XAVC誕生の経緯

2012年、4K収録を可能にしたシネマカメラPMW-F55が登場した。そのとき同時に発表されたのが、ソニーが4K世代の映像フォーマットとして位置づけたXAVCだ。

それまでソニーでは、ハイエンド収録はRAWで、デジタルシネマの制作向けの中間コーデックとしてはHDCAM SRで採用されていたMPEG-4 SStP(Simple Studio Profile)で、それ以外のHD映像制作ではMPEG-2をベースにしたXDCAMで、という方向性であった。その中間を埋めるコーデックとして、XAVCは誕生した。

話は10年ほど前にさかのぼる。当時他社は、結構早い段階で一般的な映像制作用にMPEG-4をベースとしたフォーマットを提供していた。ビットレートも幅広く、Intra Frameを標準にするなど、MPEG-4の可能性に着目していた。

ディスクベースのXDCAMがデビューした当時、ソニーの担当者になぜXDCAMはMPEG-4ではなくMPEG-2なのかと質問したことがあるが、「PCへの負荷や互換性の高さを考えて」という回答であったことを記憶している。当時のPCパワーでは、MPEG-4はまだちょっと背伸びしすぎのフォーマットであったのは事実だ。

しかしそれから10年が経過し、MPEG-4も一般的なコーデックとなった。MPEG-4ベースでありながら、カラーグレーディングや合成にも対応できる、4:2:2/10bit/Intra Frameの圧縮コーデックとしてXAVCが登場したのは、当然の流れであったわけだ。

翌2013年には、XAVCをベースにしたコンシューマ向けコーデック、XAVC Sを発表。AVCHDに変わるハイビットレートフォーマットとして、同社ハンディカムやアクションカム、デジタルカメラなどに採用が進んでいるのは、すでにご承知のとおりだろう。

1409_sony_XAVC_01b

ソニーのXAVCファミリー

今回は、映像のプロフェッショナルなら避けて通れないXAVCの現状とこれからについて、素朴な疑問をぶつけてみた。

XAVCはどこまで来た?

今回お話しを伺ったのはソニーの後藤 俊氏(営業・マーケティング部門 マーケティング部 CCシステムMK2課)と、江間 拓郎氏(デジタルイメージング事業本部 商品企画部門 B&C商品企画部 商品企画課 プロダクトプランナー)のお二人だ。

1409_sony_XAVC_9750D

お話しを伺った後藤氏(写真左)、江間氏(写真右)

――ソニーのXAVCフォーマットというと、4Kハイエンドというイメージが先行しましたが、実際にはHDカメラでも幅広く搭載されてますよね。HDでも100Mbps、しかも4:2:2/10bitのIntra Frameということで、XAVCはハイエンドカメラに搭載という流れなんでしょうか。

後藤氏:XAVCは2012年度のPMW-F55/F5からスタートして、2013年のPXW-Z100と、4Kのカメラが続きました。4K映像制作は元々ハイエンド分野ですし、HDもその流れで、ハイエンド制作に求められるIntraのほうを優先しました。

江間氏:Long GOPということでは、弊社にはMPEG-2のXDCAMシリーズがありましたので、当時は優先順位的としてIntraを先にやって、ソニーでもIntraができるフォーマットがありますよというのをアピールしたわけです。

後藤氏:ただこのフォーマットをもっと幅広くご利用いただきたいということで、実はこの夏に発売されたPXW-X180/160から、Long GOPにも対応しました。F55/F5は除いて、ほとんどの現行モデルでファームアップにより、Long GOPに対応していきます。

1409_sony_XAVC_roadmap

XAVC Long GOP対応ロードマップ。ほとんどのカメラでLong GOPに対応予定

後藤氏:さらにPXW-X180/160では、XAVCのProxyフォーマットも新たに搭載しました。現場からインターネット経由で伝送して、先にオフライン編集をはじめるといったワークフローにも対応します。

――PXW-X180/160というと、バリアブルNDにしか注目されてないようなところもありますが、ここでXAVC的にも大きく世代代わりしてるんですね。現状でXAVCがカバーする範囲というと、どこからどこまでになりますか?

後藤氏:既存のIntra Frameに加えて、4KでもHDでもLong GOPをサポートしますので、proxyやコンシューマ向けのXAVC Sまで含めると、かなりのレンジをカバーします。

■XAVCフォーマットの実装例
(下記ビットレートは29.97pの場合)
4K HD
Intra Long Intra Long
XAVC
(MXF)
300Mbps
4:2:2/10bit
100Mbps
4:2:0/8bit※
100Mbps
4:2:2/10bit
50/35/25Mbps
4:2:2/10bit
XAVC S
(MP4)
100/60Mbps
4:2:0/8bit
50Mbps
4:2:0/8bit

※規格としては4:2:2/10bitもサポート

■XAVC proxy(MP4)の実装例
記録画素数 フレームレート ビットレート
1280×720 30p/24p 9Mbps
640×360 3Mbps
480×270 1Mbps
480×270 0.5Mbps

後藤氏:大前提として、XAVCはプロフェッショナル向け、XAVC Sはコンシューマ向けです。コンシューマのほうは、データ容量に配慮して最初からLong GOPしかありませんし、カラーサンプリングも4:2:0/8bitです。一方XAVCだと4:2:2/10bitが基本ですので、ビデオサーバ用やファイル交換用の書き出しフォーマットとしてもお使いいただけるように定義されています。

XAVCはどこまで行く?

――XAVCって、フォーマットとしては4:4:4/12bit/960Mbpsまで定義されていますよね。でも現状そういう製品がないのはなぜなんでしょう?

江間氏:記録コーデックチップの開発にも関わる話ではありますが、現状でもRAWやSStPがあり、F55ではSStPの4:4:4で撮影できますので、そこにはアイテムがあります。今後は必要に応じて、実際に使われるフォーマットを作って拡張していくというスタンスでいます。

――ということは、将来的にはSStPのエリアもXAVCでカバーしていくことになると?

江間氏:基本的な考え方としては、XAVCのように一つのフォーマットで全部まとめていければ美しいというのはあります。なんですが、まだまだF55/5は現行機種ですし、これまでの素材を含めた過去互換、制作環境とか色々要素もあるので、今すぐ切り換わるわけではありません。

逆にLong GOPに関しても、MPEG-2 HDを使っているお客様もすごく多いので、当面はXAVCと2つの選択肢を提供していく予定です。

――Long GOPのビットレートでは、XAVC Sにもかなり近い印象を受けますね。今のMPEG-2 HDのエリアが、XAVC Sの商品群に変わっていくという可能性もあるのでは?
1409_sony_XAVC_9800b

コーデックから見えてくる将来像について、率直なディスカッションが続く

江間氏:それはないと思います。XAVC Sは基本コンシューマ向けという位置づけですので、今AVCHDを使っていて物足りないという方が手を出していただけると、一番フィットするかなというイメージです。

後藤氏:もう一つは、編集環境の互換の問題がありますね。XAVCとXAVC Sは、ラッパーがMXFかMP4かという違いも大きいんです。

例えばTCやメタデータは、MP4でも一部サポートしている製品もありますが、フォーマットとしてここに絶対書かなきゃいけないという定義が決まっていないんですね。ですからデコード側が個別に対応しなければ、読めるはずのメタデータが読めないということが起こります。その互換性を考えると、プロとしてはビデオのところは一緒でも、MXFを採用するメリットは小さくないはずです。

――局納品フォーマットとしての可能性はどうでしょうか?ビデオサーバの対応製品もありますし、実際にはもう受け入れも可能なところはあるんじゃないかと思いますが。

後藤氏:そこはメーカーではなく、放送局さんが決められる話だと思います。ただ一般社団法人 次世代放送推進フォーラム(NexTV-F)さんで放送しているチャンネル4Kでは、4Kのコンテンツの納品フォーマットとしてXAVC 3840×2160 59.94p 600Mbpsと規定されています。送出サーバのコーデックがXAVCだという都合もあるとは思いますが、今後はその流れで納品フォーマットとして使っていただけると嬉しいですね。

江間氏:海外の話をすると、ヨーロッパではProfessional Discを使ったMPEG-2 HD納品が主流です。今回HDのXAVC Long GOPで50M/35M/25Mbpsと用意したのは、MPEG-2の50M/35Mbpsに合わせたんですね。25MはDVCAMに合わせました。それぞれの国で、納品フォーマットとしてすんなり入っていけるように配慮してあります。

拡がるXAVCファミリー

――局納品のお話しが出たところで、今XAVCをサポートしているノンリニアソフトの対応状況を把握しておきたいんですが。

後藤氏:XAVCのLong GOPは、まだこの夏に製品が出たばかりなので、サポートしているソフトウェアは限られます。ですがXAVCのMXFのデータ構造から、中のビデオを間違いなく読み出す処理だけなので、対応にはそれほど時間はかからないのではないかと見ています。

――XAVCをサポートするメーカーも、かなりの数になりますね。

後藤氏:2014年9月の時点では、65社がフォーマットサポーターになってくださっています。

http://www.pronews.jp/pronewscore/wp-content/uploads/2014/09/1409_sony_XAVC_support.jpg XAVCをサポートするメーカー
※画像をクリックすると拡大します
――XAVCのサポーターとか、アライアンスパートナーになるにはどうすればいいんですか?

江間氏:XAVCはオープンフォーマットですので、オーバービューなどは公式サイトで公開しています。メンバーになるにはサイトから申請していただいて、それが受理されると、開発者用のページにいけるようになります。そこにはサンプルファイルや開発者向けの技術資料などがダウンロードできます。

2014年が、XAVC元年となりそうな気配

これまで4Kの編集は非常に重い処理で、編集用中間コーデックに落とし込むにしても、その変換が実時間の数倍かかる。さらに最終フォーマットとして何に出せばいいのか、なかなか結論が出ない状況が続いていた。

その点XAVCは、H.264を使ったコーデックとしては非常に高度で、ネイティブコーデックのままで編集できる環境も整っている。さらにはビデオサーバでもサポートされてきたことで、最終納品フォーマット、あるいはマスター保存フォーマットとしての利便性も高まっている。

またHDでも、今から17年前に登場したHDCAMテープが未だに制作のデファクトスタンダードではあるが、ファイル化の流れを受けて、次世代への転換時期にさしかかっているタイミングだ。それを考えれば、ソニーのカムコーダが推奨するXAVCへの移行は、案外ファイルベースでのデファクトフォーマットとして、すんなり受け入れられる可能性は高い。

ソニーの製品ロードマップを見ると、今年はXAVC対応カムコーダが大量に商品化される年でもある。まさに2014年が、XAVC元年となりそうな気配である。

WRITER PROFILE

小寺信良

18年間テレビ番組制作者を務めたのち、文筆家として独立。映像機器なら家電から放送機器まで、幅広い執筆・評論活動を行う。