txt:林和哉 構成:編集部

今回は、デジタルシネマの歩き方というタイトルにふさわしい、映画関係のお話を少々。ある劇場映画とLog収録、それを支えたIS-miniのお話です。

平成仮面ライダーシリーズ

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平成仮面ライダーシリーズは、平成に入って製作され始めた仮面ライダーで、昭和の1号ライダーから始まるシリーズと区別するためにそう呼ばれています。時系列は基本的に一致しないため、設定の斬新さや新たな試みが取りやすく、毎回どんなライダーが出てくるのかが、一つの楽しみになっています。このシリーズに出演して人気俳優へと登っていった俳優は多数、俳優の登竜門としても一躍を担う希有なコンテンツです。

そんな仮面ライダーの現場は「年間を通じて毎週放送しているコンテンツとして、このクオリティは驚異的だ」と、世界のクリエイターも驚くほど、高効率を限りなく追求している現場としてもつとに有名ですね。


一日に撮るカット数は100に迫り、その精度はスタッフの磨き上げられたスキル(本当に長いこと培われてきたノウハウの塊)とキャストが一丸となっているからこそ成立していると言えます。日本人の物作りに対する職人気質が良く出ていると感じる筆者です。

筆者は本年4月から、東映テレビ・プロダクションさんで技術運営部のテクニカルコンダクター(コーディネーターよりももっと密着して動く意味を付加した造語をいただきました)として関わらせていただいていまして、東映東京撮影所の各部の人々の姿を見る機会が多くなりました。そうした中、上記のような思いを強くしています。

仮面ライダーは年間通して制作されているため、東映ではドラスティックな仕様変更を行うことは避けているといいます。それはそうですよね、毎週納品している訳ですから、ちょっとのボタンの掛け違いが、とんでもない規模に膨らむ可能性だってあります。そのかわり、年に一度の新番組開始に合わせて各方面で調整をしたものを少しずつ導入したり、日々のコツコツとした改善で、結果的に最大限の効果を得られるようにしているそうです。日本の「カイゼン」は、世界も見習う生産方式ですね。

そうした中、本年4月、クオリティ向上のためとワークフローをよりシンプルにするために、夏の仮面ライダー映画の制作に際してこれまでと違った取り組みをしよう、となりました。それは「Logで撮影した素材をそのまま本編集まで持って行く」です。

云うは易し行うは難し。昨今、Log収録も映画や単発ドラマではポピュラーとなってきましたが、連続ドラマではまだまだこれから。そんな中で、超短納期の仮面ライダーの制作でこれに取り組むにはなかなかのハードルの高さであり、課題が多いのです。現状、劇場版「仮面ライダードライブ」は、ARRI ALEXAとSONY PMW-F55の2台体制で撮影を行うことになっています。この選択肢を驚く方もいるかもしれないですね。その選択の理由は、

  • ライダーでは撮影中に頻繁にフレームレートの切り替えをしており、その際に必要とされるコマ数が決まっている。それに柔軟に対応していること(ALEXA、F55)
  • ProRes収録やXAVCといった取り回し易いコーデックであることによるポストプロダクションへの負担軽減(ALEXA、F55)
  • 上記の要件を満たしながら4K素材が撮れること(F55)

といったことなのです。

ある部分、とても特殊な要求があります。もちろん、それぞれカメラの個性があり、映像クオリティを最大限に追求しつつ両者を合わせ込む必要があります。

これまで、VEさん(Video Engineer)が現場で監督のイメージするトーンを求めつつ、2台のカメラのトーン合わせも行ってきました。安定しているRec.709のままで進めるポストフローなので、現場で広いラチチュードをもつ2台のカメラもRec.709に押し込めて記録。シビアな撮影可能時間、シビアな時間帯での撮影、撮影スピードに起因する天空や照度の問題、そうした複雑な要因を日々頑張って調整しているVEさんには頭が下がります。

データとしては、その時点で余裕のある部分を切り捨ててしまっているため、ポスプロで最終的な色バランスや演色をつくるときにバッファがなく、どうしても限界に達するのが早くなっていました。そのハンデはずっと云われていたことなのですが、Log撮影の素材を生かす体制が撮影・仕上げともに整っていなかったため、苦渋の決断でRec.709撮影データでの運用になっていたのです。

課題は、大まかに、

  • Logで出されている信号を現場で仕上がりのイメージができる形でビューイング
  • Log素材を現像無しにオフライン編集へ、現場と同じようにビューイング出来るようにする
  • Log素材をVFX班に渡す取り決め(プライマリグレーディングをしてからか、Logのままか)

といったもので、見出しは少ないですが、各部の作業担当者に理解をもとめ、ワークフローの検証、運用の方法、注意点など、やることは多岐に渡ります。

いろんな問題があるにしても、まずは制作チーム全体にLogを使って撮影することの利点と、現状のワークフローを不便にさせずに実行できます、という点を理解していただく必要がありました。焦点となるのが、LogをDelogして、ビューイングをする方法論の確立。そして、それがそのまま、オフラインで復元できること。Log撮影を取り回すには、これまでHD-LINKとLIVE GRADEというアプリの連携が有名だったのですが、LUTの再現性はあまりよろしくなかった。そうしたLog撮影にまつわる課題は、IS-miniの登場で、解決の糸口が生まれました。

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IS-miniとは、Image Processing System IS-miniが正式名称で、富士フイルムから発売されている高精度で信頼性の高いLUT処理機です。

  • Log出力信号に富士フイルムのノウハウを生かしたIS-LUTを適用し最終イメージに変換した信号をHD-SDI出力可能
  • IS-mini Managerを使ってリアルタイムにグレーディング可能
  • 調整した結果をLUTとして、Adobe Premiere Pro CC、After Effects CC、SpeedGrade CC、DaVinci Resolveなどに使用できる形で出力可能

実に、素晴らしい機材じゃありませんか!

筆者はIS-miniをあちこちの映像作品でワークフローの中心に据えていましたので、IS-miniをガンマカーブを曲げる魔法の箱、という例えでかいつまんで説明。IS-miniを導入して、問題を解決しようとしたのです。果たして、さすがは新しいものにチャレンジすることで時代をリードしてきた仮面ライダーチーム。二つ返事で実行することになりました。そして、「箱があればいいんだね、箱を探せ!」となったのです。

魔法の箱 IS-miniを探せ!

ところが。折しも世界中でIS-miniの有用性が注目されて迎えた2015年初頭。世界中で一気に大量発注があったそうで(メジャースタジオがこぞって買い求めたらしい)世界規模で品切れになっていたのです。これがないと、IS-LUTをIDTとして、二つのカメラのルックを揃えて見ることが出来ず、Log運用が困難なものに。そもそもの土台が崩れてしまう!と大焦り。どうしてもそれなりの数がほしかったので、あちこちに相談したところ、何とか入手することが出来たのでした。富士フイルムの中野さん、マリモレコーズの江夏さん、ありがとうございました!ほんと、肝を冷やしました…。

ビューイングLUTを作成

そのあとは、一気に事が運びます。ALEXAとF55で同じ露出で撮ったチャートを参考に、IS-miniを使って調整していきます。

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F55のチャート

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ALEXAのチャート

http://www.pronews.jp/pronewscore/wp-content/uploads/2015/08/DC_vol07_screen.jpg IS-mini Managerの画面
※画像をクリックすると拡大します

IS-miniでLUTを選ぶ際に、FILMエミュレーションを選ばずにRec.709変換を選択。IS-miniがIDTの代わりとしてカメラの個体差を揃えてくれるところまでお願いして、それぞれをVE小森さんや技術運営部でコツコツ調整。東映デジタルセンター内東映デジタルラボ グレーディング1 Pablo(巨大なスクリーンに投影しながら、実際の仕上がりと同じ条件で見れる、めちゃくちゃ良いお部屋)のPablo用に書き出し、再現性の検証を行いました。

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グレーディングルームでの調整場面

IS-mini上で詰めて調整できていたので、Pablo上ではほんのちょっとの修正だけで済み、Pabloから出力したテキストファイルをIS-miniに取り込んで、実運用に備えることとしました。もっと上手いやり方もあることはあり、その方法も検討しましたが、汗をかいてでも一つ一つ目で確認できていく工程を選んだのでした(作業当時は、IS-mini Managerに最近搭載されたGrading Spaceの選択が出来なかったためというのも、理由の一つ)。

そして…

撮影部さん方は、今までと勝手の違う撮影にドキドキされる場面もあったそうですが、最終的にポストプロダクションで今まで以上につじつまが合わせられることを信じて突き進んでくださったそうです。編集もパッと出しでかなりの精度でマッチング。こうして環境が整い、撮影も順調にすすみ、編集も快調に。

本編集を行う前にプリグレーディングを行い、素材を合成班へ。その時点で、フィニッシュに近い素材が渡っているため、作業後の合成カットも、大きな調整変更はいらなかったようです。そして、編集が詰め切った段階で、演色を伴うグレーディングを行い、仕上がりました。

Log収録によるラチチュードの広さを生かして、これまで戻ってこなかった明部がきちんと残り、暗部のノイズ感も軽減。階調感に優れることで、立体感が増し、撮影条件によるカット毎のばらつきについても合わせやすかった、と作業を担当したカラリストはおっしゃってました。

こうして、仮面ライダー初の全編Log収録の映画は無事に完成となり、皆が喜ぶ仕上がりとなりました。初号を見た人からは、「スキントーンが良く、そして全体の色合いが豊かに見える」といったコメントを多くいただけました。

この試みを受けて、次のテレビシリーズでも全編Log収録のワークフローに切り替えていくことになりました。こんな大きな舵取りを決定づけたALEXAとF55のLog収録とIS-miniのコラボレーション。その仕上がりをぜひ、見てみてください。

「劇場版 仮面ライダードライブ サプライズ・フューチャー」は2015年8月8日公開です。
http://www.drive-ninnin.jp/

WRITER PROFILE

林和哉

最新技術が好物でリアルタイムエンジンにゾッコン。Unity Technologies Japanの中の人。セミナー講師経験豊富。