赤子とともに仕事場へ

千葉を舞台にした小さなドラマを撮る事になった。テーマは「孤独死」。生まれたばかりの子供をあやしながら「老人の孤独死」について考えるというシュールな機会をいただいた。仕事ってほんと思いがけず、おかしなことがおきる。

脚本を練り始めたのが産後二ヶ月頃。プロデューサーと脚本家と私がたまたま同じ町に住んでいたので近所の喫茶店で赤子を抱きながら打ち合わせをした。「おい!立て!おまえ座るんでない!」と女王様タイプの赤子は私が座るたびに雄叫びをあげるので、仕方なく私は体をふりふりリズムをとって子供あやしながら打ち合わせに参加した。

赤子が泣くたびに迷惑をかけているのが不甲斐なく30分程度しか集中した話し合いができなかったが、子連れで打ち合せに参加させてもらえるのはありがたかった。

知り合いの女性ディレクターは、赤子を背負ってロケハンに行ったことがあると言っていた。ロケ地をどこにしようか悩んだときには、いつもは難しい顔をしているスタッフが「どっちのロケ地がいいでちゅかね~?」と赤子に質問したりしてなかなか和やかで楽しかったらしい。

そうやって打ち合せやら仕事場に子供を連れていきやすい環境がもっと増えるといいのになあと思う。毎日になったらさすがに子供もかわいそうだとは思うが、たまにはそんな日があってもいい。

私も子供のときは父親の仕事場である舞台の稽古場によく通っていた。退屈な時間だったという記憶もあるが、いろんな大人たちにかまってもらえたり、普段の父親とは違う姿をみるのが妙に新鮮だったりして、いまだに記憶のしわに深く刻まれている。

フィンランドに仕事で行ったときもプロデューサーの女性は、現場、打合せ、打上げと4歳の女子を幾度も連れてきてはその場に柔らかい空気を運んでいた。

とはいえ、自分の仕事場に子供を連れて行くのはやっぱりなんだか勇気がいる。もちろん手がかかって仕事どころじゃなくなるってのもあるけれど、それだけじゃ言い尽くせない「遠慮」のようなものがあるのはなぜだろう?やっぱりそれは身近なところであまり誰もやってないからかな~。本当は男性こそが率先して仕事場に子供を連れてきてくれれば、もっと日常の風景になっていくし、何しろかっこいいのになあと思う。

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ロケハンという名のドライブ

産後あまり時間をおかずに現場に復帰させてもらえたのは嬉しいことだった。そもそも私は“家でのんびり子供の面倒をみているのが幸せ”というタイプに生まれついてない。家の中に一日いるのは大の苦手なアウトドア派だし、子供と二人きりでずっと向き合っていると「むっふ~」と息がつまってしまい、自由時間がまったくない閉塞感のある日々がどーにも耐えられなかったからだ。

「育児より仕事の方がよっぽど楽」とは放送作家である友人女性の名言だが、私もまさしくそう思う。子供のかわいさは何にも代え難いけれど、子供を育てるということはコントロール不可能な生き物と24時間向き合い続けるということで、自分のペースを全てあきらめるということだ。そこらへんの息苦しさは、仕事のストレスとは全く質が違う大変さを伴う。

そんな閉塞感のある日々に「ロケハン」という名の気分転換ドライブがやってきた。子供をおいて久々の遠出、海、広い公園、千葉の団地群、たわいもないおしゃべり、わーー、たのしーー。ロケ地をみるという名目で私は密かにはじめてのデートのようなワクワク感とあふれる開放感を楽しんでいた。どのロケ地も輝いてみえて「ここもいいね~、うん、ここもありだね~」と無駄に上機嫌。

そして今回お願いしたカメラマンの方も子供がまだ小さく会話が弾む。しかも彼の奥様は私の同業者なので母さんディレクターへの理解と配慮が思いがけずすごかった。「ああ、もう首がすわってればフニャフニャの軟体動物からは脱しているから、日帰りのロケくらいは大丈夫ですね」とかいう台詞がさらっと出てきて、ありがたや~。

普段ならロケハン後のんびりご飯でも食べながら撮影当日に向けた打ち合わせをする時間を、私が早めに家に帰れるようにと帰りのロケバスの中ですべて消化するように指示してくれたり、撮影後、先に都内へ出発する機材車に乗れるように声をかけてくれたり…。「母の気持ちがわかるカメラマン、ありがてええええ(涙)」

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脱力温泉

こうしていろんな人に支えられて3日間のロケは無事終わった。陽のあるうちに撮影を終わらせるため、カメラマンと制作と大声を出しあいながら猛スピードで撮り終えたシーンもあった。いやはや赤子と二人きりの日常からは遠くかけ離れた刺激的な現場だった。

夜、家に戻るとそこには静寂が待っていた。すやすや眠る赤子を起こさないようにベッドに滑り込みそっと抱きしめると、まるで温泉に入ったような生あたたかい温もりが私を包みこむ。体も心もほわほわ~っと優しい脱力感で満たされ、すべての疲れが柔らかなお湯へとしみこんでいくようだ。こうして家に脱力温泉があるからこそ仕事の楽しみもますます増えてくんだなあ。

WRITER PROFILE

オースミ ユーカ

オースミ ユーカ

CMやEテレ「お伝と伝じろう」「で~きた」の演出など。母業と演出業のバランスなどをPRONEWSコラムに書いています。