子ども番組やりま〜す!

昨今の深刻な保育園不足のまっただなか、外遊びメインでのびのび子育てしてくれる希望の保育園に子どもの入園が決まった。しかしフリーランスで不安定な身の上、入園直前なのにまったく仕事が入ってない…。「このまま仕事が一生こない可能性もあるし(←仕事がないときに陥る超ネガティブ状態)、入園をとりやめた方がいいかもしれない」なんだか社会と隔離されている気がして、むやみやたら悲観的な私。

よちよち歩き出し、やっとコミュニケーションもとれるようになってきたばかりのかわいい我が子といちゃいちゃしていたい。しかしいざ仕事が入ったときに安心して預けられる場所がないのは避けたい…。会社に決められた「産休」という期間がないだけに、フリーランスにとっての保育園入園時期はなかなか悩ましい。

入園時期をずらしてもらえないかな〜などと、ひよっていたらうれしいことに大きなプロジェクトが舞い込んだ。Eテレ(NHK教育)で流れる小学生向け番組の立ち上げだ。「子供番組をやってみたいな〜」とずっと思っていたけど、なかなか機会に恵まれなかった。でも子供が生まれてみたら“子供に興味ある人”というカテゴリーに入れてもらえたのか、待ちに待った仕事がきた。やっほーい。

放送作家と私がプロデューサーに呼ばれた時点で決まっていたのは「お伝と伝じろう(おつたとでんじろう)」というタイトルと小学校3年生から6年生に向けた「コミュニケーション」がテーマの番組ということだけ。国語の授業や道徳の授業でみる10分番組だ。これからの時代、とにかくコミュニケーション能力が大事でしょ、ということで昨今授業のカリキュラムにも取り入れられているんだそうだ。

さて、ターゲットである小学校中高学年といえば、すでに月9を観ているような年齢であり、刺激的な情報もテレビ番組も毎日のように目にしている年代だ。そんな目の肥えた彼らが前のめりになって、なおかつ学習する意欲がわく番組ってどんなだろう?やっぱりそれは大人がみても面白いと思える番組を作る事に他ならない。子供騙しはとっくに効かないお年頃です。

キャストはどうしよう?どうせ作るなら子供の記憶に深〜く残るようなトラウマのような番組を作りたいという意気込みで、プロデューサーが目をつけていた面白い2人組を局側に推薦した。

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「レ・ロマネスク」。フランスで一番有名な日本人(自称)であり、最高のパフォーマーの男女デュオだ。見た目はドラァグクイーンのような派手さだが、不思議と漂う大人の気品、メロディラインは一流、歌詞は爆笑、ライブに行くと誰もがついつい踊らされてしまうという、なにかとハイセンスなお方。歌、踊り、ビジュアルとすべてが子どもが好きそうなインパクトだが、日本ではまだ無名に等しいし、教育番組の人選としてはかなり勇気のいるキャスティングだ。

しかしご本人たちの人柄、やる気、スタッフの熱意ある推し、局側の「おもしろそうだから冒険してみよう」という心意気がうまく合致して、最小人数の決断でキャストは彼らに決定した。普段メインでやっている広告の仕事と比べると、なんともスムース&スピーディ!

すばらしい役者が番組を盛り上げてくれることが決まったので、私は彼らの世界観を上手にいかしつつ、小学生が「楽しく学べる番組」を作らなくてはならない。そのための世界観作りは何より楽しい仕事だ。衣装はもちろんのこと、スタジオの美術セットを1年間使っていけるように考え抜かなくてはならい。

レ・ロマネスク「拙者サムライダンディー」

ドラマ形式の番組にすることも決まってきたので、スタジオとは別に「学校」という設定のロケ場所も必要だ。これは早くからイメージにあう建築があって、あとは予算がうまくはまるかというところだった。

もうひとつ学校放送(学校向けの教育番組)の番組作りでとても大事なお題目は、文科省の指導要項を反映しながら内容を作るということだ。実際のコミュニケーションに役立せられる内容を一から作るわけだし、それを授業のカリキュラムとして流すと決まっているのだからスタッフの企画会議も白熱する。

たのしい企画作業

kokoro04_03B 「お伝と伝じろう」Eテレ毎週月曜 午前9:20~9:30放映中
http://www.nhk.or.jp/kokugo/otsuta/←これまでの放送を動画で視聴できます

私もこの年代の子どもたちが打ち当たるコミュニケーションの壁や問題に関する書籍、主に劇作家の平田オリザや元小学校教諭の金森俊朗などの本を読みあさった。

NHKの学校放送を授業にとりいれている小学校に見学にいったりもした。そこから学んだことは、とにかく子どもが自発的に考えるための「お手伝い」をする10分番組にしようということ。

授業をみていると子どもは「これが大事」というわかりやすいポイントをノートに書くことに時間を費やしている。自分で考えずに、大事と言われたことをただノートに書き写しているだけじゃ、「覚える」ことはできても「考える」訓練にはならない。人とコミュニケーションをするということは、「考えて行動するということ」。

大事なポイントを一方的に伝えるような番組ではなく、子どもが自分の意見をきちんと言えたり、人のことを思いやりを持って考えたりできるようにすることこそ、これからのグローバル化と言われる未来に向けて大事な一歩だ。 そのための、「頭の中を整理する方法」や、「人と違って自分らしい自己紹介をする方法」など、考えをまとめる上でヒントになるやり方をゲームのように楽しく提示し、自分らしい答えを出させるように導くのだ。

こんな感じで番組の根本から考え作りだす作業ってのは、愛情たっぷりに我が子を育てていくことに似ていてなんだか楽しい。

打合せの帰り、保育園にお迎えにいくと今日も友達に叩かれたり、噛まれたりして大泣きしている娘。こうやってたくさん喧嘩して、痛かったり悲しかったりしながらコミュニケーションのいろはを覚えていく。たくさんもまれて経験することで「コミュニケーションの仕方」みたいな番組なんてみないですむ子どもに育ちますように~。え?

次回は、「お伝と伝じろう」の、撮影に向けての話を書きます。

WRITER PROFILE

オースミ ユーカ

オースミ ユーカ

CMやEテレ「お伝と伝じろう」「で~きた」の演出など。母業と演出業のバランスなどをPRONEWSコラムに書いています。