今年もNHK第44回番組技術展が開催

2月9日から11日の3日間、東京・渋谷のNHK放送センターにおいて放送の現場で活躍する最新の技術を紹介するNHK第44回番組技術展が開催されている。当初は全国にあるNHK支局の創意工夫を披露する場として関係者のみに公開されていたもので、いわば社内文化祭のような形でスタートしたが、視聴から受信料を徴収して成り立っている国内唯一の放送局であるため、一般の視聴者に制作現場を披露することでより親近感をもってもらうと同時に透明性を確保するという狙いもあるようだ。

NHKでは5月にNHK技研公開を開催しているが、4Kや8K、放送インフラを中心にしたものが多く、現在から将来にわたる技術やデバイスなどを紹介する技研公開に対し、番組技術展はすでに現場で活用実績のあるものが中心となっている。

したがって、その効果や有用性は放送された番組で確認できるというメリットがある。最近国内外での災害が多かったことを反映してか、今年は緊急放送や災害地の撮影システムなどの出展が増えてきたのが印象的だったが、災害対策基本法の指定公共報道機関として唯一NHKが定められていると同時に巷のアンケートなどでも災害や大きな事件などが発生した場合NHKを見るという一般の人も多く、そうした要望に答えたものでもあると思う。籾井会長の発言や渋谷のNHK移転計画など、スーパーハイビジョン以外にも様々な話題として取り上げられているNHKだが、現場からの創意工夫はそうしたものとは別次元として捉えて行きたいと思う。

災害時の撮影手段

災害時の重要な情報源として迅速的かつ正確な報道を目指して様々な取り組みがなされているほか、火山など人が近づけない場所での撮影手段、視聴者へどのように届けるかなど、制作現場から視聴者まで一貫した取り組みがなされている。

■GPS制御を使った「無人飛行撮影システム」
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気象観測データを収集するための機体をベースにした無人飛行撮影システム

マルチコプターなどドローンによる撮影が話題になっているが、こうした撮影をGPSによる自動飛行により無人撮影を行うシステム。1m以上ある比較的大きな機体で航続時間約4時間、航続距離260kmとかなり長時間長距離の飛行が可能。大気中の成分分析など気象観測データを収集するための機体をベースに作られており、強力なガソリンエンジンを搭載している。見通し距離ではリモコン操作で、それ以降はGPSを元に自動飛行して目的の場所の映像を撮影して帰還するようになっている。小笠原諸島の西ノ島のように立ち入り禁止区域の撮影や火山噴火、災害情報など有人の飛行機やヘリコプターなどが近づけない場所での撮影で利用される(放送技術局 制作技術センター)。

■地震速報を用いた揺れ映像の自動伝送システム
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WEBブラウザーにより、カメラの選択や日時を指定して再生などのコントロールが可能

自動的に地震発生時の情報カメラの映像を伝送するシステム。地震発生時の情報カメラの情報はその地点での状況を伝える貴重な映像情報となるが、カメラの台数が多くなると常時記録している映像から必要箇所を選択する作業が必要となる。このシステムでは、震度の大きい地域の映像を優先して伝送したり、リアルタイムで伝送できない場合はファイル化して伝送することができる。また、遠隔操作により任意の時刻の映像だけを伝送することも可能(松山放送局/放送技術研究所)。

■災害情報のデータ放送・ホームページマルチユースを展開
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L字放送の内容をホームページや各種データ放送などワンソースマルチユースに活用

災害情報者緊急ニュースなどを放送画面の周囲に情報として表示するL字放送の内容は、ホームページや各種データ放送などにも利用されているが、L字情報入力端末からの情報を効率的に各種メディアに展開できるシステムで、すでにNHK全国放送で活躍している。ワンソースマルチユースをオンラインで迅速かつ自動的に運用するシステム(放送技術局/編成局/技術局)。

■河川カメラ放送システム
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国土交通省の河川カメラの映像を放送に活用

河川に設置された国土交通省のWEBカメラを地図上から選択して放送利用するシステム。IPアドレスを指定しなくても簡単に選択することができ、河川の増水状況などを迅速に放送に利用することができる(新潟放送局)。

■地震・津波・気象警報の館内向け自動アナウンス装置
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気象庁の地震・津波・気象警報の館内向け自動アナウンス装置

気象庁が発表した地震や津波、気象警報などの情報を放送会館などに自動アナウンスするシステム。従来の専用情報端末や印字物による情報を自動的に管内放送することで、こうした情報の共有や速報スーパー制作など迅速な対応と間違いのない緊急報道に対応できるようになった(仙台放送局)。

■基幹放送所のアラーム通報機能の改善
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放送設備の障害自動通知システム。障害内容のログをメールで自動送信

放送設備の障害自動通知システムの内容をより詳細にしたもので、従来の電話やメールによる設備障害の通報機能を発展させ、障害ログを解析し詳細な内容をメールで通知することを可能にした。送信所のログファイルを自動解析し、その内容をメール通知するとともに系統図上にその障害箇所を表示するシステム(大津放送局)。

■2TS比較監視~一致/不一致を一目で~
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二重化された放送設備を障害発生時に自動切り替えするシステム

送出設備は24時間確実な放送を確保するため二重化されているが、映像や音声、EPG、データ放送などを項目ごとに監視し、障害発生時には自動的に切り替えるシステム。映像レベルや音声レベルを表示し本番と予備の送出状況を監視するとともにTSの一致・不一致を緑黄赤で表示。設備障害時に迅速なバックアップを支援することが可能(放送技術局 メディア技術センター)。

■緊急警報放送対応リモコン「ピロ太郎」
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緊急警報放送時、自動的にテレビやラジオの電源をONにするリモコン装置

地震や津波などの緊急警報放送時自動的にテレビやラジオの電源をONにするリモコン装置。リモコン自体が緊急警報放送の電波を受信してテレビの電源をONにし、NHK総合放送を選局するようになっており、テレビに流れる電流を検知して電源のON/OFFを判定。動作後のテレビつけっぱなしを防止する自動OFF機能も搭載されている(岡山放送局)。

現場に密着した撮影機器・システム

通常の撮影であれば最近のカメラはほとんどの現場でそのまま使うことが可能だ。ハイスピード撮影に対応したカメラもあり、かなり暗い環境でも撮影可能な製品も出てきている。更に特殊な撮影を行う場合は専用のシステムが必要になってくる。オリンピックなどのスポーツものや自然を対象にしたものなど、その守備範囲は広い。今回もこうした領域でも撮影可能な撮影システムやファイル化が進んだ現状に対応したものなど、現場に密着したシステムを披露していた。

■高速トラッキング撮影システム
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高速度カメラのレンズ前面に設置された高速トラッキング撮影システム

卓球や野球のボールをカメラで捉えることは非常に難しいが、水平垂直に可動するミラーをカメラレンズ前に配置して制御することで、画面の中央に狙ったボールを撮影することができる。高速度カメラなどに装備することで、ボールの回転や卓球のラリー、バレーボールのアタックなど、その瞬間だけでなくボールの動きも捉えることができる(甲府放送局/放送技術局 報道技術センター)。

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装置内のミラーの動作の説明映像

■小型4Kフォーカスアシスト装置
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4K対応フォーカスアシスト装置

4K撮影となると通常のファインダーではピント合わせが困難となるが、映像信号の高周波成分を抽出することで、フォーカス範囲を表示しピント位置を画面内に表示するもので、Vマウントアダプターで既存のカメラに装着可能となっている。入力はHD-SDI×4、出力はHD-SDIとなっており、一般的なカメラに対応可能(放送技術局 制作技術センター)。

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画像の黄色い部分がピントが合っている箇所

■高機能化ハイブリッドセンサーによるバーチャルスタジオ
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低コストでバーチャルスタジオを構築することが可能なバーチャルスタジオシステム

大がかりになりがちなバーチャルスタジオシステムをハイブリッドセンサーを採用することで、コンパクトかつ機動性のあるシステムとしたもので、すでに「着信御礼!ケータイ大喜利」「ひるとく」「海と生きる」などの番組で運用されている。昨年も出展されていたが、今年は照明センサーを加えることで、自然な照明状態をバーチャルスタジオ内で表現できるようになったほか、全天周映像を利用でき低コストでバーチャルスタジオを構築することが可能(放送技術研究所/(一財)NHKエンジニアリングシステム/(株)NHKアート/長野放送局)。

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照明センサーを加えることで、自然な照明状態をバーチャルスタジオ内で表現できるようになった

■遠赤外線ズームカメラ
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9倍のズーム機能が搭載された遠赤外線ズームカメラシステム

昨年カセグレン式の光学系を採用したものが披露されたが、屈折型を採用することで、小型化するとともに9倍のズーム機能が搭載された。赤外線領域の撮影が可能なので、光源のない夜間でも映像を捉えることが可能なほか、色調モードにより温度差を色として表現することができる(放送技術局 報道技術センター)。

■ウルトラロー雲台
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360°のパンと±40°のティルトが可能なウルトラロー雲台

ローアングルでの撮影ではハイハットや開脚角度の広く取れるベビー三脚などを利用するが、それでもヘッドの高さより高い位置での撮影になってしまう。地上高すれすれの低い位置からの撮影を可能とする雲台によりこうした問題を解決している。クレーンなどを使ってローアングル撮影は可能だが、設置の容易性や機動性など運用性を重視したシステムとなっている(大阪放送局)。

■山岳中継用超小型軽量スイッチャー
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山岳中継用に開発された超小型軽量スイッチャー

小型軽量が求められる山岳中継用の3ch小型スイッチャー。質量約1.4kgで、フェード機能や音声モニターなども搭載されている(報道局)。

■スマートクローズアップシステム
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お天気カメラと同様な操作で使うことが可能

取材先から提供される写真や印刷物などの静止画をパン/ティルト/ズーム/ロールといったカメラワークを付加して動画データとして活用するための装置。お天気カメラの操作と同様な運用性により、簡単な操作で容易に動画として取り込むことができ、取り込んだ画像に影やモザイクなどを付加することも可能(放送技術局 制作技術センター/新潟放送局)。

■収録内容確認アプリ「BMビューア」
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番組内容やメディアの残容量などを簡単に確認できるシステムで、動画再生にも対応

ファイルベースでの運用に移行し、各種番組は放送サーバーから送出されているが、番組制作においても従来のVTRメディアからハードディスクなど、いわゆるブリッジメディア(BM)を使用しており、こうしたメディアの管理のために開発されたシステム。BM内に保存されている番組内容やメディアの残容量などを簡単に確認できるシステムで、動画再生機能なども備えている。BMとタブレット型端末を接続するだけで簡単に操作できるようになっている(放送技術局 メディア技術センター)。

報道での安定した伝送装置

ニュースなどの報道ではいかに現場の映像を迅速に伝送するかが課題となる。放送局特有のそうした機材の一つにFPUがあるが、送信に適した場所の選定やアンテナの方向合わせなどが必要になってくる。また最近では公衆IP網を活用した方法も考案されてきた。また、水中などの特殊な環境での伝送手段などNHKならではのアイディアが披露されている。

■ニュースカーFPU伝送支援アプリケーション
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ビルなどの情報も航空写真やストリートビューなどを利用して確認できる

ニュース中継車などに搭載されているFPUで画像伝送を行うためにはアンテナの方向を伝送する方向に向ける必要があるが、GoogleなどのWEB上で提供されている地図データやGPS情報を利用することで、アンテナの方向や山など、地形的に伝送可能かどうかを判定できるシステム。地形的条件のほか、ビルなどの情報も航空写真やストリートビューなどを利用して確認できる(高松放送局)。

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地図データやGPS情報を利用することで、アンテナの方向を設定できる

■モバイル回線を利用した緊急報道車両サポートシステム
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公衆IP網とFPUを利用した緊急報道車両サポートシステム

緊急報道ではFPUの設置を待つまでもなく公衆IP回線を使って第一報を伝送し、FPU回線が確保されてからはIP伝送を送り返して利用するというもので、迅速な対応とムダのない伝送回線の利用が可能(札幌放送局)。

■水中ワイヤレスIP伝送装置
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青色LEDを採用することで水中での伝送効率を上げている

青色LEDを採用した水中ワイヤレスHD画像伝送装置。魚などの通過による一時的な伝送遮断があっても受信側からの自動制御(そういう意味では双方向性通信)により途切れなく伝送が可能。約70mの距離を50Mbpsで通信可能(放送技術局 報道技術センター/放送技術研究所)。

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送受信の伝送レベルが数値表示され、適正な設置が容易に行うことができる

現場や素材ごとに適した音声を

スーパーハイビジョンの音声では22.2chという仕様があり、それに適合した収録の手段や既存のステレオから22.2chへの変換など、現場や素材に適した方法が生み出されている他、ラジオ放送など既存の放送の品質向上の手段など音声にかかる技術も忘れてはならない技術といえる。

■22.2chミュージックアップコンバーター
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22.2chアップコンバーターとマルチチャンネルボリュームコントローラー

ステレオやモノラルの音楽素材をリアルタイムに22.2chサラウンドに変換するシステム。22.2ch音声はスーパーハイビジョンで採用されている方式で、既存のコンテンツなどでの音声処理を効率的に行うことが可能(デザインセンター)。

■SHV用 2レイヤーマルチマイクアレイ
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2レイヤーのマルチマイクアレイ

スーパーハイビジョン対応マルチマイク収録システム。環境音を収録するためのマルチマイクアレイとして従来アンブレラ型のマイクアレイを使用していたが、構造上風切音などを避けることが難しかった。今回、こうした問題を解決したほか、ロッドの角度調節や軽量化を達成した2レイヤーのマルチマイクアレイを開発。22.2chサラウンドライブラリーやN響コンサートPVなどで使用した。設置場所に応じて開口角の調節やロッドの長さの調節を行うことが可能で、1人でも容易に2レイヤーの収録ができるようになった(名古屋放送局/デザインセンター)。

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先端に装着されたDPAの小型マイク

■気象情報自動アナウンス装置
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テキスト形式の気象情報を音声に自動変換

テキスト形式の気象情報を台本に沿って自動アナウンスするシステムで、合成音声ではなく各フレーズをアナウンサーにより事前収録したものを利用するので、自然な音声として視聴できる。放送技術研究所が開発した話速変換技術を応用することで、放送時間に合わせた時間枠で放送することが可能。気象情報から音声ファイルを自動生成し、ネット環境を利用して各端末に送信される。WEBブラウザーから台本や送出スケジュールの管理などを行うことが可能(NHKメディアテクノロジー/放送技術研究所)。

■ラジオ音質評価装置
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擬似SNを採用することで客観的な音声品質測定が可能

実際に放送されているラジオの音質は受信レベルや混信、受信機の性能などによって異なってしまい、測定者の主観によるところが大きくバラつきがあった。そこで疑似SNという客観的に評価できる指標を導入し、効率的かつ客観的な音質評価を可能にしたもの。強電界地点(良好な受信ができる)で測定した時報音レベルと調査地点での無音レベルとによって算出することで、詳細な受信状態を分析可能(岐阜放送局)。

LED照明の普及・発展

省電力化やランニングコストなどの面でLEDは家庭だけでなく、スタジオなど放送でも使われるようになってきた。今までの照明機材と同等な照明機材の開発や運用性などを求めると既存のタングステン灯とは異なる機材も必要となる。時代の趨勢に伴い機材も進化していくのであろう。

■高演色性白色LEDフラッドライト
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中央にあるのがLEDで、ツブツブのある独自のリフレクターとディフューザーによりフラットな光源を達成

LEDで面光源(フラッドライト)を実現する場合、たくさんのLEDを並べて実現するのが一般的だったが、1つのLEDによりフラッドライト化を達成した。発光面積の広いLEDと特殊なリフレクターを採用しており、ディフューザーなしで直視しても従来のLED照明のような眩しさはなく、フィラメント式の電球と同様となっている。演色指数はRa90以上、DMX調光が可能で、ファンレスの自然空冷方式を採用している(放送技術局 制作技術センター)。

■LEDスポット自動切替器
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LED照明用に開発された自動切り替え装置

白熱灯を利用した従来の照明では電球が切れると電流が流れなくなるので、それを検知して予備の照明に切り替えていた。照明器具がLEDになると電球のように切れて電流が流れなくなるとは限らずシュート状態になることもある。通常の電流状態からこうした異常状態を検知して自動的に予備に切り替えるシステムで、ニューススタジオなどにおける人物照明に導入されている(放送技術局 報道技術センター)。

ハイブリッドキャストの活用方法とは

すでに放送で運用が開始されているハイブリッドキャストの新たな活用や双方向番組などデジタル放送になることで、従来のアナログとは異なった番組制作の手法が考えられる。これはNHKだけでなく民放でも同様だが、今回NHKが始めた番組の紹介が行われていた。

■NHK Hybridcast(ハイブリッドキャスト)
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総合テレビのほか、Eテレ、BS1、BSプレミアでも開始されているハイブリッドキャスト

すでに運用が開始されているハイブリッドキャストだが、マルチビューアーや多言語字幕などさらなる充実を図っている。スマホを使ったインタラクティブなサービスの提供や番組に関連する動画のオンデマンド配信など(放送技術局 メディア技術センター/放送技術研究所/編成局/メディア企画室)。

■MAPLE(Making interActive Program controL systEm)双方向番組を簡単に行えるシステム
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データ放送設備や回答受付け、得票表示などを一括して制御するシステム

データ放送をクイズ番組で利用するシステムで、タブレット端末による演出やニュース送出卓との連動により効率的な運用が可能。番組中に回答数が変化する様子をグラフ化し、画面に表示することが可能なほか、タブレット端末で設問開始や回答などをワンボタンで指定でき、TAKE操作などはニュース送出卓により操作が可能。作画装置やデータ放送登録装置、制御装置などで構成されており、作業が複雑かつタイミングが難しい双方向性番組の運用が簡単に行えるようになっている(広島放送局/福岡放送局)。

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PRONEWS編集部による新製品レビューやイベントレポートを中心にお届けします。