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[鍋潤太郎のハリウッドVFX最前線]Vol.54 アカデミー賞VFX部門のノミネート作品を決定する「BAKEOFF」開催

#鍋潤太郎のハリウッドVFX最前線

2015-02-03 掲載

取材:鍋 潤太郎

ハリウッドの賞レース・シーズンの幕開け

映画の賞レース・シーズンの幕開けとなった。1月10日土曜日夜、第87回アカデミー賞視覚効果部門の候補作品(以降、ノミネート作品)を選定する為の試写会「BAKEOFF」(ベイクオフ)が開催された。今回は、その話題をご紹介させて頂く事にしよう。年が明けて間もなく、ハリウッドは賞レース・ムードに包まれる。特に1月から2月に掛けては、ゴールデン・グローブ賞やアカデミー賞、そしてDGA(全米監督協会)やWGA(米脚本家組合)、VES(米視覚効果協会)などの各映画ギルドの授賞式がこぞって開催されるシーズンなのである。

特にアカデミー賞の授賞式は、世界的に認知された権威ある賞という事もあり、賞レース・シーズンの最後に締めくくりとして開催される。

BAKEOFFとは何か?

NABE_vol54_5184 両脇にアカデミー像がそびえる、Samuel Goldwyn Theater

アカデミー賞の授賞式においてオスカー像を獲得する作品は、アカデミー賞の会員投票によって各部門のノミネート作品の中から1本が選ばれる訳だが、その前段階として、「ノミネート作品そのもの」を選定&投票する為の試写会が、「BAKEOFF」である。

BAKEOFFという言葉は、元々パンを焼き上げる製法から由来しており、アカデミー賞などの映画賞で、数ある候補の中からノミネート作品を絞る「選考会」の名称で用いられる事が多い。

毎年、BAKEOFFの会場となるのは、ビバリーヒルズにあるアカデミー(米国映画芸術科学アカデミー)の試写室、Samuel Goldwyn Theaterである。ここで、各部門ごとにBAKEOFFが行われる。

BAKEOFFは、基本的にはアカデミー賞の会員を対象とした試写会なのだが、実は!!…会員以外の一般人も先着順ではあるが、無料で入場する事が出来る。開演は夜7時なので、その1時間前位から先着順の列に並んで、開場時間を待つのが通例。ただ、今年は雨が降っており、アカデミー側の配慮により、寒空の下で列に並ぶ必要もなく、先着順に暖かい建物の中に入る事が出来たのは嬉しかった。

NABE_vol54_5172 右が講演者が経つ演壇。オスカー像の左側に、棒の上に固定された赤い裸電球が見える

試写室の中に入ると、ステージの両脇には“あの”オスカー像がドーンとそびえ立っており、映画関係者であれば誰もが「ここが由緒正しき聖地」である事を感じずにはいられない(笑)。

今年のBAKEOFFでは、10本の候補の中からノミネート作品5本を選定すべく、プレゼンテーションとクリップの上映が行われた。各作品の持ち時間は10分。挨拶&解説2分、クリップ上映5分、質疑応答3分と、その内訳も細かく決まっている。ちなみに、VFX部門のノミネート作品は以前は3本だったが、昨今のVFX作品の多さを反映し、2010年5月にノミネート作品を5本に増やす事が発表され、第83回から新ルールが適用されたという経緯がある。

NABE_vol54_5166 寄ってみると、こんな感じ。これが世界的に有名な、アカデミー名物の赤ランプ(笑)

持ち時間をオーバーすると、「BAKEOFF名物」の赤ランプがステージ前で点灯する(写真)。これが点いたら、言い残した事は端的にまとめ、“なるはや”でプレゼンテーションを終了しなければならない規則だ。終演後は、1Fロビーにて投票用紙が回収され、集計の後にノミネート作品が決定される。

今年の10作品プレゼンテーション要約

NABE_vol54_IMG_5177 入場すると、この日のBAKEOFFで上映される作品リストが手渡される

今年のBAKEOFFでは、下記10作品が上映された。

冒頭では、「みなさん、世界最高のVFX Showへようこそ!」という司会者による挨拶があり、今夜のBAKEOFFがこの1年間に公開されたハリウッド映画の中から、文字通り「選りすぐられた」10作品のみが上映されるという、大変贅沢な場に居るのだという事を再確認せずにはいられなかった。

この日の上映フォーマットは24fps、48fps、立体上映、そして70mmプリントによる上映など多岐に渡り、その苦労を称えてか、この日のプロジェクショニスト(上映技師)の名前もわざわざアナウンスされ、場内から「お~、パチパチパチ」と拍手が起こっていたのが印象的だった(笑)。

上映された作品と、プレゼン内容の要約は次の通り。

■The Hobbit:The Battle of the five Armies(3D&48fps上映)
Warner Bros.
Wetaでは新しいレンダラー「マニューカ」(Manuka)の導入によって、表現力が飛躍的に向上。1,870ショットに及ぶ膨大なVFX、130に及ぶデジタル・キャラクターなどチャンレジの連続。バトル・シークエンスはサウンド・ステージで撮影され、ハイレゾ・モーションキャプチャー・カメラやバーチャル・カメラを駆使し、フルデジタルで仕上げた。ライティング・ツールの向上により、1パスでのレンダリングも行われた。新しいライティング・ツールはハードウェア・レンダリングでプリライトを行ったり、インタラクティブ機能が強化されている。また、RBDや流体はマルチスレッド対応によりシミュレーション時間の効率化を図った。

■Maleficent(3D上映)
Walt Disney Motion Pictures
メインのVFXベンダーとしてMPCデジタルドメインメソッド・スタジオが参加。プレビズはサード・フロアが、2D→3D立体視コンバージョンはレジェンド3Dが担当している。アンジェリーナ・ジョリーのコスチュームが7種類あり、長い翼や髪の毛等の要素も含め、チャレンジの連続だった。MPCは16種類のデジタル・クリーチャーを担当し、伝統的なフェイシャル・キャプチャー・ツールに加え、沢山のカスタム・ツールを開発。リアルで豊かな表情の実現に貢献している。

■X-Men: Days of Future Past(3D上映)
20th Century Fox

クイックシルバーのスローモーション・シークエンス
※著者注:クイックシルバーのスローモーション・シークエンスが映写された瞬間、場内からは拍手が沸き起こった。この晩、最大の拍手

バーチャル・カメラを用いてオン・セットでプレビスを行った。これはタイミングを詰めるのに役立った。MPCは複雑なフェイシャル・リグを駆使してデジタル・クリーチャーの表情を表現。スタジアムのシーンはデジタルドメインが担当。巨大感が出るよう配慮しながらアニメーターが動きをつけ、RBDシミュレーションによる破片・瓦礫を追加し、V-rayによってレンダリングされた。コミカルな、クイックシルバーのスローモーション・シークエンスは250fpsで撮影され、ライジング・サン・ピクチャーズが膨大な流体シミュレーション・パスを組み合わせて仕上げた。

■Transformers:Age of Extinction
Paramount
「トランスフォーマー」の新しいフランチャイズ作品として出演者を一新し、マイケル・ベイらしくより複雑に、より沢山の爆発が登場する作品となった。デジタル・クリーチャーも複雑化し、そしてよりフォトリアリスティックになった。VFXベンダーはメインがILMで、アトミック・フィクションウィスキー・ツリーも参加している。毎度の事ながらロボットのリギングが最大のチャレンジで、「ブロック・パーティ」と呼ばれるインハウス・リグツールを開発、複雑なアニメーションを実現している。

■Guardians of the Galaxy
Walt Disney Motion Pictures
主要キャラクターの殆どがデジタル・クリーチャーだった事が最大のチャレンジだった。主要なVFXベンダーはFrameStore、MPCの2つで、それ以外にもソニー・ピクチャーズ・イメージワークスメソッド・スタジオルマ・ピクチャーズ等が参加している。キャラクター・アニメーションは全て手づけによるもので、モーション・キャプチャーは使用していない。FrameStore、MPCの2社間でグルートやロケット等の主要キャラクターのアセットをシェアし作業を進めた。毎日デイリー試写を行う等連携を図った。どちらもロンドンという地理的な観点ではうまくいったが、異なる社内ツール、異なるレンダラーなど、データのやり取りでは多大な苦労があった。その為、両社ではリグ・レベル、アニメーション・レベルでのミーティングを頻繁に行った。

■GODZILLA
Warner Bros.
ショット数が膨大で、ジャンジャラ市のパワープラントはダブル・ネガティブ、津波はスキャンライン、ゴールデンゲート・ブリッジはMPC、チャイナタウンはWetaという具合に各シークエンスでVFXベンダーを分けた。プレビスはサード・フロアが担当しており、撮影はプレビスに忠実に行われた。600フィートの巨大モンスターGODZILLA。巨大感が大切なので、煙や夜霧等のアトモスフィアの見え方や、落下物の速度など、「巨大に見えるように」常に配慮した。ショットによっては、GODZILLAのサイズを変える「嘘」でスケール感を強調しているシーンもある。

■Captain America: The Winter Soldier
Walt Disney Motion Pictures
70年代のスリラー映画風のスタイルをめざした。マーベルのアクション・ヒーロー映画という事もあり2,500ショットを数え、合計15社のVFXベンダーが参加した大規模プロジェクトだった。主要VFXベンダーはILMだが、他にもワシントンD.C.の水のシーンでスキャンラインやWetaも参加している。ペギー・カーターの「老けメイク」のシーンは、伝統的なスペシャル・メイクもテストしてみたが見え方があまり芳しくなかった事もあり、この分野を得意とするLola VFXがデジタル・メイクによって仕上げた。

■Dawn of the Planet of the Apes(3D上映)
20th Century Fox
Apes(類人猿)をリアルに、観客に「生きている」と思わせるのがチャレンジ。特に目の表現は大事で、アイリスの反射等にも細かい配慮をした。表情の表現は、パフォーマンス・キャプチャー技術が向上し、よりリアリティを追求出来るようになった。また水などの流体シミュレーション、ファーのシミュレーションも改良された他、Wetaの新レンダラー「マニューカ」(Manuka)によって皮膚や舌などの表現も改善されている。また新しいライティング・ツールによって、実写素材とデジタル素材をより「馴染ませる」事に成功している。

■Night At the Museum: Secret of the Bomb
20th Century Fox
普通、コメディ作品はなかなかBAKEOFFの上映リストに食い込めないものだが、今回はこうしてランクインしてとても光栄(笑)。VFXベンダーはMPC、デジタルドメイン、メソッド・スタジオ、ゾイックシネサイト等が参加してる。プレビズに3ヶ月を費やし、準備に時間を掛けた。今回もT-Rex等お馴染みのキャラクターが沢山登場するが、小人サイズから巨大サイズまで様々なサイズである。これらのスケール感を出す為、レンズの種類を変える等、撮影段階から「スケール感」をうまく出すよう配慮したり、デジタル・エンバイロメントをわざとミニチュアっぽく見せたりしている。デジタル・エンバイロメントやセット・エクステンションはフルデジタルのショットも多く、ポンペイの溶岩などリアリティを追求したものも含まれている。

■Interstellar(70mmプリントによるフィルム上映)
Paramount
VFXはダブルネガティブ、SFXはニューディール・スタジオが手掛けた。今回はブラックホールやワーム・ホールを科学的に正しく表現する試みに加え、IMAXカメラによるフィルム撮影、そしてミニチュアによる宇宙船の表現など、多岐に渡る試みが盛りこまれた。デジタル全盛の昨今「ミニチュアなんてリアルじゃないよ」という声も聞こえるが、まだまだ健在である。
今回、宇宙船はニューディール・スタジオによる1/15サイズのミニチュアが制作され、見事なディテールを与えている。また、宇宙船の破壊シーンはハイスピード・カメラで撮影され、スケール感を出している。宇宙空間のシーンでは12台のプロジェクターによるフロント・プロジェクションを用いて宇宙船の窓からの光景や、俳優マシュー・マコノヒーに対する反射光や映り込み等を撮影した。意外に思われるかもしれないが、この作品でグリーン・スクリーンが使用されたのは、野球場のシーンの1ショットのみで、残りは全てロトスコープによる力技である。

このように、各プレゼンテーションでは、各映画のVFXスーパーバイザー達が、技術的なセールスポイントや斬新さなどを、ユーモアも交えてアピールしていた。

ノミネート作品5本は、これだ!

NABE_vol54_5165 メンバー専用エリアで、投票を行うアカデミー賞の会員

さて、アカデミーはこのVFX BAKEOFFから5日後の1月15日朝5時半(米国西海岸時間)、同じくSamuel Goldwyn Theaterにて第87回アカデミー賞の全部門における最終的なノミネート作品を発表した。余談だが、時差が3時間早い米東海岸の朝9時に合わせる為、こんな早朝に行うらしい…。

前述のBAKEOFFで上映された10本からの中から、最終的に発表された、今年の視覚効果部門(Visual Effects)ノミネート作品は、5作品は下記の通り。

  • Captain America: The Winter Soldier
  • Dawn of the Planet of the Apes
  • Guardians of the Galaxy
  • Interstellar
  • X-Men: Days of Future Past

そして、この後にアカデミー会員の最終投票を経て、最終的に1本だけが選び抜かれ、2月22日(日)に開催される第87回アカデミー賞の授賞式で表彰が行われる訳である。

どの作品のVFXもそれぞれ素晴らしく、甲乙つけ難い完成度で、この中から1本を選ぶのはかなり頭を悩ます事だろう。筆者個人の独断と偏見に基づく予想では、「Dawn of the Planet of the Apes」が有力なのでは?と思うが、果たしてどうなる事だろうか。

いずれにせよ、どの作品がオスカー像に輝くか、今から非常に楽しみである。


WRITER PROFILE

鍋潤太郎 ロサンゼルスを拠点とするVFXジャーナリスト。


[ Writer : 鍋潤太郎 ]
[ DATE : 2015-02-03 ]
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