Inter BEE(国際放送機器展)は、開催50回の記念の年を迎えるにあたり、このPRONEWS初の紙メディア媒体「PRONEWS Mag」の責任編集・制作を担当させて頂いた。会場で無料配布された全36ページのフリーペーパーだが、“テクノロジーとクリエイティブの両面から次の映像制作を考える”をテーマに、筆者が5年ぶりにこうした冊子の編集に本格的に携わった。この制作に至るまで、実は色々な経緯があったので、今月はそのエピソードも交えてご紹介したいと思う。尚、会場限定配布のみで今後再印刷や電子版の配布は無い。どんな内容だったかのはこちらを参考にして頂ければと思う。

映像愛に刺激された2014年

2014年4月に開催された映像技術における最大の展示会、2014 NABshowでは、様々な新製品が披露されたが、その中でも映像、そして映像制作自体を愛して止まない気持ちから、これからの新たな道を開こうとする、ある種の“映像愛”から生まれた製品やテクノロジーを強く感じるものが多かった。

筆者自身その中で従来のアナログをリスペクトするような動向が強く感じられたこともあり、あえてWebというメディアから派生した、いまの時代の紙メディアを模索してみたいと思ったのも事実だ。そこにPRONEWS編集長からの「PRONEWS Mag」オファー。タイミングの良さと周囲のご協力もあって、今回の発刊に漕ぎつけた。

Grant Petty(グラント・ペティ)氏の言葉

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今年の2014 NABshowでCintel Film Scannerを発表するグラント氏。解説を進めるうちにその表情には、少し憂いの表情を覗かせていたのが印象的だった

再度紙に向き合おうと思ったきっかけの一つが、ブラックマジックデザインの「Cintel Film Scanner」である。まさかこの会社からフィルムスキャナーが出て来るとは思わなかったが、同社のCEOであるGrant Petty(グラント・ペティ)氏は同社の設立にあたり、自身がポストプロダクションで働いた時の経験から、そのときに苦労したことを補える製品開発を目指して作られたのがブラックマジックデザインという会社であり、そうした製品を才能のある若いクリエイターに使ってもらい、素晴らしい作品を生み出して行って欲しい、そうした願いから同社の製品が作られている。

今回のCintel Film Scannerも、Cintelというかつての名ブランドが消えて行く前に買収し、Thunderboltを中心とした新たな技術を与えて蘇らせた。この製品を発表する際に彼の表情には35mmフィルムへの映画愛が垣間見えたのだ。

PRONEWS Mag巻頭のグラント氏へのインタビューはこうしたことから、彼に今の4K / 8Kといった高解像度への進展をどう感じているか?を聞いてみたかったことに始まる。通常こうしたインタビューは受けないそうだが、今回はまさに貴重な機会を頂いた。

その中でそのCintel Film Scannerについては、PRONEWS Mag本誌には掲載出来なかった別項があるので紹介したい。

フィルムスキャナー、今必要な理由

Q:Cintel Film Scannerは、潜在する35mmFilm素材から4K映像を生み出すツールと聞いています。この製品化における真の意味とは何ですか?

グラント氏:Ultra HDを既存の映像資産から得ること=それが私たちがCintelを買収した理由です。世界中の35mm filmに閉じ込められた何万時間ものUltra HDコンテンツにアクセスできるようにしたかったのです。世界の歴史がフィルムに保存されており、我々はそのコンテンツを配給し放映できるようなフォーマットにする必要があると考えています。

(Cintel社を)買収を発表した当時は、私たちがフィルムスキャニングの会社を買収することは少し変に思えたかもしれません。デジタルフィルムのカメラを持っているのに、どうしてフィルムスキャナーの会社に興味を示すんだろう?と…。

しかし、私たちは35mmフィルムはUltra HDや4Kに耐えうる画質を持っていると知っていました。そのため普通のポストプロダクションユーザーが使える、簡単で非常にコンパクトなデザインの新しいフィルムスキャナーを開発したかったのです。

だから、フィルムのエキスパートでないとわからないような、高度なフィルムスキャナーは作りたくなかったのです。そして私たちはまったく新しいフィルムスキャナーを作るために尽力しました。薄型であまり場所を取らず、DaVinciのパワーを使い、最新のThunderbolt技術でスキャナーとMacを接続して操作。フィルムに優しいデジタルサーボを使い、賢くできているので、使い方もとてもシンプルです。私たちのこのスキャナーによって、何千時間分もの素晴らしいUltra HDコンテンツを世界中で簡単に作り出せるようになることを願っています

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秒間24コマのリアルタイムのキャプチャーが可能だが、新たにこのために開発された独自のRAWデータのため、少々転送速度に難が出る可能性もある。キャプチャー速度を遅くするなどのコントロールも用意されるという

実際に、このスキャナーはInter BEEでも実機が展示されていた。仕様はスキャナー部分が40個のLEDで構成された拡散光源で、汚れやキズが目立ちにくい。センサー部のピクセル数が4096×3072で、秒間24コマをリアルタイムで読み込める。4Kにしてはピクセル数が中途半端に大きいように思われるが、基本的には35mmフィルムからUltra HDサイズ(3840×2160)の素材を精製するためのスキャナーであり、パーフォレーション(外枠の穴の部分)やオーディオトラックも含んだ部分を捉えるためで、取り込んだ素材をUltra HDに切り出すDaVinci Resolve上の専用ソフトウェアがある。

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DaVinci Resolveに標準化されるCintel Film Scannerのコントロールソフトウェア。今年のInter BEE段階ではまだテストバージョンだったようだが、年末あたりの発売に向けて実装される

実際にはDaVinci Resolve専用のキャプチャーデバイスという位置づけで、そこからすべてを制御するように設計されている。素材は全く新しいブラックマジックデザイン独自のオリジナルRAWファイルとして精製される。フィルム復権の起爆剤となるのかはこれからだが、これまで数千万、クリーンルーム等の施設を含めれば数億という設備費が掛かったフィルムスキャンの世界が、日本円で3,128,000円(税抜)という低価格で手に入るというのは、その世界を知っている者からすれば非常に魅力的であり、価値も高いといえる。

いまの時代に符合するテクノロジー

手に取って頂いた方限定の話になるが、PRONEWS Magのその他の記事では、いま気になるメーカーや製品、これまでなかなか紹介されて来なかったテクノロジーなどについてもオリジナルな視点で取り上げてみた。

例えば、この春に待望の登場を果たしたPanasonic VARICAM 35の誕生について。そこに、かつて多くの映像制作者を育てたともいえるDVカメラの歴史に輝く名機、AG-DVX100の開発を彷彿させるような開発ストーリーがあった。VARICAMの次世代機の開発にあたり、開発陣が世界各国のカメラマン、撮影監督や映画関係者などに技術者自らが、次代のシネマカメラについて意見を聞いて廻った末に出来上がったのが、スマートなシネマカメラを目指した統合的かつ汎用性の高いコンセプトと、自社新開発の高性能MOSセンサーに新機構「デュアル・ネイティブISO」を搭載し、この秋発売されたVARICAM 35なのである。

実は約15年前、あのAG-DVX100開発の時も同じようなエピソードがあり、世界のクリエイターが望むDVカメラがどんなものか?と聞き回った中で多かったのが24pが撮れるカメラという要望だったのである。まさにそのデジャブ現象ともいえる今回のVARICAM 35開発陣の想いは、やはり映像愛からの産物なのであろう。

日本ではほとんどお目にかかることの出来ない三脚メーカー、Really Right Stuff(RRS)レポートも、まず日本のメディアでは取り上げられる事のない話題だ。今をときめくフィリップ・ブルーム氏やビンセント・ラフォーレ氏など、DSLRムービー界のトップランナーがこぞって使用している、世界のプロフォトカメラマンの間では有名なブランド。だが直販のみというかたくなな姿勢のメーカーとしても有名で、通常の販売ルート(カメラショップや量販店)では実際の製品にはお目にかかる事のできない代物だった。それが突如今年のNABshowに出展したのだ。これは非常に稀なケースで、今後の動向も気になったことから、僅かに利用されている日本のユーザーから本社にコンタクトを取って頂き、今回の掲載に結びついた。

また、クリエイターへのインタビューでは、今回のPRONEWS Magのキモとなるお話が聞けた。Cosaeluの高野光太郎氏とは個人的に旧年来の友人でもあり、すでに著名な映像クリエイターである。日本を代表するAdobe After Effectsアーティストに進展され、いまやリスペクトする存在でもある彼が、昨年末に手がけていたのは、イベント向けに制作された、4K×120fps×6枚×約3分というとてつもなく巨大なコンテンツ。4K / 8K時代を迎えるにあたり、実際に制作経験のある方に高解像度とクリエイティブの関係を語って頂きたいという気持ちから、今回の機会を受けて頂いたのだが、実に興味深く実のあるお話を聞くことができた。

STORIESの鈴木智也氏は、2011年11月のハリウッドのパラマウントスタジオでのキヤノンCINEMA EOS SYSTEMの世界発表の現場で初めてお会いしたのを記憶している。日本から世界に通用する新しい制作会社を目指し、こうした考えの会社も出てきたのか?と筆者自身も影響を受けたお一人だ。なかなかこれまで記事に取り上げる機会も無かったので、多忙な中だったが無理をいってコメントを頂く事ができた。

キービジュアルから触発される創造

今回の「PRONEWS Mag」の制作にあたっては、映像制作者にとって「ちょっと先の未来」を見せることで、読んだ方のクリエイティブが少しでも触発されるのならば、そのメディアの価値があるのでないだろうか?と考えた。それは肯定的なものであっても否定的なものであっても良いと思っている。

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今年のPRONEWSのテーマ「Capture your world」に準えて制作されたメインビジュアル。撮影機材はCanon EOS-1D CにZeiss Otus 1.4 / 55。4K overで実撮された写真であるが、貫井氏独特の世界観で現像処理が施された、高解像度を活かした日本画風のテイストが見る者を引き込む

今回のテーマは「4K / 8Kはクリエイティブに何をもたらすのか?」である。全てのインタビュー記事にこのテーマを盛り込み、その回答を聞いた。各々の回答や考察は実際のPRONEWS Magの記事をお読み頂きたいと思うが、キービジュアル撮影に関しても実は同じお題を出していた。しかも条件に関しては、少ない制作予算とテーマを伝えただけである。その回答が今回の巻頭のメインビジュアルとなった“Capture your world(PRONEWS自体の今年のテーマ)”だ。

また個人的にはこうした媒体では、必ずその本のテーマに沿った、キービジュアル的なグラフィック(画像や写真)が必要だと思っている。そのキービジュアルから何かを感じ取り、読者が自らのクリエイティブを触発して欲しいからだ。個人的には何かしらの触発という化学反応の“触媒”となることこそが、メディアとしての重要な価値観だと思っている。

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Capture your worldの撮影シーン。たった1枚の撮影だが、貫井氏の綿密な計算による画像設計が施された

これを手がけて頂いた映像作家の貫井勇志氏は、尊敬するカメラマンの一人であり、映像でも写真でも多くのクリエイター / 制作者を刺激してきたアーティストである。その作風の個性も強いが、ある意味で光を捉える天才であり、すでに世界遺産などの写真では世界的評価も受けている。彼にこのテーマを与えて果たして何が出て来るのか?ココに関してはあえてNO編集で、しかも今回は筆者自身も撮影現場には行かず、単純にその出来上がりを楽しみしていた。

すでにこのビジュアルを見た多くの方、特にカメラマンやレンズやカメラのメーカー関係者からは賞讃の声が出ているが、そこには単にEOS-1D C×Zeiss Otus 1.4 / 55という4K対応の機材だけでは創造できない世界がそこにあった。写真でありながら日本画を彷彿させる創造的な描写とその個性的なルック、それを算出するための綿密に設計された詳細なディテール設計。こういうカタチでこのテーマを昇華することができるのが、やはりクリエイターというジャンルの人達の凄さだと思う。本人の制作後記も冊子の後半に掲載されているので、ぜひ参考にして欲しい。

高解像度時代になろうがなるまいが、我々表現者がディテールを操り、ノイズをコントロールすることで観るものの感情に訴えかけることに変わりはない…(by 貫井勇志)。

まさに、そういうことだと思う。

WRITER PROFILE

石川幸宏

映画制作、映像技術系ジャーナリストとして活動、DV Japan、HOTSHOT編集長を歴任。2021年より日本映画撮影監督協会 賛助会員。