからないが、屋根までの高さは十分に確保されているので、40インチ以上にするべきだったと思う。予算の問題だとしても画面サイズと設置位置を考慮するべきだったし、これは事前にわかっていたはずだ。

こうした物理的な条件に加えて、コンテンツの表現力にも乏しい。予算の都合で動画に対応できないとしても、単純な静止画の繰り返しだけでは変化がなくてなかなか目を引かない。また今回サイネージが設置された範囲は距離にして200m弱あるので、歩くと2分近くかかる。2分間の間に店は変わっていくとしても、単純にスライドショー的に静止画が変わっていくだけでは飽きてしまう。

これらのことから、いまの物理条件の下であっても、文字を大きくする、インパクトの有る画像を挟み込むなど、工夫することはあるはずだ。また、せっかく簡単にコンテンツ更新ができる機能を、全部の店舗が活用しているとは言い難い状況であるのももったいない。

批判的に言うのは簡単だ。しかし、とにかくこうした取り組みは素晴らしい。運営主体である商店街がこのインフラを活用して、いまある環境下でコンテンツの充実を図ることはたくさんあると思う。普通に歩いているだけでは強制視認性が低いのであれば、わざわざ見るための必然性をデジタルサイネージ以外で作ればいい。合言葉を表示させて割引をする、クイズやスタンプラリーに使う、小学生の絵や写真好きのお年寄りの作品を表示して本人や家族がわざわざ見に来るなど、できる事はたくさんあるはずだ。運用を開始して3ヶ月以上が経過して、課題と同時に可能性もたくさん見えていると思う。

連続している別の商店街にはこうしたサインがある

大森駅周辺には、池上通りの両サイドにずっとアーケード商店街が続いており、商店街組合も複数あるようだ。今回はそのうちの一つでサイネージが実現できたわけであるが、連続する他の商店街まで広がるような取り組みにして、大森全体がもっと賑わうような仕掛けになってもらいたい。そのための先例として、このインフラが最大限活用されるように、関係者の方々の一層の努力に大いに期待したいし、可能性は十分感じられた。

WRITER PROFILE

江口靖二

放送からネットまでを領域とするデジタルメディアコンサルタント。デジタルサイネージコンソーシアム常務理事などを兼務。