txt:石川幸宏 構成:編集部 写真:© 2015 e-Motion Photographers

3年半の時を経て”EOS C300 Mark II”いよいよ登場

2008年のEOS 5D Mark IIが起したDSLRムービー革命以降、デジタルビデオ、そしてデジタルシネマカメラの流れが大きく変わりはじめた。その革命母体とも言えるキヤノン自身も自らを革新、よりシネマを意識したカメラ開発へ注力することになる。

3年後の2011年11月、新たなシネマカメラのラインナップとして、CINEMA EOS SYSTEMを発表。その第一号機として世に出て行ったのがEOS C300である。発表当時、多くのビデオ関係者はカメラの技術スペックだけを見て、レンズ交換式以外には当時としては新鮮味を見いだせなかったようだ。しかし発表時のハリウッドで目の当たりにした反応は、それとは大きく違っていた。スーパー35mm大判センサー搭載にプラスして、このクラスで初めてLogを搭載した、これまでのビデオの画とは異なる広いダイナミックレンジを有し、カラーコレクションで新たな可能性を示せるシネマカメラの誕生として多いに歓迎された。

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2011年11月3日に米・ハリウッドのパラマウントスタジオを貸切って行われた、CINEMA EOS SYSTEMの発表イベント。ハリウッドを中心に世界の撮影関係者を招いて、センセーショナルなEOS C300の登場シーンが記憶に蘇る

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CINEMA EOS発表のオープニングイベントでは、マーティン・スコセッシ監督も登壇し、デジタルシネマの未来を熱く語った

EOS C300の登場にハリウッド関係者は、まずは小さなプロダクションでも本格的な画質が簡単に得られるカメラとして、その秘めた魅力をすぐに見いだしていた。ハリウッドでは、もちろん劇場映画やTVドラマにはALEXAやRED EPIC等が使用されるものの、それ以下のサイズのプロダクションの方が大多数であり、その規模ならEOS C300は使える!というわけだ。以後、EOS C300は低予算のPV、CM、長廻し必須のドキュメンタリーなどの分野で次第に世界中にユーザーを拡大。日本でもミドルレンジを中心にユーザー層を得て、MVなどではレンタル機材の定番となった。その後もCINEMA EOS SYSTEMはそのラインナップを拡張してきたのは周知の通りだ。

そんなキヤノンのシネマカメラを牽引し、ある意味で“名機”となったEOS C300が、いよいよ3年半の時を経て「EOS C300 Mark II」としてリニューアルされる。最新のキヤノンのカメラテクノロジーを詰め込めるだけ積み込んだこのニューカマーは、果たしてCINEMA EOS SYSTEMの第ニ幕をどのように拡げて行くのか?

ここでは、今年9月の発売に先立ちキヤノンマーケティングジャパン株式会社が制作した国内初のデモ映像「letters」(監督:松永勉氏、撮影監督:古屋幸一氏)の撮影・制作現場に同行し、その実力からみたこれからのシネマカメラの展望を考察してみたい。

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デモ映像「letters」で監督/テクニカルディレクターを務めた松永勉氏(写真左)と、撮影監督/カメラマンの古屋幸一氏(写真右)

カラーグレーディングをさらに追い込めるCanon Log2搭載と進化形AF

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「EOS C300といえばCanon Log」というくらい、Logという概念をポピュラーにしたのもEOS C300というカメラの登場があったからだろう。正直C300が出るまで、日本のほとんどの映像制作者からは、Logの話、いやその言葉すらほとんど聞いたことが無かった。2010年頃のNABでソニーとオートデスクにS-Logのワークフローについての取材を申し込んだのも、おそらく筆者以外はほとんどいなかったと記憶している。

古くはパナソニックVARICAM(実は古くからLogモードを実装、現VARICAM 35ではV-Logを搭載)、またはARRIのLog-C、そしてソニーのS-Logなど映画用ハイエンドカメラの世界ではフィルムの世界で培われてきたCineon(シネオン)Logをモデルにした、いわゆるデジタルネガティブ=Logモードが搭載されたカメラはあった。LogはRAWよりもデータ量が小さく、ディベイヤーソフトの性能やポストのプロセスにも大きく依存せずに取り扱いやすく、カラーコレクションにより広いダイナミックレンジを再現した画を得ることができる。

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しかし2011年頃までは、ポストプロダクションまで後工程を有しない映像制作者が簡単に取り扱えるものではなく、ポスプロの、しかもほんの一部の技術者が知っていれば良いノウハウだったと思う。それがEOS C300の登場と時を同じくして登場したブラックマジックデザインのカラーコレクションソフトウェアDaVinci Resolveで大きく変革した。これによりカラーグレーディングにおける画質向上の可能性が一気に拡がったのである。

今回のEOS C300 Mark IIでは、そのCanon Logよりも広いダイナミックレンジを確保でき、さらに微細な色情報を反映できる“Canon Log 2”を搭載。これと10bit処理、そしてXF-AVCという新コーデックを搭載することで、フル4Kサイズ(4096×2160)/30pまで撮影でき、カメラ内収録出来ることは大きな魅力だ。そこについてはここで詳しく語るつもりも無いので、メーカーサイトをご覧頂くほうが良いだろう。これを始め、EOS C300 Mark IIには実に“てんこ盛り”と言えるほどの膨大な機能が詰め込まれたモンスターマシンである。さらにあまり表面化していない(=マニュアルに載っていないかも?)部分で大きな進化を遂げている。これはこれまでの世界中のユーザーからのフィードバックが活かされている部分だそうだ。

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それにも増して、今回のEOS C300 Mark IIをテストしたカメラマンや監督たちが口々に評価していたのは、オートフォーカス機能の進化だ。これまでの7D Mark IIやEOS C100 Mark IIに搭載されてきた、デュアルピクセルCMOS AFはもちろんのこと、これをさらに進化させ、最先端のAF機能が備わっている。

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「letters」の作品内ではEOS C300 Mark IIの機動性を活かすため、様々な特機を使用した撮影方法が試された。その中ではAF機能も多用し、プロ現場の実用にも耐え得る映像が撮影可能であることも実証された

測距可能エリアがC100 Mark IIでは画面内の縦横25%内だったのが80%に拡大されていたり、EFレンズ使用時には顔検出機能も装備、またAFチューニングのメニュー速度が10段階、被写体追従特性(被写体からピントがズレた時にまた戻す速度)も7段階で調整出来る。また、AF使用時に被写体の前に他の物体が横切ったりする際の、レンズの不用な迷いの動きを停止させる「AF-Boosted MF」機能や、被写体の前ピン/合焦/後ピンをメーター方式でモニタリングできるデュアルピクセルフォーカスガイドなど、キヤノンの得意とするAF機能の最先端技術を満載した。もちろん使い手やコンテンツにもよるが、これらのAF機能でシュートスタイルの幅が拡がり、撮影のアイデアが拡張されることが一番大きいという。これまでMF中心だったTVドラマや映画の世界でも、AFが多用される時代が来るのかもしれない。

国産最大級ドローンによる、迫力の空撮シーン

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今回のデモ映像の目的として、まずは「カメラ内4K収録=“アクティブ4K”=機動力を活かした4K撮影」をテーマに撮影が進められた。3軸ジンバルやステディカムタイプの手持ち撮影用カメラサポートシステムはもちろん、その他ミニジブ、ドリーなど低予算作品でも使用可能な範囲の特機が随所で試されていた。そんな中で今回もっとも重要視されたのがドローンによる空撮だ。この空撮カット(2カット)で使用されたレンズは、軽量化と撮影範囲の自由度を考え、全てEF-S17-55mm F2.8 IS USMという、EF-Sレンズの中でも軽くて明るいレンズを使用されている。

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この撮影が行われた5月初旬は、折しも総理官邸へのドローン不時着事件で日本国民の誰もがドローンを知り、興味を持ちつつも危なく厄介なモノかもしれない、といった怪しい視線が注がれていた時期。制作さんは撮影許可取りではさぞ大変だったであろうと推測されるが、その中で今回採用された機材は、全翼幅が約2m近くもある大型ドローン機「PD6-B」だ。これは株式会社プロドローン(以下:PRODRONE)の全面協力のもと国内最大級の最新機体が導入された。ちなみにジンバル部分にはDJI社のRoninを使用。最大ペイロード30kgというパワフルな機体だが、実際に約1.9kgのEOS C300 Mark II本体と軽いEF-Sレンズを上げるだけならば、このクラスの機体は不要だ。では、なぜこれが必要だったのか?

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ドローンのジンバル部分にはDJI Roninを採用。新しい機体だけに、ジンバル調整には神経をつかうようだ

実は今回のデモ映像「letters」のラストのカットをご覧頂ければ分かる通り、馬とほぼ同じ低い位置からの並走シーンから、一気に上昇して雄大な富士山を望み、そしてさらに高度を上げて本栖湖まで続く広大な青木ヶ原樹海を見渡すという一連のシーンを、1カットでしかも4Kで撮影するというチャレンジがあった。これを実現するには、やはりこのパワフルな機体が無ければ、まず馬の疾走スピードに間に合わず、また風への抵抗力も必要、さらにある程度の高度と飛行距離も稼げなければならない、といった諸般の理由があった。

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さらに幾つかのエピソードがある。まず馬について。実は普通の乗馬等で使われるサラブレッドなどの洋馬はこのような撮影にはあまり向かないという。馬はそもそもがひどく臆病でドローンでの並走しながらの接近撮影などは怖がってしまって撮影にならないという。そこで今回は木曽馬という日本の国産馬が採用された。彼らは人慣れしていて度胸も据わっているそうで、こうした特殊撮影でもドローンや現場に慣らす時間があれば、非常に協力的に仕事をしてくれる馬種だそうだ。

しかし問題はそのスピード。実際に馬が威勢良く駆け抜けていくシーンを撮るとなると、時速50km以上とそれ相応のスピードが出る。それに負けない推力パワーを持ったドローンでなければこのシーンの撮影は不可能だ。実際過去にこの場所で某放送局が似たようなシーンの撮影に挑戦したそうだが、その時は放送局が持って来たドローンの出力が足りず、馬のスピードに追いつけなかったため結局そのシーンの撮影は諦めたという。また操縦する側もそれなりのテクニックがないとこれだけの機体、しかも出来立ての新型機体を上手くコントロールするのは難しい。そのためPRODRONEはメジャーなTV番組等で多くの実戦経験を持つ、あおぞら映像合同会社に実際の操縦とカメラコントロールの協力を仰いだ。

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ドローンの操縦/カメラコントロールのスタッフとして、軍艦島の撮影等経験も豊富なあおぞら映像合同会社(長崎市)が全面協力

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スピード、高度、コントロール距離、そして標準画像(GoPro等でない!)の4Kクオリティと、実際にドローン撮影の経験がある方ならば、この難しさが理解出来るだろう。さらにドローン業界側から見てもこのカットはやはりなかなか日本国内で実現するのは難しいようで、今年の5月に開催された国際ドローン展でもこの映像は大いに話題になっていた。ちなみに下記が今回使用されたPD6-Bの仕様である。

<PD6-B仕様>
モーター軸間距離:1,430mm
全高:830mm
機体重量:12kg
飛行時間:7~30分
最大ペイロード:30kg
プロペラ直径:27inch
バッテリー:44.4V 15,470mA
最高速度:時速40km
飛行可能風速:風速12m

詳細は下記へ
http://www.prodrone.jp/products

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PRODRONEのPD6-Bは、大きさ、出力ともに日本最大クラスのドローン。これにより人間操縦のヘリコプターでもミニドローンでも出来なかった絶妙なカットが撮影できた

市場におけるバランス感覚で、新たなアイデアを引き出せるカメラか?

EOS C300 Mark IIデモ映像「letters」

実際にこの「letters」の映像は、すでにキヤノンの専用サイト「PROGRESS」でも公開されているのでぜひご覧頂ければと思うが、少し補足しておくと、まだ発売5ヶ月前段階だったため、まだテスト機材でファームウェアも最終版ではなかったこと、さらにクランクアップから約1週間で4Kグレーディングを含むポスプロ工程を仕上げるという、厳しい条件下での撮影/制作であったのだが、Canon Log 2の効果やAF撮影部分の画質など、そのクオリティには目を見張るものがある。

さらに、例えばSDカードでプロキシ2Kデータからすぐにオフライン編集に取りかかれるなどの4Kでもワークフローの効率化がすぐに実現できたのは、本機ならではの実力が利いている部分で、そのポテンシャルの高さはこれからのシネマカメラのあり方を大いに予感させる部分があった。

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小型の筐体を活かして狭い場所や限られた空間での撮影も機動性が活きる

さて、その中でシネマカメラのこれからはどうなっていくのか?とりまく事情は2011年当時とは変わって複雑だ。一つ気になるのは、EOS C300 Mark IIに限った話ではなく他社の最近のシネマカメラ(特に国産)もそういう傾向だが、この「機能てんこ盛り」を、機材レンタルで撮影部のスタッフが現場でどこまで使いこなすことができるのか?という点だ。

これは特に低予算で時間も人件費も掛けられない作品では、たとえ良いカメラを借りても、多機能と時間の関係性における逆レバレッジ(使いこなせないまま終了)が起きてしまうことが多いようだ。折しも国内の撮影部事情は空前の「助手不足」に喘いでいる。映画、CMに加えて、TVドラマ、PVでも多くの現場がシネマカメラを使うようになったことで、複数人でのオペレーションとなるユニットが増えたため、現場を安心して任せられる優秀なチーフやセカンドが市場で引く手数多で、どの現場も優秀な助手スタッフの確保に奔走しているという。

これは日本市場に限った話では無さそうで、その中で求められるのは、簡単に言えば撮影、On-Set、DIT、ポストと各ワークフローを分業しやすいユニット別にコントロールが可能なシステムの構築だろう。

いつの時代にも受け入れられるカメラというのは、得てしてそのときの市況とカメラ性能とのバランス感覚によって大きく左右されてきた。機材レンタルするのか?個人もしくは会社所有なのか?得られる画質はもちろんのこと、機能、ワークフロー、価格を含めて、いまのデジタルシネマカメラ市場はそのバランスによって市場判断される。また多少バランスが悪くても特異な新機能が新たな映像を導き出すポテンシャルがあれば、そこに新たなワークフローが生まれることもある。

またそれは時として、カメラ自体の保有方法も変化させてきた。例えばアメリカ等の場合、REDなどはかなりの数、個人所有しているケースが多い。しかし周辺装備品を含めて$30,000(約370万円)を超えるのは、個人所有にしてはかなり値の張るカメラだ。

しかし海外で少し違うのは、この個人所有のカメラを機材レンタル店が預かってサービスとメンテナンスを請け負いつつ様々な現場に貸し出し、そのレンタルフィーのインセンティブを所有者が受け取るシステムが確立されている。さらに技術者として所有者自身が現場に撮影スタッフとして赴くことも多々あるようだ。日本にはまだこうしたシステムは少ないようだが、いまのデジタルシネマカメラの流れが多機能、高画質へのベクトルを推し進めている中で、そのカメラを熟知するスタッフが必ず必要になってくる。また機材レンタル会社は今後そうした人材育成が必須となる中、操作やワークフローにより簡便性や即効性、そして汎用性を求めるだろう。現場事情とカメラ機能がいかにバランスを取れるのか?そこが問題だ。

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今回は4K画像の確認用に、NABで発表された24型の業務用4KモニターDP-V2410も持ち込まれた

もう一つは「プロダクションカメラ」というポジションだ。制作プロダクション自体が編集からカラーグレーディングまでを完パケできるユニットを完結できるなら、一つのカメラをプロダクションで所有して使いこなすことで画質や品質も向上し、そこには多機能カメラを有する意味も大きくなる。個人的には、特に国内におけるこれからのシネマカメラの導入は、放送局やTV制作会社、さらには通販会社やメーカーなどのインハウスプロダクションなど、シネマスタイルを取り込んだコンテンツ制作会社への導入が進んでいくと予測している。

先代のEOS C300についていくつかの機材レンタル会社へ取材したところ、その評価として「稼がせてくれたカメラ」という話を多く聞く。実際、企業VPやミュージックビデオ(MV)、そして深夜帯等の低予算のTVドラマやCMなど、手頃な価格でこれまでのビデオとは大きく違う画質で撮れるカメラとして幅広いジャンルの層に受け入れられてきた。発売1年後の2013年にはかなりの台数を保有するようになり、定番としている制作ユニットも増えた。いずれにせよその市場とカメラの機能は、その時勢とのバランス感覚が重要視されるとともに、新機能によって新たな映像表現のアイデアが触発/創成されることも、多くのユーザーの求めるところで、それらが好結果に結びつけば、先代のEOS C300のように“使えるカメラ”として市場に受け入れられるわけだ。

果たしてこのEOS C300 Mark IIもその後継として市場を引き継ぐことができるのか?いまの時代に、どんな新たなクリエイティブを提示することができるのか?発売後の動向にもぜひ注目したい。

WRITER PROFILE

石川幸宏

映画制作、映像技術系ジャーナリストとして活動、DV Japan、HOTSHOT編集長を歴任。2021年より日本映画撮影監督協会 賛助会員。